おっきなおせんべい |
パキン、と割れた。
おせんべいみたいに。
音を立てて。
恋人って、なんだろう。
実は、よくわからない。
だって、友達とどう違うの?
デートして、電話して、記念日にお祝いのプレゼントを交換して。
男と女だからって
仲がいいからって
友達から恋人と呼び方を変えることないじゃない。
そう思ったから。
彼に「好きだ」と言われたときも、ぴんとこなかった。
そのまま思ったことを言ったら、彼は目さえ合わせてくれなくなった。
友達から恋人になれないって、そんなに違うことなの?
パキ。
半分に割れたおせんべいを、もう半分にしてみる。
もともと大きかったこのおせんべいは、四分の一にしてもまだ普通のおせんべいより大きい。
けど、そのまま大口でかじりついた。
音を立てて歯で砕く。
バリバリ
バリバリ
私の席から少し離れた先で、その彼が通り過ぎた。
バリバリ
バリバリ
彼は、意識してこっちを向かないように見える。
普段だったら、彼は
「高校生の間食がせんべいかよ!」
とか
「女がバリバリ音立てて食うな!」
とか
つっこみがくるはずなんだ。
なんて、不自然なんだろう。
彼は、席について隣の女の子と話しはじめた。
私のことは無視するくせに、他の女の子とは話すんだ。
ずきん、と胸が苦しくなった気がした。
なんだろう、この気持ち。
バリバリ
バリバリ
彼への返事を変えていたら、彼の隣にいたのは私だったのかな。
"恋人"になったら、私は今、彼を独占していたのかな。
四分の一のひとかけらを、また半分に折ってみる。
パキ
そのかけらをまた、半分に折る。
その半分をまた…
パキ
パキ
パキ
パキ
この気持ちって、なんなのかな?
いつの間にか、おせんべいは、折れないほど粉々になっていた。
あぁ、これが、私。
あいつがいないとこんなふうになっちゃうんだ。
「…お前…何やってんの?」
聞きなれた声にハッと顔を上げる。
彼が、あきれた顔で私を見ていた。
「おい、何泣いてるんだよ!」
彼の言葉に初めて頬がぬれていることに気がついた。
「粉々なんだよ…」
「それ! 自分でやってただろ!! 泣くならやるなよ」
ぶはっと吐き出した彼の笑顔。
見慣れてるはずなのに、久しぶりに見た気がした。
悲しかった気持ちが、一気に嬉しくなって、涙が余計に止まらなくなった。
そうか。
これがきっと、恋なんだ。
まだ笑う彼を見て、思った。
彼が笑いおさまったら言ってみようかな。
彼から聞いた、「好き」の言葉。
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