真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 13 |
大勝利の初陣から俺達は城の部屋を与えられて、公孫賛に請われるまま彼女の下で留まっていた。
その間も盗賊との戦いは続き、いまや関羽、張飛、そして俺の武名を知らぬものは殆どいないと言われるほど活躍をしていた。
だが、そういった活躍をしているからこそ、大陸の様子の変化に敏感になっていた。今、この大陸は病んでいる。匪賊の横行、それによる大飢饉。そして、止めと言わんばかりに猛威を振るう疫病。
このままでは、いつしか爆発してしまうだろうと、そう感じている時だった。
ついに、地方の太守の暴政に耐えかねた民が民間宗教の教主に率いられて武装蜂起を起こした。その事態は官軍によってすぐに終わると思われていたが、そうはいかなかった。なんと、鎮圧に向かったはずの官軍が全滅してしまったのだ。それを皮切りに暴徒たちは周辺の街へと侵攻を始めてしまう。
そして、さながら餌に群がる蟻のようにあっという間に大陸の三分の一が乗っ取られてしまう。これが、動乱の時代の始まりだった。
「ごめん、遅くなった」
侍女に連れられて最後の一人、北郷が公孫賛に謝りながら玉座の間にやった来た。
「いや、休んでいたところを呼び出したんだ気にしないでくれ」
「わかった。それにしても、みんな揃って、何かあったの?」
その問いに公孫賛は席に座るよう促してから答えた。
「北郷もこの城に朝廷からの使者が来たのは知っているだろ?」
「ああ。黄巾党を討伐しろって命令を伝えに来たんだよな?」
「そうだ。私は既に参戦することは決めている。だが、お前たちはどうするんだ?」
そこで劉備が口を開いた。
「白蓮ちゃんが、これは私たちにとって好機じゃないかって」
「好機? どういうこと?」
「俺達の独立の好機ってことだよ」
いまいち分かってない様子の北郷に公孫賛が説明を始めた。
「黄巾党鎮圧で手柄を立てることが出来れば、朝廷より恩賞を賜ることになるはずだ。桃香たちがその気になれば、必ずそれなりの地位になるはずだ。そうなれば、より多くの人たちを守ることが出来るだろ?」
そこで、公孫賛は少し気弱な顔になってしまう。いや、どちらかと言えば悔しそうかもしれない。
「残念ながら、今の私はそれほど強いわけじゃない。そりゃ、もちろんもっと力を付けて、この動乱を収めたいとは思っているが、今すぐには無理だ。そんな私に桃香たちを付き合せるわけにはいかない。時は金よりも貴重なんだから」
まぁ、それも本心と言えば本心だろう。だが、それ以外の本心も見え隠れしているように見える。
(まっ、本人が一番そのことで悩んでいそうではあるが)
人が良い公孫賛の事だ。もしかしたら本当に俺達を想って送り出そうとしている可能性も否定できない。
「……そうだよな。俺達もそろそろ、自分の力で立つべきなんだよな」
北郷もどうやら思うところがあったようだ。
「俺も同感だ。ここで満足するようではこの先の乱世を生き抜くことなど出来ん」
「でも、鈴々たちだけで大丈夫なのかなぁ?」
「それは、やってみなくちゃわからん。だが、出来そうにないからと言っていつまでも公孫賛の世話になるわけにもいかんだろ?」
だが、独立するにしても重要な問題があった。
「ですが、我らには手勢というものがありません。このままではどうしようも……」
そう。俺達には兵がない。今まで一緒に戦ってきたのは公孫賛の兵だ。俺達の兵は公孫賛のと出会った時と全く変わっていない。
「手勢ならば街で集めればよかろう。な、伯珪殿?」
だが、そこへ助け舟を出したのは、趙雲だった。
「お、おいおい! 私だって討伐軍編成のための兵を集めなきゃならないんだぞ!? そんなの許すわけには――――」
だが、そんな公孫賛の耳元へ趙雲は小さな声で耳打ちする。てか、俺の位置だと割と聞こえてしまうのが何とも言えなかったが。てか、さっきの可能性は完全に消え去ってしまったのが、なんだかなぁ……
「伯珪殿、ここは器量の見せ所では?」
「うっ……!」
こいつ、本当にいい性格してんな、そう思ったのは何度目か、それを忘れてしまうほどの感想を抱いていると、趙雲がさらに追い打ちをかけていく。
「それに、伯珪殿の兵は皆、勇猛果敢の良い兵ではありませんか。義勇兵の五百人や千人、友の門出に贈ってやるのも良いではありませんか」
「ちょ、無茶言うなよ!」
「まぁ、その分、私が勇を奮って働きましょう。……どうです、伯珪殿?」
うわぁ、なんていうか、潰す気なのかと若干疑ってしまうぞ。てか、その気じゃないよな?
