真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 2 |
〜2年後〜
「ゲンキ! 朝だよ! 起きてよ!」
と、言いながら後の時代にボディプレスと呼ばれる空中からの攻撃による目覚まし攻撃を繰り出す。
「ぐほぉう!」
そして、いつものように玄輝はその一撃で目を覚ます。ここはとある町の宿屋だ。彼は上に乗っかっている少女をどかして、上半身を起こした。
「おま、え、それはやめろと、何度言えば……!」
彼は森の中なら常に気を張っているが、こういった街中では殺気でも感知しない限りは目を覚まさない。それをこの少女は知っているからこそ、この目覚まし攻撃を多用しているのだ。
「だって、ゲンキはこうしないとお昼まで寝てるんだもん。今日はお買い物するって約束したでしょ!」
「……あー」
たしか、昨日の夜、寝たのを確認してから飲みに出かけて、んで、酔っ払って帰ってきたら起きてて、ご立腹なこいつをなだめるために適当に言ったような気がする。
ぼんやりと、昨日のことを思い出した玄輝は怠そうに額に手を当てると、吐き出すように言葉を出していく。
「明日じゃ駄目か?」
「やっ!」
「あー、んじゃ明後日」
「延びてるよ! 今日じゃなきゃやっ!」
めんどくせぇ、と思いつつも、約束したのは自分だし、寝ていたこの子を宿において飲みに出かけたのも自分だ。はぁ、とため息を吐いた彼は布団から立ち上がると、着替えを手に取る。
「……行くぞ」
「うん!」
まるで、太陽のような笑顔で少女は頷いた。さすがに2年も一緒にいれば多少は慣れるが、やはり眩しい。
「はしゃぎすぎて顔晒すんじゃねぇぞ、雪華(せつか)」
「うん!」
〜街中〜
「で、何を買いたいんだ?」
玄輝は左手で繋がっている雪華に話しかける。そこには、いかにも怪しげな格好をした彼女がいる。茶色の外套を纏い、それに着いている頭巾を目深にかぶっていて、まるで“てるてる坊主”だ。だが、その恰好をしなければ、彼女はいらぬ諍いを起こしてしまう。
「んっとね……」
だが、彼女もそのことを分かっているし、2年も同じ格好で過ごしていたので、慣れてしまっている。と、言っても、岡っ引きなんかにはよく睨まれるのだが。
何を買ってもらおうか、悩んでいた彼女はようやく一つに絞り込み、すごく楽しそうな声でその物の名を発した。
「えっとね、コマ!」
「……そういや、この前失くしたんだっけか」
この前、山で山賊と戦っている時に玄輝の外套の中から落ちて、失くしてしまったのだ。ただ、そのおかげで山賊が転んで、一人分、楽にはなったのだが。
「わかったよ。コマでいいんだな?」
「うん!」
顔は見えないが、相当嬉しそうだ。鼻歌まで歌いだすほどに。
しばらく歩くと、コマを売っているお店を見つける。店主の“いらっしゃい!”という掛け声を聞きながら、雪華は近くによってどのコマがいいか、じっくり眺めている。
「うーん……」
(まったく、どれも同じだろうに……)
と、玄輝は思うが、雪華からしたら玄輝に買ってもらえるものだから、できるだけ良い物を選びたいのだ。ただ、どちらもそんなことは口に出さないのだが。
「これ!」
そう言って彼女が手に取ったのは、赤と緑の2色の渦が描かれているコマだ。それを受け取って玄輝は店主に代金を渡し、店を出た。
雪華は嬉しそうに小躍りしながら玄輝の前を歩く。玄輝の方は彼女がぶつからないように気を付けながら、彼女のすぐ後ろをついて行く。
「はしゃぎすぎて落とすなよ」
「えへへ」
まったく、こいつ聞いてないな、と呆れる玄輝だが、その顔は少し微笑んでいた。その時だった。
「やぁ〜とみつけたわぁん」
ぞわっとした。二人同時に、だ。玄輝はあまりの悪寒に思わず抜刀して斬り裂いてしまうかと思ったほどに。
絡繰り人形のように首を後ろに向ければ、そこには、見てはいけないモノがあった。
「あんら、予想よりもイケてるわぁん。食べちゃおうかしら?」
