真恋姫無双〜年老いてNewGame〜 八章・中後編
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華琳達の視界を奪ったのは、一発の弾丸だった。

 

撃った弾は所謂閃光弾。

現代(と言ってももともと俺こと北郷が生まれた時代)でいうところのスタングレネードだ。

なぜそれがこんな時代にあるのかというと、大方の予想通り、我が部下きっての器用さん、真桜ちゃんが作ってくれたのである。

その弾丸を打ち出したのは今俺の手に握られている一本の銃。

それは董卓連合の時についに日の目を見ず、春蘭に問い詰められたあの箱の中身であり、先日真桜とムダ話で一日潰したあの兵器だ。

この時代の飛び道具では大した飛距離を出せずに秋蘭に笑われて、それがあまりにも悔しかったので真桜に作ってもらった兵器であり、この時代の火薬は

 

高価であり、薬莢に込めてたった一発の弾丸を飛ばすだけみたいな豪華な使い方はできないと笑われながら真桜と開発したものである。

形状は戦国時代の大筒に近い。

ただあそこまで大掛かりなものではなく、手で持ち運べる程度の大きさにしてもらっている。

そして一般的に銃身が一本であることが多い大筒に二本の銃身をつけて弾込めの隙を若干減らした特別製だ。

閃光玉や煙幕弾など変り種の弾を発射出来るように作ったのは、ギャグで話した忍法を真桜が面白がった結果だ。

効果も冗談みたいなもののはずだった。

閃光玉と言っても光はせいぜい打ち上げ花火くらいなもので、目を瞑ってしまっては音で多少ひるむ程度の効果。

「こんなものつかえるのか?」

「まぁないよりマシやろ。」

というのが開発当初の俺と真桜との会話だった。

 

だから撃ったのは本当にただの悪あがきであったし、間に合うのに精一杯で状況もろくすっぽ確認せずに撃ったから、俺は目の前の状況に驚いていた。

 

華琳は耳を抑えて怯んでいる。

そして関羽は放心していた。

 

目の前で急に強烈な発光と耳を劈くような破裂音がしたのである。

全く想像だにしない衝撃を受けて両雄は状況を把握出来ずにいた。

好機だ。

華琳を無事に逃がせる隙は、後にも先にもこの一瞬だろう。

なんせ相手は後の世で武神と呼ばれた猛将、関羽だ。

 

「前線部隊に言い渡す!全軍撤退!城に戻って体勢を立て直す!速やかに兵をまとめて城まで引き上げろ!

 あとそこの二人は華琳を連れて戻ってくれ!いいな!」

「「「「御意!!」」」」

「俺はここでちょっと時間を稼いでから戻る!華琳には後で説教だ。頭を冷やせ!お前はまだ負けてないんだ!

 華琳!城で待ってろ!」

 

おそらく俺の声も爆発の中心にいた二人には聞こえてないだろうのだろう。

こちらの声が聞こえていないのならば、今はそれは好都合である。

華琳は何かを騒いでいるが知った事ではない。

俺はあいつを支えると約束したんだ。

だからここで死なせるわけにはいかない。

「しっかり連れて戻れよ…」

 

約束通り、背中は任せてもらおうか。

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関羽が放心していたのは一瞬だった。

 

得体の知れない物を観察しすぎたためにその発光で一瞬、怯んでしまった。

目は…潰れてはいない。

耳は…もう治った。

そうだ、曹操は…!

目の前に、もうあと何合かでその首を捉えるところまで追い詰めていたのだ!

曹操とてあのような光の前では同じようになるはず。

少なくとも自分が見た限り、回避行動はとっていなかったはずだ。

ならば。

条件が同じであれば曹操もそこに怯んでいるはず。

その頸を上げるには絶好の機会だ

しかし…

無理に目を開け、そしてその目を凝らして見た先に広がっていた光景は、我が目を疑うものだった。

 

目の前に立っていたのは、曹操とは似ても似つかない、変わった風体の男だった。

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曹操が関羽から意識をそらしたのは、それこそ瞬きをするかしないか、その程度だった。

 

得体のしれないものに対して目を瞑る、という戦場ではありえない行為も、この時ばかりは吉と出た。

関羽はおそらくそれをまともに見たのだろう。

ならばここで一気に勝負を…

 

しかしそれは出来なかった。

部下の二人が両脇を抱え後退し始めたからだ。

おそらくさっきの弾が炸裂した時の音のせいだろう、耳が聞こえない。

だからその二人がなにを言っているか聞こえない。

 

「放しなさい!私は撤退の命など出していないわ!劉備相手に背中を見せるなんて許されないのよ!」

 

ちゃんと発音出来ていたかは分からないが私はそう叫んだはずだった。

 

私を抱えた二人の部下は、止まらなかった。

相変わらず耳は聞こえない。

だからその男がなんと命令したのかは最後まで聞こえなかった。

 

ただ、理解はできた。

 

私と関羽との間に立つその男が私を見て言った言葉は、何故か聞こえないはずの耳に届いていたから。

 

