真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 5
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「夢じゃねぇよ」

「へ?」

 

 北郷はそこでようやく、というか、劉備達も俺の存在を忘れていたらしい。

 

「おお、お兄ちゃんのことをすっかり忘れていたのだ!」

「おいおい……」

 

 若干、あきれるが、まぁ、仕方ない面もある。なにせ全く会話に加わってなかったのだから。

 

「そういえば、さっき名乗っている途中だったのだ」

「別にいいさ。さっき聞いたし」

「そういえばそうなのだ。で、お兄ちゃんの名前は何なのだ? あと、その外套の中にいるちっこいのも」

 

 ちっこいの、おそらく雪華のことだろう。そのことに気がついたのか、彼女は外套の中で体をこわばらせる。

 

「落ち着け、お前のことは俺が何とかする」

 

 小声でそう言って落ち着かせたあと、俺は彼女たちへ自身の名を告げた。

 

「俺の名は御剣玄輝だ。で、お前さんの言うちっこいのは雪華という」

「にゃ、なんか珍しい名前なのだ」

「だね。字がゲンキって聞いたことがないもん」

 

 まぁ、彼女たちの名前のシステムとは違うので当たり前なのだが。とりあえず修正をしとかないと後々めんどくさそうだ。

 

「いや、俺の御剣とは家の名、玄輝とは俺自身の名だ」

 

 そう説明したとき、俺と雪華以外の全員が驚いた。その中で最初に口を開いたのは関羽だった。

 

「まて、自身の名ということは、それは真名ということか?」

「真名? まぁ、それが何かはわからんが、真実の名、という意味でいえばそうなるな」

「あ、あわわ……」

 

 それを聞いて青ざめたのは劉備だった。いや、関羽も若干気まずそうな顔をしているし、張飛も“あっちゃ〜”みたいな顔をしている。

 

「ご、ごめんなさい! 私そうとは知らないで……」

「私からも謝る。どうか許してほしい」

「? なぜ謝る?」

「だ、だって、真名を……」

「よくわからんが、気にしなくていい。初対面でその真名を名乗ったこちらにも非がある」

 

 そう言うと、三人とも安心したように溜息をついた。よほど申し訳ないと思っていたのだろう。次に、北郷が話しかけてきた。

 

「な、なぁ、あんた、もしかして日本人なのか?」

「まぁな、だが、貴様のいうコスプレとやらの言葉は知らん」

「え?」

「むしろ、逆に貴様に問う。貴様は本当に日本人か? 見たところ、剣は少しかじっているようだが、その歳でその程度とはどういうことだ? すでに元服を済ませているはずだろうに……」

 

 早口に捲し立てるが、コスプレを知らないというのは嘘だ。TVで見たことはあった。だが、同じ時代の人間と思われて妙な親近感を持たれたくはない。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 元服って、あんたいつの、いや、ちょっと待ってくれ」

 

 そう言うと北郷は人差し指を頭に当てて、何かを思い出そうとしていた。そしてようやく思い出したのか、口を開く。

 

「な、なぁ、織田信長って知っているか?」

「織田信長? ああ、2年前くらいに討たれたらしいな。諸国を渡り歩いていたからよく知らん」

 

 関所とか潜り抜けるのに苦労したもんだ。

 

「って、ことは戦国時代の……?」

 

 何かに納得したような表情だが、そこには悲しみと若干の喜びが入り混じっていた。

 

「……よくは知らんが、どうやら俺たちも少し違う世界の人間のようだな」

「そう、みたいだな」

 

 互いに確認をしたところで、劉備が俺たちに話しかけてきた。

 

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「ねぇねぇ、お兄さん達。お兄さん達ってこの世界のこと、何も知らないの?」

 

 こちらへ前乗りのような格好で顔を近づけてくる劉備。だが、なぜかその瞳は何か期待しているような光が宿っていた。

 

「俺は知らん。別の世界だということは見当がついているが」

「知らない。……いや、知識としては知っているんだけど、でもその知識の元って、俺がいる時代よりも遥か昔なんだよぁ」

 

 そこまで言った北郷は、頭に浮かんできた単語をそのままポロリと出したように呟いた。

 

「……タイムスリップ?」

「……?」

 

 その言葉が聞こえたのだろう。劉備は不思議そうな表情で北郷を見ている。対し北郷はそのまま何かを考えている。

 

