真・恋姫†無双〜絆創公〜 中騒動第四幕(中編)
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真・恋姫†無双〜絆創公〜 中騒動第四幕(中編)

 

「そ、そうよね! 一刀は着替えていただけよね! ごめんなさいね、私の早とちりで……」

 あれから数分経ち、だいぶ落ち着いた蓮華は、寝台の傍で丸椅子に腰掛けている。

 どもりも無くなり、しかし顔の赤みは微かに引いてはおらず、胸の前で手を忙しなく動かしながら一刀に話しかけている。

 ただ、ほんの微かに残念がっている心持ちなのは内緒である。

「気にしなくて良いよ……」

 新しい服に着替えて寝台の上で上半身を起こし、足に敷布を掛けた一刀は苦笑しながら蓮華の相手をしていた。

「それよりも、蓮華。ありがとうな」

「えっ?」

「わざわざ見舞いに来てくれて。蓮華も仕事があったのに、こっちに来てくれたんだろ?」

 少し弱々しく、申し訳なさそうに笑いかける一刀の姿。

 蓮華の胸はチクリと痛む。

 言える訳もない。はしたない事を僅かながら期待して、急いで貴方の下に駆けつけたのだとは。

 でも、さっきの自分の焦る姿と言動は、その事を十分すぎるほどに裏付けるものだ。

 今度は羞恥により、蓮華の顔に熱がこもりだした。

「蓮華?」

「あ、ああ。そ、そんな。良いのよ! 一刀を心配するのは当然だから……」

 自分の表情を曇らせた蓮華は、逆に心配そうな顔になる一刀に首を横に振る。

 ワタワタとしながら話題を逸らす何かを探していた蓮華。と、その視線の先にある物を見つけた。途端に物珍しそうな顔に変わり、その先の一刀の机の上へと歩み寄る。

「これって……一刀、なの?」

 そういう蓮華の手にあるのは、置いてあった写真立て。一刀の母親、泉美が持ってきたものである。

「そうだよ。十年くらい前の、かな……? あっ、蓮華は“写真”を見るのは始めてだっけ?」

「ううん。貴方のお父様から、幾つか見せてもらった事があるわ」

 背を向けて写真を眺めている蓮華に一刀は声をかけた。

「そっか……。それ、俺も佳乃も小っちゃいだろ?」

 小さく笑いながら蓮華に話しかける。

「……そうね。みんな、若いわね……」

 写真を眺める蓮華の瞳は微かに翳る。

 彼女の感情が語気にも表れたのか、言葉を聞いた一刀も、蓮華の方を眉を寄せながら眺めている。

 彼の口から問いかけの言葉が出る前に、蓮華の視線は写真から逸らされた。

 写真立てを机の上に置き直して、その手でゆっくりと取ったのは……。

「ああ。それ、佳乃と母さんの書き置きだよ。二人が用意してくれていた着替えの上にあったんだ……」

 一刀の言う通り、蓮華の手には書き置きの紙がある。

「……これ、何て書いてあるの?」

「そんなに大したことじゃないよ。早く良くなってくださいとか、ご飯を後で持ってきますとか……」

 日本語が読めない蓮華に、内容を説明する一刀。照れ臭そうに、しかしどこか嬉しそうに頬を指で掻いている。

「佳乃がさ、“ご飯はお母さんと一緒に作るから大丈夫”って書いてるんだよ。アイツそんなに料理下手じゃないのに、わざわざ自分から言い出すなんておかしいだろ?」

 気恥ずかしさをごまかすように、小さく笑いながら明るく話し続ける。

 そんな一刀とは対照的に、蓮華の心は再びチクリと痛んだ。

 この痛みの原因……。それは蓮華自身も分かっていた。

 最初の痛みは一刀に対する後ろめたさから。でも、今のは違う。

 出来ることなら気付きたくなかった。これほどまでに自分がはしたない女であったのかと、認識させられてしまったから……。

 だから、彼女は決意をした。

 よし、と小さく呟いて、手に持つ紙を机に置いて一刀に振り向いた。

「一刀っ!」

「ん?」

 疑問符を頭に浮かべる一刀の目に飛び込んできたのは笑顔の蓮華。その胸の前には拳を握っていた。

「お母様たちの代わりに、私がご飯を作ってあげる!」

「えっ!?」

 声を出した後、一刀は素早く自分の口を押さえて顔を逸らした。

 マズいと思いながらも視線だけを戻せば、さっきの笑顔は消えて、代わりに頬を膨らませた蓮華がいる。

「……一刀。その反応は何?」

