真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 8
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 桃園での誓いから数日、北郷のアイディアで、俺達は公孫賛がいる本拠地の街で情報収集をしていた。

 

 で、その情報収集もある程度終わったところで、俺達は酒家で昼食を摂った後、今後の話し合いを始めた。ちなみに雪華は宿で留守番だ。彼女たちには受け入れてもらえたが、他の人は分からないので、とりあえず天の御使いとして浸透するまでは、あまり表に出さない、という方針が決まっていた。

 

「今まで集めた情報を整理すると、この辺りを根城にしている盗賊の規模はだいたい五千、対して公孫賛の軍は三千人ぐらいらしい」

「二千の差か、厳しいな」

 

 俺の言葉に北郷は頷いて話を続ける。

 

「いくら相手が賊軍だからっていっても、玄輝の言ったようにこの差は大きい。そこで、最も重要になってくるのが隊を率いる隊長の質だと思うんだ」

 

 確かにそうだろう。率いる者が違うだけで戦死者は格段に減る。馬鹿が率いる部隊ほど戦場で見ていて悲しくなるものは無い。そのことを知ってか、関羽がそれに頷いた。

 

「確かに、公孫賛殿の兵と言っても、その大半は農民の次男、三男が主でしょう。つまり、兵の質は五分と五分。となればそれを率いる者が勝敗を決める、と言っても過言ではないかと」

「そういうこと。で、三人は兵を率いた経験はある?」

 

 兵を率いた経験、か。

 

「俺は無いな。前にも言ったが基本的に諸国を巡り回っていたから、どこかに従軍したことすらない」

 

 まぁ、近くを通って巻き込まれたことはあったが。

 

「鈴々も愛紗も無いのだ!」

「だよなぁ……」

 

 この口調から、ある程度は想像していたようだ。そこへ、劉備が口を開いた。

 

「でもねでもね、愛紗ちゃんや鈴々ちゃんなら兵隊さんたちを上手に率いれると思うんだ。それに、玄輝さんもやればできると思う!」

「うん、それは俺もそう思う。三人ならできるって」

 

 でも、と言葉を一度切る北郷。

 

「たとえ俺たちがそう思っていても、今の状態じゃ兵隊のいないただの腕自慢ってことで片づけられちまう」

 

 まぁ、北郷の言う通りだ。一騎当千を地でやれる人間なら話は別だろうが、人である以上、そんなことが出来る訳ない。俺とて竜を相手にした経験はあるが、結局は一対一の戦いだ。複数人を相手にするならば、賊相手ならば良くて五十、条件次第で百はいけるかもしれないが、千人は無理だ。

 

「そ、それはそうだよね……じゃあ、どうすれば良いんだろ?」

 

 劉備が悩ましげにこぼした言葉、それに元気良く答えたのは張飛だった。

 

「そんなの簡単なのだ! 公孫賛のおねーちゃんの所に行くときに兵隊さんを引連れて行けばいいのだ!」

「鈴々正解」

 

 シンプルかつ的確な答えだ。流石、と言うべきなのだろうか?

 

「少数でも兵を率いて合流する。それが最重要なんだ」

「なるほど、な。で、具体的にはどうするんだ?」

「こっちでも義勇兵を募ろうかって思っているんだけども、みんなの意見は?」

 

 そこで一番に口を開いたのは関羽だ。

 

「それは、もちろん異論はありませんが……。一体どのように集めるのです?」

「んー……。いくつか案はあるけども」

「さっすがご主人様! それでそれで? どんな案があるの?」

 

 目を輝かせて北郷へと身を乗り出す劉備。北郷はその立派な果実から頬を赤らめながら視線を逸らして案を口にする。

 

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「えっと、お金で雇うか腕相撲とかの勝負で街の腕自慢を負かして手下になってもらう、とかかな?」

 

 そこで俺は引っかかるものを感じた。

 

「金で雇うならまだしも、腕相撲はあまりいい案とは思えないが?」

「うん、俺もそう思ってる」

 

 分かっていたようだ。いらぬ世話だったか。だが、関羽は不思議そうな顔で問いかけてきた。

 

「何故です? お金の無い私たちにはその手段の方が確実で一番早い方法だと思うのですが」

 

 俺は関羽に顔を向けてその理由を話し始めた。

 

「まず、公孫賛がすでに義勇兵の募集を行っているだろ? てことは大半の腕自慢は既にそこへ行っている可能性が高い。で、もう一つの理由としては勝負という形式だ」

「そこのどこが問題なのです?」

「勝負ってのは字のごとく勝ちと負けが決まるもんだ。で、負けるってのは相手の面目を潰すという事になりかねん。しかも、女に負けたとなったら妙に誇り高い男なんかは一生立ち上がれなくなるかもしれん。そんな状況で仲間になってください、なんて言ってはいなります、なんて素直に手を取ってくれるか?」

