模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第9話
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砂浜の広がる海岸線、そこで赤と白、二体の巨人が戦っていた。広大な砂浜もこの巨人の前には庭の様な狭さだ。

片方の赤い巨人、イージスガンダムは両腕の袖部からビームサーベルを発生させ突きの体勢で切りかかる。

攻撃対象の白い巨人、ソードストライクガンダムは巨大な片刃の剣『シュベルトゲベール』を両手で構え身構える。

二体とも『ガンダムSEED』に登場した機体だ。

 

「くぅっ!」

 

イージスはまず右腕で突く。ストライクは機体をかがませ、うまくイージスの懐に飛び込む。

イージスはそのまま左腕のビームサーベルでストライクを貫こうとする。

 

「甘い!」

 

ソードストライクに乗ったビルダー、ナナが叫ぶとストライクのシュベルトゲベールを上に切り上げる。

切り落とされたイージスの左腕が宙に舞った。すかさずバックステップで距離を取るイージス。

 

「よしっ!」

 

ナナがガッツポーズを取る。またもイージスが突っ込んでくる。二機は何度も切り合いやがてイージスが後方に吹き飛ばされた。派手に砂を上げて倒れ込む。

 

「覚悟ォっ!」

 

ナナは叫ぶと同時にGポッドの中で勝利を確信する。そのまま対艦刀を振り上げる。が……

『ヴンッ!』という音と共に、ストライクのすぐ横に黒い機体が現れる。ミラージュコロイドステルスで姿を隠していた忍者のようなガンダム『ブリッツガンダム』だ。

これも登場作品はガンダムSEEDである。

 

「えっ?」

 

ナナが気づくも時すでに遅し、ブリッツは右腕のビームサーベルを発生させ、シュベルトゲベールを振り上げたままのストライクを腹部から真っ二つに切り裂いた。

 

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「あ〜ぁ、負けちゃった。もう少しだったのにぃ」

 

落胆するナナ、『貴方は撃墜されました』の表示がブラックアウトしたモニターに表示される。

 

「お疲れ様。惜しかったね」

 

ガンプラバトルで敗北し、うなだれながらナナがGポッドから出てきた。ナナの脳裏には撃墜の瞬間のブリッツの顔が頭に焼き付いていた。

 

「せっかく色塗ったりしたんだけどなぁ」

「まぁしょうがないよ、不意打ちだったんだし、それでもずいぶん前と比べて動きよくなってきたよ?慣れてきたじゃない」

「そう?まぁこいつも結構手を入れたからかな?動かし甲斐が出てきたって感じ」

 

ナナが手に持ったソードストライクを取り出す。スミ入れ、色分けのされてない部分限定、ムラもありながらもガンダムマーカーで塗装したナナ入魂の一品だ。

 

「とりあえず今のアタシじゃここまでだけど……もっともっとうまくなりたいな。こいつもアタシの努力に応えてくれたわけだし」

「あそこまで原作再現するとは思わなかったけどね。私含めて外で見てるギャラリー驚いてたよ、そこでブリッツにやられてたのがなんとも……」

 

先程のナナのバトルはガンダムSEED本編でそっくり同じシチュエーションがあった。本編で撃墜されたのはストライクではなくブリッツだったが

「え?そう?見てたのちっちゃい頃だったから、わかんなかったけど……」

 

SEED自体ナナは見ていたがもう十年以上前の話だ。覚えてないナナは首を傾げ、それを見たアイは、アハハ……と苦笑する。

 

「ま、気にいったしとことんまでやってみるわよ、どうせなら無敗って言われるくらい強くなってみせようじゃん?」

「わ、随分大きく出たね」

「え〜でもアンタそれくらい強いし、アイもそういうの考えていたってあるんじゃない?」

 

一見しっかりしてそうなナナも時たま調子に乗る様な面を持つ。アイも初めこれには驚いていたが

こうした面を見せるという事は、付き合い的にアイを信用してきた証といえるだろう。

クラスではちょっとキツイが面倒見のいい、しっかり者という印象が強いのだ。

 

