BADO?風雲騎士?継承 |
大量の松明と燭台の灯火によって照らされた大理石で出来たそこはまるで博物館だ。その半球状の空間はしんと静まり返っており、多種多様な色と装飾を持つ芸術的としか形容出来ない美しい造形を持つ狼の騎士甲冑が幾つも保管されていた。今にも動き出しそうな甲冑はまるで部屋の隅々まで目を光らせる衛兵の様だった。そして全ての甲冑の前に石製らしき祭壇の様な物があり、一振りないし二振りの剣が深々と突き刺さっている。この部屋の片隅で、二人の人間が銀色の甲冑の前に立っていた。祭壇に差し込まれた、浅く反りのついた二振りの剣を凝視して。
「雲平凪。今日からお前が、新たな風雲騎士波怒だ。」
「はい。」
凪と呼ばれた青年は端正な顔付きをしていた。瞳は雨雲の様な薄い灰色で、肌は白く、肩まで伸びる髪はうなじ辺りで無造作に紐で結わえられている。もう一つ列挙すべき目立つ特徴は、右の目尻から顎にかけて走る三本の裂傷の痕だ。まるで獣の爪で引き裂かれたかの様なその古傷は実に痛々しい。肺一杯に空気を吸い込んで己に喝を入れると、両手で剣を掴んでそれを一気に引き抜いた。
途端に鎧は隙間から光を放ち、具足、篭手、兜、次々に凪の体に定着した。だが、頭上に現れた光の中へと消えて行った。凪の手に残ったのは紫色の鞘に納まった全長一メートル弱ある二本の剣鉈だった。
「竜清法師。ありがとうございました。」
竜清と呼ばれたローブを着た壮年の男は何も言わずに頷き、膝まである黒と紫のコートを広げ、凪に腕を通させた。そして脇目も振らずに去った。竜清はコートに描かれた紋様???一陣の雲を貫いて地面に突き刺さる百合の花に見える三つ又の矛????を凪の姿が消えるまで見つめていた。
「凪、指令だ。起きろ。」
暫く放心していたのか、少し反応が遅れて受け答えした。
「ああ。・・・・・・またあの夢か。」
廃ビルの一室にあるソファーで寝転んでいた凪は起き上がると、足元に目を落とし、黒い封筒が落ちているのに気付いた。それを拾い上げ、手に持っていたライターから出る緑色の火にかざした。封筒は五秒と経たずに燃えてなくなり、空中に幾何学的な文字が現れ、不気味な緑色の光を発した。
「掟に背きし物が出現。仲間を殺し、逃亡した魔戒騎士を探し出して処刑せよ。またか。」
椅子にかけてあるコートを引っ掛け、外に飛び出した。駐輪場で停車している愛車のヤマハ V-Maxのエンジンをスタートさせると、アクセルを捻って空いた車道に飛び出した。
「ゲルバ、どっちだ?」
「北西二十メートルだ。凪よ、本当にやるつもりか?」
「今更聞くのか?」
ゲルバと呼んだ相手は左手首に幾重にも巻き付けられた細い銀の鎖だった。鎖の一端は蛇の頭になっており、顎が上下に動き、男の声で話していた。先程凪を起こした声の主もこのゲルバである。
「鎧と称号を継承した以上、俺は役目を果たすだけだ。しかしな、俺には分からない。掟を破ったり、心を闇に売る代償が何なのか、法師や騎士の道を選んだ時点で学んで行く筈だ。なのに、何人も・・・・・いや、言っても無駄か。」
「近いぞ。気を付けろ。」
凪は右手をコートのポケットの中に入れると、森の奥へ奥へと踏み入った。歩くうちに、一軒のあばら屋に辿り着いた。蝶番が外れたその扉を開けると、そこには男と女がいた。女は猿ぐつわを噛まされ、床に縛り付けられていた。体中には幾つもの赤い札が張られており、獣の様な唸り声をあげながら戒めを引き千切らんと死に物狂いで暴れていた。
「お、お前は・・・・・」
「雲平凪、風雲騎士波怒だ。その女は、お前の妻か?」
震えている男に名を名乗り、縛られている女を指差した。
「ホラーに憑依されているな。何故殺さない?」
「妻を殺せと言うのか?!」
気でも触れたかとでも言いた気な声音で男は喚いた。
「お前の妻は最早人ではない。ホラーが操る只の器だ。」
それを聞いた男は懐から木彫りの筆を取り出して構えた。
「憑依された今、ここで殺さなければ何人もの人間が犠牲になる。やらないならば俺がやる。邪魔をするならばお前も斬るぞ。」
