ある鎮守府の風景
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 めっきり冷え込んだ鎮守府で、楽しそうな声が聞こえた。二ストロークのエンジン音とともに。そこそこ速度は出ているようで、音源があちらこちらへと忙しく動いている。

 ちょうどその時、日向が表に出てきた。手には竹刀とタオル。おそらく、これから素振りをして身体を動かそう、といったところだろう。

 日向は、エンジン音がこちらに近づいてくるのに気づいた。何だろう、と思って、音のする方をみる。

 それが何であるか、日向は理解するのに少々時間を要した。とりあえず、それは白い車のようなものであるらしい。独特の丸みがある形状をしてる。が、妙に小さい。デパートのショッピングカートでよくある、子供用の車型カートを、一回りか二回りくらい大きくした程度の大きさしかない。そしてタイヤは三つしかない。大きめの窓の中には、金剛が座っていた。とても楽しそうな表情で。

 まもなく、金剛の乗ったそれは、日向の横を通りすぎていく。日向はふと、ああ、と呟いた。横から見ると、それの形状はオート三輪のヘッド部分にそっくりだった。が、オート三輪と違い、前二輪に後一輪だが。

 日向がそれを見送り、素振りをしにいつもの場所へと歩きだそうとしたそのとき、そこそこ大きな衝突音が聞こえた。振り向くと、通り過ぎていった車もどきが、壁に真正面からぶつかっている。幸い、そこまで速度は乗っていなかったようであるのと、とっさにブレーキを踏んでいたようで、エンジンは普通に動いているし、ボディもへこんではいないようだ。せいぜい、軽く傷が付いた程度だろう。金剛も特に怪我をした様子はなさそうだ。

 日向が近づいていくと、金剛が車から飛び出てきて、楽しそうに手を振った。

「ヘイ、日向! チョット助けてほしいデース!」

 全く助けてほしいとは縁がなさそうな表情で、金剛はそう言う。

「何だ? というかそれは何だ?」

 日向は目線で、壁にぶつかって止まった、名状しがたい車のような何かを差す。目線を追って何を差しているか把握した金剛は、よくぞ聞いてくれマシター!と叫んで、

「これは英国で大ブームの車ネ! ピールP50って名前デース!」

 さすがに日向は疑った。確かにあまり海の向こうの情報には詳しくないが、それにしてもこんなものが流行ってるとは思えない。どう考えても安全性はなさそうだし、それに中は狭苦しく感じる。可愛らしい見た目はしているが。

「そうなのか。知らなかったな」

 日向はそんな風に、適当な返事でごまかす。

「大人一人と買い物袋一つ乗ればそれでイイ! がコンセプトで、それなりに速度が出るスゴいブリティッシュカーねー!」

 喜々として金剛は語る。なるほど、と日向は納得した。確かにこれは、一人乗るのが精一杯だろう。それに、見かけの割にはそこそこ速度が出ているのも、さっき走っているのを見て認識している。

「ところで、助けて欲しい事って、何だ?」

「オウ、シット! 私としたことがうっかりしてマシター! この車をちょっと引っ張って欲しいのデース!」

 自分の額をぺしっ、と叩きながら、金剛が言う。は? と思わず日向は口を開いてしまった。

「実はコレ、スゴく便利なんですけどー、リバースギアがないのでバックできないんデース! だから、ちょっと引っ張って方向転換してもらいたいネー!」

 と、実にテンション高く金剛は言う。だが、金剛はすでに車の外にいる。わざわざ日向に方向転換をして貰う必要はなさそうに見える。日向は、極めて冷静につっこみを入れた。

「降りてるんだから、自分で方向転換すればいいんじゃないのか?」

 それを聞いた途端、金剛は自分の手を打って納得する。

「オウ、グッドアイディア! 確かにそうネー!」

 そういうや否や、そのP50とやらにかけより、車体の後ろ側についている取っ手を握り、キャリーバッグの要領で動かす。おもちゃのようにP50は動き、簡単に方向転換が完了した。

「バックできないのは大変そうだな」

 日向がそう言うと、一仕事終えて満足げな顔をした金剛がノンノン、と言う。

「確かにバックはできませんがー、それはノープロブレム! それ以上にこの車はクールデース!」

 根本的な解決になってないんだが、と日向は言い掛けて、口をつぐむ。おそらく、言うだけ無駄だろうと気づいたからだ。

「そうか、まあくれぐれも事故を起こさないようにな」

 とだけ言い、日向は歩き去っていく。イェア! と返事をした金剛は、楽しげにP50に潜り込み、その歩き去っていく日向を追い越して、走り去っていく。

 金剛の操るP50は、結構な速度で右に曲がり、日向からみて、建物の陰に入ろうとしている。そして、右前輪が浮いていたところまでは、日向から見えていた。

 建物の陰に入り、見えなくなった直後、壮大な衝突音と摩擦音、金剛の悲鳴が聞こえた。日向からは現場が見えないが、おそらく横転したのだろう。ただ、結構派手な音がした割には、随分と元気そうに叫んでおり、そこまで心配をする必要もなさそうではある。

「……まあ、そうなるな」

 呆れたような顔をする日向。軽くため息をつきながら、日向は現場へと走った。

説明
先日、暇つぶしに英国面を調べていたらピールP50なんてとんでもないおもちゃが引っかかり、金剛さんが喜々として乗り回している様子が一発で思い浮かんだので、それをざっと話にまとめてみただけです。
金剛のキャラをやや掴み損ねてますが、まあきっとこんな具合でしょうたぶん……
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