「そんな……こっちは必死になってるだけだし、正直いっぱいいっぱいだよ」

「それで勝ってるんだから大したもんじゃん。それ位理想高くてもいいって思うでしょ?」

「そうッス。その通りッスよ」

 

『?』

 

ふと子供の声がした。二人が振り返るとそこにいたのは一人の少年、 赤毛の少年だ。年齢は13位か。

顔つきはいい、いわゆるカワイイ系の顔だ。だがムスッとした表情が近寄りがたい印象を放つ。

そしてアイとナナの二人は少年に見覚えがあった。

 

「あ、コンドウさんと一緒にいた……」

「アサダ・ソウイチ、『ウルフ』の三人目ッス。それよりも……」

 

眉間にしわを寄せながらソウイチと名乗った少年はアイに言う。

 

「勝ち負けってのはどんな競技や勉強にだって共通してある結果ッス。アンタならそれを十分わかってると思ったんスけどね」

 

『失望した』そんな感じのどことなくトゲのあるような言い方だ。

 

「?そりゃ私だって勝ちたいって気持ちはあるよ。でも勝つことだけに執着はしないよ」

 

「競うのにそれじゃいけないとは思わないんスか?時に、アンタはガンプラ作る時に何を思って作ってるんスか?」

「そりゃ当然楽しいって気持ちで……」

「足りないッス」

 

アイの言葉をソウイチはバッサリ切り捨てた。

 

「え?」

 

「ガンプラバトルの強さはガンプラの出来も反映されてるッス。つまりバトルはガンプラを作る時から始まっているってことッスよ。

そっから勝つって気持ちがなけりゃ勝つことはできないッスね」

「それはそうかもだけど……」

「所詮アンタのは遊び、こんなのがコンドウさん相手にいい勝負をしたとはどうも信じられないッスよ。こんなポッと出がコンドウさんのお気に入りだなんて……」

 

苦虫を噛み潰したようにソウイチは言う。アイはムッとした表情になる。

 

「ねぇ!いきなり現れてアンタ言い過ぎじゃない?!大体ガンプラって遊ぶもんでしょ!?なんでそんな極論!他人のアンタに強要されなきゃいけないワケ!?」

 

言いたい放題のソウイチにナナが止めに入る。が、時すでに遅し、アイもこんな風にケチをつけられて我慢は出来なかったようだ。

 

「そこまで言うんだったら勝負だよ。今度の土曜日10時にここで!」

 

「え!?アイちょっと!?」

「そうこなくっちゃ!俺としても実力をコンドウさんに示すチャンスッス!アンタに勝つ!必ずね!」

「望むところ!」

 

してやったり、とほくそ笑むソウイチ、はたから見てたナナは(あれ?ひょっとして乗せられた?)と思っていた。

 

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「とまぁ、勢いに任せてああ言ったものの……大丈夫なの?」

「言わないで……勢いで言っちゃったなってのは私も思ってるんだからさ……」

 

商店街を歩きつつアイとナナは帰路についていた。放課後にガンプラバトルで時間をつぶしていた為もうあたりは薄暗い。

 

「でもさ、アンタがあんな風にムキになるとはね。前の模型部の時はあんまり怒らなかったのにね」

 

「いや、あの時はナナちゃんが止めてくれたからだよ」

 

「あれ?そうだっけ?」

 

ナナは忘れてしまってたらしい、首を傾げて思い出そうとする。

 

「それはそれとして、でもさ、今日の怒り方はちょっといつもと違ってた感じ」

「まぁ、ね。ガンプラは楽しいって前にハル君言ってたからさ……なんかそれも否定されたような気がして……」

「あ!好きな人の言葉を否定されるのは耐えられない!?」

 

からかうナナに顔を真っ赤にするアイ

 

「ち!違うってば!!!!私はただ他のビルダーを馬鹿にされたのが嫌で!!」

「アハハ、ゴメンゴメン」

 

と、その時だった。

 

「やぁ!お前ら、家にも帰らず大声出してどうしたんだ?」

 

一人の青年が話しかけてきた。アイとナナは眼鏡をかけたその男を知っていた。

 

「あ、ツチヤさん」

 

以前アイと対戦した『ウルフ』のサブリーダー、ツチヤ・サブロウタだ。否定した時のアイの声が大きかった為気付いたのだろう。

 