「……認めるしか無い、のかな?」

 

 ぼやくように口から出た言葉。その言葉は、ようやく状況を理解できたという事を明確にしていた。

 

「何をー?」

 

 劉備からの問いに、北郷はまだ少し釈然としない様子で、答える。

 

「んー……自分の立場というか状況というか。そういう非現実的なものを認めるしかないんだなって。つまりはそういうこと」

「つまり?」

「つまり……タイムスリップして、過去の世界にやってきたのかなーって」

 

 その後は、自分を納得させるかのように少し早口で言葉をつなげていく。

 

「そうだよなー。タイムスリップした人間が元の世界に戻れていないってだけで、本当はタイムスリップってあり得ることなのかもしれないし、うんうん。きっとそうに違いない」

 

 だが、そんな事を言っても、北郷だけが(俺もわかってはいるが)わかっているだけで、彼女たちにはさっぱりなわけで。

 

「お兄ちゃん、もう少し鈴々たちに分かる言葉を使って欲しいのだ」

 

 と、三人の中で最年少と思われる張飛が困った表情で訴えかけた。

 

「その、たいむすいっぷ、というのはどういう意味なのです?」

 

 関羽がそう問いかけると、北郷は少し悩みながらその問いに答えるのだが……

 

「過去の世界にやってくるってこと、というか。ううむ……何と説明すれば良いのやら」

 

 と、すでにわかりやすい説明をできそうな単語が出ているのに、どうすればいいのか悩んでいる有様だった。手助けしてやるかと思って、口を出した。

 

「要は、何らかのはずみで自分が歴史として知っている時代、つまり過去として知っている世界に来てしまうことなのであろう?」

「そ、そう! その通り!」

 

 パッと明るくなった表情は、かなりすっきりしたようで、なんとなく満足しているようにも見えた。その時だった。

 

「やっぱり……。思った通りだよ、愛紗ちゃん! 鈴々ちゃん!」

 

 劉備が目に特大の星を浮かべながら、身を乗り出してきたのは。

 

「この国のことを全然知らないし、私たちの知らない言葉を使っているし、それにそれに、何と言っても服が変!」

 

 この言葉にはさすがに北郷も納得がいかないのか、不満そうな顔をしているが、劉備はそんなことはお構いなしに話を続ける。

 

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「この人達、きっと天の御遣いだよ! この乱世の大陸を平和にするために舞い降りた、愛の天使様なんだよきっと!」

「何?」

 

 この人“達”?

 

(まさか、俺も含まれんのか!?)

 

 などと呆然としていると、会話はどんどん進んでいってしまう。

 

「管輅が言っていた天の御遣いたち。……あれはエセ占い師の戯言では?」

「うんうん。鈴々もそう思うのだ」

 

 怪訝な表情で関羽と張飛が言うが、平常時の俺ならばまったくだと思うところだが……

 

(御遣いたち? つまり複数ってことは、やっぱりさっきの人達って、俺も含まれんのか!?)

 

 ……正直、そのことがショックというか、混乱の元になっていた。

 

「でも、管輅ちゃん言ってたよ? 東方より飛来する二つの流星は、乱世を治める使者の乗物だーって」

「ふむ……確かにその占いからすると、この御二方が天の御遣いということになりますが……」

「でも、こっちのお兄ちゃんはぜーんぜん頼りなさそうだし、こっちのお兄ちゃんは貧乏そうなのだ」

「ぐっ」

 

 確かに、外套はボロボロで、あまり目立ちはしないが継ぎはぎだらけだし、中に着ている長袖の忍び装束風の着物は同じくボロい。貧乏そうに見えても仕方なくはないのだが、腑に落ちん。

 

「うむ。どちらも天の御遣いというわりには、英雄たる雰囲気があまり感じられないな」

「そうかなぁ? ……うーん、そんなことないと思うんだけどなぁ」

 

 値踏みされていることが気に食わないのか、慣れないのか、北郷は居心地が悪そうにしているが、俺も若干悪い。というか、色々とショックが……

 

 その状況を打破したのは、北郷の一言だった。

 

「あ、あのー……その、天の御遣いって一体何のこと?」

 

 まぁ、言葉の意味はなんとなく想像できるが、確かにどういったものかは俺にも分からなかった。……ショックで少し聞き逃していたという面はあるが。

 

