IS‐インフィニット・ストラトス‐黒獅子と駆ける者‐ |
episode233 守るべき者の為に
何だかんだ言っても、結局俺は自らの身を犠牲にしてでしか、みんなを守る事が出来なかった・・・・
鈴の言う通り、自己犠牲心など、誰も求めてないって言うのに・・・・
なのに・・・・俺は・・・・
何も無い空間の中を漂い続けるバンシィより、静かに駆動音が起きる。
すると光を失っていたサイコフレームが一瞬光ると、ツインアイに一瞬光が過ぎり、赤く発光してサイコフレームがゆっくりと薄く光り輝く。
「・・・・」
隼人は呻き声を出し、ゆっくりと頭を動かす。
「ここは・・・・一体」
辺りを見ても暗い空間しかない。
「暗いな・・・・・・俺は・・・・死んだのか・・・・?」
(残念だが、お前はまだ死んでいないぞ)
ツッコミを入れるようにノルンが隼人に声を掛ける。
(ノルン・・・・)
(全く。お前ほどの悪運の持ち主など、前にしても後になっても、お前以外にはいないぞ。神々でも驚くレベルだ)
と、呆れた様子でノルンが口を開く。
(悪運か・・・・)
(だが、その悪運も、ここまでのようだがな)
(?・・・・それより、ここは何所なんだ?)
隼人は周囲を見渡すも、何も無い空間だけしかない。
(簡潔に言えば、ここは次元の狭間だ)
(次元の・・・・狭間?)
(あぁ。レイ・ラングレンの自爆時の爆発の威力があまりにも強すぎた故に、次元に歪みが生じて次元震が発生し、それによって次元断層が起きてお前はその中に巻き込まれたのだ)
(・・・・)
(で、結果的にお前は次元の狭間の中を彷徨っている)
(そうか。だが、バンシィの損傷が少ないのはどういう事だ?)
見る限りではバンシィには目立った損傷が無く、欠片が周囲を漂っているだけ。
(インフィニットゼロ発動時にやつの攻撃で吸収して溜まっていたエネルギーが発散されていた。だからお前はあの時エネルギーが全く無かった状態だった)
(エネルギーが無いって。じゃぁあの時のあれは・・・・)
(サイコフレームによって一時的にエネルギーを得ていただけに過ぎない。レイ・ラングレンに止めを刺した直後にエネルギーが消失した。
だから次元断層に入るまでに受けた爆発時のエネルギーは全て吸収されたから、お前は損傷を受ける事は無かった)
(そうか・・・・)
グリッターの遺した能力がこの時にでも役に立つとは・・・・
(しかし、お前と言う男は今まで見た事が無い。悪い意味でな)
冷徹な声でノルンは隼人に口を開く。
(・・・・)
隼人は何も答えない。
(確かにお前の犠牲で仲間たちの命だけではなく、多くの命を救う事と平和に繋がった。それは栄誉ある行為とも見て取れる)
(・・・・)
(だが、お前は満足だろうが、残された者達はどうなる。
お前と親しくしていた者達は、深い悲しみに包まれている。それも、とてもじゃない・・・・深い悲しみにな)
(・・・・)
(お前の家族だってそうだ。それに、お前の事を愛した者達はどうなる)
(・・・・)
(私が一番嫌いなのは、そうやって愛する者を遺して身勝手に逝ってしまう事だ!!私のようにな!!)