ジト目でこちらを睨んできて、凄く恐い。

「いや、違うんだ! その、ホラ! 蓮華は仕事が終わってすぐに来てくれたんだろ?!」

「そうよ?」

「だったら蓮華は疲れているだろうしさ、そんなに無理しなくても大丈夫だから! まだ俺、そんなに腹減っていないし……!」

 今度は一刀が慌てふためく番になる。

 一刀の気にかけている事。それは蓮華の作る料理についてだ。

 彼女の料理の腕は、それほど悪いという訳ではない。

 桃香や愛紗の二人と比べたら、かなりマシな部類に入る。

 繰り返す。かなりマシな部類に入る。

 しかし料理の技術に対して、その知識は未だ及ばないところがあったりする。

 料理大会で天の国の料理、つまり日本の料理である刺身を一刀に振る舞おうとして、誤って雷魚を調理してしまった事があるのは、記憶にある人もいる事だろう。

 加えて今の彼女はどういう訳か、かなり意気込んでいる様子。それで空回りして、悪い方向に転ぶ可能性だって十分に考えられる。一刀はそれを危惧していたのだ。

 そんな不安を抱いていた一刀。その彼の瞳に飛び込んできたのは、反論する代わりに顔を俯かせていた蓮華の姿だ。

「蓮華?」

 急に黙り込んでしまった少女の変わり様に軽く顔色をうかがえば、自分よりも不安そうな表情になっていた。

 いや、不安そうと言うよりは落ち込んでいると言った方が正しいのか。

 そんな彼女が、ゆっくりと口を開いた。

「一刀は……。私の料理は、嫌か?」

「ッ!?」

 涙を溜め、微かに睫毛を濡らした瞳。

 両手は服の裾に皺を作るほど、強く握り。

 下唇を噛んで眉を寄せているその辛そうな表情は、一刀を怯ませるのに十分だった。

「……ええと、その。…………嫌じゃないです」

 その顔は、卑怯だ。そんな顔されたら、嫌と言えないじゃないか……。

「だ、だったら! わ、私が作っても、良いか?」

「…………お願いします」

 ガックリうなだれる一刀。だがそれは、蓮華には頷いたように見えた。

 パッと華やいだ表情になって、一刀の方へと身を乗り出した。

「じゃ、じゃあ待っててね!? すぐ作ってくるから!!」

「ああ。分かった……」

 意気揚々とした蓮華は、一刀の力の抜け様にも気付かずに、いそいそと部屋を出ていった。

 部屋の扉は閉まり、多少一方的な騒がしさは過ぎ去る。それを確認した瞬間、一刀は深い溜め息を吐いた。

「……食欲無いって言った方が良かったかな?」

 顎に手を当てて考え込む一刀。

 彼の頭を支配しているのは、いずれまた訪れるであろう、蓮華が呼び込んでくる騒々しさの最善な対処法を捻り出すことだ。

「……まあ、良い方向に転ぶことを期待するかな」

 悩んでいたところでどうしようもない。こんな事態があったとしても、今までそれなりに乗り越えてきたのだ。

 蓮華の料理の腕はちゃんと上がってきていると自分の母親から聞いているし、何よりも自分の為に作ってくれるのは凄く嬉しい。

 とりあえずゆっくり待っていようと、寝台に仰向けに寝て目を閉じた。

 が。そのすぐ後に一刀の頭に疑問が一つ浮かび、彼の瞳は再び開かれた。

 

「そういえば蓮華、病人用の食事って作れるのかな?」

 

 

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「……とりあえず、これで大丈夫よね」

 

 城内の厨の中。

 場所を移動した蓮華は……随分と張り切っていた。

「一刀にはしっかりと栄養つけてもらわなきゃ……」

 一刀の部屋に入る前と同じくらいに、その拳は強く握られていた。

 蓮華がここまで意気込んでいたのには、様々な理由があった。

 今の言葉のように、愛する人の全快を心から願う気持ちがあるのは勿論ではある。他にも、彼の家族の手助けをしたいとか、自分の良い所を見せたいとか、少しの邪な気持ちもあったりする。

 だが、蓮華をここまで奮起させたもの。

 それは一刀の部屋で見た、書き置きの紙。

 そしてもう一つ。彼の家族の写真であった。

 あの時見た写真には…………

「……そうよ。私たちは、浮かれてちゃいけないのよ……!」

 自分が見たものを思い出し、一度沈んでしまった心持ちを、半ば強引に引き上げた蓮華。

 

