真恋姫無双〜年老いてNewGame〜 八章・前中編 |
「あかん!風のほうの陣形が崩れてきとる!どうにかならん!?」
「これ以上は無理だって!桂花の方だってカツカツなんだ、いまのままもうちょっと耐えてもらうしかない!」
「そんなこというたかてしゃーないやろ!そんなことはわかっとんねんて、無理なとこ何とかするんが隊長の仕事やろ!?」
「無茶言うな!残ってる兵士全部突っ込んでも間に合わない!もとから数が少ないんだからこれ以上援軍は出せねぇよ!」
現在残っている兵力全部足しても到底劉備軍のそれには届かない。
数で負けることは承知で戦闘を始めたといってもこれでは春蘭たちが戻ってくる前に全滅だ。
精鋭で通る曹魏の軍隊でも数の暴力にはなすすべがなかった。
「華琳たちの方はどうなってる!?」
「もちろん押されとるよ!やっぱ兵が足らんのが響いとるみたいや!」
「やっぱりこっちから攻めるってのが無茶だったんだ!」
守っていては覇王の名がすたるとか言っていたけど、土台無理があったようだ。
守る姿勢を潔しとしないってのは分からないでもない。
しかしこの場合、そんなことはもはや結果論だ。
出撃前に、俺の首をかけてでも止めなければならなかったということか。
「畜生!他の連中はどれくらい持ちそうだ!?」
「桂花や風んとこはもうちょっとだいじょぶそうや!いっちゃん危ないんはやっぱ大将んとこや!」
華琳がいま相手にしているのは関羽と公孫賛の混成部隊である。
突出した関羽を公孫賛がうまく守っているため華琳も攻めあぐねているようだ。
もちろん春蘭や霞がいればそれを打ち崩すのは造作も無いことであろう。
季衣や流琉さえいれば華琳の安全も保障される。
凪や沙和がいればそもそも数の暴力に負けるような事態にはならない。
しかしいまはいない。
だから関羽を打ち崩すのは容易いものではない。
「ぐっ…このまま終わるってのか…?」
かくいう俺も戦場のプレッシャーで動けない。
昨日まで隣で笑ってたやつが傷つき、倒れていく。
さっきまで生きていたやつが死んでいく。
いままでいかに俺が守られてきたか、今更になって実感する。
本当の戦場に立って初めて実感する。
何が隊長だ。
何が支えるだ。
俺は現実を、目の前の戦いを見ていなかった。
戦の火の及ばぬ本陣で部隊をまとめているだけで、
そこは死の匂いのしない安全な場所だったのだ。
それがどうだ。
後曲で、ただ前線に兵を送るだけが満足に務まらない。
矢を受けて仲間が死んでいく。
同じ釜の飯をくった連中が倒れて良く姿に足がすくんでいる。
次は自分が倒れるのではないかという恐怖に耐えきれないでいる。
どうしたらいい。
俺はなにをしたらいいんだ。
流石に兵たちにも疲れの色が見え始めている。
焦燥しきった俺の中途半端な指示が、兵士たちの疲労をより大きいものにしているのだろう。
その思考に至ったとき、何か引っかかっり感じた。
なんだ、なにがおかしい?
兵たちがつかれている?
違うそんなことじゃない、持った大事な何か。
もっと大切な言葉だったはずだ。
考えろ。
考えろ思い出せ。
何が、違和感の正体はなんだ。
俺の行動の何がおかしい。
疲れ?恐怖?
そんなことはいままで何度もあった。
死にたくない。
死にたくないから、いまなにをしている?
戦い。
本陣。
後曲。
華琳。
「中途半端はこの曹孟徳が許さないわ。」
そうだ、華琳だ。
華琳に言われたんだ。
あぁ、そうか
俺は馬鹿か。
約束したんだ。
その背中を支えると。
死ぬ気で支えると。
この戦に、命を賭けると。
そう約束したはずだったのだ。
しかし今の自分はなんだ。
友人が傷つく姿に恐怖し。
同僚が倒れる姿に畏怖して。
部下が死んで良く姿に動揺している。
ただそこにいるだけで。
油断すれば「逃走」の二文字を選択しそうになっている。
そんなことでは、と踏みとどまるのに精一杯だなんて。
そうだ。
情けない。
今の俺は、それでいいのではないか。
華琳がそういったではないか。
それが半端だというのだ。
一体俺はどうしたい。
どうすればいい。
「どうしたいもこうしたいもないでしょう?」
それが聞こえたのは突然だった。
「そして閉じられた外史の行き先は、ひとえに貴方の心次第。
さぁ。」
その声はいつか聞いた声。
次の瞬間だった。
脳みそだけ引きずり込まれるような感覚に襲われた。
目の前が真っ暗になる。
いや真っ白だったのかもしれない。
なにを見たのか定かではない。
これは夢か?
