真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 11 |
〜敵、眼前〜
「さて、と」
俺は体の調子を再確認する。馬からはとっくに降りて、地に足を付けている。やはり、馬の上で戦うよりもこちらの方が安定する。
懐の暗器の数の再確認、切り札その二の確認をする。
(暗器は計八十、切り札の位置は、問題ないな)
体の方も、いい感じで緊張しているので、問題ない。後は、戦いが始まるのを待つだけだ。と、そこへ関羽がやってきた。
「玄輝殿」
「関羽? どうしたんだ?」
「いえ、その、本当にやるのですか?」
彼女は心配そうな顔でこちらを見ている。まぁ、これからやろうとしていることを考えたら、分からなくもないが。
「何とかなるさ。訓練された兵隊が相手じゃ厳しいかもしれんが、賊ならばいける」
「ですが、やはり無理なのでは? 一人で左翼の遊撃をするなんて……」
そう、俺がさっき関羽に頼んだのは、これだ。単独遊撃、今回の戦いで関羽と張飛は戦訓として三体一で当たるようにしろ、と指示するつもりでいるのは出陣前に小耳にはさんでいた。確かに、普通に戦えば負けることはないだろうが、それでも、乱戦となればいつ三人のフォーメーションが崩れるかわからない。だからこそ、俺は単独で遊撃することを申請したのだ。
フォーメーションが崩れた味方を支援しながら動き回るのはある意味一対多数と同じだ。条件は少々厳しいが、慣れぬ多数対多数の戦いをするよりは、マシだ。
「…………」
だが、関羽は納得してないようだ。
「……やはり、危険です。こんなところであなたを失うわけにはいかない」
「おいおい、俺が賊相手に負けると思うのか?」
「そうは思いませんが……」
まぁ、無茶な事を言っているのは自覚しているし、負担になるという事も分かっている。だが、
「……悪いな。やはり誰かと共に戦うってのは、難しいんだよ。今は」
「…………」
それを聞いた上で何かを言おうとした関羽の後ろに回って強引に話題を変える。
「そろそろ北郷のとこに行きな。出陣前の戦訓やらなんやら言わなきゃならんだろ?」
「げ、玄輝殿!」
「じゃ、後でな」
で、適当な兵に頼んで北郷たちがいる場所へ強引に送ってしまう。
「なっ! げ、玄輝殿!」
その姿が人に紛れて見えなくなったのを確認して、俺は刀を抜き放つ。そこに浮かび上がっている波のような文様を眺め、精神を集中させる。
「フゥー……」
一度目を閉じて、再び開くと、刀を鞘へ戻した。それとほぼ同時に、
「聞けぃ! 劉備隊の兵どもよ! 敵は組織化もされていない雑兵どもだ! 気負うな! されども慢心はするな!」
関羽の声が辺りに響き渡る。もうすぐ、戦いが始まる。心臓が、だんだんとその鼓動を速めていく。俺は再度、体を動かして最終確認をする。
「……フッ!」
その一息で、全ては整った。
「賊、突出してきます!」
緊張は一気に高まり、
「全軍、突撃ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!
」
その一声で、一気に爆発した。
〜戦場:初陣〜
ぶつかり合った瞬間、絶叫が響き渡る。
「がぁ!?」
「ごぇ」
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
それは敵の声か味方の声か。その判別なんてできるはずもなく。
「セイッ!」
「かっ……」
目の前の、敵の声しか判別できない。
「うらぁああああああ!」
「!」
切った直後に左側から来る敵を鞘の一撃で絶命させると、右側から来ていた敵を刀で貫き、動かなくなったその体を蹴っ飛ばして刀を抜く。
(ちっ! 血振りする暇すらねぇ!)
一応、そうしなくても切れるが、これが積み重なれば血で手が滑ることもあり得る。そうなってからでは遅い!