「ちょっと色々ありまして」

 

「ちょっとツチヤさん!後輩の面倒はもっとよく見てよ!」

 

「ナ・ナナちゃん……」

 

「え?」

 

ナナの突然の発言にツチヤはキョトンとしていた。

 

……

 

「なるほどなぁ、ソウイチに勝負けしかけられたか」

 

商店街を抜けた住宅街を進みながらツチヤを加えた三人は歩く。夜道を女の子だけでは危ないからというツチヤの提案だ。

三人は並列で歩きながら、そしてナナは今日ソウイチに言われた事のくだりをツチヤに説明する。

 

「勝つ気持ちが足りないから所詮遊びだっていったのよアイツ、失礼じゃない?」

「まぁアイツの発言は悪かったけどあんまり言わないでやってくれないか。アイツも割と苦労してきたわけだし」

 

愚痴るナナをたしなめるサブロウタ

 

「苦労って?」

「元々チーム『ウルフ』ってのは俺とコンドウさんの二人で始めた集まりだったんだ。

その時はチーム名もなかったしお互いただ楽しくガンプラが出来ればそれでいい。って考えだったんだけどな。

それで色々バトルをこなすようになってビルダーとしても腕を磨いていた。そしてコンドウさん共々この辺じゃ有名なビルダーになってきたんだが……

そんな時、俺たちのファンと名乗る子供のビルダーが現れた」

「その人って……そこへ入ってきた新参があのアサダ・ソウイチ君ですか」

「そ、俺達に憧れてチームに入りたいって言ってきてな、正直俺もコンドウさんも好きでやってきただけだから、ちょっとそう言われると気恥ずかしいもんもあったんだが」

「チームには入れたんですよね?」

「当然、こっちとしても頭数足りなかったし、仲間が増えるってんだから大歓迎だったさ、でもちょっとあってね……」

「?」

「入ったばかりの頃、ソウイチに文句言うビルダーが結構いたんだ。実力が釣り合ってないとか言われて、いちゃもんつけたりしてな。

アイツ、ソウイチはそれで泣かされることもしょっちゅうだったよ」

「もしかしてその所為で……」

「まぁ、な。だったら勝ちつづければいい。強くなればいい。そればかりが頭に優先しちゃってああなったってわけ、

実際俺たちもそういうやり方に注意とかはしているんだけど、アイツの中でその考えが固まっちゃってるのが問題なんだろうけど」

「そっか、そんな理由が」

 

納得するナナにツチヤは再び口を開く

 

「ただ今回ヤタテさんに喧嘩吹っかけたのはそれだけじゃないだろうな」

 

「え?」

「ソウイチが泣かされていた時、いつもコンドウさんが庇って味方してくれたんだ。奴にとっちゃコンドウさんの憧れは人一倍強い。ただそのコンドウさんにはお熱な奴がいて……」

「まさかそれって……」

 

ナナがつぶやくと隣にいた人物に目をやる。

 

「まぁそういう事だろうなぁ……認めてもらいたいと思ってる相手が別の奴を認めてるって事で邪魔に感じてるんだろ」

 

同時にツチヤも苦笑しながらその人物に目をやる。二人の視線を浴びる当人は……

 

「え……私!?」

 

アイはようやく気付くと確認として自分を指さした。

 

「あ〜あ、要するに男のジェラシーと……みっともな〜」

 

ソウイチの態度の正体が分かった途端に白けるナナ。

 

「憧れ……か」

 

対照的にアイは何か考えながら夜空を見上げていた。憧れという時点では少年ガンプラマイスター、

イレイ・ハルに憧れている自分と似ているのかもしれないと思ったからだ。そうこうしている内にアイの家につく、隣はナナの家だ。

 

「送って頂いてありがとうございます」

 

「本当、助かったわ」

 

「気にしないでくれ。それじゃあ俺はこれで」

 

用も済んだ為そのままツチヤは帰ろうとする。が、少し進んで確認するかの様に振り返った。

 

「なぁヤタテさん、別に確認する必要もないかもしれないが、ソウイチに手加減はしないであげてくれ。ああは言ったがアイツはそういう情けは嫌いな奴だから」

 