「頭を冷やせ、お前はまだ、負けてないんだ」

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商売の神様、美髯公、偃月刀の名手、武神。

現代に伝わった関羽の称号を並べるだけで、どれだけ役者が違うのかは一目瞭然である。

そして、現実にその名を関し、気品のあるこの少女の纏った空気は常人のそれと別次元であり、

その気合は格別であり、

その気迫は別格であった。

 

「ははっ…春蘭の前ですらこんなに緊張したことはないんだがね…」

組み手で何度か春蘭とは戦っているが…

あれ、本当に手を抜いてたんだな。

 

「さっきの閃光は貴方の仕業か?」

「ん、ご名答。まぁこの状況で俺以外にはいないけどね。」

「確かにそうだな…あぁ、あのときの…

 貴方が噂の天の御遣い、ということなのだな…

 一応聞こう。そこをどいてもらえないか?曹操を追わないとならないのでな。」

「それはできないな。殿がおいそれと道を譲るわけには行かないでしょうが。

 それに関羽、あんただったら道を譲るかい?」

「はっ、愚問だな、御遣い殿、譲るわけがあるまい。」

「ならそれが答えだよ。俺にだって退けない一線はあるんだ。」

「では貴方を倒して押し通る事になるが…よいか!」

「よろしくないけど、でもこの場合そういうことになるんだろうね。

 言っておくが、俺は弱いぞ。ただ、時間稼ぎ位はしないとうちの覇王に怒られちゃうんでね。」

 

自慢じゃないないけど、一般兵にも負けるんだ、と笑いながら、タバコに火をつける。

こちらに来てタバコは手に入らなかったし、華琳に「妖術使いと思われたくなかったらそれをタバコとやらは人前で吸わないことね」といわれていたので

 

、華琳の前以外で火をつけることは殆どなかった。

 

「すっかり忘れてたな…まぁいいか…」

 

指でもんで火を消し、関羽に向き合う。

対する関羽はというと、その光景を見て、唖然としていた。

 

「悪いね。別に何がどうってわけじゃないんだけど一応言っておくと、俺は妖術使いでもなければ凄腕の武官でもないからな。

 通りたければ殺して通っていくといいよ。」

「はっ、冗談を。先程といい今のといい、貴方を警戒しない理由がない。」

「だから買いかぶりすぎなんだって…」

「さらに付け加えさせてもらえば、今しがたの貴方の策はすでに十分効果があった、ということになろうな。

 いまからではもう曹操に追いつくことも叶うまい。」

「なら今回のところは兵を引いてくれるとありがたいんだけどね。」

「それはならぬ。曹操を取り逃がし、そして天の御遣い様までみすみす見逃したとなると私が朱里に怒られてしまうからな。」

「…おいおい、それこそ冗談だろ?こんな役立たず連れてったって怒られるだけだぞ?」

「ご謙遜なさるな。貴方の力、我等が軍に貸す気はないか?」

「それもさっきと同じ答えを返さないといけなくなるな。

 あんたなら、力を貸すかい?」

「だろうな。貴方ならそう答えると思った。」

「そりゃなぁ。そうでなかったら今頃とっくに降参してるさ。」

「確かにそうに違いない。しかし不思議なものだな。貴方と話していると妙に落ち着くのだ。

 もし曹操のところではなく我等の元に貴方が遣わされていたならば…」

「それはまたきっと、別の話だろうな。」

「残念だ…では、参る!」

 

そう言い放つと同時に、関羽は動いていた。

一足の元に間合いが詰まる。

反応はギリギリできた。

上段から振り下ろされる偃月刀をなんとか銃身でいなす。

まともに打ち合っては、いかに真桜の作品であっても俺の腕のせいですぐに潰れてしまう。

逃走用に残してある弾丸も銃身が潰れてしまっては意味がない。

だから正面から関羽の斬撃は受けられない。

さらに、今の一撃を受けられたのも関羽がこちらにまだ警戒心を持っており、全力ではなかったからだ。

一合で実力の差は見切られたはず。

長引けば不利なのは明白だ。

たった一撃をいなしただけで腕がしびれているのだ。そう何合も撃ち合えるわけがない。

 

申し訳程度に銃を振るうが、あっけなく空を切る。

 

「確かに、貴方は曹操ほどの武がないようだな。それでどれほどまで耐える気でいるのだ?」

「さぁね、俺にもとんと見当がつかないよ。」

 

くそっ…どうするか…

 

華琳は逃がした。

あとは俺が逃げ切ればすむ話だが、そう簡単にも行きそうもない。

手はないわけではないが…

 

「どうした?かかってこないのか?」

「そのような目をしている者を相手に迂闊に飛びかかることなどできまい。

 先程から言っているように私は貴方を警戒しているのだからな。」

 