「しかし、それならば玄輝殿がすればいいのでは?」

「まぁ、それもそうなんだが、どっちにしろ屈服させるってのは後々諍いの種になりやすいんだよ」

 

 そこまで言うと関羽は納得し、劉備も“そう言われればそうだよね……”と納得してくれた。となると、残る手段は一つとなる、のだが。

 

「でも、その手が使えないなら、お金しか無くなるよね」

「にゃぁー、でも鈴々達にはお金はないのだ」

 

 そう。ここに来るまでにも当然出費はあったワケで、今の俺達はあまりお金を持っていない。だが、その言葉を否定したのは北郷だった。

 

「確かに兵隊として雇うだけのお金は無いけど、そこまで必要じゃないよ」

 

 怪訝な顔をしながら関羽が問いかける。

 

「どういうことです?」

「要は兵隊のフリをしてもらえばいいのさ。公孫賛さんに会うまでの間、ね」

「……あ〜、そういうことか」

 

 顔に似合わずなかなかあくどいこと考えるな、こいつ。まぁ、それは別の見方をすれば頼もしい一面でもあるのだが。しかし、どうにも劉備と張飛はまったく理解できて無いようで、難しそうに顔をしかめている。

 

 それを見た北郷は苦笑しながら説明をする。

 

「つまり、公孫賛さんの城に行くまで兵隊っぽい恰好をしてもらって付いてきてもらうんだよ。そうすりゃ門番とかから公孫賛さんに俺達が兵を率いてやってきた、って伝わるだろ?」

「……なるほど」

 

 関羽はさっきから薄々感づいていたようだが、北郷の説明を聞いて完全に理解したようだった。

 

「俺の意図、分かってもらえた?」

「はい。……ご主人様もお人が悪い」

「でも、時には知恵を絞って自分を大きく見せようとすることも必要だろ? 特に今回みたいな時にはさ」

「ふふっ、確かにそうですね。ご主人様の機略には素直に感服いたしました」

 

 なんて会話をしていると、焦れたように二人がそこへ割り込んでくる。

 

「もぉ! 二人で話してないで、私にもご主人様の意図っていうの教えてよー!」

「そうなのだ! 鈴々にも教えるのだ!」

「お、お前ら、今の聞いて分からんのか?」

 

 さっきの的確な答えを言った張飛はどこへいったんだ? てか、劉備は分かっていなくてはいけない立場の人間じゃないのか? おい。

 

「ぜーんぜん」

「右に同じく、なのだ!」

「……少しは理解する努力をしろや」

 

 はぁ、と盛大なため息をついて、俺は彼女たちに説明を始める。

 

「いいか? 町で半日だけなり、一日だけなりで人を雇って兵隊の格好をしてもらう。その状態で城に一緒について来てもらえれば、傍から見れば兵を率いているように見えるだろ? で、それを見た人はその先頭に立つ人をどう見る?」

 

「………………………あぁ! なるほど!」

「お兄ちゃんもなかなかやるのだ!」

 

 どうやら理解したようだ。俺は目配せで北郷に話の続きを促した。

 

「で、みんなが理解してくれたところでみんなの所持金を確認したいんだけど……」

 

 俺は肩を少し大げさにすくめることで持ってない事をアピールする。それを確認した北郷は劉備へと視線を向ける。

 

「私たちのお金は愛紗ちゃんが全部管理しているの。愛紗ちゃん、今どのくらいある?」

「そうですね……」

 

 劉備に言われ、関羽は財布を取り出して中身を確認し始める。

 

「ここの食事代を支払えば……これだけ、ですね」

 

 そこから出てきたのは、二、三枚の硬貨だった。

 

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「あー……」

 

 この前、商隊を襲っていた賊を追っ払った時に貰った金もここまでになってたか。ちらりと北郷を見れば、彼も何とも言えない、苦笑のような顔でそれを見ていた。

 

「まさか、ここまでとは思わなかったなぁ」

 

 北郷ですら予想外だったか。その一言を申し訳なさそうに聞いていた関羽は同じような口調で話し始める。

 

「まぁ、約二名、大飯食らいがいますからね。どうしても……」

「……すまない」

 

 約二名の内の一名は雪華だ。前の世界では用心棒やらなんやらで結構金を稼げていたので、あまり気にしていなかったが、確かに彼女はかなりの量を食べる。その量はもう一人に負けず劣らずだ。

 

「うぐっ、鈴々も入っているっぽいのだ……でも、それは仕方のないことのだ!」

 

で、もう一人は少し気まずそうにしたが、すぐに開き直る。それを助長させたのは劉備だ。

 

「二人とも、育ち盛りだもんね。仕方ないよ」

 

 その一言で済ませてしまうあたり、彼女の器の大きさが見え隠れ、しているようにも見えなくもないような気がしないでもない。

 