「大丈夫ですよ。全力で受け止めますから」

 

解ってる。といわんばかりにアイは頷いた。

 

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そして土曜日……

決闘当日、ガンプラバトルが始まる。

ステージは『南極・バークレー基地周辺』と画面に表示される。『ガンダムW』で主人公ヒイロと宿敵ゼクスの決闘が行われた場所だ。

 

「ヤタテ・アイ!出ます!」

 

氷に覆われた大地にアイの機体が輸送機から降り立つ。今回のオリジナルウェアは『AGE2Eコカトリス』

 

 

ダブルバレットをベースにガンダムスローネツヴァイのパーツを中心に組み込んだ機体だ。肩にはツヴァイのファングが供えてあり、

足首下もツヴァイ、膝にレジェンドの両腰部のドラグーン。

ダブルバレットの肩についていたドッズキャノンを手持ちに改造したライフルを装備していた。

肩からケーブルが伸びておりドッズキャノンのエネルギーはそこから供給される。変形は不可能ながらある程度、単独での飛行が可能な装備である。

 

「参ったな……見え辛い」

 

アイが困惑した声を上げる。周囲はモヤがかかっており周りの状況を見るのは困難だ。

アイが警戒してるとGポッドに警告音が鳴り響く。同時に前方に光が見えた。

とっさにアイは「ビームの光!」と判断。直後に七つもの砲撃がモヤを吹き飛ばし飛んできた。

 

「来た!」

 

両足のバーニアを吹かし大ジャンプするアイの『AGE2Eコカトリス(以下コカトリス)』

自分の眼下にはさっき自分のいた場所をビームが飲み込んでいるのが見えた。

 

「チッ!惜しい!」

 

ソウイチの舌打ちが聞こえる。吹き飛んだモヤから機体が露わになる。『ガンダムZZ』に登場した機体、ザクV改の改造機だ。

 

 

機体サイズはAGE2Eコカトリスより一回り大きく。本来緑のボディは赤と黒のツートンが中心、動力パイプやスパイクはイエローに塗られており攻撃的な色合いだ。

外見にも手が加えられている。頭部は『Zガンダム』に登場したマラサイの物に代えられており兜を被ったような頭だ。

右肩にはガンダムAGEのGバウンサーのビームライフル。

背部にはストライクノワールの翼が取り付けられており、両手にもハンドガンサイズのビームライフル、『ビームライフルショーティ』を両手でこちらに構えていた。

 

「赤いマラサイ?!ううん?ザクV!」

「アンタを倒した実績を……刻ませてもらう!このザクW(フォー)で!」

 

ソウイチの格好は赤い陣羽織と同じく赤いパイロットスーツだった。やる気十分である。ソウイチは上空のアイを撃ち落そうと全身の火器をコカトリスに向けた。

 

「くぅッ!」

 

避けてばかりじゃいけないとアイは判断し右腕のドッズキャノンをザクWに向け発射、ドッズキャノンの光は真っ直ぐザクWに向う。

 

「っ!悪あがきをっ!」

 

撃つ動作を中断しかわすザクW。アイは地面に降り立つとホバー移動しながらザクWに両膝のドラグーンと右腕のドッズキャノンでザクWに迫る。

 

「舐めるな!手数はこっちが上なんだ!」

 

ソウイチもザクWをホバーで前進する。三つのビーム攻撃をかわしながらビームライフルショーティで撃ちかえす。だがコカトリスは身軽な所為か機敏に射撃をかわす。

 

――コンドウさん達と違ってまだ粗削りって感じ!――

 

「らちがあかない!ウロチョロするなぁ!!」

 

ソウイチは叫ぶとザクWの背中の翼『ノワールストライカー』を展開、翼に仕込まれた2連装リニアガンを放つ。

 

「!?」

 

リニアガンは明後日の方向に飛んでいきアイの左右にある氷山に命中した。

 

「変な方向に撃って!」

 

直後破壊された氷山から雪煙が発生しコカトリスの周りを煙幕として包み込む。

 

「!?」

 

