真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 14 |
〜一週間後〜
すべての準備を整い終え、俺達は集まった義勇兵を率いて出陣の時を迎えた。
「いよいよ出発、だな」
北郷が自身の後ろにずらりと並ぶ義勇兵の列を見て、呟いた。
「たくさん集まってくれたよね♪ これなら何とか戦えるね、ご主人様」
「ああ。まぁ、白蓮の顔は引きつってたけどな」
「そりゃあ、引きつるだろうさ……」
なにせ、自分が治めている街だけじゃなく、その周辺の邑からも集まってきて、最終的に六千人も集まってしまったのだ。しかも、その一部は自身の所に来ていたはずの義勇兵だったりする。
(しかも、俺の配下にしてくれって来るとは……)
初めての戦いの時に助けた数人の兵が俺に恩を返したいとのことで付いてきたのを皮切りに、ぞろぞろ出てきて、結局五十人ほどが抜けてしまったのだ。
(なんつーか、申し訳ない)
心の中で公孫賛に謝っていると、関羽が口を開いた。
「しかし、これからどうしましょうか?」
「まぁ、大筋は黄巾党の討伐だろうが……」
集めた情報を見た限り、黄巾党の動きは大規模すぎる。北郷もどう攻めたらいいかかなり悩んでいるようだった。
「行き当たりばったりで戦っていたら兵糧がすぐになくなるのは目に見えてるんだよなぁ……」
「う〜ん、どうしたらいいのかなぁ……」
我が軍の上層部が皆で頭を悩ませていた、その時だった。
「す、しゅみましぇん! あぅぅ、噛んじゃった」
どこからか、女の子の声が聞こえてきた。
全員で周辺を見渡したが、声を上げたであろう人物が見つからない。
「はわわ、こっちですぅ〜!」
だが、相変わらず姿は見えない。
「えーっと、声は聞こえど姿は見えず……」
「一体誰が?」
なんて不思議がっている俺達四人に、残る二人が少しふくれっ面で発言する。
「みんなひどいことを言うのだなー。チビをバカにするのは良くない事なのだ!」
「そうだよ。私たちは好きで小さいんじゃないもん!」
そう抗議する二人は俺達に視線を下げるように促す。それに従って視線を下げてみれば、
「こ、こんにゅちは!」
「ち、ちわ、ですぅ……」
二人の少女が緊張した様子で立っていた。一人は魔女がかぶっていそうな帽子を、もう一人は漫画家の、たしか、ベレー帽といったか? そんな感じの帽子をかぶっていた。
「こ、こんにちは……。えーと、君たちは?」
北郷が視線を合わせて問いかけると、さらに緊張したまま、自己紹介をする。
「わ、わらひは! しょ、諸葛孔明れひゅ!」
「わ、わたし、私は、その、えと、えと、その、ほ、ほう、ほーとうでしゅ!」
「……二人ともカミカミなのだ」
「んーと、諸葛孔明ちゃんに、ほ、ほー……」
「鳳統でしゅ! あぅぅ……」
……どんだけ緊張してんだ? ただ、雪華に似ているからか、何となく保護欲的な何かを感じてしまうのは、気のせいか?
