模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第10話 |
「と、いうわけで都合つかないかな?ヤマモト君」
休み時間。アイとナナは廊下である男子をチームへ誘う。
相手はアイが転校2日目にしてバトルをした額の広い模型部員、ヤマモト・コウヤだった。
自分たちに一番距離が近い上に以前戦った時に実力は知っていたからだ。
「う〜ん……誘ってくれたのはありがたいけどさ」
広い額に手を当てながらコウヤは考える。
「珍しく考え込んでこんでるわね。普段人の話聞かない割に」
「うぉい!ひでぇよそれ!」
「ちょっ!ナナちゃん!ゴメンゴメン!やっぱり模型部とかの都合がある?」
「まぁな。模型部の方でもガンプラバトル大会には出るんだよ。スタメンに俺入ってるしそっち優先しなきゃなんねぇから」
「そっか……」
残念そうにアイは答える。断られるかもしれないと予想はしていたが、受けてくれるかもしれないという期待もあったからだ。
――となるとあの三兄弟でも声をかけてみるかな?――
そう考えつつ、一言挨拶をしてその場を去ろうとしたその時、
「チームメイト集めなら心配する必要はないわね!!」
アイ達の後ろで妙に黄色い、しかも大きい声がした。
「あ!コドモ部長!」
コウヤの声が響く。と、直後声の主が姿を現す。
「コドモじゃない!コナミだ!!」
大声で返したのは小柄な女の子だ。135p程度の身長と腰まで届くロングヘアーを一本のおさげにまとめてる。
幼そうな外見だが、ツリ目の所為か小柄な割には負けん気が強そうだ。部長と呼ばれたその少女は模型部と思わしき男子を数人引き連れていた。
「部長って……このちっちゃい女子?」
「ちっちゃい言うな!コナミは二年生だ!」
「二年生!?この身長で!?」
「キーッ!!また言った!!」
手をブンブン振り回しながら顔を赤くし怒る部長。
「部長、そろそろ本題に」
女子生徒の横にいた三白眼の男、カワサキ・ナガレが言うと女子生徒の表情が元に戻る。
「おっと!そうだったわね!コナミは二年生のウミノ・コナミ!模型部部長よ!」
コナミと名乗った少女は、笑顔でビシッと親指で自分を指す。八重歯が一層幼そうな印象を与える
「ん?模型部って男子しかいなかったんじゃ……」
そう、前にタカコから聞いた話では模型部は少人数の男子しかいないとナナは聞いていた。
「あぁ、コナミが模型部に入ったのは割と最近よ!まぁこいつら男子があんまりにも不甲斐ないからコナミがすぐ部長さんになったってわけね!」
『よく言いますよ。自分で勝手に生徒会にゴリ押し申請した癖に……』と横にいた男子たちが皆同じ事を考えた。
「ま、そんな事はどーでもいいのよ!本題に入るわ!ヤタテ・アイ!アンタ模型部の一人として今度のガンプラバトル大会に出なさい!」
「……え?私ですか?」
唐突な指名に思わず自分を指さすアイ
「あの『ウルフ』のメンバー相手に渡り合うなんてなかなかやるじゃないの!アンタをチームに加えれば今度の大会はウルフを倒す事だって夢じゃないわ!」
「でも私ひとりですか?出来れば友達も一緒に出たいんですけど」
「ダメね!」
コナミはバッサりと切り捨てる。その発言にムッとするナナ。
「今度の大会は模型部の実力を知らしめる機会なの!そんなヘタクソな初心者いれたって恥かくだけね!」
「ちょ!ヘタクソってそんなハッキリ言わなくったっていいじゃないですか!!」
上級生が相手な所為か珍しく敬語で抗議するナナ。
「部長……他のビルダーをそう言うのはやめて下さい」
注意するカワサキ、しかしコナミは聞いてるそぶりはない。
「……お気持ちは嬉しいですがそれならお断りします」
断るアイ。アイの口調はいつもより強めだった。
「えーなんで?」
「今度の大会に出るのはコンドウさんと戦うのは勿論ですが、ナナちゃんと一緒に大会を楽しみたいと言うのも理由です。
