真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 19 |
近くの邑から義勇兵を集めたり、曹操軍からの補充兵を貰ったりして兵の補充を行った後、占領した陣を放棄して、新たな目的地へと移動した。
その目的地は冀州だ。どうやらそこに黄巾党の本隊がいるらしい。
「ぁ〜、すっきりしねぇなぁ」
周りに聞こえないようにぼやいたつもりだったのだが、どうやら近くにいた関羽に聞こえてしまったようだ。
「どうされたのですか?」
「……いや、なんでもねぇよ」
とは言ったが、関羽は納得してない表情で話を続けた。
「では、さっきから何故そんな浮かない顔をしているのです?」
「……そうか?」
「ええ。皆が心配していましたよ?」
「ぬ」
そこまで顔に出ていたのか? 頭を掻いて俺はそれに答えるべきかどうか、若干悩んだが、言わない事に決める。
関羽にとって劉備は柱ともいえる。柱が揺らげば当然、自身も揺らぐ。俺のせいで関羽が揺らぐのは、望むことじゃない。
「たいしたこっちゃねぇよ。雪華をこれからどうするかを悩んでただけだ」
そこで話を切ろうと思ったのだが、彼女はそれをさせなかった。
「……嘘が御下手ですね」
「ん?」
「あなたがそんな表情をし始めたのはここを出立する少し前、桃香様が話し終えた時からです。おそらく、桃香様の言葉に何か引っかかる事があったのではないですか?」
……まったく、ここまで読まれると、俺がとんでもない未熟者じゃないかって疑いたくなるな、ホント。
「……そんなところだな。まっ、それはおいおい自分で決着を――――――」
「まったく、少しは我らを信用してくれてもいいのではありませんか?」
「……信用しているぞ?」
「いいえ、あなたは心の奥で我らを信用していません」
そういった、彼女の表情は、寂しげだが、怒りが見えた。
「一人でやるというのは、それを他人に任せられないということです。もちろん、そうしなければならない事もあるでしょうが、でも、玄輝殿は違う」
「…………」
「あなたのは他人が信用できないから一人でやろうとしている。私にはそう見えるのです。だから、自身の事も話してくださらない」
「その言葉からすると、雪華は話したのか?」
「……ええ。正直、怒りを隠しきれませんでした。そして、あなたの優しさも知りました」
あいつ、余計なことまで……
「……優しくなどない。約束を果たしているだけだ」
「雪華の姉とのですか?」
「ああ。約束した以上は、絶対に破るわけにはいかない」
しかと交わしたわけじゃない。でも、雪華を引き取った、それがその約束を受理したことと変わらないと、俺は思っている。ならば、“お願いします”と言われたならば、俺が死ぬまで、守り続ける。
「それだけ、とは思えませんが?」
「……どう思うかはお前の勝手だ」
「では、優しい人だと思うことにします」
……たく。
「でも、聞けばあなたは自身の過去の話を雪華にすら話してないと聞きました。そういう意味では、雪華すら信用してない」
そこで関羽は俺を見る目を変える。それは、どこか訴えかけるような眼だ。
「……なぁ、関羽」
「なんですか?」
「お前は、劉備達に知られたくない、話したくないことはないか?」
「それは……」
「一つくらいはあるだろ?」
「……ええ」
「それは、アイツらを信用してないからか?」
「…………」
「違うだろ? 恥ずかしかったり、悲しませたくなかったり」
そこで俺は、一度言葉をきる。
「……思い出したくもない、とかな」
「玄、輝殿?」
「それに、俺が一人でやろうとしているってのは、信用してないワケじゃない。俺自身がそうしたくないと思っているからだ。俺の問題に巻き込みたくないと、な」
それを信用してないというのなら、そうだとしか言えないが、と付け足して口を閉ざした。
関羽からの言葉は返ってこなかった。それを確認して、俺は少しだけ歩を速めて離れようとしたが、そこで関羽からの言葉が返ってきた。
「……あなたの過去に何があったのですか?」
「……話したくもねぇ何か、だ」
それだけ言って、俺は完全に関羽から離れた。
だが、話せない事がこんなにももどかしく感じることは、初めてだった。
(……ちっ!)
どうにも、調子が悪いな、オイ。
俺は自身の気持ちの整理を強引にしようとするが、結局することが出来ず、苦肉の策として頭を空にして、戦いに臨むことにした。
〜戦場:曹操共同戦線・玄輝〜
「どうすりゃいいんだよ……」
戦う前だというのに、俺は思わずそんな言葉を口にしてしまった。だが、俺と同じ状況なら誰でも言いたくなるだろうと確信を持って言える。
なぜなら、囮として戦う羽目になったのだ。しかも、こちらよりも兵が五千近く多い相手に、だ。さっきと比べても千も多くなっている。さらに言えば、いくら数が少ないと言っても、中心部隊が相手だ。さっきの相手よりも強い可能性が高い。
(どう立ち回る?)