時間の流れはよくわからなかった。
ただ一つだけ見えたものがあった。
それは駆け出している自分の姿。
最前線に向かって走り去る後ろ姿だった。
しかしその姿には違和感がある。
見たことがある様でいて、初めて見るような感覚。
その姿は昔から知っているようで、
その行動はまるで俺が予想出来ないことのようだった。
頭では理解できない、でも体全体は動き出している。
ただわかった。
それは自分の姿だと。
そして気がついた。
あれは昔の自分、若かった頃の自分だということに。
なんだ、あの頃の俺が出来ているのか。
まだ、ただまっすぐだった頃の自分じゃないか。
あいつにできるんだ。俺だってできるはずだ。
薄らぼんやりした視界の中で見たのは、おそらく華琳を助けに行くのであろう自分の後姿だった。
しかしこの感覚、どこかで味わったことがあるような…
どこだっけか?あれは確か…
いつ経験したか分からないこの感覚、しかし確実に一度体験している。
そうあれはたしか、俺がこの世界にくるちょっとまえ…
それは突然、また何かに吸い込まれるような、逆に押し出されるような力を全身にうける。
いや実際受けたかどうだかはわからないけど。
唐突に視界が元に戻った。
すべてが吹っ切れていた。
これはむしろ開き直ったとでもいうのか。
半端は許されないのなら、もういっそ逃げちまえ。
へんに粘るから状況は悪くなるんだ。
さっきまで、なにを考えて、なにを見たかはよく思い出せない。
ただ、脳天から一本の棒を叩き込まれたかのような感覚を覚える。
芯が通った。
何がプレッシャーだ。
俺に悩んでいる暇なんかない。
そうだ、「働かざるもの食うべからず」じゃないか。
今俺がすべきことをしなければ。
俺にしかできないことをしようじゃないか。
休むに似たような考え事をしてると真桜が声を張り上げる。
「隊長、なにぼさっとしとんねん!はよ前線に兵士送らんととええ加減突破されんで?」
「ん、あぁそうだな、そりゃいけない。じゃ〜、撤退するか!」
「急になんや隊長、さっきまでオロオロしとった癖に!
って、撤退ってうちら勝手に戻ったらそれこそ大将に殺されんで!?」
「全員で戻ればいいさ。
殺されるにしても華琳にやられんなら本望だっつーの。
知ってるか真桜、赤信号もみんなでわたったら怖くないんだぜ?
なに、どうにかなるって、大丈夫だよ。桂花たちにも伝令を出せ、一旦城引こう。」
「せやかて両翼はともかく、いま連中に背ぇ見せたら大将確実にやられんで!?」
「だからって前線に出せる兵士なんざおらんだろうに。
皆で戻ればいいって。両翼引かせるよう指示出しといて。
ケツは俺が持つ。ちょっとは隊長に任せろ。
それにな、くくっ、俺達が仕込んだ北郷隊だぜ?逃げ足だけは早いんだ。」
「出しといてて…ってちょっと、隊長!どこいくねん!?」
「そりゃ決まってるだろ?ケツまくりに行くんだよ。
華琳連れて戻らなかった意味ないし、あいつが後ろからの伝令なんて聞く訳ないだろ?
だから、ちょっといって連れてくる。」
「はぁ?っておーーい!隊長ーーーー!あぁいってもうた…
あぁもう!了解、了解や!伝令!両翼に撤退の旨指示出して!反対したらブッちめてでも連れて戻り!
んで戻ってき次第本隊の援護や!わかったらはよいき!
