IS インフィニット・ストラトス BREAKERS 第十一話 スライドチェンジ
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生徒会室を後にした俺は、一夏達が訓練しているという第三アリーナに足を運ぶことにした。

 

「どうする、氷華も来るか?」

 

俺は傍らを歩く紺髪の女の子――氷華に話しかける。

 

氷華は紺色の髪を首もとで結っており、まとめた髪を前に垂らしている。その艶がかった紺髪は美しいという言葉以外に出てこない。

 

体形も決して貧相ではなく、出るところは出ている。そんな印象を受ける。

 

「……そうですね。訓練自体には参加しませんが少し見学させてもらおうと思います」

 

氷華は少しだけ考えるそぶりを見せた後、そう答えた。

 

「わかった。……それと一つ言っておくけど、一夏のISは知っているよな?」

 

「ええ。まさか私と同系統≠フISだったとは驚きです。」

 

やはり、これには氷華も驚いていたようだ。そう、氷華のISはあの白式と同じ系統なのだ。性質は全く違うが。

 

俺が模擬戦時に一夏のISを見て驚愕していたのはこのためだった。

 

――まさか、妹のISの色違いを目の当たりにするなんてな。まあ、氷華のISについてはそのうち目にする機会があるだろうから、ここでは説明はしない。

 

「まあ、想定されている戦闘レンジが正反対だからな。俺は全く別の機体と考えていいんじゃないかとは思う」

 

氷華はそれにこくりと頷く。まあ、氷華には言うまでもなかったかな。ともあれ、いつまでも話していては埒が明かないので先を急ぐことにする。

 

そして、第三アリーナに到着。

 

この第三アリーナは他のアリーナと比べて一番広く、それゆえ利用者もなかなかに多い。それに、今回は一夏、それとたぶん取り巻きと化している箒とセシリアもいることだろうから、いつもよりさらに人が多い。

 

だけど、観客席にいる分はまだマシだが、問題は少しでもいいところを見せようとしているのか、訓練機を借りて、無理な機動訓練等をしている輩だ。しかも、無茶な動きをしているため真剣にやっている子たちの邪魔にもなっている。IS操縦を行うこと自体は悪くないんだけど……。これは今度織斑先生あたりに相談しておくか。

 

そう思い、歩を進めているとピットに到着。すると、丁度ピットの近くでこれから訓練しようとしていた一夏がこちらに気付き、声をかけてくる。

 

「お、紅牙!こっちだ、こっち。来てくれたんだな。それと、えーと氷華さん?」

 

「氷華で大丈夫ですよ、織斑君。」

 

「調子はどうかと思って見に来たんだけど、これから訓練か?」

 

俺がそう尋ねると、一夏はバツが悪い表情をし、

 

「いや、それがな?箒とセシリアが喧嘩しちまって、勝負し始めたから、どうしたもんかと」

 

「喧嘩?……ああ、なるほど。お前も大変だな。いや、一般男性から見れば羨ましい状態なのか?」

 

喧嘩の理由を察し、納得する。――ああ、俺は別に羨ましくとも何ともない。確かにあの二人は美人だ。あれだけ可愛い子に迫られたら、俺も動揺し反応してしまうだろう。俺も男だ。そこは否定しない。でも、心までは揺り動かすことはしない。俺にはもう自分の心の中に居座っている人がいるからな。当分……いや永遠に退いてはくれなさそうだ。

 

「何を言っているのかはわからないが、まあいいや。ということで相手がいないんだ。ちょっと付き合ってくれないか」

 

ああ、そういえばこいつはこういうやつだったな。ここまで天然だと大変なんだろうな。女子たちが。決して一夏が、ではない。

 

「そうだな。ちょうど体を動かしたいと思っていたところだし」

 

俺は一夏の誘いを了承し、着替えずにそのままピットから広場に出る。

 

「それじゃ、氷華はそこで見学な。よし、一夏。軽く模擬戦でもするか?」

 

「おう、頼む。どこが悪いのか指摘してくれると助かる」

 

一夏はそう言うと、俺と距離を取った。周りの生徒たちも気が付いたのか試合を観戦しようとISを解除し、ピットに移動する。箒とセシリアも移動したのだが、何かもの言いたげな顔をしていた。

 

いや、言いたいことは分かるけど、指導相手を放置して自分たちで勝負を始めた時点でそちらに言い分は無い。なので、気にしないことにした。

 

「零、 準備はいいな」

 