「むぅー……まぁ、その、あまり多く集めないでくれると、助かるんだがな?」
なんというか、申し訳なさすら出て来てしまうほど渋々と許可を出してくれたが、なんていうか、苦笑しか出ない。北郷も同じように苦笑しているし。
「じゃあ、許可も出たことだし、遠慮なく集めさせてもらおう。桃香、愛紗、手配をお願いしてもいいかな?」
「まっかせーなさーい!」
「御意に。では、さっそく行動しましょう」
「はぁ、仕方ない、か。私もできる限り協力するよ」
ずいぶんと投げやりな言い方をするが、それでも協力してくれる公孫賛の人の良さに感心してしまうよ。ほんと。
「ありがとう白蓮。この恩はいつか必ず頑張って返すから」
「期待しないで待っておくよ。星、兵站部に手配して武具や兵糧を供出してやってくれ」
「承知。では、北郷殿と御剣殿。一緒に参ろうか」
「鈴々もいくー!」
元気よく走ってきた張飛を加え、三人で星に連れられて兵站部へ向かっていった。
んで、その途中。
「そういやさ、さっきはありがとうな」
北郷が先を歩く趙雲の背中に話しかけた。
「いや、礼を言われるようなことはしておりませぬよ」
「でも、白蓮を上手く乗せて俺達に便宜を図ってくれたじゃないか。それで十分だよ」
「はて、何のことやら」
なんて悪戯っぽく笑ったかと思えば、急にその顔が引き締まる。
「それよりも北郷殿。討伐に際して何か策はお有か?」
「う〜ん、今のところは特にないんだよなぁ。鈴々は何かある?」
「鈴々は敵をやっつけるだけなのだ!」
「だよなぁ……」
あまりにらしい返事が返ってきたからか、北郷は苦笑している。まぁ、俺もしているわけだが。
「玄輝は何かある?」
「ふむ」
俺も特にないと言えばないんだが……。
「まぁ、黄巾党とやらの情報がほぼ無い以上は、策は立てられんだろ? まずはそれを集める事じゃないか?」
「それもあるけど、策を立てるにしろ情報を集めるにしても、義勇兵が何人集まってくれるかによって変わると思うんだ」
「……それもそうか」
人が多い方がより情報は集めやすいし、策も色々なものがたてられる、ハズだ。詳しくないからよくは分からんが。
「まずはその二つを集めることからだな。本格的な行動をするのはその後でも大丈夫なはず」
「それがとりあえずの方針、か」
その言葉に北郷が頷く。だが、趙雲はそうは思えないようだ。
「ですが、そんな悠長なことをしていては功名の場が無くなると思うが?」
それも尤もだが、それ以上に、
「まだ弱小勢力の俺達が功を焦ってバカみたいに全滅するよかマシだと思うが?」
「そうだね。俺も最初の一歩は慎重すぎるほど慎重に踏み出すべきだって考えてる」
「……ふむ、どうやらよくお考えのようだ」
「考えないで行動した結果が俺にだけ返ってくるならそこまで考えないけどね。でも、今回は違う。人の命がかかっているんだ。うかつな判断は出来ないよ」
……どうやら、主人として成長しているようだ。最初は少し不安だったが、こいつには才があったようだ。
まぁ、真正面から言っても本人は認めないかもしれんが。
「ところでさ、趙雲」
何か聞こうとしたのか、北郷が趙雲に話しかけた。
「星でよろしい。私はあなたが気に入っている。真名を預けてもいいと思うほどに」
その言葉に最初は驚いた北郷だが、すぐにうれしそうな顔になる。
「……ありがとう。なら、星」
「なにかな?」
「星は白蓮の家臣になるつもりはないのか? 客将って、正式な家臣じゃないんだろう?」
そこらへんの仕組みは分かっていなかったので、俺も気になった。この世界の知識を得るチャンスだ。一言一句聞き逃さないようにしなくては。
「ええ。客将とはあくまで客分、好意によって力を貸しているだけです」
「なら、星はいつかどこかへ行っちゃうのか?」
張飛からの質問に対する答えはちょっと意外だった。
「さて、それは私にも分からんのだよ。……この乱世を伯珪殿と共に戦い抜くか、はたまた徳高き主を探しに行くのか」