「この乱世に平和を誘う天の使者。……自称大陸一の占い師、管輅の言葉です」

「乱世って?」

 

 その問いに答えたのは張飛だった。

 

「今の世の中のことなのだ。漢王朝が腐敗して弱い人たちからたくさん税金を取って、好き勝手しているのだ。それに、盗賊たちも一杯一杯いて、弱い人を苛めているのだ!」

 

 その話を劉備が続ける。

 

「そんな力のない人達を守ろうって立ち上がったのが私たち三人なんだよ。だけど……私たち三人の力だけじゃ何も出来なくて……」

 

 さらに関羽が続き、

 

「どうすれば良いのか、方策を考えているところで管輅と出会い……」

「その占いを信じて、鈴々たちがここに来たってすんぽーなのだ!」

 

 張飛が話を締めた。

 

「寸法ねぇ。……で、天の御遣いってのが居るはずのこの場所に」

「俺たちが居たってことか」

 

 なんともまぁ、奇妙な話だ。おそらく、小町の野郎が仕組んだことだろう。いや、正しくはその仲間だろう。そんな事を考えていると、北郷が話し始めたので、意識を会話に戻した。

 

「でも、残念ながら俺、そんな大したものじゃないよ? 魔法……というか仙術? なんて使えないし、剣は……少しは使えるかもしれないけど」

「俺も剣が使える以外は似たようなもんだ。仙術どころか、戦術すらもさっぱりだしな」

「えー……仙術使えないのかー。お兄ちゃんたちダメダメなのだ」

「うっ、ごめん」

「……悪かったな」

 

 なら、お前らは使えるのか、と言いたいのは我慢した。まぁ、ここまで言われっぱなしなので本当は言いたかったのだが。

 

 だが、劉備だけは相も変わらずキラキラした顔で話しかけてくる。

 

「それでも、あなたたちがこの国の人間じゃないっていうのは、隠しようもないはずです!」

「うん、それは確かに」

「まぁ、な」

「でしょでしょ! だから、あなたは天の御遣いってことで確定です♪」

「う、うーん……」

 

 北郷も腑に落ちないようだった。俺も、違う国の人間だからといって、天の御遣いって決めつけるのはどうかと思う。少し短絡過ぎだ。

 

 その時、盛大に何かが鳴り響いた。音源は北郷の腹からだった。

 

「あー……ごめん」

 

 三人に盛大に目を見開かれて驚かれて見られていることが恥ずかしいのか、穴があったら入りたそうな表情をしている。

 

「朝飯食ってなかったのを思い出したら、一気に腹が減っちゃってさ……」

 

 ……そういや、遅刻しそうだったと言っていたな。

 

「鈴々もお腹減ったのだー!」

 

 それに乗じてか、張飛が元気いっぱいにそんなことを言い出した。

 

「そういえば、私たちも朝ご飯、食べてなかったもんねー」

「近くの街に移動しますか」

「賛成なのだ!」

「じゃあ、そこで天の御遣い様たちにもいろいろお話を聞いて貰おう!」

「それが良いでしょう。では、善は急げ。さっそく移動しましょう」

 

 と、トントン拍子で話が進んでしまい、俺たちは街へ移動することになったのだが、まさか、あんな目に逢うことになるとは……

 

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あとがき〜のようなもの〜

 

はいどうも〜、おはこんばんにゃにゃにゃちわ、風猫です。

 

はい、え〜ようやっと御遣いと御使い、二人が絡む回となりました。

 

あ、あと、昨日の事なんですが、どうやら筆者、ウィルス性の神経痛とやらにかかったようで、今日は痛みと戦っております。マジで痛いです。なので、今回は「ごめんなさいネタ」は使わないです。

 

この世界でも痛い想いなんてしたくはない!(くわっ!

 

てなわけで、何かありましたらコメントの方よろしくお願いいたします。

 

では、また次回〜! うぐぅ! また痛みが……!

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。

大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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コメント
アルヤさん:です!w でも、ちょっとだけ展開が違うのでお楽しみに〜(期待はしないように!ココ重要)(風猫)
次回は飯屋に入ったは良いけれどお金がないよ♪ですね(アルヤ)
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オリジナルキャラクター 鬼子 真・恋姫†無双 蜀√ 

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