『はい、マスター。こっちはいつでも大丈夫ですよ』

 

零の返答を聞き、ISを起動させる。

 

すると、一瞬のうちに俺の全身が光の粒子に包まれ、次の瞬間にはIS「ミスティック・クラッド」の青白い装甲が俺を包んでいた。

 

そして、背中のスラスター部分にセットされている左右四枚、計八枚のマシンウイングがそれぞれ開かれる。

 

「前も見たけど、やっぱり紅牙のISはきれいだな」

 

一夏が少し呆然としながら呟く。

 

「素直に受け取っておくよ。さて、そろそろ始めよう」

 

「おうさ」

 

一夏が雪片弐型を構える。当たり前だが零落白夜はまだ起動していない。

 

空中の投影ディスプレイにカウントダウンが表示される。氷華がやってくれたのかな。ありがとう。

 

――3――2――1――。

 

――0!

 

「はああっ!!」

 

カウントがゼロになると同時にスラスターを全開にして斬りかかってくる一夏。

 

さすが、束さんが手がけただけあって、機動性は申し分ない。それどころか、速すぎないか?と思ってしまうレベル。

 

だけど――。

 

「ふっ!」

 

俺はギリギリまで振るわれた雪片弐型を引き付けて、身を滑り込ませる要領でスッと半身移動し一夏のIS「白式」の背中に回り込む。

 

直線的な機動ではせっかくの機体性能を殺してしまうぞ、一夏。

 

「なあっ!?」

 

一夏が驚きの声を上げる。それもそうだろう。今のは攻撃が当たる直前になめらかにかつ滑るように移動するのだ。相手から見たら一瞬で消えたように見えるのだ。

 

この機動制御をスライドチェンジ≠ニいう。

 

高度な機体制御と絶妙なマニュアルPIC操作が必要になり、なおかつハイパーセンサーでのミリ単位での距離計算とタイミングを必要とする、高難度の機動制御術の一つだ。

 

ともあれ、空振りをし、体勢を崩している一夏に背後から強烈な蹴りを入れる。

 

ガゴンッ!

 

装甲が軋む音が少し鳴ったが、蹴りでは大したダメージにはならない。

 

蹴り飛ばされた一夏は何とか体制を立て直し、再び斬りかかるため、スラスターから推進剤を吹かせる。

 

俺も打ち合うために、右手にミスティックセイバーを展開。そして相手視点の格闘戦は大変参考になるため、零に俺目線で録画をするように準備をさせておく。

 

――できれば、瞬時加速まで覚えさせてやりたいが、まだ無理か?

 

瞬時加速。ISのスラスターからエネルギーを放出し、それを一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーを利用して爆発的に加速する。

 

当然だが、エネルギー量にも比例しているので、使用するエネルギーによっては文字通り瞬時加速≠ェ可能だろう。

 

「そらっ!」

 

俺は一度思考を中断し、一夏の攻撃に合わせてミスティックセイバーを振るう。

 

幾度か打ち合う。その度に小気味のいい金属音とまるで小さな花火かのような火花が散らされる。

 

一夏がその得物を縦に振るえば、それを振り下ろし切る前に横一文字の斬撃を入れる。

 

大事なのは相手の呼吸≠乱すように斬撃を入れること。相手の攻撃を消化不良にさせること。それを行うにはかなりの訓練を必要とするが。

 

「ぐっ、くそ!」

 

一夏が苦悶の声を漏らす。攻撃を防がれるだけではなく、うまく振り切らせてもらえないのだから、ストレスもたまっていくだろう。

 

「一夏。戦いはいつも正々堂々じゃない。一夏には良くも悪くも直情的なところがあるからね。まずは技巧に慣れてもらうよ」

 

ミスティックセイバーの鍔に装着されているマガジンをリロード。カートリッジが装填される。

 

瞬間、刀身が桜色のエネルギーに包まれる。

 

それを見た一夏が、

 

「!!――エネルギーなら!」

 

そう言い、ミスティックセイバーのエネルギーを掻き消そうと、零落白夜を発動させる。

 

だけど、これは囮だ。

 

「本命は――こっちだ」

 

すっかりエネルギーを消すために零落白夜を発動させた雪片弐型で振りかぶろうとしている一夏。その隙だらけになった胴体を空いている手に展開したアサルトライフルで零距離射撃。

 

「ぐううっ!?」

 

そのまま、連続射撃を行い、追撃をかける。

 