「くたばりゃあぁあああああああ!」
「るせぇ!」
襲い掛かってきた賊の鳩尾を鞘で的確に貫く。賊は呼吸が止まり、思わずその場でうずくまる。その首を思いっきり踏み抜いて叩き折る。その瞬間、周りの賊がビビッて後ずさりをした。
その瞬間に血振りをして、刀を鞘に納める。
「……この乱戦だと、こいつじゃ無理だな」
俺は腰に差しておいた、切り札その二を左右から抜いた。
それは、十手。だが、普通の十手ではない。大きさは60pほど、指を隠すほどの鍔、いや、ナックルガードが付いており、そのすぐ上には同じく鉄製の鉤が付いている。だが、先端は違う。まるで釘のように尖らせているのだ。「釘十手」それが、これの名だ。
「う、うぉおおおおおおお!」
恐怖を大声で誤魔化しながら一人の賊が襲い掛かってくる。その賊の懐に入り込むと、心臓めがけて右の釘十手を突き出す。皮を破り、肉を切り開き、その先端は確実に心臓を貫いた。
「ご、ふっ……」
血を吐いたのを確認して、俺は十手を抜く。すると、まるで操り人形のようにパタリと倒れてしまう。
「う、うぁああああああああ!!!」
それを見た賊の何人かがその場から逃げ去る。と、その方向に倒れた兵がいるのに気が付いた。
「クッ!」
倒れた兵へ止めを刺そうとしていた賊へ一気に近づいて、一息と共にその首を叩き折り、すぐさま他の兵の援護へと向かう。
(ちぃ! 思った以上に賊がやりやがる!)
さすがに人殺しに慣れているだけはあると思いながらも、その足は止めず、前から来た賊を叩き伏せる。その視界の左隅に、三人組の一人がやられた組が目に入る。
「くそったれ!」
すぐに懐の暗器を幾つか抜き、流れるように敵へ投げつける。それはその周囲にいた敵の頭部といった急所に当たり、命を奪っていく。
だが、この乱戦において気の休まる時などない。すぐに賊が四人、しかも前後から襲ってきている。仕方なく両手の釘十手を逆手に持ち替えながら、後方に飛び退き、驚いている敵の心臓の辺りを右の十手で貫く。手ごたえを感じた俺は右脇の暗器を後方左側の敵へと投げつけ絶命させると、前方から来る敵の対処へ移る。後方へ投げつけた時、余分に持っていた暗器を前方の一人に心臓に直撃させ、敵から抜いた十手の柄尻でもう一人の眉間を殴り、怯ませた後で少し右に回り込みながら後頭部を打ち砕いた。
そのまま前のめりになって倒れる敵を捨て置き、辺りを見渡して、孤立している兵へ近寄る。
「おい!」
「ひっ!」
思わず振られた剣を防いでその顔に頭突きを叩きこむ。
「しっかりしろ! 俺の左後ろに一人やられた組がいる。死にたくなければそこへ向かって全力で走れ!」
「は、はっ!」
指示された兵はすぐにその方向へ向かって走り出す。その周辺の敵を暗器でできる限り排除し、別の兵の援護に向かおうとした時だった。
「玄輝殿!」
後ろから関羽の声がした。振り返ると、剣を振り上げて今にも襲い掛かりそうだった男が、関羽の一撃で絶命した瞬間だった。
「御無事か!?」
「すまない! 助かった!」
すぐに背中合わせになって周囲を警戒する。
「戦況は!?」
「私たちが遅れをとるとでも?」
「……愚問だったか」
「ええ。まったくです」
その言葉は今まで聞いた言葉の中で一番頼もしく聞こえた。
「う、うわぁああああああ!」
どこからから、一人の賊が大声を出しながら戦線を離れようとすると、まるで芋蔓のように他の賊も慌てて逃げ出していく。
「よし! 敵は総崩れだ! 今こそ我らの力を見せつける時ぞ!」
「おおー!」
周辺の兵は関羽の言葉に励まされ、兵たちは追撃に入っていく。
「我々も!」
「ああ!」
共に戦場を駆け、その先頭に立つと、中央と右翼の軍が呼応するように追撃に入っているのが見えた。
「愛紗! 玄兄ちゃん!」
後ろから張飛がやってきた。怪我とかはしてないようだ。
「鈴々! 無事か?」
「あったりまえなのだ! それよりも」
「ああ! このまま息の根を止めてくれようぞ!」
三人で賊を吹き飛ばしていく。にしても、まじかで見ると、この二人の実力を改めて実感する。張飛は自分よりも大きい蛇矛を手足のように自在に操り、関羽は一閃で3人を切り捨てたかと思えば、反対側の敵を柄で吹き飛ばす。その動きはまるで流水のように滑らかだが、激流のように激しくもあった。
(負けてられん、か!)