コカトリスの周りが雪煙で覆われる。こっちの目を奪うのが目的か!?とアイは判断した。

 

「雪煙を煙幕に!?常套手段だけど煙幕じゃそっちも見えなくなるんじゃないの!?」

 

「見える必要なんてないんスよ!何故なら!!」

 

直後ノワールストライカーを展開したザクWが飛び上がる。ザクWはノワールストライカーを移植してある事によってある程度の飛行が可能になっている。

(元々取り付けてあったストライクノワールが飛べるため)

普通ZZの機体は飛ばない仕様だ。改造とはいえこの光景に見ているビルダーは絶句した者もいるだろう。

雪煙の上空に飛び上がると腰のビーム砲、翼のレールガン、両手と右肩のライフルをいっぺんに下に構えた。

 

「フルバーストアタック!!!消し飛べぇ!!」

 

そして全ての砲門からまとめて一気に発射。発射された砲撃は雪煙の中のコカトリスを襲う。

『攻撃は最大の防御』それがソウイチの考えだ。手数の多さで圧倒する戦法をソウイチは得意としていた。

放たれた直後、砲撃は雪煙を貫き地表の氷原を破壊、大爆発が起こった。

 

 

「見えなくなっちゃった!?アイは!?」

 

観戦モニターで見てたナナは爆発の中のアイを確認しようとするがここからでは確認のしようがなかった。

 

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仕留めたか?と雪煙を見つめるソウイチ、その直後、いくつものビーム刃のついた短剣の様な物が赤い粒子を吹かしながらザクWに飛んできた。数は六つ。

 

「!?ファングか!!」

 

ファング、ガンダムOOに登場した遠隔操作武器だ。コカトリスの肩に搭載されていたそれは、複雑な軌道を描きながら高速でソウイチのザクWに迫る。

 

「クソッ!鬱陶しい!!」

 

ザクWはビームライフルショーティを捨て氷原に降りると、ノワールストライカーに搭載されていた大剣『フラガラッハ』でファングを切り払おうと振り回す。

突き刺そうとするファングを後退しつつ、二刀流で捌くザクW

 

「そればっかり集中してると危ないよ!!」

 

「何っ!?」

 

突如アイの叫びが聞こえた直後、ザクWの背後から地面を割って二つのファングが飛び出してきた。本来ファングは全部で八つ搭載されていたからだ。

二つのファングはザクWのバックパックに突き刺さり爆発。

 

「ぐぁっ!」

 

よろめくザクW、動きを止めたその隙をアイは逃さなかった。

 

「隙あり!」

 

アイはファングをコカトリスに戻しつつ、爆炎の中からコカトリスの右腕に装備したドッズキャノンを発射する。

 

 

ソウイチは回避行動をとろうとするも間に合わず、右腕及びその後ろにあったストライカーの翼をビームが貫通、小爆発と共に右手に持ったフラガラッハが跳ね飛ばされる。

 

「ガッ!まだ!まだだぁ!!」

 

「!?」

 

しかしソウイチはこれで済ますつもりはなかった。ザクWはコカトリスめがけ猛スピードで突っ込んできた。

ファングを食らった背中のスラスターはまだ破壊しきれてなかったわけだ。

 

「特攻!?」

 

近づかせまいとドッズキャノンを撃つアイ、狙うは大剣フラガラッハ。ドッズキャノンはフラガラッハに当たり爆発。

 

「くっ!やられるかよぉ!!」

 

一瞬ひるむもまた突っ込んでくるザクW、

 

「しつこい!うわ!」

 

コカトリスにタックルをかまし二体が氷原に倒れ込む。

 

「コイツがなければ!!」

その際にドッズキャノンをコカトリスから引っぺがす。ケーブルがちぎれザクWはドッズキャノンを放り投げた。

少し離れた氷の大地に突き刺さるドッズキャノン。

 

「!手癖の悪い!!」

 

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「アイ!」

 

観戦モニターを見ていたナナが叫ぶ。

 

 

ザクWは馬乗りの大勢で仰向けになったコカトリスの首を掴んだ。

 

「例え当人が負けて楽しんでも!他人にとって敗者は敗者以外の意味はない!!」

 

ギリギリとコカトリスの首を絞めるザクW。

 

「コンドウさんは!俺の所為でチームやコンドウさんを悪く言う奴がいても!コンドウさんはいつも庇ってくれたし批判も気にしなかった!