号令が出ると同時に突撃、俺達が敵を引き付けている間に曹操の特殊部隊が敵の兵糧焼くって作戦だが、どう動けば被害を最小限にできる?
(隊を拡散させて遊撃? いや、それじゃ駄目だ。常に動き回るべきか?)
だが、それまで隊の面々の体力が持つのか? 前の戦いからそんなに時間は経っていない。俺の隊は一人も欠けてないから、体力的には他の隊よりも疲れているのは明白だ。となればそれも良い手とは言えない。
「くそっ……!」
まだ兵を率いた経験の薄い俺に今回の戦いは少々荷が重すぎる気がしてならない。だが、やらねばならない。
「御剣様」
と、後ろから声がかけられたので振り向けば、そこにいたのは黄仁だった。
「そろそろ号令がかかるようです」
「……そうか」
「……御剣様、我らの事はお気になさらないでください」
「黄仁?」
「御剣様が我らの事を気にかけていらっしゃるのは、皆、気づいております。ですが、そのせいで御剣様が傷つきでもすれば、それこそ我らは死んでも死にきれませぬ」
そこまで言った黄仁は何とも力強い笑顔で続きを紡ぐ。
「ですから、思うように動いてください。我らはたとえ死してもその背中を追い続けましょう。我らの命を救ってくださった、その背中を見失うことなど、決してありえませぬ」
気が付けば、俺の隊のメンバーが全員、黄仁と同じような顔で俺を見ていた。
「……たっく、てめぇらは」
だからこそ、死なせたくないというのが分かってないのだろうか? だが、ここまでの決意をしているのならば、それを無碍にはしたくない。
「……常に動き回るぞ。仲間を一人たりとも死なせるな!」
『おおぉぉぉぉぉぉぉ!』
全員が力強い返事を返す。その様は俺の心にも火をともした。俺もこいつらを出来る限り守る、手が届くのならば、決して死なせない、と。
その決意をした時、号令が鳴り響き、俺達は敵めがけて駆け出した。
「敵、突出!」
「臆するな! 俺に続け!」
『応!』
敵陣の先頭が俺の目の前に迫ると、勢いのままその剣を振りかぶる。が、その前にその体を二つの肉塊に分けて、落ちてきた上半身を蹴飛ばし、そのまま前進する。
「こ、こいつまさか、黒死神か!?」
「てめぇら! こっちこい! 人数で押しつぶすぞ!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ! こっちも手一杯だっての!」
飛び交う敵の雑言を聞きながら手短な敵を斬り裂いていく。
「御剣様! 張飛様の所に敵が集中しています!」
「張飛の所に行くぞ! 遅れるんじゃねぇぞ!」
隊の面々の返事を聞く前に俺は左へ方向転換し、張飛の元へと向かう。暗器を投げつけ、刀で斬り裂き、十手で首を砕く。そうして張飛の隊の元へたどり着くと、その隊の長が十人くらいの黄巾党に囲まれていた。
「張飛!」
俺はすぐに暗器を三つ投げつけ、敵の頭に命中させる。そこで敵に隙が生じたのを張飛は見逃さない。
「にゃにゃにゃ〜!」
気の抜けそうな声ではあったが、その動きはまさに見事と言ってしまうほど鮮やかだった。横薙ぎの一振りで三人を両断し、刃を返した蛇矛で後ろの敵を突き、上に向けて斬り裂くと、その勢いのまま反対側の敵を今度は上から半分にしてしまう。そして、止めと言わんばかりに下から斜めに蛇矛を振り、残りの二人を絶命させる。
「にゃ! 助かったのだ!」
張飛の礼に右手を上げてこたえると、近くでやられそうになっている兵を助け、刀越しに確認した背後の敵を袈裟に斬り伏せる。
「セイッ!」
後ろでは黄仁が敵を斬り伏せたところだ。だが、その背後に黄巾が映りこむ。
「黄仁! 後ろだ!」
「!?」
慌てて後ろへ向けて剣を振うが、その剣が届く前に俺がその敵の首を切り落とした。
「す、すみません!」
「気にするな! 戦況は!?」
「は、はっ! 我が軍は押しているようです! ですが、このまま戦い続ければ……」
「くそ! まだ火の手は上がらねぇのか!?」
「まだ、いえ! 陣から黒い煙が!」
よし! やっときたか!