 そんな彼女の目の前には調理台。

 そしてその上を埋め尽くしている、数多の食材。

 …………どうやら、悪い方に転んでしまったようだ。

「……って。出してはみたけど、今の一刀はこんなに食べれる訳ないわよね」

 天は彼女に味方した。勢い通り過ぎて冷静さを取り戻した蓮華は、流石に目の前の食材に手をつけることに躊躇っていた。

「こういう時は、お粥とかが良いって聞いたことがあるけど……?」

 そして彼女の思考は確実に正解へと導かれ、同時に今更ながらここまで食材を出した事を少し後悔し始めていた。

 しかし、今度は新たな問題が発生した。

「お粥って、どうやって作るのかしら……?」

 蓮華は、作り方までは思い当たらなかったのだった。

「ご飯を作ろうとしたらお粥みたいになったっていう話は、良くあるけど……」

 口元に手を添えながら考え込む蓮華。そしてこれもあながち間違いではなかった。

 お粥の種類を表現するのに、五倍粥、十倍粥という言葉を用いることがある。これは文字通りに、米の量を一とした場合、各々に用いる水の量をその五倍、十倍という比率で作るお粥のことなのである。

「でも、そんな適当に作ったら一刀に失礼よね」

 眉間に寄せる皺を微かに深くして蓮華は呟く。生来の生真面目さが顔を出してきている。

「……とにかく作ってみなきゃ。一刀が待っているし」

 短く強い息を吐く。踏ん切りの付いた蓮華は調理台の上にある生米に手を伸ばした。

 そして恋姫世界ではお馴染みの、真桜製の火力の強い崑崙に小さめの鍋を乗せた。その中に適度な量の生米を入れて水を入れる。

 ……前に、蓮華はその手をピタリと止めてまた考え出した。傾けようとしていた水の入った器を、火の着いていない崑崙の脇に置き、鍋の中をじっと見つめている。

「……ただのお粥を作るだけで大丈夫なのかしら?」

 ここにきて蓮華は、何かひと工夫加えようとしていた。

 何も分からない人間が新しいことをしようとすると、大抵は失敗するという先人の話がある。それが今の彼女の頭から抜けているようだ。

 ちなみにお粥を作る前には、白ご飯を作る前と同じく生米を研がなければならない。一応今の所は、蓮華の言うように大丈夫という状態ではある。

「一刀に早く元気になってもらいたいけど、何を加えれば良いのかしら……?」

 病人用の食事も、一刀の母親から教わっておけば良かったと思い始めている蓮華。

 なるべく一刀に早く回復してほしいと願う彼女だが、教わってきたのは一般の食卓に出てくるような料理。

 だがそれを食べれるほどの元気が無いことは蓮華も理解していた。普段から食材の効能なども詳しく教えてもらえば良かったと、少し後悔し始めていた。

 そんな考え込んでいる蓮華が、今手にしているものは……。

 

 イモリの黒焼きである。

 

「ハッ!? わ、私ったら何を持っているの!?」

 蓮華自身もかなり驚いている。ほぼ無意識に身体が動いていたらしく、それを持って崑崙の前に来ていた。

「いい今の一刀が、ここここれを食べれる訳ないじゃないの!! 何でこれを持っているのよ! これじゃまるで……まるで……」

 慌てて調理台の食材の中に黒焼きを投げ出した蓮華は、その言葉の先を口にするのを抑えた。

 違う。あくまで自分は一刀にご飯を食べさせてあげたいと思っていただけだ。一刀の為なのだ。自分がどうこうなんて関係ないのだ。

 そうして心の中であれこれモヤモヤしている中、今の蓮華は……。

 

 生米の入った鍋の中に、ヘビ酒を入れようとしていた。

 

「って待ってったら!! こんなの一刀に出せる訳ないのよ!!」

 

 崑崙の脇にドンと酒を置いた蓮華は、あまりの事態に半ば叫びだしていた。

 だから一刀に元気になってほしいだけなのだ。そういう意味での元気じゃないのだ!

 ……でも元気ならそれはそれで嬉しかったり、ってだからそういうことを期待しているんじゃなくて!!