挑発にも乗りはしないか…

あとひとつ、方法はある。

というかそれしかないと言っても過言ではないが…

方法を選んで勝てるような力の差ではない。

春蘭相手とはワケが違うのだ。

挑発もダメ、かといってこのまま逃がしてはくれない。

手はある。

だったらそれを選ばない手はない。

単純な理屈だがそれに伴うリスクもまた、大きい。

はぁ…腹をくくれよ俺。

痛いのは一瞬だ。

 

そして勝負も…一瞬だ。

 

「なら、こっちから行くぞ!」

 

一撃の交差さえあれば良い。

あとは俺の覚悟次第だ。

 

フランチェスカにいた頃慣れ親しんだ竹刀ならばもう少しマシな打ち込みができたかも知れないが、

今手元にあるのは剣として扱うことを一切考慮されていない長銃である。

よってその接近戦での取り回しには限界がある。

刺突や袈裟切りなどでのダメージが全くといっていいほど期待できない鈍器において、渾身の力を込めて振るう方法はただひとつ。

剣道で言うところの逆胴の動き。

もっと分かりやすく言うのならば大型扇風機と揶揄される4番バッターよろしく。

思いっきりフルスイングするすればよいのだ。

 

関羽めがけて一直線に駆ける。

構えた鈍器を思いっきり振り回すためにはそれ相応の溜めが必要だ。

外せば致命的な隙ができるほどの大振りを繰り出すために、左足を踏み込んで長銃を構え、思いっきりブン回した。

外すために、振り回した。

関羽にそんな攻撃がもちろん当たるはずがない。

持っている銃の頑丈さは一合目ですでに把握済みであるため、関羽はその大振りを後ずさって躱すはず。

それを見込んでの一撃。

そして、関羽ならば、その大きな隙を見逃すはずがない。

実際に、バックステップでできた距離をそのまま攻撃の助走にし、再び間合いを詰めてくる。

それの速度は予想を遥かに超えるものであり、以前の俺ならばそれは攻撃がすり抜けたのかと錯覚しただろう。

だが今はなんとか反応出来る。

 

春蘭に感謝しないとな。

 

これを待っていた。

偃月刀の切っ先を外すために、体を半回転させ、もう一度左足に力を込める。

そのままショルダータックルの体勢に移行し、右肩を入れてそのままもう一歩だけ深く踏み込む。

関羽の体を捉える必要などない。

ただ致命傷だけ避ければよい。

捨て身の覚悟であと一歩、いや、半歩だけ!

切っ先だけ外せば死ぬことはないのだから!

 

関羽は下段に構えられた偃月刀を斜めに振り上げる。

その鋒を躱すように前に飛び、柄に体をぶち当てた。

 

はずした!

 

当然、体を真っ二つにせんと振られた一撃だ。

柄で受けても衝撃は生半可なものではない。

俺の体はホームランボールのように吹っ飛ぶ。

 

だが、ちぎれている訳ではない。

偃月刀の柄の部分に打ち返された形になったが、なんとか目論見通り。

その一撃を受けきった。

衝撃に体は軋むが首と胴の泣き別れということにはならない。

とっさに体をかばった右腕は…折れたかもな…

動かせないならそれはそれだ。

 

さぁ、これでやっと距離はとれた。

 

軋む体に鞭打って、もう一工程残ってる、その作業を終わらせれば俺の勝ちだ。

 

銃を杖替わりに体を反転させて関羽の方を見る。

あちらさんは、こちらに息があると見るやもう次の行動に移っていた。

 

ここまで優勢なんだから当然だな。

だがその蛮勇が命取りだ。

 

動く左手でライターを弄る。

火縄に点火、いそげ、いそげ!

撃鉄を起こす、間に合え!

 

そして杖替わりに地面についていた銃の、引き金を引く。

 

残っている弾はあと一発。

暴発を気にしなくていいこの弾を持って、この戦い、俺の勝ちだ。

 

勝ったらあとは悠々と引き上げるだけ。

そのまま城に戻れば良いだけだ。

 

なんとか、弾も発射されたし、後退すればいいだけ…

なんだけどなぁ…

だめだ。

体が動かねぇ…

 

「なんだ!何も見えんぞ!」

 

あたり一面、真っ白な煙に覆われた。

 

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「クッ…このような方法で身を隠すとは…」

閃光弾といい、この煙といい、人をくったような戦法をとるが…

あの一撃を受けてそう簡単に逃げられるものでもないはず。

曹操を取り逃がした失態をなんとしても取り戻さなければ、陣に戻った時、星あたりに何を言われるか…

幸い先程と違い耳は生きている。

御遣い呼ばれるあの男、気配を消せるほどの腕前ではない。

 

「ならば…そこかぁ!」

 

 

関羽は、感じ取った気配の方向へ偃月刀を振るった。

 

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コメント
>スターダストさん コメントありがとうございます。真桜ちゃん特製の謎技術ですね。原理は自分もよくわかりません。(たくましいいのしし)
火縄銃で煙玉と閃光弾を使用したのか・・・花火の様ってのはまぁ〜分からんでもないけど、煙は一体どうやって発生させてるんだろうか?(スターダスト)
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