真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 16 |
〜移動中〜
俺は腕を組みながら歩いて、今度の戦闘のシミュレーションをしていた。
(俺の隊は約五百人。で、戦闘経験者は公孫賛の所から来た五十人……)
一応、兵の動かし方は関羽の戦い方を参考にして、自己流だがなんとか形にはなっている。が、やはり不安の方が大きい。
「……の」
(やはり、副官に任せて、俺は数名を連れて動き回るか?)
いや、それはやめるべきだ。俺の為にならないし、何より副官に負担がかかりすぎてしまう。
「あ、あの!」
「ん? ああ、すまん。気が付かなかった」
いつの間にか鳳統が俺の隣を歩いていた。少し息が上がっているので、もしかしたら小走りでついて来ていたのかもしれない。
「どうした? 何か本陣から連絡か?」
「い、いえ! その、えっと……」
「ん?」
疑問に思っていると、鳳統は突然右手を差し出してきた。
「あ、あの、握手してくだひゃい! あうぅ……」
「あ、ああ。それくらいだったら……」
で、握手をすれば、彼女の顔が何とも嬉しそうに輝いてしまう。
「え〜っと」
会ってそこまで時間が立ってないから、どう会話すればいいのかわからずにいると、そこに孔明がやってきた。
「雛里ちゃん、ご主人様が“斥候が戻ってきたから玄輝さんと一緒に一度本陣に来てくれ”
って」
「あ、うん」
そう言われた鳳統はトテトテと言った音が似合いそうな感じで走っていく。それにつられて俺も移動しようとした時、外套の裾が引っ張られる。見れば、孔明が裾を掴んでいた。
「孔明? 何か用か?」
「はい。あの、雛里ちゃんの事なんです」
「鳳統の?」
まさか、実は本を読むと興奮する性癖とかでもあるのか?
(……まさかな)
そんな人間、いるわけがない。
「えっと、まずお聞きしたいんですけど、玄輝さんは自身がどのように語られているかご存知ですか?」
「どういうことだ? 語られているってことは、噂話ってことだよな?」
その質問に孔明は頷いて、こちらに聞こえる程度の小声で話しかける。
「その、実は玄輝さん、物語から出てきた正義の主人公みたいに思われているんです」
「……はい?」
「戦場を駆ける黒き風。その風は消えんとしている命の灯火を守り、その火を消さんとする者を断ち斬る。まさに、白の天の御遣い様に対となる黒の御使い! 戦場を舞う黒き守護神! って」
「………………」
……なんだそりゃ?
「それで、雛里ちゃん玄輝さんにずっと憧れていたんですよ? 今日なんてやっと会えるって夜も眠れなかったみたいなんです」
普通なら喜ばしいことではあるのだが、俺にとってそれは心苦しいものに感じられる。
「……あんまり、嬉しそうじゃありませんね」
「……何と言われようが俺は所詮、人殺しだ。その人殺しを英雄みたいな扱いで見られるのが、どうもな」
だが、その答えは孔明にも予想外だったようだ。
「あなたは、賊を人と思っているんですか?」
「ああ。アイツらは生きるために行動を起こしているだけだ。それを否定する気もなければ肯定する気もない。それにだ、生き物って言われるモノは総じて生きようとする。それ故に“生き物”と呼ばれる。そういう意味じゃ、アイツらは尤も生き物らしいと言える」
まっ、生き物の下りは俺の師匠の言葉だがな、と言葉を付け足して終わらせると、孔明は複雑そうな顔になってしまう。
「玄輝さん。あなたは、大丈夫なのですか?」
「どういう意味だ?」
「……その考えは、いつかあなたを」
なるほど、な。そういう意味か。
「その心配は無用だ。それに、俺には守るものがある」
「守るもの、ですか?」
「ああ。そのためにならば、俺は喜んで劉備達の言う悪にもなるさ」
その一言を聞いた孔明は、小さく呟くように言った。
「あなたは、ご主人様たちとは真逆なのですね」
「…………」
「力のない人々を守りたい。それは、目に見えない人も守りたいという事です。でも、あなたは、目に見える人だけを守りたい、そう思って行動をしている。今のところは、その結果がご主人様たちと同じになっている」
「……かもな」
「それだけじゃありません。ご主人様たちは、力ない人を守るために、その人たちを襲っていた賊のやり方を良しとはしていません。そういった所でもあなたとご主人様たちは相反しています」
そして、とても悲しそうな顔で、自身が考えた結末を口にする。
「おそらく、いえ、きっといつかあなたは、ご主人様たちの敵になる」
「…………」
「……お願いです。雛里ちゃんを傷つける結果だけにはしないでください」
「……もしそうなったら?」
「あなたを、絶対に許しません」
その目は、真剣そのもの。余程、鳳統が大事なのだろう。
「……確約はできないが、善処はする」
「…………」
「……俺は、自分が絶対にできると思った事しか約束をしない。だが、それを信じてくれとは言わない」
「……いえ、あなたは自分の言葉をやすやす曲げる人ではないことは分かりました。だからこそ、さっきの言葉は信頼するに値すると思います」
……やはり、天才軍師の名は伊達ではない、か。
「朱里ちゃ〜ん」
思っていた以上に話していたようで、鳳統がこちらに戻ってきてしまった。
「朱里ちゃん、ご主人様が呼んでいるよ?」
「うん、ごめんね。私が呼んでおきながら……」
鳳統と話をしているその様は、年相応の少女の物だ。さっきまでの表情とはまるで別物だ。
「それじゃあ、鈴々ちゃんを呼んでくるから、雛里ちゃんは玄輝さんと一緒に来てね」
「ふ、ふぇぇ!?」
顔を真っ赤にした鳳統を残して、孔明は張飛がいる方へ走って行ってしまう。
「鳳統」
「ひゃ、ひゃい!」
突然呼ばれた事に驚いている鳳統に小さく笑いながら、俺は彼女に話しかけた。