……隊長、絶対死んだらあかんで。」
「ところで李典殿…」
「なんやまだ居ったんか!はよ撤退のこと伝えぇいうたやん!」
「いえ、荀ケ殿と程c殿のところにはも伝令を出したのですが…………」
「…なんやと?それほんまか!?
ったく隊長ほんま”持っとる”な。ならそっちにはな………」
…
………
………………
曹操の状態を端的にかつ的確に表すのであれば「焦燥」の二文字がふさわしい、そんな戦況であった。
この時期に戦を仕掛けさせたのは他でもない華琳自身であり、苦しい戦いであるということもわかっていた。
救援を待っての、援護が遅れて到着をすることを前提とする戦いを、華琳は良しとは出来なかった。
覇道を歩むが上でそのような弱気な姿勢は天が許しても華琳自身が許せるものでない。
だから前線に自らを置き、兵を奮い立たせ、打ってでた。
曹孟徳を前に主力を出さないほど諸葛亮は愚かではないはずである。
そして予想通り効果はあった。
前線には関羽、そして両翼に趙雲と張飛が配置されている。
この配置であれば、こちらは敵陣深くまで斬り込むことは出来ずとも、引きつけて敵の兵力を削げばよい。
そうであるならば、こちらとしては相手の出鼻をくじければ重畳だ。
隙を見てこちらの射程までうまく誘導できれば、相当な痛手を与えることが出来る。
ハズであった。
しかし…
「誘導されていたのは私の方だった、というわけね…」
気がつけば右翼とも左翼とも切り離され、戦線は間延びしている。
前線に配置された関羽を公孫賛が援護する。
挑発に乗りやすい関羽を抑制し、押しとどめている。
これが世に聞く白馬陣。侮っていた。麗羽に押しつぶされる弱輩かと思っていたがなかなかどうしていい動きをする。
そして目の前には関雲長。劉備の義兄弟にして蜀の筆頭である武官がそこにいた。
「あぁ、そういうことだ。観念する気になったか、曹孟徳。」
「この程度で観念出来るほど、我が覇道は軽くはないの。それよりもますます貴方が欲しくなったわ。
どう?私のものにならない?」
「強がってはいるが、この状況、一体どうするというのだ?」
私は本気のつもりなのだけれどね…
さて、まともに撃ちあったらあと数合もたない、か…
覚悟を決めるしかなさそうね…
絶を構え直し関羽を睨む。
ここで引いては覇王としての威厳は保てない。
だったら…
せめて散り際だけでも覇王らしく。
刺し違えてでも己が意志を貫き通す!
「つれないのね。
そうまでいうのならば、あなたを倒し、我が刃必ずや劉備の元へと届かせてみせましょう。
来なさい!関羽!!」
「減らず口を!」
もし仮に、華琳がいつもの余裕を持って関羽との戦いに臨んでいたのならば、結果はもしかしたらまた違ったものになったかも知れない。
しかしこのとき華琳は少なからず焦っていた。
つまり、心に余裕はなかった。
だからここでは仮に、ということをことさら強調することになるが、
仮に華琳が万全の状態であったのならば、注意深くそれを観察しただろう。
急に目の前に現れた、果物大の小さな球をよく見ただろう。
だが前述の通り、華琳には余裕がなかった。
だから関羽と打ち合う一瞬前に、
絶と青龍偃月刀が打ちあい火花を散らす一瞬前に目の前で起こったことに、
身の回りで起こった変化に反応出来なかった。
それどころか、あろうことか、目をつぶってしまった。
のちの世で武神と呼ばれる関羽との戦闘の最中に、
目を瞑ってしまったのだ。
一方で関羽はそれを見た。
視界の端にそれを捉えて、なおかつ華琳を見据えていた。
これから青龍偃月刀を振り下ろし、引導を渡そうという相手を見逃してはならない。
だから関羽は目を閉じなかった。
自らの姉である劉備の悲願の達成のために。
この戦の勝利のために。
関羽は前を見据えていた。
目の前は
真っ白になった。
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オッパッピーよりラスタピーヤのほうが好きです。 | ||
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コメント | ||
>スターダストさん コメントありがとうございます。イメージとしてはそのくらいだと思います。(たくましいいのしし) 果物大の球?・・・結構大きいのな、直径5〜6cmぐらいの大きさかな?(スターダスト) |
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