とある春のとある彼岸
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 階段をゆっくりとあがる。小さい頃もとっても長く感じた階段だったが、今、登ってみても同じように長く感じる。最初にもったイメージが原因なのかな。

 

 そんなことを思い登っていると、前から風が吹き抜ける。冷たい感じはなく春の柔らかな感触を感じた。

 

 もう、すっかり春になったみたいだ。風が通り抜けていった方を振り返る。そこには良い青空と街が広がっていた。

 

 階段を登りきると、広い場所に出る。さてまずは、準備してこないとな。小石がつめられた道を進み準備をしにいく。必要な道具をそこで準備し終え、荷物を手に持ち目的場所まで移動する。

 

 今はお彼岸の時期という事もあって、どこのお墓もお花が新しくなっていた。

 当たりを見回しながら目的の場所を探す。前に来たのは一年ぐらい前の話しなのだが、一人で来るのは初めてだった。なのでおおよそ位置しか覚えていない。ちゃんと辿り着けるんだろうか。

 

 そんな不安を胸に覚えながらもなんとか目的の場所にたどり着く事が出来た。そして私はお墓に話しかける。

 

「お父さん、ひさしぶり。今日は伝えたい事があってきたんだ。」

 

 話しかけてもそれに返事があるわけではない。でもなんとなく声に出して伝えたかった。私はお父さんのお墓参りにきている。そう、私にはお父さんが二人いる。

 

 そして、手に持っていたバケツを下に置き、柄杓で水をすくい。上から順番にかけていく。いつもお母さんがやっていたように、流れる水にあわせて手でなぞっていく。春の日差しは柔らかいものの手で触れてみると石はそれなりに熱かった。

 

 そんな風に全体を一通り、なぞり終わり、もう一度上から水をかける。気持ちよかったかな、風が吹くとまだ寒いだろうけど、我慢してね。そんなことを思いながら持って来た花を生ける。

 

「えっと、後はお線香とぼたもち。」

 

 私は鞄から二つを取り出す。一緒に持って来たマッチで線香に火をつける。線香の独特の匂いが当たりに広がる。線香を差し、その前にぼたもちを備える。

 

 ぼたもちはここに来る途中の和菓子屋の店先に置いてあり美味しそうだったので買ってみた。帰りにあの子達のお土産としても買っていってあげよう。

 

 私が出かけるときに、「どこいくの」「いっしょにいく」そう言って連れてってと騒ぎ、お母さんに「お留守番ね」と言われ大泣きしてしまった。そっと出てこれば良かったかな。

 

 そんな事を思いつつ、鞄から数珠を取り出し手を合わせる。しばらくそうした後、私は再び話しかける。

 

「今日はいっぱい話があるよ。まずね、大切な人ができたんだ。」

 

 私は一番最初に彼のことを話す事にした。ある出来事がきっかけで仲良くなり気になりはじめたとか。その後は友達以上恋人未満の時をそれなりに過ごしたとか。そして、とある出来事でめでたく恋人同士になれた事を話した。

 

 もし、反応があるとしたら、『まだ早い』とか、『今度連れて来なさい』とか『もう少し慎ましく』とか、そんな風な答えが返ってくるのかな。それとも『良かったね』と無条件に受け入れて、笑って頭を撫でてくれるのかな。

 

「あとね、これ見て。」

 

 左手に嵌っているリングを見せる。彼と私との二人でした将来の約束の証。まだ恥ずかしくて誰にも言ってない事だけど、お父さんならその時まで秘密にしておいてくれるので報告しておく事にした。お母さんにはもう少し後でしよう。

 

「それとね同じ日にね。祐介さんが、ううん、お父さんがくれたの。」

 

 私はそう言い直して、ホワイトデーに貰ったもう一つのプレゼントを見せる。

 

「お父さんってね、言ってあげれた。あっ、嫉妬とかしないでね。お父さんもお父さんなんだから。」

 

 初めは、最初に呼んだ呼び名のまま呼んでいた。そして大きくなるに連れてさんづけで呼ぶようになっていた。そう呼ぶたびにお母さんが寂しそうな顔をしていたのを覚えている。

 

 それからお母さんの事を話す。本当はお母さんもこれたら良いんだけど。お母さんはお父さんの実家と私の事で揉めて絶縁状態となっている。そのため命日やこう言う時にここに来ると顔を合わせる可能性があり、私の事がまた蒸し返しになるのが嫌なので来ていない。それでも自分とお父さんとの思い出の日には足を運んでいる。

 

「お母さんは相変わらず忙しいよ。でも私が手伝える事が増えたから大丈夫。それからね。」

 

 そうやって私は伝えたかった事を一つずつ告げていく。気がつくとそれなりに時間が経っていた。ここから家までは結構な距離がある。日が長くなって来たとは言え、そろそろ帰らないと家に付く頃には真っ暗だろうな。

 

「じゃ、また来るね。」

 

 私はそう言って帰る事にした。ぼたもちはそのままお供えしておこう。私はバケツの横に置いてあった、花の包装紙をたたみ、鞄の中にしまう。

 そして、水が少し残ったバケツを手に取りお墓を後にする。 

 

『今度来るときは結婚の報告かな。二人でおいで。』

 

 そんな声が聞こえたきがしてお墓を振り返る。もう、お父さん気が早すぎだよ。でもちゃんとその時もここに来るからね。私はそう心の中で呟きお墓を後にした。

 

fin

説明
大事な人に会いに、そして話しに、一人で出かけた彼女。そこで彼女は何を語ったのでしょうか。そんなわけで「とある」シリーズ第8弾です。
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コメント
宮本彬さん♪いつもコメントありがとうございます。ええ、二人には幸多い事を望みます。たまには喧嘩したりしますけどね。結婚までですか、頑張りますね。(華詩)
お父さん…泣きます。この話はとあることの連続で成り立っているんですね。それは偶然でもあり必然でもあります。二人に幸多からんことを…結婚まで見たいですね。(彬 )
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