ノルンは怒りと悲しみの篭った声で隼人に怒鳴りつける。
(だが、正確にはお前はまだ死んではいない。しかし、もう死んでいると同じ状態だがな)
(・・・・脱出方法が無いのか)
ノルンの言葉の裏にある事実に気付く。
(そうだ。次元震など頻繁に起きるものじゃない。起きない限り、お前は永遠にこの無の世界に閉じ込められる事になる)
(・・・・)
(・・・・)
隼人は何も無い空間を見上げる。
(お前はそれでいいのか)
(・・・・)
隼人は何も答えない。
「・・・・?」
すると突然視線の先に一点の光が現れる。
「あれは・・・・」
光は徐々に大きくなり、黄金の光を放つようになる。
(この光・・・・まさか)
ノルンが言葉を漏らした直後に、一気に光が爆ぜる。
「っ!?」
隼人は膨大な光に左腕で遮る。
「・・・・」
光が収まり、隼人は腕を退かすと――――
「っ!?」
(やはり・・・・)
そこには隼人の数倍の大きさを持つ巨大な機体がツインアイの中にある瞳で隼人を見ている。
全身眩いほどの黄金の光を放ち、背中には巨大なウイングを持ち、両肩にはガンダムの顔に酷似した形状を持つアーマーを搭載していた。
(黄金神・・・・・・『スペリオルカイザー』)
ノルンはその者の名を口にする。
「スペリオルカイザー、だと?」
その名に隼人は驚きを隠せれなかった。
「我が名はスペリオルカイザー。全てを司る黄金の神」
と、スペリオルカイザーが口を開く。
「神風隼人。君には、感謝する」
「・・・・」
「邪悪なる者が消え、世界の消滅の恐怖は無くなった」
「・・・・」
「神々も、君には感謝している」
「だから、わざわざ出向いて言いに来たのか」
「・・・・」
「それが、お前達が言える事なのか。俺や転生者を利用して、世界を身勝手に消去してきたお前達に」
(・・・・)
「確かに我々は多くの世界を滅ぼした。それは事実だ。否定はしない」
「・・・・」
「だが、理解して欲しい。我々もこんな非道な事をしたくて、したわけではない」
「だったら・・・・」
「そうでもしなければ、やつは世界を喰い、手が付けられなくなってしまう」
「・・・・」
「でなければ、お前達はやつには勝つことは出来なかっただろう」
「・・・・」
「我々神は世界に直接干渉する事は出来ない。干渉するとなれば力は半分も出せない状態となる。だから転生者を使うしか方法は無かった」
「・・・・」
「許しは請わない。我々は許されない行いを何度も行ってきたのだから」
「・・・・」
「しかし、君はそんな中でも、レイ・ラングレンを打ち倒した。それは我々でも評価に値する」
「・・・・」
(スペリオルカイザーが評価するとは・・・・相当なものだな)
ノルンは少し驚き気味に呟く。
「一つ聞いて良いか」
「何だ?」
「レイ・ラングレンは・・・・・・どうなったんだ」
「彼は自ら自爆した事で魂は消滅した。彼もかつては君の様な正義を信じて戦っていた男だった」
「それをお前達が変えたんだろ。やつが居た世界を滅ぼして」
「・・・・」
スペリオルカイザーは俯くと、しばらくして顔を上げる。
「・・・・違う。それは、我々ではないのだ」
「・・・・なに?」
(どういう事だ?)
理解できず二人は怪訝な声を漏らす。
「レイ・ラングレンが居た世界はお前達の世界と同じであった。消滅させる要因などない、平和な世界だ」
「なのに、なぜ消滅したんだ」
「・・・・神々による仕業だ」
「結局神々が滅ぼして――――」
「いや、神ではない。神と名乗った偽者だ」
「なに?」
(・・・・)
「その者とかつて私は戦った。そして私は二つの存在に分けられてしまったが、その者の封印には成功する。だが、一度私が死んだ事でやつは再び復活した。私も復活し、多くの者達の力を借りて、その者を滅ぼした。
・・・・・・はずだった」
と、初めてスペリオルカイザーの声に暗みが現れる。
「・・・・また、蘇ったのか」
「そうだ。やつは怨霊として生き残った。昔にしても今後にしても、比べる事など出来ない邪悪な存在・・・・・・『暗黒卿マスターガンダム』」
「・・・・」
(伝説と謳われる、究極の闇か・・・・)
「やつは残った力でレイ・ラングレンの世界を滅ぼした。唯一彼のみは生き残った」
「特異点とやらだったから、生き残っていたと聞いているが?」
「それもある。が、もう一つ理由がある」
「理由?」
(・・・・)
「彼にも、神に匹敵する力を持っていた。それも、かつて一つの高度な文明を一夜にして滅ぼした・・・・・・『無限皇帝』の力を」
(っ!?父上の力だと!?)