だけど周りは違う!結果を見せつけないと他人は納得してくれない!俺の所為でコンドウさんが悪く言われるなんて耐えられない!

だから俺にとって勝つ事が唯一にして最大の楽しむ手段!故に勝たなきゃいけないんだ! ただ楽しいからって理由だけでコンドウさんに追いつこうなんて納得できるもんかよ!」

「……!」

 

見下ろす体勢で目の前のアイにソウイチは早口でまくし立てる。

 

「アンタを倒してコンドウさんに勝利を捧ぐ!アンタにもコンドウさんにも!俺のやり方が正しいと証明にするんだ!」

 

ソウイチのザクWは腰フロントアーマーのビーム砲をコカトリスに向け、撃とうとする。

 

「そんなの!!」

 

アイは戻したコカトリスのファングを二つ射出、ビームの短剣はザクWの頭部目掛けて突っ込む。

 

「あっ!?」

 

気付いた時には遅かった。ザクWの頭部を二つのファングが突き刺さり爆発。

 

「ただのご機嫌取りでしょうが!!」

「!なんだと?!」

 

頭部を失うザクW、更にアイはコカトリスのファングを全て射出。全てのファングがザクWを貫こうと襲ってきた。

たまらずソウイチはザクWをコカトリスからどける。

 

「どいた!!」

 

そして立ち上がるアイのコカトリス。

 

「クッ!ご機嫌取りだと!?」

「勝つ事だけが楽しむ手段!?勝たなきゃコンドウさんは認めてくれない!そんなの!」

 

反撃しようとするソウイチ。だが起き上がったアイのコカトリスはそのままザクWにビームサーベルで斬りかかる。

 

「なっ!」

 

どうにか射撃で応戦しようとするソウイチ、だがファングとビームサーベルの二段攻撃に下がるしかない。

 

「そんなのガンプラ作る理由にならないよ!自分が楽しまないでどうするっていうの!?コンドウさんだって喜ぶわけがない!」

「くっ俺は!コンドウさんにとって誇りになるビルダーになりたいだけだ!」

 

後退しながらも反論するソウイチ。

 

「だからって!私は自分が楽しまないのにいい物が出来るなんて思わない!コンドウさんはなんであなたを庇っていたか分からないの!?」

 

「何を……」

「なんとなくだけど私には解るよ!それは『勝ち負けに拘らないでガンプラを楽しめ』って意味もあったんじゃないんですか!?」

「!」

「自分のやり方がさも正しいかの様に……」

 

懐に入るコカトリス、

 

「考えを私におしつけるなぁぁッッ!!!」

 

だがビームサーベルは使わずそのままザクWを拳で殴り飛ばした。

 

「なっ!!うわぁぁっっ!!」

 

ザクWを殴り飛ばした地点の近くに、さっき投げられたドッズキャノンが突き刺さっていた。

アイはそのままコカトリスのバーニアを吹かしドッズキャノンの場所に移動、ドッズキャノンを引き抜くとザクWに銃口を向けた。

 

――やっぱりあなたは私と違う!――

 

「クソッ!くそぉぉおおおっっ!!!」

言われた事と負けそうになる現実にソウイチは絶叫し、左腰フロントアーマーに装備されていたビームサーベルを掴み突っ込む、

 

「うわぁああ!!」

 

そのまま振るったビームの刃はドッズキャノンの砲身を切り裂く、だが切り裂かれた砲身の後ろからビームの刃が発生する。

 

――あ……――

 

コカトリスのライフルはダブルバレットの肩を移植している為、ビームサーベルとしても使用可能だったのである。

 

「勝ちにこだわるのはいいよ。けどね……」

 

ソウイチが気づいた瞬間、ザクWは大型のビームサーベルで横一文字に切り裂かれた。

 

「まずは自分が楽しむ事を第一に考えてよ!」

「そんな……」

 

ソウイチの呟きと同時にザクWは爆発した。

 

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「……」

 

