英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 855 |
同日、12:00――――
〜オルキスタワー・屋上〜
「……やれやれ。招かれざる客がここまで辿り着いてしまうとは。」
ロイド達が屋上に到着すると聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。
「……おじさま……!」
「ディーターさん……!」
声の持ち主――――白き神機の前にいるディーターを見たエリィとロイドは声を上げ
「ディーター・クロイス。貴様が残っていたか。」
「ちょうどいいぜ。」
ヴァイスとギュランドロスは不敵な笑みを浮かべた後ロイド達と共にディーターに近づいた。
「フフ………久しぶりだね、諸君。しかし昼食(ランチ)の約束をした覚えはないのだが……ひょっとして日時を間違えてはいないかね?」
「いいや、今日がそうだな。」
「ああ……今日が貴様にとって”最後の晩餐”だ。」
口元に笑みを浮かべて尋ねてきたディーターの言葉にギュランドロスとヴァイスは好戦的な笑みを浮かべて言った。
「アポイント無しの訪問、申し訳ありません。――――ですがこちらにも譲れない事情がありまして。」
「独立国の取り消し、それに市内の魔導兵など色々ありますが…………」
「まずはとっととキー坊を返してもらおうか?」
一方ロイドやティオ、ランディはディーターを睨み
「………………」
キーアは黙り込んでいた。
「ああ、構わないよ?」
その時ディーターは余裕の笑みを浮かべて意外な言葉を言い
「な…………」
「…………」
ロイドは驚き、ヴァイスは真剣な表情でディーターを睨み
「一体何を考えているのですか……?」
「命が惜しくなってロイド達の懐柔でもするつもりか……?」
エリゼとリィンはディーターを警戒していた。
「フフ、君達は何か、勘違いしているようだね。我々は別に、キーア君に無理矢理、協力してもらっているわけでない。このクロスベルを取り巻いている、途方もない困難……それを解決するために彼女は進んで協力してくれたのだ。」
「それは………」
ディーターの説明を聞いたティオは複雑そうな表情をし
「―――そう仕向けたのもまた、おじさま達のはずです。猟兵団を影で操り、クロスベル市を襲撃させることで、市民の独立の気運を煽り………両帝国と共和国の資産を凍結することで自治州存亡の危機を演出した…………」
エリィはディーターを睨み
「まあ、猿芝居、ここに極まれり……だな。」
ギュランドロスは不愉快そうな表情でディーターを睨み
「そしてその状況をキーアさんに突きつけて決断を迫った…………」
エリゼは複雑そうな表情で呟き
「白い歯が売りのナイスミドルにしちゃエゲツなさすぎやしねぇか?」
ランディは目を細めてディーターを睨んだ。
「ディーター大統領……いえ、ディーターさんと呼ばせてもらいます。それが貴方の”正義”ですか?」
そしてロイドはディーターを睨んで尋ねた。
「ああ―――その通りだ。現実の政治は奇麗事ばかりではない。あの程度の政治工作ならばむしろ手ぬるいくらいだろう。12年前、帝国がリベールに侵攻する時に起こした悲劇を君達は知っているかね?もしくは共和国が民主化する時に断行された血塗られた粛清は?」
「だ、だからと言って……!」
「おじ様達のしている事が正当化されるとでも……?」
ディーターに問いかけられたロイドはディーターを睨み、エリィは不安そうな表情で尋ねた。
「正当化は”される”ものではない。力と意志をもって”する”ものだよ。私はクロイス家の当主だが、元々、一族の使命についてはさほど熱心なわけでは無かった。そのあたりはむしろ、娘の方が詳しいくらいだからね。―――だが、始祖が夢見た新たなる”至宝”の誕生が実現可能だとわかった時………私は狂喜し、クロイス家に生まれたことに感謝したものだよ。この激動の時代を治め、”正義”を広められるだけの力を手に入れられるのだからね。」
「”正義”…………」
口元に笑みを浮かべて言ったディーターの言葉を聞いたティオは呆け
「そんな下らない事の為にこんな事を仕出かしたとはな……」
「やっぱり”正義”を盲信する奴はロクな奴がいねえな。」
ヴァイスとギュランドロスは不愉快そうな表情をし
「それでは、貴方は………自らの利益のためでも、支配欲のためでもなく………”正義”を実現するためにここまでの事をしたと……?」
ロイドは厳しい表情でディーターを睨んで尋ね
(愚かとしか言いようがないわね。)
(……処刑されて当然の男だな。)
(エリィには悪いが……あの者達が処刑しなくてもこの私が自ら処刑する!)
ルファディエルはやラグタス、メヒーシャは怒りの表情で呟き
(フン、つまんなさすぎてあくびがでてくるね!)