それに先輩とはいえ友達をそんな風に言う人、正直一緒にやりたいとは思いません」
アイの口調は真剣だ。今回の大会は初めてナナと一緒に出る大会。アイ本人もナナと出ることを楽しみにしていたからそう言われると腹ただしい。
「ちょっと!大会はチーム戦なのよ!アンタこんなの連れてたら足引っ張るに決まってるじゃない!」
「そんなの協力すればいいだけです!確かにナナちゃんはまだ粗削りだけど、だからって足を引っ張るなんて思ったことはないですから!」
「アイ……」呟くナナ、コナミは面白くないと言わんばかりに頬を膨らませていた。
「……フンだ!相手はウルフだってのに余裕ね。まぁいいわ。実力を気にしないって言うならそこのコウヤを持って行っていいわよ」
「え?!」
「は!?」
突然の許可に驚くアイ、しかし当のコウヤ本人は声が裏返るほど驚いていた。
「ぶ!部長!何を言ってるんすか!」
カワサキ等数人の模型部員が止めに入る。しかしコナミは意にも介さず言い続ける。
「ただし!ガンプラバトルで勝った場合よ!コナミと勝負して勝ったらコウヤはヤタテ・アイのチームに入る!」
「……負けたら私が模型部のチームに入る。ですか?」
「あら、理解が早くて助かるわね!ま、そのポニテ頭とやるより、コナミ達とやる方がずっとガンプラ大会も楽になるでしょけど!」
その一言がアイに火をつけた。
「解りました。いいでしょう」
本来なら断るべきバトルだったかもしれない。二度もナナをそう言われてはアイも我慢できない。
前回のソウイチとのバトルの時も似たような流れであった。一見温厚そうなアイではあるが、
バトルやこういった場面で見られるように気性の激しい面も持ち合わせていた。
ニヤリと笑うコナミ
「そう。ならバトルは明日の放課後、模型店『ガリア大陸』でするわよ!」
「望むところです!私は全力でお相手しますよ!」
答えるアイに対して再びフッと笑うコナミ
「ありゃ、誰がヤタテ・アイが戦うと言ったの?コナミと戦うのはアンタよ!コウヤ!!」
『は?!』
アイ、ナナ、コウヤの三人は意味不明とばかりに声を上げた。
「何変な声上げてんの!ウルフと戦うのよ!コウヤがコナミ一人に勝てないんじゃヤタテのチームに入ったってどうしようもないじゃない!
コナミがコウヤのテストしてあげようってわけ!」
「コドモ部長!何言ってるんすか!あ……」
カワサキが止めようとするも、ついコドモと呼んでしまった事にハッとする。
「コ・ナ・ミ!!」
「コ!コナミ部長!!それでコウヤが負けたらヤタテさんが模型部のチームに入るって無茶苦茶でしょう!!」
カワサキが必死に止める。だがコドモと言ってしまった事も一因なのかコナミは一切聞く耳を持たない。
「そしてアンタは指定したこのガンプラを使いなさい!」
「ガンプラまで指定ですか!?」
コナミは模型部員が持っていた紙袋を手にするとコウヤに手渡す。中を見るコウヤ
紙袋の中に入っていたのは『1/144、HGレジェンドガンダム』だった。
レジェンドガンダム。『ガンダムseeddestiny(シードデスティニー)』に登場した灰色のガンダム、背中にドラグーンと呼ばれる遠隔操作兵器を10個も装備したのが特徴だ。
「レジェンド?コイツで……ってなんだこりゃ!」
「何?……これって!」
箱を開け驚くコウヤ、アイもコウヤの反応が気になりレジェンドの箱を見る。そして彼女も驚愕した。箱の中には一部のパーツが切り取られている。
それは先程言ったレジェンドの特徴、ドラグーンとビームライフルのパーツがごっそり切り取られていたからだ。
「これで戦えって言うんですか!」
「そのとーり!真のビルダーならそれ位改造でどうにかするもんでしょ!」
「ふざけないでよ!バトルとか屁理屈こね回して結局はアイが欲しいだけでしょ!!」
ナナが怒りの声を上げる。こんな相手に敬語を使う必要はないと口調を改めた。