Gポッドの中、ソウイチは無言で俯いてた。そんな時Gポッドを誰かが開ける。コンドウだ。

 

「ソウイチ、お前はよく頑張ったよ……」

「コンドウさん!?見ていたんですか……」

 

「途中からな、サブも一緒だ」

「……すいません……、コンドウさんの顔に泥を塗ってしまいました」

 

眼をつむり、頭を下げるソウイチ

 

「気にするな、俺の方こそ……」

「言わないでください。俺が勝手に思ってた事ですから」

「……そうか」

 

謝ろうとしていたコンドウをソウイチは止めると、そのままGポッドから出る。そのままアイの所に向った。

 

「ヤタテさん」

 

渋い表情のままソウイチはアイに話しかける。

 

「ソウイチ君?」

 

「勝ちに拘る姿勢を変えるつもりはないッス。でも礼儀までないがしろにしたらそれこそコンドウさんに泥を塗っちまう」

 

眼を背けながらも「だからこれ位は」とつぶやきながら右手を差し出した。握手を求めての行為だ。

 

「戦ってくれた事自体は感謝してますから」

 

「ソウイチ君……うん」

 

そのまま握手を交わす二人。ソウイチの表情は強張ったままだったが

 

「ったく、最後まで愛想ないわね、握手するんならもっとニコニコしてればいいのに」

 

「ナ・ナナちゃん」

 

「ニコニコ……真っ平ゴメンッス」

 

ナナのツッコミにソウイチは相変わらずの表情で返した。

 

「ま、コイツはずっとこうってわけじゃないんだ。見逃してやってくれ」

 

「ツチヤさん、やめて下さいそういう事言うの」

 

「さて……まさか本当に俺達二人に勝利するなんてね、大した奴だよ全く」

 

ツチヤがソウイチのフォローをすると、今度はアイに話しかけた。

 

「必死にやってただけですよ。そんな」

「謙遜しないで欲しいッス。勝ったのは事実ッスから」

 

二人の後にコンドウが口を開く。

 

「ならばヤタテ・アイ!君に改めて勝負を申し込もう!今度はもっと大々的な場所で!」

 

「大々的な場所、ですか?」

「こういう事だよアイちゃん」

 

「ハセベさん?」

 

アイの背後に現れる人影。雇われ店員のハセベだ。ハセベは現れるやいなや一枚の紙を見せる。

 

「二週間後この店主催のガンプラバトル大会があるんだ。ルールは三人チームのサバイバルバトルで参加者は大募集」

「ガンプラバトル大会……」

「そういう事。俺達との戦いを経験したお前とまた戦ってみたい、引き受けてくれるか?」

 

アイは躊躇なく答える。

 

「大会かぁ、こっち来てからそういうの出てないし是非出たいですよ」

「……いや、ちょっと待ってよアイ」

 

アイにナナが止めに入る。

 

「?ナナちゃん?」

 

「大会は三人のチーム制なんでしょ?アタシは当然出るけど。アンタ合わせても二人しかいないじゃん。後一人どうすんのよ」

「あ……」

 

しまった、という顔になるアイ

 

「と!当日には間に合わせますから!」

 

三人に宣言するアイにコンドウ、ナナ、ツチヤは揃って

 

――大丈夫かな……――

 

と心の中で呟いた……

 

「……やっぱ納得いかないッス……」

 

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これにて第9話終了となります。次回から大会への準備となります。そしてコンドウとの決着もそこでつきます。

 

登場機体も投稿しました。

コカトリス

http://www.tinami.com/view/642192

ザクW

http://www.tinami.com/view/642197

お目汚しにもならないかもしれませんが見て頂ければ嬉しいです。

説明
第9話「ねじれた少年」

イベントバトルに勝利し、親友のナナもガンプラにはまりつつある事をうれしく思うアイ、だが彼女に再び挑戦者が…
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コメント
mokiti1976-2010さん コメントありがとうございます。すでにアイと戦った人物ですね。そこそこの製作スキルもある奴です(バレバレ?)(コマネチ)
一体、三人目を何処から引っ張ってこようというのだろうか…学校内か昔の友達からか?(mokiti1976-2010)
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