超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 ルウィー編 |
最初に動いたのはブランだった。
想像が出来ない程の怪力で地面を蹴り飛ばし、更にバックプロセッサからブーストによって、その背丈を優に超す巨大な戦斧を構えた状態で凄まじい速さと共に地を駆けた。それに応戦するように姿かたちが曖昧なマジェコンヌは杖を前に構え幾多の魔法陣を展開して、嵐のような激しい弾幕を放ってきた。
「援護する!!」
「テケリ・リ!」『了解です!』
「分かったわ!」
俺は双剣銃を構え、ポチさんは偃月刀を構え、ネプテューヌは太刀を構えて地面を蹴った。
ガンモードにしてブランの直撃しそうな魔弾を狙い撃ち相殺していき、ポチさんの舞う様な斬撃が魔弾を断ち切り、ネプテューヌを放つ剣閃がマジェコンヌの周囲に展開していた魔法陣を切り裂く。
「おらぁぁ!!」
俺達が空けた道でブランはマジェコンヌの頭上を取った。
上段に構えた戦斧を振り下ろす。それをマジェコンヌは咄嗟に戦斧と自分との間に魔法陣を展開して防御をするが、ブランは構わずバックプロセッサから一層激しい光を放ち押し潰すように力を込めた。激しい火花を散らしながら、マジェコンヌの表情が歪み魔弾を撃ちだす魔法陣をブランに向けるが、ポチさんと俺が左右から、ネプテューヌが背後から斬りかかり、防御用の魔法陣の数を増やして防戦以外の選択を殺す。
後は、相手の防御を砕くまで攻撃を続けるまで攻撃するだけだ!闇で造形されたマジェコンヌの表情が歪み始める。
あともう一息だーーーそう思った瞬間。
巨大な手がマジェコンヌの背中を突き破って、俺達を捕縛した。
「ネプ子、紅夜!!」
「ブラン様、ポチさん!!」
完全に不意打ちだった。あともう少しという僅かな慢心を見事に突かれ捕まった。その巨大な手は、ポチさんやネプテューヌ、ブランを乱暴に地面に叩きつけた。
その一撃で、いともたやすくネプテューヌとブランの女神化が解かれてしまった。
何故か俺だけは手に捕まってままで、必死に力を込めて抜け出そうとするが、逆に力によって握りしめられる。
「ぐああぁぁぁあぁぁ!!」
「紅夜!!」
雷撃が体に走る。痛みが巨大な津波となって襲い掛かってくる。
ーーー犯せ。
「!?」
脳裏に子供の様な、青年の様な、大人の様な、老人の様な。
男性の様な、女性の様な、それらが合体した人の声とは思えない声が響く。
殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺せ殺せ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ凄イ凄イ凄イ凄イ凄イコンナ力素晴ラシイコノ便利便利嫌ダコンナ所居タクナイ皆、皆死ンデシマエゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ殺セ抉レ皆殺シダドラダコレガオレノ俺ノ私ノ姿ヲ見ルナ殺シテ助ケテオキャハハハハハハハハハハハハハハハハ願イママ死ニタイ此方二来イ殺サナイデ殺セ殺セ誰お母サンお父サン嫌ダコンナ所居タクナイ皆、皆死ンデシマエゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ殺セ抉レ皆殺シダドラダコレガオレノ俺ノ私ノ姿ヲ見ルナ殺シテ助ケテオキャハハハハハハハハハハハハハハハハ死ニタイ生キル価値ナンテナイ此方二来イ殺サナイデ殺セ殺セ誰カオ砕カナイデ私ノ頭返シテ私ノ頭チョウダイ命ヲ人間メ人間メ私ヲ見ルナドイダこの力貴様モ来イ闘キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒオオ父サンオ母サンオ兄チャン助ケテ分カルマィコノ苦シミ一緒二死ノウ一緒二生キヨウ君モ此方ヘ来イ来イ
『うぐっ!?こいつブラッディハードのような負の神か!?』
「頭が、痛い……!」
この世の元は思えない冒涜的な合唱が鳴り響く。
汚染されていく精神、視界ではネプテューヌ達が確かにそこに居て俺に向かって叫んでいるのに、聞こえるのは怨嗟の声だけだった。
初めてブラッディハードになった時の感覚が蘇ってくる。
同時に誰だか分からない人の記憶が俺の記憶と繋がって自我が誰かに塗り替えられていく。闇に意識が沈んでいく。
自分が自分じゃなくなる。ただ人の悪意を執行するだけのデバイスと成り果てるーーー歯を食い縛り、必死で自我意識を高めていくが激流のように押しかかってくる負が自己を沈めようと迫りくる。幾ら暴れても、無駄と言わんばかりに纏わりついてくる負にもうダメかと矢先、