「あーあー、聞こえなーい!じゃあ明日バトルでねー!」
両耳に指を突っ込み聞こえないふりをしてその場から逃げ出すコナミ、模型部含めた全員がその場で呆れていた。
「……コドモじゃなくて小物ねありゃ……」
「ったく!なんなのよアイツ!とても上級生の取る行動じゃないわ!」
下校時刻の教室、帰り支度をしながらナナが愚痴る。休み時間のコナミの行動が理解出来なかったからだ。
「さすがに強引すぎるって私も思うな」
いつもはナナにフォローを入れるアイだが今回ばかりはナナに賛同する。
「まぁそう言わないでくれよ」
その時、突然声をかけられる。声をかけて来たのは模型部のカワサキとコウヤだった。
「あ、カワサキ君とヤマモト君」
「昼は部長の事は悪かったよ」
そう言いながらカワサキとコウヤは頭を下げる。部長の勝手に巻き込んでしまった事に責任を感じた様だ。
カワサキはともかくコウヤのその姿は珍しく映るかもしれない。
「悪かったってアンタ、部長本人が言ってくれなきゃ納得いかないわよ。ていうかいつの間に女子部員が入ったわけ」
「入って一カ月も経ってないよ。俺がヤタテと初めてバトルした後さ」
「そんな最近に入ったの?」
「部長はさ、部の実績作ろうと必死なんだよ。前は漫研部にいたんだけど部を追い出されちゃって、結果出してその部の連中を見返そうと必死なわけ」
漫研、漫画研究部の事だ。
「漫研ねぇ、おおかたあの性格が原因な気がするけど」
「鋭いねハジメさん」
「部長本人に問題あるのは事実でしょ?よくアンタ達もよく不満出さないもんよ」
「そりゃ不満は俺達だってあるよ。でもさ不満言ったら部長ゴネるしあんまり蔑ろにすると泣きだすし」
「あのね……文句言わないアンタらも問題でしょうが」
「でもさ、そんな事続けてるなら模型部もそのうち追い出されるんじゃないの?」
「そうなんだよな。事実模型部でも部長の不満は溜まってきてるし」
「さっきも言ったろ。前の部追い出されたって、入部してきた時凄くショック受けててさ。強く注意しづらい雰囲気があんだよ……」
その為、模型部はコナミを立ち直らせようと唯一の女子部員として大事に扱った。
しかしコナミは漫研部を見返そうと模型部の結果にこだわる事と、あの不器用な性格の所為であんな尊大になってしまったわけだ。
ちなみにコナミがわがままを言っても、他より女っ気のない模型部はどうにかコナミが模型部に留まる様従い続け、
結果としてコナミのわがままがエスカレートしたのは秘密だ!
「オタサーの姫って奴ね。生々しい……」
「まぁ、ああ見えて悪人ってわけじゃないんだ。多少悪い事言っても許してあげて欲しい。
それになんやかんやで模型部が好きなんだと思うよ。部長は」
不満こそあれど、模型部全員が彼女を嫌ってるわけではないのだろう。カワサキとコウヤの二人がフォローに来たのが何よりの証拠だ。
とはいえ強引な性格なのは確かだが
「それはなんとも言えないけど……ブレーキ役とかいないの?前の部長とか……」
「あぁ無理無理、前の部長はカワサキだったんだけどさ。コイツこう見えて相手に強く言えない性格なわけよ。部長に注意はしてもそれ以上は出来ないわけ」
そう、コナミが生徒会に申請しようとした時もカワサキは注意したが結局押し切られてしまったのだ。
「全く、これだから女は面倒くさいんだよ。俺の思い描いていたガンダムのイケメンオタクの女そのものだぜ部長は」
「コウヤ……一番女子部員入って喜んでいたのお前だろ」
「ぐ……」
「そういや……初対面で随分アイにひどい事言ってたわよねアンタ」
アイにコウヤが勝負を挑んだ時の話だ。ナナが冷ややかな目でコウヤを見つめる。
「私の前で言うの正直どうかなって思うよ」
「っていうか一人で女性全員そう思われちゃ堪ったもんじゃないわよ」
『ねー』