「そういや、鳳統は何で力のない人が悲しんでいるのが許せないって思ったんだ?」
「それは……」
鳳統は一度目を瞑って、再び開くと、その理由を語り始めた。
「わ、私、一度、水鏡先生や朱里ちゃんたちと、あの、賊に襲われた村にいったことがあるんです」
「何でまたそんな危険な事を……」
「ほ、本当は、地図と実際の地形を見比べるってことで行っていたんです。でも、その途中で……」
「その村を通りかかった、と」
コクッと頷いて、話を続ける。
「たくさんの人が泣いていました。だからその時、許せないって思ったんです。力がないだけで、あんなに悲しんでしまう人がいる、そのことが許せなかったんです」
その目に宿る光は、関羽たちと同じだった。その力強さは、劉備とはまた違った儚さを持っているように感じた。
(こりゃ、孔明の気持ちもわかるな)
彼女もその儚さに気が付いているのだろう。だから、それを守ろうとして……
「ふっ」
なんだかんだで、似た者同士かもしれない、な。
「? どうしたんですか?」
「なんでもない。北郷の元へ行こう」
そういって歩き出そうとした時だった。
「あ、あの!」
「どうした?」
「そ、その、私の事は、ま、真名で呼んでほしいでしゅ!」
顔を真っ赤にしてそう言ってくれる鳳統だが、それは……
「……すまない。それは、今の俺には出来ないんだ」
「え……」
一気に絶望に染まる表情。
「いや、お前さんが悪いわけじゃないんだ。俺に問題があるんだ。劉備達の事も真名で呼んでいないだろ?」
「あ……」
「そういうことだ。だから、悪いんだが、今は呼べない」
「……でも、今はという事は」
「……いつか、俺の問題が解決した時まで、預からせてもらえないか?」
「……はい!」
雪華とはまた違う眩しい笑顔。その笑顔は、俺に孔明の願いを無碍にしないようにしようと思い直すには十二分だった。
鳳統に背を向けて歩き出すと、彼女は俺の一歩後ろに着いて一緒に歩いていく。
さぁ、もう一度、戦闘のシミュレーションをしよう。誰も悲しませないために。
〜開幕直前〜
敵陣へめがけ、威風堂々と進む俺達に、斥候からの情報が集まってくる。
「前方の黄巾党陣地に動きがあります!」
その情報を聞いた北郷は前線へ出る俺達に向き直る。
「愛紗! 鈴々! 玄輝!」
「御意! 全軍、戦闘態勢! 作戦は先ほど伝えた通りだ!」
「まずは、敵の初撃をいなしながら、隙を見て転進! その場から後退するのだ!」
「ここより二里先に谷がある! そこへ着くまでは極力戦闘を避けるんだ! 各員、指示を決して聞き逃すんじゃないぞ!」
『おうっ!』
「これが初陣の人もいるだろうけど、みんな、頑張ろう! 目の前の黄巾党をやっつけちゃって、みんなで平和な世界を作っちゃおう!」
『おおおおおおおおぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーー!!!』
六千人の雄叫びは否応なしに興奮を呼び覚ます。昂る心は恐怖を打ち消して、前へ進む原動力となる。
「敵陣開門! 黄巾党、来ます!」
「行くぞ!」
「御意! 勇敢なる戦士たちよ! 我に、続けぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!!」
関羽の雄叫びと共に兵たちが地響きを立てながら猛然と進んでいく。そんな動きに呼応するかのように前方から土煙が上がってくる。
やがて、その二つの塊は、激突した。
あとがき〜のようなもの〜
え〜、どうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ、風猫です。
いよいよ劉備陣営だけでの黄巾戦が始まります。にしても、なんでばせそんさんは劉備をあんな性格にしたんでしょうか?
史実やら、三国志演義の劉備はあんまり知らないんですけど、もうちょっと性格を近付けてもよかったのではないか、と思うんですよ。それに、剣の腕も悪くなかったと聞いていますし、その辺も近づけるべきだったのではないかと……
まぁ、印象に残りやすい性格であることは間違いないので、そういった意味では「目論見どうり!(どやぁ」ということなのでしょうか? う〜む…… いや、それとも北郷がいるからあの性格に? ぬぬぬ……
さて、次回は戦闘メイン回です。でその次には……
てなわけで、何かありましたらコメントの方にお願いいたします。
また次回〜
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白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話 真・恋姫†無双の蜀√のお話です。 オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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コメント | ||
親善大使ヒトヤ犬:この物語に、おこぼれなどありません! 彼らは自分で掴みとるのです!(風猫) naoさん:う、う〜ん、まぁ、NTRはないことだけは言っておきますw(風猫) ツナまんさん:おっふ!? すぐに修正しますぅ〜! 申し訳ないです! 報告、どもです!(風猫) ↓玄輝「一人くらいおこぼれくれよ、フヒーヒW」(親善大使ヒトヤ犬) なんか一刀より玄輝がもててる!NTRか?とられないよう頑張れ!一刀!!(nao) 風猫さん!大変だ!前回も15で今回も15になってた! で、話変わりますが玄輝の抱える問題ってのがなかなか気になりますねぇ。(ツナまん) |
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