「お、おい! あれなんだよ!」
敵の方も気が付いたようで、動揺が一気に走る。この機を逃すわけにはいかない。
「行くぞ! 怯えた敵なぞ、俺達の敵じゃねぇ! 突撃ぃ!」
『うぉおおおおおおおおお!!!』
戦闘を駆ける俺についてくる仲間の声を背に、目の前の敵を片っ端から叩き斬っていく。そして混乱していた敵も、こちらの後曲が動いたのを察知したのか、逃走の体制へ入っていく。
「追撃をかける! 一人たりとも逃がすんじゃねぇぞ!」
そして、その後、曹操の所も加わって追撃し、俺達は勝利を収めることが出来た。
〜終結・2〜
「玄兄ちゃ〜ん!」
本陣へ戻る途中、関羽と張飛の隊と合流した俺は、歩を合わせて一緒に戻る。
「お疲れさん、そっちはどうだった?」
「余裕だったのだ!」
にしし、といった感じに笑う張飛だが、それに反して、関羽の顔は少しだけすぐれないように見えた。いや、たぶん気まずいのだろう。かく言う俺も若干気まずかったりする。
「んにゃ?」
そのことに気が付いたのか、張飛が俺達を交互に見る。
「愛紗も玄兄ちゃんもどうしたのだ? 全然嬉しそうじゃないのだ」
「そ、そんなことはないぞ?」
なんて、言いはするものの、関羽が嘘を吐いているのは見え見えだった。なら、下手に隠してもしょうがない。
「……ちょっと、出陣の前に色々な」
「喧嘩したのかー?」
「そこまでじゃないさ。ただの見解の相違だ」
「…………」
だが、少しだけ黙った張飛は突然プンスカと怒り出してしまった。
「喧嘩は良くないのだ! すぐに仲直りしなきゃダメなのだ!」
「いや、だから喧嘩じゃ――――――」
「ダメなのだ!」
聞く耳持たず、問答無用っすか……。俺は小さくため息をついて口を開いた。
「……すまなかったな」
「え?」
驚いた声を出した関羽の顔を見ずに俺は話を続ける。
「その、少し口調もきつかったかもしれん」
「あ……」
それだけ言うと、何故だか小恥ずかしくなって足早に立ち去ってしまった。でも、戦う前と違って、関羽はそれについてきた。
「……言うだけ言って、立ち去られては私が何も言えないではないですか」
「うぐっ」
「……私も、少し言い過ぎたかもしれません。でも、心配だったのです」
「……心配?」
そこで俺は足を緩める。そこで見えた関羽の顔を、俺は何故だか美しいと思ってしまった。寂しげな表情が、そう見えてしまった。
「……いつか、雪華すらも置いて、どこかへ行ってしまうのではないかと」
「……たっく」
どっちの方が信用してないのやら。
「俺は約束を破ることは絶対にしないって言わなかったか?」
「そうですが……」
「あ〜……」
しゃあない、か。
「……ほれ」
俺は懐からある物を取り出して、関羽へ軽く放り投げた。
「こ、これは?」
何とか受け取った関羽の手の平には、蒼翡翠の勾玉が付いた紐の腕輪だった。
「……俺が持っている物で一番大事なヤツだ。お前に預ける」
「そんな大事な物を? で、でも」
「それをお前が持っている以上、俺はどんな結果になろうともお前に会う。別れの挨拶をしないで立ち去る事なんざありえない。それを今は信頼の証だと思ってくれねぇか?」
「玄、輝殿……」
もう一度何かを言おうとするが、それを押し込めて一度胸の辺りで強く握りしめると、
「わかりました。この腕輪、確かにお預かりします」
まるで、月下美人のような笑顔でそれを受け入れた。
「あ……」
不覚にも見惚れた。なんていうか、見惚れてしまった。だが、それも一瞬の事で、
「あー! 愛紗だけズルいのだー!」
張飛の駄々っ子モードが発動して、それをなだめることに頭がシフトしてしまう。関羽も協力して、何とか治めたものの、あの時の笑顔だけは、なぜだか写真のように記憶に焼き付いて消えなかった。
あとがき〜のようなもの〜
はいどうも、おはこんばんにゃにゃにゃちわ、風猫です。
てなわけで、黄巾第2戦でした。ちょいと短いのはご愛嬌ということで一つ。
で、キャラ設定についてなのですが、これ以上意見はないだろうなということで、意見を参考にして、やらないことに決めました。
まぁ、この先(あるのか?)で要望の声が強ければ、といった感じでしょうか?
え〜では、何かありましたらコメントの方にお願いいたします。
また次回〜
説明 | ||
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話 真・恋姫†無双の蜀√のお話です。 オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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コメント | ||
naoさん:まぁ、そういうことで一つw(風猫) 一刀ぉ〜愛紗持ってかれるぞwまぁ主人公が玄輝だから仕方ないのかw(nao) 人吉善吉さん:フフフフフ…… さてどうなるでしょうね…… ちなみに、作者も愛紗のデレは好みの部類です!(風猫) これは……玄輝×愛紗フラグかたったか?愛紗好きな自分としては愛紗のデレが見たいです(*´∀`)(人吉善吉) |
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