ノルンは驚きの声を上げる。
「知っているのか?」
(知っているもなにも・・・・・・私の父だ)
「ノルンの・・・・父親」
(・・・・まさか、やつが父上の・・・・。そうか・・・・だから、父上の姿に・・・・)
ノルンはダークネスカイザーの姿と父親の姿を重ね、それで両者が似ていた事に気付く。
「レイ・ラングレンは無限皇帝の生まれ変わりだった。彼も君の様に絆の本当の意味を知り、仲間を守りたいと言う想いと、そして愛の力によって無限皇帝として覚醒した」
「・・・・」
(・・・・)
「無限皇帝として、彼は強大な力を持つ者戦い、勝利を収めて世界に平和を訪れさせた」
「じゃぁ、レイ・ラングレンが消滅を免れた理由って言うのは――――」
「そうだ。暗黒卿マスターガンダムが新たな身体を手に入れる為だ」
「・・・・」
「悲しみに溺れるレイ・ラングレンに、暗黒卿マスターガンダムは全ての発端を我々の仕業とした。悪魔の囁きのように。
「・・・・」
「それによってレイ・ラングレンの中で計り知れない憎しみと怒りが生まれた。それに暗黒卿に漬け込まれてしまい、身体を乗っ取られてしまったのだ。
正義の力が、悪の力に変わってしまった瞬間でもある」
「ってことは、やつは・・・・操られていただけ・・・・だっていうのか」
(だが、やつはレイ・ラングレンとして振舞っていた。それは・・・・)
「我々の発見を欺く為だ。暗黒卿は彼の記憶を読み取り、全てを彼その者として振舞う事で私の目ですら欺いた」
「・・・・」
(何と言うことだ・・・・)
「・・・・」
よく思い出して考えてみれば、最初に出会った頃と怪獣化した時を比べると、少しだけ相違点があったようにも思える。
素に戻っていたのかもしれない。
「暗黒卿は今度こそ完全に消滅した。だが、レイ・ラングレンの魂も、完全に消滅している」
「元に戻す事は出来ないのか?」
「残念だが、闇が魂の大半を侵食していたせいで、元通りとはいかない」
「・・・・」
(・・・・)
「・・・・全てを信じてくれるかは、君次第だ」
「・・・・」
「転生者がここまでの活躍をしたのは例を見ない。これで全てを帳消し、と言う訳ではないが、君が望めば魂を解放しよう」
「魂を?」
「我々のミスがあったとは言えど、本来であれば君の魂は解放されるはずだった。それを無理矢理転生と言う形で束縛した」
「・・・・」
隼人は何も答えない。
「君は役目を果たした。だから、もう安息の時を与えようと思うが・・・・・・どうする?」
「・・・・」
(隼人・・・・)
「俺は――――」
何かを答えようとするも、すぐに口を閉じる。
一瞬強大な力を持ってしまい、それを狙う者が今後も現れないとは限らない。そうなれば、レイ・ラングレンと同じ道を辿るかもしれない。
ならば、ここで消える事で、みんなが消える事にはならない・・・・
だが、それでも隼人には、消えるわけには行かない・・・・・・理由がある。
だから、隼人は迷う事なく、決意を決める。
「・・・・俺は、まだ消えるわけにはいかない」
「なぜだ?」
スペリオルカイザーは怪訝な声で問い返す。
「俺は・・・・約束したんだ。世界を守ると。大切な仲間達を、そして・・・・愛する者を守る為に」
(・・・・)
「お前の力を狙う者が現れないとは限らないのだぞ。それでも、いいのか?」
「構わないさ。もう二度と・・・・誰も失いたくない」
「・・・・」
「守るべき者の為に、俺は戦い続ける。この命が続くまで・・・・」
(守るべき者の為、か)
「・・・・そうか。君の気持ちは分かった」
スペリオルカイザーは重々しくゆっくりと頷く。
「ならば、その気持ちをずっと持ち続けるがいい」
スペリオルカイザーは右手をバンシィ・ノルンにかざし、光を注ぐ。
そして隼人のバンシィ・ノルンは光に包まれ、光が爆ぜた瞬間にその姿は消えた。
説明 | ||
トラックに轢かれそうになった女の子を助けて俺はお陀仏になった・・・。・・・って!それが本来の死じゃなくて、神様のミスで!?呆れている俺に、その神様がお詫びとして他の世界に転生させてくれると言うことらしい・・・。そして俺は『インフィニットストラトス』の世界に転生し、黒獅子と呼ばれるISと共にその世界で戦うぜ! |
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