「やっぱり、僕がいなきゃダメだよね紅夜は」
その声と共に闇が切り裂かれた。
◇
マジェコンヌの背中から変えた巨大な手を切り裂き、力なく開かれた指の間で体に痛々しい痕がある紅夜を回収してネプテューヌ達の元に降りた。
「空さん!?」
「あんた、まともに立ち上がることすら出来ないのに……」
「プロセッサユニットをパワードスーツとして無理やり体を動かせているんだよ」
あー、怠い。やっぱり最初から付いていけばよかった。
後にはコンパがネプテューヌとブランを回復させていたが、そんな暇はない。
「パープルハートにホワイトハート、さっさと立ち上がれ。まだ序曲すら始まっていないよ」
「そうは言っても、なにあれ…魔墜ちの次は魔改造なの…?」
「油断しただけだ。次は絶対に捕まらなねぇ…!」
再び光の柱と共に女神化を完了させるパープルハートとホワイトハート。
僕の従者であるポチはちゃっかりスライム形態になってダメージゼロにして悠々と立ち上がってバルザイの偃月刀とガントレットに変形させて装備する。
「■■■■■■ァァァア!!!!」
「うるさい、黙れ」
腕を切り裂かれ嘆くマジェコンヌにシェアの力を込めた斬撃を放つが、魔法陣を貼ることなく避けられた。防御してくれると期待して対魔術式を組み込んでいたのに無駄になった。
ブラッディハードである紅夜の前で剣先を向ける。あんな姿になっても一応理性はあるらしく獣のような唸り声で飛び掛かろうとしない。否、力を込めているんだろう。
「ぐっ……なんだあれ…」
「紅夜には見えるでしょ、ギョウカイ墓場からかなりの量の負を奪って来てるよあいつ……」
下手に動けない。前のマジェコンヌもそうだが、((下にいる気配|・・・・・・))にも注意を払わないといけない。
残念なことにこの様子だと、僕以外下にいる奴のことに気づいていないよね。
紅夜が初めてブラッディハードなった時と同じように世界の流れが変わる。本来ゲイムギョウ界に住む生物の邪な想いはギョウカイ墓場に集まる様にしているが、ここではマジェコンヌが中心に負が集まっていく。それも紅夜とは比べらないほどの負の量だ。本来であるなら、聞こえない筈の人の負の声が聞こえ始める。
「耳が……痛い…」
「いや、そんな、怖い声で言わないでほしいです…」
「なによこれ…これは怨霊の類なの…?」
「力が……抜ける…!」
このままだと戦わずして、紅夜はともかくパープルハートがダウンしてしまう。
そもそもゲイムギョウ界ではこんなに負が集まる場所ってギョウカイ墓場以外ないからね。対処しないと希望を糧にする女神にはこの空間は魔境の地と同じであり、シェアエナジーを蝕み汚染させてしまう。
僕の視線に気づいて、ポチは一枚の札を取り出す。それには旧神の印が描かれていて、それを地面に突き刺すとネプテューヌ達を半透明の結界が覆い隠す。
「テケリ・リ……」『主様……』
「今の僕じゃ、この量の負は一気に浄化できないね」
これだけ拡散しているんだもん、集まってもらわないと。
「空、助けてくれてありがとう…」
「別に気しないで、来るよ」
負の瘴気はマジェコンヌを完全に隠した。
女神という素体を媒介にそれを逆転させて邪悪なる神がここに生み出される。
この世界の((道筋|ルート))だと絶対に生まれない。だって、これは本来ブラッディハードの兄弟とも言える神だから。ただし、これは制御なんて眼中に入れておらず、ただ暴れるだけ暴れて破滅を振りまいて、絶望を奏でる災禍なる神だけどね。
《我は闇》
《我は影》
《我は心理》
《我は怒り、悲しみ、苦しみ、妬み》
《我は罪を犯した咎人の総意なり》
《故に我々は人智を超えることなき偽神!》
漆黒の風が雪を舞い上がらせながら螺旋を描き空に飛んでいき、その姿が露わになる。
『醜悪に満ちた神様だね。邪神でもここまでぐちゃぐちゃなのはそうはいないよ』
「あいつらは純粋な悪意の塊みたいな奴だからね」
太陽は既に奴が作り出した赤い雲によって隠されている。
ネプテューヌ達は目の前の巨体に口を震わせた。
ズンッと巨大な体を支える為の四つの足の一つが動いただけで大地が揺れた。
ーーー化物が姿を現した。
下半身と上半身は別々の生き物が合体したような姿だ。
下半身は畏怖感を抱くほどの純白の歯をした口が大半を占めて左右には巨体を支える為の四つの巨大な足があった。
上半身には大木の様な四つの腕が生えており、背には四つの突起物から膜の様な物が広がっていた。
王冠の様な物を被った顔には一つしか目はなく紅の目が開く。それには、光など存在せずただ底なしの深淵をだけが見つめるような眼差しだった。
「なんだよ、こいつは!」
「−−−((犯罪神|・・・))だよ。いや、魔王ユニミテスとも言えるかな」
