バラモンに嫁いだ盗賊の話
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バラモンに嫁いだ盗賊の話 (ヒトーパデーシャ「藍に染まった山犬の話」より)

 

 

 あるバラモンの娘が別の町のバラモンの家に嫁ぐことになり、従者たちと嫁入り道具一式を携えて旅をしておりました。色々と荷物の多い行列でして、当然歩みは鈍く、目的の町に辿り着く前に日は落ちてしまったため、野に宿をとることを決めました。

 

 この辺りの道には、通り行く旅人達を狙う野盗の集団がありました。美しいサリーを纏った花嫁を見た悪党どもは、その日の恵みであると喜び、従者たちのほとんどが寝静まった頃合いを見計らって行列を襲ったのです。護衛の武人、従者を殺した後、賊達は怯える花嫁の装身具、衣服を剥ぎ、好きなだけ嬲った上でこれも殺しました。

 

 野盗の集団に一人の女盗賊がありました。女盗賊は男共の剥いだ花嫁の衣装を見て、自らもこれに身を包んでみたいと考えました。女が洒落た装いに関心を抱くのは古今東西、身分や貧富に関わらずの理でありましょう。

 

「私はこの花嫁の装いでこの花嫁の良人に嫁いでみたいと思うのだ」

 

 他の盗賊どももそれは面白いことになりそうだと大層盛り上がりました。

 

 嫁入り道具にあった香や油、紗のサリー、緻密な細工の施された簪や首輪を身につけ、絢爛に飾られた輿に乗ると、卑しい女盗賊の姿は清廉なバラモンの花嫁そのものと変わりました。男共もまた、従者たちの衣服を剥いで身にまといました。はた目には先程の花嫁行列と区別のつけようもありません。

 

「お偉いバラモン様が盗賊の娘を嫁にとるのだ。これほど愉快なことはない」

 

 盗賊共は笑いながら花嫁の嫁ぎ先の町へと歩いてゆきました。

 

 新しく夫となったバラモンの男は、花嫁の入れ替わりに全くもって気付くことはなく、盗賊の花嫁は一片の疑いすら伴わずに受け入れられました。縁談とは幾人もの使者を通して選ばれ、年頃で独り身の子を持つ親達によって定められるもので、夫婦が顔を合わせるのは、その結婚式がはじめてのことであったからです。

 

美しい尻をした花嫁を夫は大層気に入ったようで、裕福なバラモンの良人は愛する妻へ多くの贈り物を与え、盗賊の女を喜ばせました。女もまたすぐに豊かで平穏な町の中での生活に適応し、バラモンの妻としての役割を果たしました。

 

また、盗賊たちは夜になると歌い踊るものでありましたので、女は身につけた芸を夫に見せて楽しませました。彼の町では見ることのない珍しい歌と踊りはバラモンの男にとってとても魅力的に感じられたのです。

 

バラモンの夫妻には息子も産まれ、幸せな日々が数年続きました。

 

「この辺りの街道に物盗りが出るというのだが、お前は知っているかね?」

 

 ある日、バラモンの夫はそう妻に訊ねました。女はついに正体がばれたかと思い表情をこわばらせましたが、夫はそれを野盗に怯えてのものだと受け取り、大丈夫だ、と言いました。

 

「町の中までは奴らもやっては来るまい。お前が恐れることは何もないのだ。それにわれわれは今度その盗賊共を全て捕縛してしまおうと計画しているのだから」

 

 それを聞いた妻は、大変なことになったと眉を顰めました。もし一人でも生きたまま捕まえられる盗賊があれば自分の正体はその男によって暴かれてしまうでしょう。

 

「旦那様、私は賊が恐ろしくございます。捕えられ生きたまま町に連れてこられた者があれば、逃げて私達を襲うかもしれません。幾名かを殺せば残りの者が復讐にくるかもしれません。もし盗賊共を討つのでありましたら、必ず全ての者の命を奪わなくてはなりません」

 

 怯えながら泣きつく妻に対し、夫は尤もだと頷き、「そのようにさせよう」と答えました。

 

「ああ、私の素性を知る盗賊どもが皆殺されてしまえば私の過去を知る者はいなくなる。今までより安心してここで暮らすことができるのだ」

 

 女は胸の内でそう語り喜びました。

 

 実際に、その大捕物は行われ、多くの野盗が町の人々の手によって殺されました。

 

「バラモンの奥方様がおっしゃっていた通り、誰一人として生かすではないぞ」

 

 一人の町の男が言ったのを聞いて、賊どもはあの女盗賊が指示したのだという事を知り、憤りました。

 

「我々は誰一人として逃げ切れまい。ならば、せめてあの女の正体をこやつらに教えてやろう」

 

 盗賊の主はそう言って部下たちの足を止めさせました。そして彼が指示を出すと、盗賊たちは一斉に歌を歌い始めたのです。

 

 いきなり何をはじめたのかと、町の人々は訝しみましたが、同行していたバラモンの男だけは別の意味に眉を寄せます。

 

「これは我が妻の歌ではないか? 何故この盗賊共が知っているというのだ?」

 

 戸惑う夫に、「これは盗賊の歌だ」と首領は答えました。

 

「そういえば、昔、俺達はここを通るバラモンの花嫁行列を襲い宝物を奪ったことがある。当然、その行列の全ての者は殺したぞ」

 

 真実を悟ったバラモンは屋敷に帰り着くと、美しいサリーと豪奢な装身具を身に着けた盗賊の妻の首を切り落としたのでした。

 

 

昔から、「己が仲間を捨て去りて、余所の仲間につく馬鹿は、藍に染まりし山犬か。その余所人に殺されん」というものです。

 

 

説明
インド文学「ヒトーパデーシャ」の中の「藍に染まった山犬の話」をベースにした似非インド民話。最後の一説は金倉円照、北川秀則訳の岩波文庫版より引用
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コメント
バラモンは尻フェチだったと。。。 東洋文庫「屍鬼25話」も面白いですよ〜(thule)
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インド ファンタジー オリジナル 文学 童話 似非インド文学 

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