 頭を横に振りながら厨の中をウロウロと歩き回る蓮華。誰に聞かせるわけでもない言い訳を口にしながら、作業そっちのけで悩み続けていた……。

 

 

 

 

 

 城内の廊下を早足で歩く男性が一人。

 ワイシャツに紺のネクタイと黒のスラックス。オールバックの髪のこちらの男性は北郷一刀の父親、北郷燎一である。

「一刀は良くなっているだろうか……?」

 口にするのは息子の容態の事。そう呟きながらも早足は緩めてはいない。

 彼は朝から、文官たちの手助けをしていた。彼の予定では、合間の休憩で一刀の様子を見に行くハズだった。

 だが、予想外に区切りがつかずに仕事が長引いて、結果として昼過ぎまで確認に行けなかったのだ。

 これが彼が早足である理由である。

「……ん?」

 そして彼は、その早足を止めた。

 理由はその視線の先に、自分の妻と娘があるいているのを見つけたからだ。

「あっ、お父さん」

「あら。燎一さんもカズ君の部屋に?」

 向こうも彼に気付き、立ち止まってこちらを見てきた。二人とも小さな紙袋を抱えている。

「二人も、一刀の様子を見に行くのか?」

 足を止めた二人の下に、再び歩き出しながら話しかける燎一。

「うん。さっき一度、お母さんと一緒に行ったんだけど。でもカズ兄ちゃん、ぐっすり寝ていたみたいだったの」

「今から二人で、カズ君にご飯を作ってあげようと思って。さっきは会いに行く時間も短かったし、何より起こしてしまうのも悪いと思ったから……」

 仕事帰りの途中で買い物をする母親の泉美が、勉強会が終わった後に同じ理由で城下に向かった妹の佳乃が合流した。との話らしい。

 それを聞いた燎一は納得したように何度も頷いた。今自分のいる廊下を少し歩いた先には厨がある。二人はそこに向かう為に歩いていたのだ。

 しかし、途中でふと思って訊き返してみた。

「二人だけ、って事は……。護衛なしで買い物してきたのか?」

 不安そうに顔を見比べている燎一を、キョトンとした顔で見返している二人。

「ううん。私は凪お姉ちゃんと真桜お姉ちゃん、それに沙和お姉ちゃんが就いてきてくれたの」

「私には、お手伝いの亞莎ちゃんと、迎えに来てくれた明命ちゃんがいてくれたのよ。でもここまで送ってくれたら、皆は一旦それぞれのお屋敷に帰っちゃったの」

「一度帰られた……。他の皆さんも一刀の事を心配しているハズなのに……」

 何か用件があったのだろうか、と考え込む燎一。そんな彼に気付かれないように、女性二人は少し笑っていた。

 二人は分かっていたのだ。自分たちと別れた女性たちが、きちんとした格好で一刀に会おうと身だしなみに向かった事を。

 それに気が回らずに悩んでいる目の前の燎一を見ながら、鈍感なところが一刀に受け継がれてしまったのだろうと思ってしまい、ますます二人の笑いは止まらなくなっていた。

 そんな二人の様子に気付いて、思考を中断した燎一。

「ん? どうかしたか?」

 笑顔は崩さないまま、燎一の言葉に泉美は首を横に振る。

「いいえ、何でもないわ。燎一さんも私たちと一緒に行きます?」

「そうだな。私も何か二人を手伝えるなら……」

 