アイとナナが顔を見合わせ言う。コウヤはウブな割に女の興味はしっかりあった。ついでにかなり他人に影響されやすい人間だった。
「ま!まぁ本題に入ろうぜ!やっぱり俺が戦うって言うあの条件を呑むしかないと思う!」
「あ、話そらしたよ。でも私もそれがいいと思う」
断ったら部長またゴネるだろう。アイはコナミとは一度しか会ってないがそう思った。
「一択しかないわけ。もはや脅しだわ……しょうがないわね。もう受けるって言った以上後戻りできないでしょうし。
その代わり勝たなかったら承知しないからね。で、後の問題、使うガンプラどうするの?」
「ぐぅ……それなんだよなぁ問題は、このレジェンドじゃ……」
指定されたガンプラ、レジェンドガンダムは中途半端な状態だ。本体は作れるがドラグーン等武装はごっそり取られていた。
「良かったら私に考えがあるけど」
「どうすんの?」
「いい改造プランがあるの。とりあえず放課後ガリア大陸へ行こう。明日まで時間ないし話はそれから!」
「だったら俺も一緒に手伝おうか?」
カワサキがアイに提案する。
「その心配はないよ。これは私達の受けた条件だもの」
「え、でも」
「自分がビルダーである以上、意地を貫きたいの」
それから三人は模型店『ガリア大陸』へ場所を移す。
「ハセベさん。工作室借りますね」
アイが雇われ店員のハセベに許可をもらい鍵を受け取る。
「工作室なんてあるの?ここに」
「まぁ見てて」
アイは店の一階奥、鍵のかかった扉を開け部屋に入る。倉庫を改造した部屋だろうか。長方形のミーティングテーブルが一つ、パイプ椅子が複数置いてあった。
壁には塗装用の換気扇があり、隅っこの棚には基本的な工具が一式入った工具箱が置いてある。
「へぇ〜、店の一番奥にこんなところがあったんだ」
ナナは驚きの声を上げる。ガンプラバトルが盛んな昨今、バトルで使うガンプラのセッティングや
買ったその場で組んでバトルがしたい、というビルダーの声が多くなってきた為、こういった工作室を設ける模型店が増えて来たのだ。
部屋は店側からはガラス張りで中の様子が見れる。しかしナナはこの部屋にそういう意図があったという事は今まで知らなかった。
「で、さっき言った考えなんだけど」
そう言うとアイは鍵をもらうついでに店で買ったであろうガンプラを出す。それは『ガンダムビルドファイターズ』に登場する
『アメイジングブースター』という支援機だ。パーツは分割、接続用ジョイント付きで一部他のガンプラに取り付けられるという公式改造キットとも言うべきものだろうか。
「これを使ってレジェンドのドラグーンをカバーするよ」
「?ヤタテ、アメイジングブースターはジオン系前提だぜ?レジェンドには合わないんじゃないの?」
そう、あくまで一部の機体だ。レジェンドは対応しているガンプラではない。
「大丈夫、工夫すれば問題ないよ。アメイジングブースターなら装備も豊富だしこれならドラグーンの分も補えるよ」
そして三人は作業に入る。1人なら1・2時間は組み立てに時間のかかるHGも、三人ならあっという間に組みあがった。
そして次はアメイジングブースターの取りつけ、ここはこうする。ああするとアイとコウヤは話し合い組み付ける。
ここまで来るとナナは見る事しか出来ない。アイとコウヤの二人は普段からは想像できない程真剣に、黙々とレジェンドの改造に打ち込んでいた。
――うひ〜、なんか入り込めない感じ――
二人は真剣そのものだ。ナナはそれを見ながらも自分のレベルでは入り込めない空気を感じていた。
「ありゃ?」
暫く組んでいてコウヤが声を上げる。
「どうしたの?」
「背中にブースターを移植しようとしたんだがどうもつけられる形してなくて……」
コウヤはレジェンドの背中を見せた。アメイジングブースターのブースター部は本来『ザクアメイジング』の両足となる部分だ。
故に二つ付いてる。コウヤはそれを両方取り付けようとしたのだがレジェンドの背中の接続ポリキャップは一つしかついてない。