俺はエネルギーを解除≠オたミスティックセイバーで横に薙ぎ払い、そのままの勢いで一回転。もう一度横に薙ぎ払う。

 

だが、一夏もただではやられない。一撃目はもらってしまったが、二撃目は雪片弐型で防ぐ。

 

お、しっかりと零落白夜は解除しているじゃないか。そう、それでいい。常に発動し続けていたら、あっという間にシールドエネルギーなんて無くなるからね。

 

「零、 連撃パターンBにシフト。ナイフとセムテックスの準備よろしく」

『了解しました』

 

そして俺は左手のアサルトライフルを構えながら一夏に迫る。

 

「そう、何度も!!」

 

姿勢制御に何とか成功した一夏は下段の袈裟切りを放つ。

 

それをもう一度スライドチェンジで後ろに回り込む。

 

すると、読んでいたのか、一夏は振り向く勢いを利用して回転斬りを叩き込む。

 

もう反応してくるのか。相変わらず一夏の本番の強さは凄まじいな。

 

だけど、悪いがスライドチェンジは連続で使えるんだ。

 

俺はその斬撃をもう一度、スライドチェンジ。先ほどの位置に戻る。

 

さすがにこれは予想していなかったのか、思い切り雪片弐型を振りぬいてしまっている一夏。

 

ここで決めるかな。

 

俺はまずミスティックセイバーで袈裟切り。続いてアサルトライフルを零距離射撃。そして、ライフルを収納。ミスティックセイバーで薙ぎ払いつつ、空いた手にはシュナイダーナイフを展開。それを一夏に突き立てながらスラスターを吹かし、地面に衝突させる。

 

そこで、置き土産としてセムテックスを数個ほど接着させる。そして、ナイフを回収しそのまま急上昇。

 

刹那、地面では爆発が起きる。

 

「試合終了。勝者、黒咲紅牙」

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時刻は変わって夜。俺は自室へと戻るため寮の廊下を歩いていた。この時間ともなると人通りは少なくなり、廊下は閑散としていた。

 

放課後に一夏と軽く模擬戦をしたが、あの後一夏からやりすぎだと言われてしまった。

 

少しでも自分よりも格上の相手と戦う時、恐怖せずにいいように先に味わってもらったんだが、逆効果だったかな。

 

まあ、ともあれ一夏の学習能力は半端ない。あの後、瞬時加速について教えたところ、数回の練習で成功率七割を叩きだしてしまった。

 

やはり、そういうところは姉弟だなと思う。零が録画した格闘戦の映像も熱心に見ていたし。

 

ちなみに、箒とセシリアから睨まれたから、後の訓練を任せたら大いに喜ばれた。

 

何気なく今日あった出来事を思い出していると自室に到着。何気なしに扉を開けると、廊下の向こう側から、

 

「ぐすっ……」

 

涙目の凰が俺の隣を走って行った。

 

「……なんだ?」

 

事情が分からない俺はとりあえず放置することにした。

 

「まあ、見ず知らずの俺が声をかけてもあの状態じゃ迷惑かな」

 

なんか泣いていたみたいだけど、簡単に他人に涙は見せたくないだろう。

 

「何しているの?」

 

俺が扉の前で突っ立っているのが変だったのか、先に自室に戻っていた刀奈が声をかける。

 

「いや、何でもないよ」

 

「そう。なら、紅牙はご飯まだよね?一緒に食べに行きましょう♪」

 

といって、俺の腕に抱き付き、そのまま食堂に行こうとする。

 

こうして、折角自室まで帰ってきた道をまた戻ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「刀奈。また胸が大きくなった?」

 

「う……///は、恥ずかしいこと言わないでよ……。あ、あなたが、激しく揉むからでしょっ///」

 

 

 

 

 

説明
IS インフィニット・ストラトス BREAKERS 第十一話 スライドチェンジ


第八話を少し修正、設定変更しましたことを更新情報としてここに記しておきます。
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コメント
最初は私もr-18を書けるのか不安でしたが、意外と何とかなりますよ。一応ハーメルン様に私が書いたやつがあrます。ここと同じ作者名ですので、もしよろしければ(竜羽)
竜羽さん→コメントありがとうございます。r-18ですか。一応この小説では、r-18は書かない予定でしたが、ううむ。どうしようかな。自分の文章力でうまくかけるかどうか(^_^;)(raludo)
・・・最後のシーン、r-18として書いていただけないでしょうか?(竜羽)
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楯無 BREAKERS インフィニット・ストラトス IS 

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