なんつーか、風来坊みたいな考えだなと思ったが、それを彼女が言うと不思議と自然に思えてしまう。おそらく、これは彼女の一面を現している言葉だからなのではないかと思う。でなければ、説明が付かないような気がした。
「そっか……。なぁ、もし、もしもの話だよ? 星が白蓮の元を去る時が来たら、俺達の所に来てくれないか?」
(おいおい……)
こんなところで引き抜きをするとは。なんつーか、大胆だな。なんて思っていると、趙雲がその返事を返す。
「ふむ、それもまた一つの道かもしれませんな。……しかし、自分の道は自分で見つけたい。私はそう思っているのですよ」
「そっか。……ごめん、変なこと言って」
少し残念そうな表情をする北郷に趙雲は首を振って言葉を続ける。
「いや、本音を言ってしまえば北郷殿にそう言って貰えるのはとても嬉しい。だが、伯珪殿にも恩がありましてな。その恩を返すまでは伯珪殿に協力すると決めているのですよ。ですが、それ以降は……北郷殿たちが私と同じ道を歩んでいるのであれば、どこかで道が交差することになるでしょうな」
「……俺はそうなるって信じることにするよ」
「うむ。私もそう信じておきましょう」
楽しげに頷いた趙雲は再び俺達に背を向け、兵站部へと歩いていった。
「まったく、ここで引き抜こうとするなんて、ずいぶん肝が据わったな。お前も」
「そ、そうかな? いや、でもやっぱり同じ志を持つ人は多い方がいいだろうし、星、強いし」
「判断は間違ってねぇよ。ただ、ここでそれをしちまうお前の度胸を褒めてるんだよ」
「お兄ちゃんは女たらしなのだ♪」
「女!?」
どこでそんな言葉を覚えたのか、疑問を残しつつも、俺達は兵站部のある蔵に着いた。北郷と張飛が蔵の中へ入り、俺も入ろうとした時、趙雲に呼び止められた。
「なんだ?」
「いや、この際だから貴殿に聞いておきたいことがあってな」
「聞きたいこと?」
「うむ。貴殿は桃香殿や愛紗の事を真名で呼んでいるのを聞いたことがなかったのでな。そこが気になっていたのだ」
その目に浮かんでいるのは、疑い。まぁ、仕方ないと言えばそうなのだが。
「一応、真名は預かってはいるんだ」
「ほう、ならば何故?」
「……ちょいと俺に問題があってな。そんな状態で呼びたくなかったんだ。だから、無理を言って待ってもらってるんだよ」
「……そうか」
納得、してもらえたのだろうか。疑いの色はもうないが、少し不安になってしまう。だが、それは次の一言で杞憂に終わる。
「ならば、私の真名も預かってもらうことにしよう」
「なっ、いいのか?」
「ええ。少なくとも玄輝殿はそのことを良しと思っていないのは分かりましたゆえに」
「……たっく、お前は人の心でも読めるのか?」
「さぁ、どうでしょうな?」
なんて意地悪く笑いながら趙雲は蔵の中へ入ってしまった。だが、どことなくその笑顔は信頼の証のように思えてしまった。
そして、その日から一週間が過ぎた。
あとがき〜のようなもの〜
はいどうも、おはこんばんにゃにゃにゃちわ、風猫です。
ついに、公孫賛陣営からの独立を決断した一行、となると次に来るのは……
てなわけで次回、お楽しみに! (期待せずに待て! 次回!)
おっと、危うく忘れるところでした。何かありましたら、コメントの方お願いいたします〜
ではでは〜
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白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話 真・恋姫†無双の蜀√のお話です。 オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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