 と、合流した三人が少し歩くと、またもその足は止まる。

 廊下が交差する角で、一人の老人を見つけたのである。

「あっ、お爺ちゃん」

 呼び掛けた佳乃の声。それに反応して老人は声の方に目を向けた。

「ん? 皆揃って、一刀の見舞いか?」

 佳乃の言う通り、それは一刀の祖父の北郷耕作であった。家族が相手であっても、その険しい顔は変わらない。

 いつも通りの反応なのか、それをあまり気に留めない三人は耕作に歩み寄っていく。

 しかし。近寄っていくにつれて、耕作一人ではないことが確認できた。その背中に“もう一人”、可愛らしい姿を確認できた。

「あら? 孫登ちゃん?」

 疑問混じりで泉美が呟いた。

 確かに耕作が背中に負ぶっているのは、一刀と蓮華の娘の孫登であったが……。

「うむ。野暮用で呉の屋敷を訪れた時に、乳母から預かってきたのたが……」

「……眠ってるの?」

 じっと少女の顔を見つめる佳乃が囁くように言う。その言葉通り、孫登は安らかな寝顔を見せていた。

「どうやら孫仲謀殿が、一刀の見舞いにこちらに来ていたらしい。母親を待っていたらしいが、我慢できずにワシに付いてきたのだが……」

「待ちくたびれちゃったみたいね……」

 泉美は少し溜め息を吐きながらも、穏やかに笑いながら孫登の頬を指で軽くつついている。耕作の背中にいる天使は、それに反応することなく小さく寝息を立てていた。

「あれ? じゃあ蓮華お姉ちゃん、まだここにいるって事かな?」

「ワシがここに来る間にもお会いしなかったから、恐らくそうだろうな」

「では、一刀の部屋にいるんでしょうか……?」

「多分そうかしらね。じゃあ私たちは、厨で食事の準備でもしましょうか」

「ワシは誰か女中を探す。この子を一刀に会わせてやりたいが、風邪を移してしまうかもしれんしの……」

「分かったわ。でももしカズ君が元気だったら、私が孫登ちゃんを呼びに来ますね」

 父親の顔を見たいでしょうから。との言葉に、耕作は一つ頷いて別れていった。

 

「……あれ?」

 厨に通じる廊下の途中で、佳乃はふと呟いた。どうしたのかと、一緒に歩いていた燎一と泉美が顔を向けてくる。

「蓮華お姉ちゃんの声が、聞こえたんだけど……」

 そう言いながら指差す先。そこには三人が向かう厨が。

「蓮華ちゃん、厨にいるのかしら?」

「……行ってみるか」

 首を傾げながらも歩みを再開する三人。

 と、残る二人の耳にも誰かの声が聞こえてきた。佳乃の言うように、蓮華らしき声だ。

 距離が近付く度に、何かブツブツ呟くその声がはっきりと耳に届く。

 

 

 そして顔だけを厨の入り口から覗かせた三人は………。

「だから違うの!! 私はそういう意味で作ろうとしていたんじゃなくて……!!」

 頭を抱えながら厨の中を歩き回る蓮華の姿を確認する。その顔も半泣き状態であった。

 突然飛び込んできたその光景に、三人は一斉に疑問符を浮かべる。とりあえず分かったことは、彼女が料理を作ろうとしているらしい。ということだけだ。

 しかし次に目を向けたのは、調理台の上にある手付かずの食材。それから推測するに、どう調理しようか悩んでいたのか。はたまた、教わった料理の復習がうまく出来ずに悩んでいるのか。

 しかし、そう考えるとどうもしっくりこない。彼女の口から出てきた言葉との辻褄が合わない様に感じた。

「どうしたんですか、蓮華さん……?」

 だから燎一がそう問いかけたのは当然の事であった。

 その言葉に反応した蓮華が、身体をビクッとして声のした方を見る。そこには不思議そうに自分を見つめている、この有り様を一番見られたくない面々の姿が。

「み、皆様!! あ、あの! ここ、これは、その! えと……」

 しどろもどろになりながら、言い訳を考えている蓮華ではあったが……。

 自分をじっと見てくる三人。

 ぱっと見れば散らかしているような厨の中。

 そして何より、今まで繰り返してきた葛藤の原因。

 それが色々巡り巡って、彼女の中で混ざることなくぐちゃぐちゃになってしまい……。

 

 

「……ヒック。ご、ごめんなさい……。私、私……。エ〜ン……!」

 

 

 ついには泣き出してしまった。

 

 今度は三人が慌てふためく番になり、先に状況の収拾に時間をとられることとなった。

 

 

 

 

 

−続く−

説明
投稿遅れて申し訳ございません。

本来書き上げていた中に、触れるべき話題と伏線がありませんでしたので、一旦ここで区切ります。
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コメント
>mokiti1976-2010様 とりあえずとんでもないモノを作る前に意識を戻したので良かったかと(笑)(喜多見功多)
>観珪様 たまに見せるデレだからこそ、蓮華は素敵なのだと考えてみたり(笑) そしてハーメルンでもコメントを頂き、ありがとうございます。(喜多見功多)
>さすらいのハリマエ様 蓮華の危機に、呉の軍勢全員で手助けに(という名目で引っ掻き回す方が何名かいますけど)来るかもしれませんね(笑)(喜多見功多)
蓮華さんの頭の中は何だかんだいって桃色なわけですね…とりあえず普通にお粥を作る所から始めた方がいいのではないかと。聞く耳無さそうですが。(mokiti1976-2010)
こんなときは華琳さまを呼んできて、丸投げしちゃいましょうww 蓮華さまも、そういうかわいらしいところを一刀くんに魅せて(誤字にあらず)あげればいいのにww(神余 雛)
とりあえず深呼吸とツッコミ係の手配を・・・・(黄昏☆ハリマエ)
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