左腰に差した二本の剣の内一本を左手で抜いた。
「どけ。」
「い、嫌だ!」
震える声で筆を構えた。
「ならば仕方無いな。」
言うが早いか、凪は逆手に持ったその剣の柄の先端で男の鳩尾に当て身を入れ、右手で彼の首を掴んだ。刹那、指先から青白い電流が迸り、声も上げずに男は倒れ、握り締めた筆も取り落としてしまう。
「お前は俺を血も涙も無い男だと、冷血漢と罵るだろうが、お前の様に掟を破ろうとする者がいるから闇に魅入られる輩が後を絶たない。誰一人として成功しなかったと言うのに。」
縛られた女を見下ろし、二本目の剣を抜いた。
「直ぐに終わる。」
二つの剣を彼女の喉元で交差させ、高枝切り鋏の様に首を飛ばした。刃に付いた血を払い、鞘に納めると、あばら屋から出て行った。
「凪よ、あの法師は殺めずとも良いのか?妻を失った悲しみとお前に対する怒りで邪心が芽生えるやもしれぬぞ。」
「確かに。あれは気絶させただけだが。燃やすか。」
ポケットから赤錆色のライターを取り出し、鑢を指で弾いた。緑色の火が灯り、それをあばら屋に向けようとしたが、その手が強引に下ろされた。
「邪美、さん・・・・・」
大きくスリットが入った扇情的な短い革製のドレスの様内服に身を包んだ黒髪の女性が凪の手を掴み、ライターの蓋を閉じさせた。その手を振り払ってライターをしまうと、凪はその邪美と呼んだ女に顰めっ面を見せる。
「ホラーに憑依された法師を殺したのは仕方無いけど、彼を殺す必要は無いだろう。」
「何故?」
「ホラーじゃないからさ。」
理由はそれで充分だとばかりに肩を竦めてサラリと言った。
「掟に背いてホラーを擁護しました。」
凪も声を少し荒らげて反撃した。
「自分に取って大切な人間がホラーに憑依されたら誰だって多少は躊躇う。良いから、私の顔を立てると思って、ここは引きな。彼は私が直々に元老院に引き渡す。」
「こう言う奴がいるから、ラテスやバラゴの様な存在が現れるんです!」
遂に怒りが爆発した凪は怒声を張り上げた。
「俺はバラゴに、暗黒騎士キバに、父親も、師匠も、全てを奪われた。俺だけじゃない。キバに挑んだバラゴの師である先代黄金騎士、冴島大河を含めるその他の数々の騎士達は奴に殺されて行った!貴方だって師匠の阿門法師を殺された筈だ!!」
一気に捲し立て、邪美を指差した。
「・・・・・死んだ騎士を恨んで、殺された人が蘇るのかい?」
「俺は許さない。ホラーを擁護する奴も、掟を破る奴も、破ろうとする奴も!掟は・・・・・ホラーを倒す俺達の法律だ!」
肩を怒らせて凪は邪美に背を向けて森を飛び出した。闇雲に走り、道無き道を走った。走りながら、熱い涙が頬を伝う。枝が顔や手先を引っ掻くが、構わず走り続けた。障害となる大きな枝は生い茂る密林の蔦を切り裂くかの様に全て切り裂く。
「落ち着かんか、凪よ!それ以上進めば市街地に出る!剣をしまえ!」
はっとした凪は足を止め、深呼吸をして息を整えた。剣を鞘に納める。
「・・・・・・・悪い。」
「全く、御主は些か気性が荒い所がある。掟に背く者や暗黒騎士を憎むのは分かる。が、怒り狂った御主が闇に染まってしもうては元も子も無いであろう?落ち着け。」
そうだ。凪は自分に言い聞かせた。暗黒騎士や造反者、ホラーを斬る時は、常に鋼の心を持て。感情は出すな。修行の時と同じだ。頭の中も心も顔も、全て空にしろ。雲一つ無い澄み切った青空を思い浮かべろ。何も無い、『無』の空を。
頬を伝う涙を袖で乱暴に拭うと市街地に飛び出した。
「これからどこに行くつもりだ、凪よ?」
「東の管轄だ。弟に会いに行く。」
「弟?御主は先代の・・・・雲平旋風の一人息子ではないのか?」
「ああ、そうだよ。同門の弟弟子がいる。銀牙騎士絶狼だ。気配を探ってくれ。」
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以前書いて削除した牙狼の作品を新しく書き直して投稿しました。 | ||
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