「諸葛孔明に鳳統、か。……あなた達のような少女がなんでこんなところに?」
関羽の言う通りだ。こんな少女がいていい場所ではないはずなのだが……。張飛はって? んなもん、例外だ。
「にゃ?」
「いや、気にするな」
口から洩れていたようです。って、んなこたぁどうでもいいんだよ。意識を戻すと、諸葛孔明、いや、孔明が関羽の問いに答え始めた。
「あ、あのですね! 私たちは荊州にある水鏡塾っていう水鏡先生という方が開いている私塾で学んでいたんですけれども、でも、今のこの大陸を包んでいる危機的な状況を見過ごせなくて、それでえっと……」
「力のない人が悲しんでいるのが許せなくって、その人たちを守るために私たちが学んだ事を生かすべきだって考えて、でも、自分たちじゃどうにもできないくらい無力で、誰かに協力してもらわなくちゃいけなくて」
「それでそれで、誰に協力してもらえばいいんだろうって話し合っている時に、天の御遣いが義勇兵を募集しているって噂を耳にしたんです!」
「それでそれで、色々と話を聞くうちに、天の御遣いが考えていらっしゃることが、私たちの考えと同じだって分かって、協力してもらうならこの人しかいないって思って」
「だから、あの! わ、私たちを戦列の端にお加えください!」
「お願いします!」
なんてことを超絶早口で言い切ってしまう。でも、この時よく噛まずに言えたな、って思ったのは俺だけじゃないと思いたい。
だが、それは彼女たちが真剣だからこそなのだろう。おそらく、彼女たちはどちらかと言えば人見知りな性格だと思う。そんな彼女たちが必死になって言いたいこと言い切ったのは、本当に俺達の仲間として行動したいと思ったからだとしか思えない。
「んー。ご主人様、どうしよう?」
「戦列の端に加えるには、若すぎるように思いますが……」
関羽、劉備はあまり乗り気ではないようだ。
「でも、それを言ったら鈴々も同じじゃないか?」
と、言った北郷に、
「それはそうですが、鈴々の武は一騎当千。歳は若くとも十分な戦力です。しかし、二人とも指は細く体格は華奢、戦場に立つには可憐すぎます」
と返す関羽。だが、北郷は別の道を示す。
「愛紗の判断も良くわかるよ。でも、剣を持つことだけが将の仕事って訳じゃないだろ?」
「それも、そうだよね。武芸が達者でなければ戦えないなんて言ったら、私なんてこれっぽちも戦えないもんね♪……って、自分で言ってて悲しくなってきた」
「そう思うなら、少しは訓練しろや……」
「うぅ……」
勝手に自爆した劉備は放っておくとして。
「まぁ、劉備の言うことにも一理ある。それに、能力を見ずに若いからの一言で済ますのは早計だと思うぞ?」
鳳統は知らないが、諸葛孔明の名は知っている。たしか、有名な軍師だったはずだ。となれば、彼女の武器は剣や槍じゃない。数多の知識から生み出される策こそが彼女の武器だ。
「俺もそう思う。それに、この子たちがきっと俺たちを助けてくれるって、そう思うんだ」
どうやら、北郷も知っているようだ。いや、もしかしたらこの男は三国志をよく知っているのかもしれないな。趙雲の事も知っているようだったし。
「ご主人様と玄輝殿がそう言うのであれば、従いましょう」
そうは言うものの、その表情からは渋々と納得しているのが明らかだった。
「でも、何でこの時期に……」
「ん? 何か言ったか?」
「あ、いや、なんでもないよ」
と、北郷は誤魔化しているが、その表情は何かに納得してないように感じられた。
「……たら、これからの道は……」
だが、何かしらの形で決着をつけたのか、北郷は改めて二人に向き合い、その手を差し出した。
「二人とも、俺たちに協力してくれる、かな?」
「はひ!」
「がんばりましゅ!」
で、噛みながらも二人はその手をしっかりと掴んだ。
「ありがとう。俺の名前は北郷一刀。一応、天の御使いって身分、らしい」
北郷が自己紹介すると、二人も姿勢を改めても一度自己紹介をする。
「わ、わらひは、姓は諸葛! 名は亮! 字は孔明で、真名は朱里です! 朱里って呼んでください!」
「え、えっと、姓は鳳で名は統で字は士元で真名は雛里って言います! よ、よろしくお願いしましゅ!」
カッミカミだな。逆に清々しくなるほどに。
「朱里ちゃんに雛里ちゃん、か。こちらこそ、これからよろしく!」
『はい!』
元気よく返事をした二人はとても嬉しそうに小さな声で話している。こうして、俺達の仲間に二人が加わることになった。
「で、早速で悪いんだけど、二人の意見を聞かせて欲しいんだ。俺たちはこれからどうすれば良いと思う?」
と、北郷が意見を聞いてみると、孔明が少し気まずそうな顔でおずおずと聞いてきた。
「新参者の私たちが意見を言ってもいいのでしょうか……?」
「当然だよ。二人とも俺たちの仲間だろ?」
「は、はい!」
その言葉を聞いた孔明はとびっきりの笑顔で返事を返した。
「まず、私たちの勢力は他の黄巾党討伐に乗り出している諸侯に比べると極小でしかありません。だからこそ、今は黄巾党の中でも小さな部隊を相手に勝利を積み重ねて名を高めることが重要だと思います」
だが、その言葉に苦い顔したのは関羽だ。
「敵を選べと、そう言うのか?」
関羽の鋭い目線に思わずたじろいでしまう孔明。まぁ、関羽に睨まれちゃしょうがないな。それに自己紹介もしてない。北郷もそのこと思い出したのか、関羽の紹介を始める。
「この子は関羽。字は雲長っていうんだ」
で、それに乗って他の三人も自己紹介をしていく。
「私は劉備玄徳! 真名は桃香だよ♪ これからは桃香って呼んでね!」
「鈴々は張飛って言って、真名は鈴々なのだ。呼びたかったら呼んでもいいぞー」
「え、えっと、御剣、雪華です。一応、もう一人の天の御遣いです。雪華って呼んでください。その、これからよろしく……」
ここは、俺も名乗るべきだな。
「御剣玄輝だ。雪華の護衛をしている。呼ぶときは玄輝で構わない。これからよろしく頼む」
「ハァ……」
「ん?」
なんか、鳳統の目が、輝いているような? 気のせいか?
