BADO?風雲騎士?同志
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どこかにある黒い空間の中。燭台の黒い蝋燭に照らされた光が向かい合わせに座った二人の人間を照らしていた。一人は、白衣を纏った白髪の男、黒月イルマ。もう一人は、椅子に白い鞘の刀を立てかけた青年。青年は目を閉じ、イルマに出会った時の事が瞼の裏に浮かび上がった。

 

 

 

肌を刺し貫く様な寒く、暗い夜。霙が降り、寒風が吹き荒れる中、青年は袋小路の隅で踞り、啜り泣いていた。彼は裏切られたのだ。恋人に、その兄に、そして血の繋がった家族に。考えうる最も卑劣な裏切りを受け、彼は身も心も壊れてしまい、人形の様に無感動状態に陥っていた。

 

『随分と酷い目にあったみたいだな。まるで、この世に良き事など何一つ無いと言う事が分かった時の顔だ。』

 

そんな時に、幽霊の様な真っ白い男が黒い外套を靡かせていつの間にか彼の前に現れた。

 

『ハハッ、言い得て妙だな。あんた、誰だよ・・・・?』

 

魂を引き摺り出された様に覇気の無い声で青年は顔も上げずにそう訪ねた。

 

『誰でも良かろう?ただ、一つ聞きたい。悔しくはないのか? 』

 

『ああ、悔しいよ。でも今の僕は何も出来ない。僕は全てに裏切られ、全てを捨てた。な、なあ、あんた僕を殺してくれないか?この世にもう未練なんて無い。頼むよ!』

 

膝立ちになって縋り付く青年の手を、イルマは乱暴に振り払った。

 

『断る。形はどうあれ、お前はもう死んでいる。既に死んだ奴を殺す事など出来ない。全てを失って死んだ人間はもう何物にも傷つけられない。今のお前は生きた死人だ。もう一度聞こう。悔しくないのか?その不条理を正したいと思わないのか?大切な物を目の前で根こそぎ毟り取られ、陥れた奴らはのうのうと今も生きて高笑いをしている。畜生の様に泥の中で這い蹲って今もこうしている。俺と同じ様に。』

 

『今更どうしろと・・・・・』

 

『取引をしたい。俺がやる事に手を貸して欲しい。そしてその協力と引き換えに、手伝ってやると言っているんだ。お前の復讐をな。』

 

『何だと・・・・?」

 

『こんな都市伝説を聞いた事は無いか?夜な夜な影から姿を見せて人を食う魔物と、それを狩る光り輝く狼達。』

 

『ああ、確か、その狼は金色だったり銀色だったりするんだったっけ?・・・・・まさかお前が?』

 

青年は顔を上げた。

 

『と言っても、昔の話だがな。お前自身の仇を取れ。それはお前だけに許された事だ。』

 

イルマは外套の中から一本の上質な革で出来た細長い竹刀袋を取り出した。イルマの言葉は第三者からすればそれは悪魔の誘いだと言うだろう。だが、目の前に現れた彼は奈落の底に蹴り込まれた青年に取っては正しく天使、救世主だった。

 

『・・・・・やってやるよ。』

 

それを聞くと、袋の中からブルトスレイヴを引き抜いた。僅かな月明かりに照らされて柄と刀の光沢が反射する。輝きに魅せられて、青年は刀に手を伸ばしたが、イルマは手を引っ込めた。

 

『だが、その前に言っておく。俺を騙す者、そして俺を裏切る者、そう言う馬鹿な奴は俺の手で縊り殺す事にしている。一度これを手に取れば後戻りは出来ないし、させない。仏心を出さず、最後までやり通す覚悟はあるか?地べた以外の新しい世界の観点を見たいと思わないか?』

 

そして、今度こそイルマは青年に刀を手渡し、外套を彼にかぶせた。

 

『僕はカズマ。ただの、カズマだ。名前は?』

 

イルマは振り向き、足早に青年の方に向かって行く。鬼気迫るオーラに気圧されて、カズマは数歩後ずさった。

 

『聞いちゃいけなかったか?』

 

『イルマだ。黒月イルマ。』

 

『本当に・・・・・僕の復讐に手を貸してくれるのか?』

 

未だに事がトントン拍子で運んで行く事が信じられないらしく、カズマは細めた目でイルマを値踏みする様に見据える。

 

『当然だ。ついて来い。』

 

イルマに続いてカズマは歩き出した。その表情に相変わらずは無い。だが、刀を手にした彼は、豹変していた。能面の様な不気味な薄ら笑いを口元に浮かんでいるのだ。しかし、カズマはこの時気付かなかったのだ。イルマが呟いた言葉を。

 

『俺の復讐にも、役立ってもらうぞ。色々とな・・・・・』

 

それから数年、カズマは死に物狂いで己を鍛えた。魔戒騎士の訓練は幼少期から始まり、膨大な時を経てようやく前線に立つだけの実力を身につけられる。だが、カズマはそれをたったの一年と数ヶ月でやってのけたのだ。

 

「どうした?」

 

ワイングラスを傾けながらカズマにそう訪ねた。

 

「何でも無いよ、イルマ。初めて会った時の事を思い出していただけさ。君は僕に自由とチャンスと言う何物にも代え難い物をくれた。だから、今度は僕が君に従う。何でも言ってくれ。」

 

「そうか。前に布道レオと一緒にいたあの魔戒法師、覚えているな?」

 

「ああ、あの金髪の・・・・?」

 

「奴を生け捕りにしろ。少し前に思い付いた趣向がある。」

 

説明
今回は敵側のストーリーを少し。
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