(ま、よくあるパターンだな、くかかかかっ!)
エルンストは不愉快そうな表情をし、ギレゼルは陽気に笑った。
「ハハ、それ以外にどんな理由があるというのだね?10年前、IBCの資産が大陸一を達成した時点で富を求める必要もなくなった。大陸全土を支配するという、ヴァイスハイト君やギュランドロス君のような時代錯誤な幻想にも興味は無い。私はね――――我慢がならないのだよ。”国家”という枠組みに囚われて無益な争いを繰り広げるこの世界に。その意味では”独立国”という形式にこだわっているわけでもない。マクダエル議長の宣言通り、無効とされても構わないのさ。――――私が理想とする”正義”が世界に遍く広まるのであれば………その”正義”によって秩序が保たれ、平和な世界が築かれるのであれば!」
「本気なのか………?」
「…………私にはただの夢物語にしか思えません。」
笑顔で言ったディーターの話を聞いたリィンは信じられない表情をし、エリゼは呆れ
「そんな世界が実現する訳がないだろう。」
「全くだな。王と民達の”力”と”意志”によって創られる世界……それが現実だ。」
ヴァイスは呆れ、ギュランドロスは不愉快そうな表情をし
「大人になった今ならわかるけど、ホントーに夢みたいな話だったよ…………」
キーアは複雑そうな表情で呟き
「なんつーか……ここまでガチだとは思わなかったぜ。」
ランディは呆れて溜息を吐き
「……ですがその”正義”の幻想もある程度は実現できてしまう…………」
「そうね、キーアちゃんという”零の至宝”があれば………既存の政治思想にはない、反則とでもいうべき状況設定だわ。」
ティオとエリィは複雑そうな表情で言った。
「……………………………――――ディーターさん。俺は……貴方の考えには色々と勉強させてもらいました。ですが貴方の”正義”については……少し過大評価をしていたようです。そういう意味で言えば局長達の”覇道”を行く宣言の方がまだ現実味があります。」
ロイドは考え込んだ後ディーターを睨んで呟き
「…………………………」
ロイドの言葉を聞いたディーターは厳しい表情でロイドを睨んだ。
「俺達は警察官でしかも特務支援課の所属です。法というルールに則りながら、市民に寄り添う形で”正義”を体現する。ですが………必ずしも正解があるとは限りませんし、迷ったりすることも多くあります。」
「……そうね。かつてセシルさんが言っていたように立場が異なれば”正義”の在り方も変わってくるものだし………」
「迷いながら、時には失敗しつつも”正義”を追い求めていく…………かつてディーターさんに言われた事でもありますよね。」
「なんつーか、あの時の演説と全然違うような気がするんだが?」
「……あれは力と意志が足りていない状況においての方法論について語ったまでだ。その双方が揃っている状況で”正義”を行使しないこと……それは”怠惰”ではないのかね?」
ロイド達の言葉を聞いたディーターは反論したが
「―――違う!”正義”は移ろいやすく、形の定まらないものだ……!それを追い求め続ける事にこそ、皆にとっての価値がある……!貴方のしようとしている事は”正義”を型にはめて画一化し、押し付ける事でしかない……!そんなものが本当に貴方の求める”正義”なのか!?」
「ぐっ………現に私はクロスベルの政治状況に風穴を開けて幾つもの改革を成し遂げた!その結果を否定するというのか!?」
ロイドの叫びに唸った後怒りの表情で叫んだ。
「……それとこれとは話が別です。おじさまの全てを否定するつもりはありませんし、学ぶ所が多かったのは確かです。だからこそ……その欺瞞と勘違いを指摘せざるを得ません。貴方を尊敬していた者として……間違いに気付いて欲しい意味でも!」
「いいだろう!」
そしてエリィの言葉に大声でディーターが答えたその時、ディーターは片手を天に翳した。するとディーターは不思議な光に包まれ始め、さらにディーターの足元には謎の魔法陣が展開された。
「………!?」
「な、なんだぁ!?」
それを見たロイドとランディは驚き
「まさかクロイス家の”魔導”の力……!?」
エリゼは警戒し
「気を付けてください!オルキスタワーから彼を中心に膨大な霊力が集まり始めています……!」
ティオはロイド達に警告した。
汝………”力”を求めるか……?
「え―――――」
一方リィンは身体の痣のある部分がドクンドクンと響き始めると同時に頭に響いた謎の声に呆けた……………
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第855話 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
1193 | 1117 | 2 |
コメント | ||
感想ありがとうございます 本郷 刃様 しかも相手がねえ?(黒笑)(sorano) よし、原作よりも遥かに強いリィンが無双する時がきましたねw!(本郷 刃) |
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