そう思いながら順手に持ち替えた右の十手のナックルガードで剣を殴り飛ばして、そのまま右へ向けて振りぬき、賊の首をくの時に曲げながら吹っ飛ばす。
そうして、気が付いた時には戦いは終わっていた。公孫賛軍の完全なる勝利をもって。
〜帰路〜
劉備達と合流した俺達はそのまま公孫賛たちと合流した。
「いやぁ〜、完全なる勝利だな! 良かった良かったぁ〜」
「やったね♪ さすが白蓮ちゃん!」
「いや、この勝利は桃香たちの力があってこそだよ。ありがとう」
「えへへ、そう言ってもらえると頑張った甲斐があったよ♪」
なんとまぁ、お気楽な会話だろうか。いくら戦いが終わったからと言って気が抜けすぎなんじゃないかと思っていると、趙雲が真剣な顔でそこへ入り込んでいった。
「勝利に酔っているところ悪いが、伯珪殿。最近、何やらおかしな雰囲気を感じないか?」
「おかしな雰囲気……? どうだろう。私は、特にそういったのは感じた事はないが……」
「白蓮ちゃん、のんびりだねぇ〜」
「むぅ……。確かにのんびりしているかもしれないが、桃香に言われるのは、なんだか無性に腹が立つ」
……お前が言うな。と思わず言いそうになったが、その前に公孫賛が同じような事を言ったので口を噤んだ。
「あ〜! ひっどぉい! 私は白蓮ちゃんみたいにのんびりなんかしてないもん!」
「いや、それは無理があると思うぞ? 色々と」
なんてことを俺が言うと、その場にいた全員が小さな笑い声を漏らしていた。
「ぶー! 玄輝さんまでそんなこと言うなんて、みんなひどーい!」
「でも、事実なのだ」
プゥーと頬を膨らませながら抗議する劉備が張飛にそのことでからかわれながら、可愛らしく騒ぐ。その様子を微笑ましく見ていた関羽だが、その顔がスッと引き締まる。
「しかし、星のいう事も尤もです。最近、特に匪賊共の動きが活発化しているように感じます」
「お主もそう思うか?」
「ああ。ここしばらくで匪賊は明らかに増加している。そいつらが村を襲い、人を殺し、その財を奪う。別の地方ではそのせいですでに飢饉の兆候が出ているとも聞く」
「収穫した作物を片っ端から奪われればそうなるのも無理ない、か……」
「うむ。それ以外にも国境周辺で五胡の影もちらついていると聞く。……何かが起きる前触れとしか思えん」
「大きな動乱に、繋がるかもしれんな……」
大きな動乱、か。戦国の世のようになる、という事だろうか。
「……いや、きっとそうなってしまうだろうね」
北郷はそう言い切ってしまう。おそらく彼はこの先の展開を知っているのだろう。俺もそこまで詳しくはないが、三国志がどういった物語なのかは知っている。
「だろう、な」
あれは、言ってしまえば戦争の話だ。となれば、この先、物語になってしまうほどの大きな戦、国盗り合戦が始まる。
「お二人とも、そうお考えで?」
「ああ。ただ、問題は匪賊ってやつだけに終わらない」
「いつか、暴政に対しての爆発が起きる日が来ると思う」
そういった北郷は、その顔を険しくして言葉を続ける。
「その動乱の中で、俺達はどうやって動いていくのか。それが今考えるべき問題だと思うんだ」
「そう、ですね。その通りです」
そう呟くと関羽は空を見上げる。俺も同じように見上げてみると、そこには雲一つない青空が広がっていた。
(たく、空は青いってのにな)
これから、その乱世に巻き込まれていくであろう俺達の前にあるのは、その空とは真逆の物なんじゃないかと、いつの間にか考えていた。
あとがき〜のようなもの〜
はいどうも〜おはこんばんにゃにゃにゃちわ、風猫です。
初陣編、どうだったでしょうか? 自分的には若干あっさりしているかなと思うのですが…… 意見をもらえるとうれしいです。
では、何かありましたらコメントの方に!
次回はいよいよ、初の拠点、もとい、休息編です!
説明 | ||
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話 真・恋姫†無双の蜀√のお話です。 オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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