そこには、筋肉隆々の、男のようなものがいた。ただ、その恰好は下着、いや、水着だろうか? とにかくそれ一枚。しかも、たしかあれは、ブーメランパンツとか言うもののハズ。てか、髪型がおかしい。なんいうか、平安時代の女性のような髪型だ。てか、眉毛がもろにそれだ。
「あ、が、が?」
突然の事態に状況の読めない玄輝は、どうにか頭をからっぽにして、冷静さを取り戻す。
「お、お前、なにモノだ?」
「あんら、私の美貌に言葉がおかしくなってるわょん?」
「ひっ!」
雪華はあまりの恐怖に、玄輝の腰をガッチリ、というか、接着されているかのように掴んで離さない。
「まっ、いいわ。私のな・ま・え・は〜、小野小町よぉん! ウフッ!」
バッチコーン! という音が似合いそうなほどのウィンクをかましてくる男のようなモノ、もとい、小野小町の自己紹介を聞いて、玄輝は固まった。
「おのの、こまちだと?」
固まった理由は二つある。一つは、世界三大美女と言われている女性がこんな謎のモノだったという事。そして、この時代に存在しているハズがないという事だ。しかも、言葉の雰囲気や、態度から嘘ではないという事がさらに追い打ちをかけた。
「……お前、何者だ?」
固まった状態から、一気に戦闘態勢へ切り替える。
「大丈夫よぉん! 敵じゃないから、焦っちゃダメよぉん?」
腰のあたりから “ひっ!”という短い悲鳴が再び聞こえるが、それどころではない。
「敵じゃないなら、なんだってんだよ?」
「そぅね、案内人、と言った所かしらねぇん?」
「案内人?」
「そ、あなたをとある世界に案内するために現れたのよぉん」
嘘は言っていない。だが、だからこそ、この男の話は、不気味だった。
「まるで、この世界以外の世界を知っているみたいだな?」
「当然よ。あなたのことも知ってるわよん? 御剣玄輝、今から7年前にこの世界に来たのよねぇん?」
その瞬間、彼は刀を抜いていた。元々、柄の端を持てば届く間合いだった。だが、彼女はそれを人差し指と中指だけで止めてしまった。
「……その時の話は聞いているわ。でも、これだけは言っておく。私は、あなたの世界を壊した奴らじゃないわ。あなたを助けた側の人間よ」
受け止めた男は、オカマ口調をやめ、真剣な表情と口調でそう言った。
「……証拠は?」
「これよ」
その男が取り出したのは、くの字型の破片だった。それを見た玄輝は肩の力を抜いた。彼の知っている物だったからだ。
「……最初から出せよ」
「うふ、ごめんなさいねぇ?」
肩の力が抜けたのを確認した小町は掴んでいた刀を離す。離された刀は玄輝によって鞘に収まる。
「アンタがそれを持って来たってことは、あの人が言っていた時が来たってことか?」
「そうなるわね。まぁ、そもそも、本来ならアイツの役目なんだけどねぇん」
ため息を吐きながらくねくねする様は、もう一度同じやり取りをしてしまいそうなほど気持ち悪い。
「なんか、“ご主人様を探すのよぉん!”とか言って、この仕事ほっぽったのよねぇん。マジ許せないわぁ……」
「中途半端に平成の言葉を使うな、気持ち悪い」
「あ、あら、辛辣ね」
何ともやりきれないような表情をする小町を無視して玄輝は話を進めるように促した。
「せっかちねぇ、まぁいいわ。時間もないし、端的に言うわよ。この町の廃寺にある銅鏡にこの破片をはめ込みなさい。そうすればその世界へ旅立つことができるわ」
「……その世界ってのは? なぜ俺がそこへ行かねばならない?」
「……まっ、諸事情ってやつよん。世界は、たぶんすぐにわかるわぁん」
またもやバッチコーン! とウィンクをかます小町だが、二回目になるとさすがに耐性がついた。
「……一つ聞きたい」
「3サイズなら、だ・め・よ?」
「……殺していいか?」
「んもぅ、冗談が通じないわねぇん。その子のことでしょ?」
考えが先読みされているのは癪だが、そんなことはどうでもいい。
「ああ、こいつは、一緒に行けるのか?」