「お姉ちゃんのいう通りなのだ♪」

 

 で、案の定、張飛は調子のいいことを言い始める。確かに、仕方ない面はあるように思うが、それでも食べすぎだと思う。が、それを口に出す前に関羽が北郷に申し訳なさそうに詫びていた。

 

「別にいいよ。ここまで悪びれなく言われるとつい許しちゃおうって気になるし」

「本当に、甘やかしてしまって、面目ありません……」

「だから別にいいってば。でも、だとしたらどうしたもんかな……」

 

 と、北郷は自身がこっちへ来るときに持ってきていたバッグの中を漁りはじめる。

 

「おっ、これならいい値段で売れるかも?」

 

 そう言ってカバンから取り出した物を見て、劉備が不思議そうな声を上げた。

 

「なに? そのほそっこい棒」

「これはボールペンっていって、俺の世界の筆記用具だよ。今の時代って、何か文章を書く時って、墨を磨って、筆で書くんだよね?」

「当然なのだ!」

 

 まぁ、戦国時代の時でも同じだったのだからそうだろうな。

 

「だよな。でも、俺の世界だと、こういった道具を使って書くんだ。ほら、こうすると……」

 

 カバンから出したノートに適当な文字を書いていく。その光景を三人とも興味津々といった様子で食い入るように見つめている。

 

「すっごぉーい! 文字が書けてるよ!」

「なんと……さすが天の世界。摩訶不思議な物があるのですね」

「スゴイのだ! ねね、鈴々にそれちょぉーだい!」

 

 まるで獲物へ飛びかかる肉食獣のよう、いや、どちらかと言えば猫じゃらしに飛びつく猫のようにボールペンへと飛びかかる張飛からそれを守りながら北郷は話を続ける。

 

「で、これを、っと! 実演しながら売れば、ほっ! 結構な値段で売れると思うんだけ、どっ!」

 

 とりあえず、俺は張飛を羽交い絞めにして抑える。いくらあの張飛と言えども、体格的にはまだ子供。こうやって抑えられては……どうしようもなくはないだろうが、動きづらくなるのは間違いない。

 

 で、その間に北郷は劉備と関羽に意見を求めた。

 

「はい。これほどの逸品ならば良い値段をつける好事家も居るでしょう」

「じゃあ、私が売ってきてあげる!」

 

 と、ボールペンへ手を伸ばす劉備だが、その手を止めたのは関羽だ。

 

「いえ、桃香様がいけば足元を見られるでしょう。私が行きます」

 

 まぁ、妥当な判断だ。張飛は論外だし、北郷もこの世界の貨幣については分からないだろうし、それは俺も同じだ。となれば関羽しかなくなる。

 

「えー……ぶーぶー」

「はぁ、じゃあ俺相手にこのボールペンを売ってみな。それでみんなが納得したら売りに行けばいい」

「ホント!?」

 

 目を輝かせるが、まぁ、結果は見えている。

 

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「じゃあね、えっと、ここに取り出したるは天の摩訶不思議な筆“ぼぅるぺん”です! なんと、墨を磨らなくても文字が書けちゃうんです!」

 

 で、空中に何かを書くような動作をしたかと思うと、その書いたであろう透明な紙をこちらに突き付けてくる。

 

「すごいでしょ! さぁ! これを欲しい人はお手上げ!」

 

 と、彼女の実演販売は終わったのだが……。

 

「…………」

 

 内容は、悪くないんだがなぁ。雰囲気が……。

 

「……えーと、皆はどうだった?」

 

 とりあえず、皆に意見を聞いてみる。まぁ、予想はついているんだが。

 

「……うーん、何とも言えないのだ」

「いやぁ、ごめん」

「……やはり、私が売ってきた方がいいようですね」

「うわぁーん! みんなのいじわるぅ!」

 

 酒家に劉備の叫びが響き渡るが、それに同情する人は、誰も居なかった。そう、誰も……。

 

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あとがき〜のようなもの〜

 

どうも、おはこんばんにゃにゃにゃちわ、風猫です。

 

いよいよ黄巾編に突入です! 普通な御人とか、かちょ、じゃなかった、メンマなあの人が出てくるまでもうすぐですよ〜!

 

では、何かありましたらコメントの方をよろしくお願いいたします。

 

また次回〜

 

 

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。

大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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コメント
ツナまんさん:ご心配ありがとうございます! 薬を飲んでだいぶ楽にはなりましたけど、それでも違和感やたまに痛みますね〜 まぁ、パソコンの作業程度なら大丈夫、かな、ぐらいですw(風猫)
わーい次回は普通の人ですね!!ところで体調はもう大丈夫ですか?次回もがんばってください(ツナまん)
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鬼子 オリジナルキャラクター 真・恋姫†無双 蜀√ 

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