「むぅ。皆が真名を許すならば、私も許さなくてはならんな。ご主人様が紹介してくださったように、我が名は関羽。真名は愛紗という。宜しく頼む」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「あ、あぅ!」
頭を下げた孔明に倣って、鳳統もこっちを見るのをやめて慌てて頭を下げた。
で、それを確認した後小声で、二人に気が付かれないように関羽に耳打ちする。
(おいおい、もうちょい言い方ってもんがあるだろう?)
(うっ……それは……)
まぁ、本人も自覚はしているようだから、そこまで突っ込むようなことはしないが。
(まっ、後でちゃんとしとけよ?)
(むぅ……)
で、そんな会話が終わると北郷が話を元に戻した。
「自己紹介も済んだところで話を戻すけど、俺は朱里の云うことが尤もだと思うんだよ、愛紗」
「ご主人様もですか? しかし、それは些か卑怯ではありませんか?」
「愛紗がそう思うのも無理ないけど、今の俺たちはどう足掻こうが弱小勢力であることに変わりはない。なら、朱里の言うように、名を高めて義勇兵を募って強くなっていくしかない。ただ……」
「ただ、どうかしたの?」
北郷は頭を掻いて自身が懸念していることを口に出した。
「問題は兵糧だろうな、って。兵隊さんが増えてくれるのはいいことだけど、補給がしっかりしてなくちゃ、そういった人はすぐに逃げちゃうだろうし」
「お腹が減るのは、気合でなんとかなるって訳ではないからなー……」
まぁ、大飯喰らいの張飛なら、良く理解している事だろうな。
「そういうこと。……で、どうしよう?」
孔明は考えるそぶりをした後、すぐに自身の考えを話し始める。
「名を上げつつ、付近の邑や街に住む富豪たちに寄付を募ってみるか……」
「敵の補給物資を鹵獲するしか、今のところ解決方法はないかと思います」
「そうなると、やはり弱い部隊を狙うのが得策になる、か」
「なら、基本方針はそれで行こう。みんな、それでいい?」
「はい。状況を説明されれば、それしか方法がないという事がわかります。私に否はありません」
「他のみんなは?」
北郷は俺達を見まわして意見を問う。
「私なーし! その方針に従うよ」
「鈴々は別に何でもいいのだ!」
「な、何でもいいって。まぁ、鈴々らしいけどさ」
若干呆れながらも、北郷はこちらへ視線を向けてくる。
「俺もその方針で特に問題はない」
「わかった。じゃあ、方針も決まったし、そろそろ出発しよう!」
こうして俺達は公孫賛たちに別れを告げ、自分たちの足で立つために、乱世へと足を一歩踏み入れた。
あとがき〜のようなもの〜
おはこんばんにゃにゃにゃちわ、風猫です。
ついに、あわはわ軍師が加わりました! え? 略しすぎ? でも、多分あの世界ならこんな略し方をする人は絶対にいると思います(キリッ!
にしても、今月でいよいよ今年も終わりますねぇ〜。来年はどんな一年になるのやら……
では、何かありましたらコメントの方にお願いします!
また次回〜
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白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話 真・恋姫†無双の蜀√のお話です。 オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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