自分はすでに別の世界から人間だが、雪華は違う。となると、彼女はどうなるのか、それが気になってしまった。それに、あの娘との約束もある。
「問題ないわょん。他に聞きたいことはある?」
「いや」
短く返事を返す。それだけ分かれば十分だった。
「どうせこの流れには逆らえんのだろう? あの時のように」
「…………」
「ならば、俺が決めたことを貫き通すだけだ」
その言葉は、力強い意志で満ちていた。その玄輝へ小町はさっきの破片を手渡す。
玄輝は雪華を連れて、寺へと足を向ける。その背中を姿が見えなくなるまで見送った小町は、自身の姿を変化させる。その姿はまさに三大美女の名にふさわしい容姿だった。ただ、その服装は、体のラインがでる、ぴっちりとしたボディスーツだ。
「さて、これで私のお仕事はおしまいね」
艶やかな声でそう呟く彼女の顔は、悲しみで彩られていた。
「あんなに、小さくて純粋だったのにね。7年でああも変わっちゃうのかぁ……」
生き別れた弟のように思っていたのであろうか、その言葉には、優しさと悲しみが交じっていた。
「さてと、あの世界の恋姫たちがあの子にどんな影響を与えるか、お手並み拝見といきましょうかね」
その言葉の終わりと共に、彼女の姿は霧のように消えてしまった。そして、往来には再び人の活気が戻ってきていた。
〜とある廃寺〜
「これか」
小町から別れてしばらく、玄輝と雪華は忍び込んだ寺で目的の銅鏡を見つけていた。その銅鏡には確かに破片と同じ形の窪みがあった。
「雪華」
「ん?」
「……今から、俺たちは見知らぬ世界に飛ばされる。もしかしたら、俺でもお前を守れないかもしれない。それでも、」
そこまで言って、彼は言葉をやめた。フードを外した彼女の顔が、笑顔だったからだ。
「ゲンキと一緒ならどこでもいい。ゲンキが死ぬ時は私の死ぬ時だよ?」
「……上等」
優しい口調で言葉を口にした彼の顔は、優しく笑っていた。だが、その顔はすぐに引き締まり、その手に持つ破片を銅鏡にはめ込んだ。
その瞬間、銅鏡は強い光を放ち、二人を包み込んでしまう。完全に覆い尽くされた瞬間、その光は泡のように消え去ってしまった。ただ、その光の中で、二人の手はひたすら強く、強く握られていた。
さて、これにて序章は終わりです。長いって? 勘弁してくださいよ、大事なところなんですから。さて、こうして彼らは旅立ちました。恋姫と、天の御遣いがいるあの世界に。さて、彼が御遣いのいる世界でどのような役目を果たすのか、それは、ここからのお楽しみ。それでは、始めましょう。物語を。
前に会えるかな、と言ったな。あれは嘘だ!(ドンドコドーン!)
いた、いたい! い、石は投げないで! お願いですから! ごめんなさ〜い!
思った以上に総閲覧数が伸びてたんで、ちょっとびっくりしちゃったんです! それでどうせなら、と思って、ごめんなさいごめんなさい……
と、とりあえず気を取り直して……
え〜、これにて序章は終わりです。次からいよいよ恋姫が登場しますですよ?
何かありましたら、コメントの方よろしくお願いいたします。
では、また今度おあいしま、いや、もしかしたらまた今日中にのせる可能性もあるからこのセリフは、いやしかし…………
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白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話 真・恋姫†無双の蜀√のお話です。 オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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コメント | ||
ありがとうございます! (風猫) すっごく引き込まれる面白い書き出しですね! 次も楽しみにしてます!(morikyou) |
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