女神の果ての姿とも言えるけど。この状況ではやっぱり犯罪神が一番ぴったりくるね。
「こんなやつ、…倒せるの?」
犯罪神から放たれる暴力的なまでの殺気と負の瘴気。そのレベルの高さを一番理解できる女神二人と紅夜は顔を真っ青に染めていた。
はぁとため息した瞬間、巨大な手が伸びる。それに全力で答えるために剣を振るう。衝撃が辺りを駆け巡って、轟音ともにクレーターが形成される。
「倒すとか倒せないとか些細な問題だよ。女神として今何をすべきなのかーーーそれが全て」
力のまま、犯罪神の手を弾き飛ばす。同時に背中の突起物から波打った刃の触手が一斉に襲い掛かってきたが、全て一閃の元に切り落とす。
舐めんなよ。今までのゲイムギョウ界での歴史においてお前は物語を区切る。所謂ラスボスとして度々出現して女神に退治又は封印されてきたんだ。姿かたち変わろうともそれをずっと犯罪神を見てきた僕にとって、お前の動きなんて筒抜けなんだよ。
「さてと、いい加減に出てきたらどうだい!?漁夫の利でも狙っていても無駄だ。ーーー僕は破壊神だぜ?」
あぁ、今の僕ってかなり獰猛な顔をしているんだろうな。
地鳴りが起きる。紅夜達は直ぐにその発生源が下であること気づいたとき、地面を貫いてそれは姿を現す。
「ロボット……?」
「一機だけなの…?」
「見たことがない…新型か!?」
白銀の鋼鉄の装甲に幾多の魔術刻印が刻まれていた姿が空を翔けた。
剣のように鋭い翼を広げて、流れるようなフォルムは雪を振るい落としていく。
限りなく人に近い姿をしたロボットの大きさは人の数倍の大きさで、丁度ハードブレイカーより一回り大きいくらいだ。無常さにそのロボットは手を振ると光が集まって結晶となった。その手に握られるのは銃口が筒状に繋がったガトリングガン。
《連射術式兵装『フサッグァ』》
クルクル回り始めたガトリングが火を吹いた。一瞬で僕のいた場所は蜂の巣となる。
バックプロセッサの出力を上げながら突っ立っている紅夜に接近した
「ちょ、空」
「必殺!紅夜ガァード!!」
「うわぁぁぁ!?」
そのまま、手を握ってあのロボットに放り投げる。
紅夜は炎弾に双翼を広がせて自身に纏って盾になってくれた。流石紅夜!
「ポチ!!」
「テケリ・リ!」『御意に!』
僕の指示を受けてポチは一枚の札を取り出してそれを高く上空に飛ばした。
それに描かれた術式が展開して、ロボットとネプテューヌ達を包み込んだ。
「なによこれ!」
「僕はあっちで、君達はロボットをよろしく!それは転移魔法で場所は世界中の迷宮の近くに設定しているから!」
「おいこらぁ!!!空テメェ!!!」
親指上げてグットサインしようとしたが、また触手が伸びてきてそれを切り裂く。
コンパやアイエフは目を白黒して、パープルハートやホワイトハートが抗議の声を出すが残念、この結界って音を遮断するから聞こえないんだよねー。
そうしている間に犯罪神は、雄叫びを上げてその巨大な手で拳を作って振り下ろしてきたのを剣の腹の部分で受け止めた。
未だに炎弾の嵐を防御する紅夜は僕に向かって何か言っているが、転移魔法が発動して光と共にパープルハート達は姿を消した。
「さてと、ようやくうるさい奴らが消えた」
「テケリ・リ」『主様、少し強引ではありませんでしたか?』
「この程度、どうにかできないなら次のゲイムギョウ界に期待するよ。それよりやるよ」
ポチと僕は肩を合わせた。
心配なら、ささっとこいつを倒せばいい話だ。
「■■■■■ァァァァアア!!!!」
眼前には醜悪の姿で凶悪な圧迫感を醸し出す犯罪神。
ブラッディハードとその本質はよく似て、邪悪なる意思に自己で止めることなくそれに従い破滅を謳う災禍そのものと言ってもいい。
それにしてもなんという皮肉だ。何より憎んだブラッディハードに似た存在になるなんて思わず同情しそうになる。
しかし、慈悲はない。
お前が、はるか昔にゲイムギョウ界を総べる女神であってもそれは過去の話だ。
((奴|・))に操られている以上は、ディープハートーーーお前は被害者と言ってもいいだろうけど、それに触れて?まれた以上は選択はない。
「行くよ。ポチ!」
「テケリ・リ」『えぇ、分かりました』
お互いに獲物を犯罪神に向ける。
僕達に出来ることは、ただ安らかに君を滅することぐらいだ。
だからさ、今まで歩んできた全てをぶち込んで来い。
その軌跡と眼差しを僕は絶対に忘れないから。
「来いよ邪悪。その醜悪なる願いを木端微塵に破壊してやる!!」
「テケリ・リ!!」《さぁ、我が魔拳の乱舞に括目せよ!!》
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