バックパックが残っていれば取りつけることが出来たのかもしれないがそれすらもなかった。
「大丈夫、レジェンドだったらフォースインパルスかソードのバックパックがピッタリ合うよ」
「インパルスか。持ってきたジャンクパーツの中にソードがあったはず」
コウヤはHGサイズの箱を部室から持ってきていた。中には他のガンプラの壊れたパーツや余ったパーツ、ジャンクパーツと呼ばれる物がぎっしりだ。
「本当だ!ソードインパルスの背中のパーツが合うぞ!これならいける!」
コウヤは背中の接続部を繋げながら叫んだ。他の部分はもうあらかた仮組みは済んでいる。後は塗装し接着するのみだ。
「よし!一気に完成まで仕上げるよ!」
アイの号令に全員がレジェンドに取りかかった。一日しか製作期間がないが限られた時間で3人は出来る事を全てつぎ込んだ。
「……」
その3人の様子を模型部員のカワサキが店側から遠目に見ている事に3人は気が付かなかった。
――コウヤ……、皆あんな真剣に……――
「意地……か」
そして翌日のバトルの日、アイ達とコナミ率いる模型部員達はガリア大陸二階へ集まった。
「逃げずに来たのは褒めてあげるわ!」
「部長、負ける気はないですから!」
「粋がるじゃない!コテンパンにしてあげるから!」
ミントグリーンのパイロットスーツに着替えたコナミは自信たっぷりだ。腕組みしながらの仁王立ちを崩さない。
「コウヤ君、ファイト!」
「勝ちなさいよ!アンタの勝ち負けでアタシらの運命決まるんだから!」
「……改めて今回責任重大だって思うぜ……。ま、やるからには頑張るよ」
緊張してるのだろう。深緑のパイロットスーツを着たコウヤの感じがいつもと違う。コウヤは不安がまじりながらもコナミと共にそれぞれのGポッドに入って行った。
……
今回のステージは宇宙、母艦から発進したレジェンドが飛ぶ。パーツの抜けていたレジェンドはアメイジングブースターを使い改修され新たな姿となっていた。
名は『アメイジングレジェンドガンダム』発進するや否や軽く手足を動かし挙動を確認する。
「どう?アメイジングレジェンドの感じは」
「派手に動いてみない事にはなんとも…でも思ったより早いわこれ」
飛びながらアイの通信に答えるコウヤ、直後Gポッドに警告音が走る。遠くで光が見えると共に何条もの緑のビームが飛んでくる。
「部長か!?」
コウヤは背中のブースターを吹かし右にかわす。機体横を30本近い細めのビームが通り過ぎた。
『この武装!』
アイとコウヤはこの武装がなんなのか知っていた。
「避けるなんて生意気じゃない!」
そして撃った張本人が遠くで姿を現す。
「部長!」
コナミの機体はミントグリーンに塗装されたドラッツェだ。この機体は『ガンダム0083』に登場した機体で
ザクUと宇宙戦闘機等のパーツを組み合わせて作られたいわばリサイクル品。
設定の性能自体は心もとないが、ここは出来映えと改造でどんな機体とも戦えるガンプラバトル。
背中には円状のパーツが追加されており左手にもビームサーベルとシールドが追加されていた。
「そのバックパック!このレジェンドの物すか!」
「その通り!」
ドラッツェの背中にコーン状の物体が二本、板状の物体が六本、足のブースターに二本連結される。レジェンドのドラグーンだ。
それ以外にもガンダムAGEに登場したドラドという機体の掌やシールドも移植されており、
その混ざり合いはドラッツェらしいともドラッツェらしくないとも言えた。
「余り物のアンタに!コナミのドラッツェ・オクトパスは倒せやしないわ!!」
「そっちだって設定はリサイクル品でしょうに!!」
「うっさい!!」
コナミはドラッツェのドラグーンを90度前に倒し砲撃形態をとる。
「ファイア!」
放たれたビームがレジェンドを襲う。
「おっと!」
コウヤは回避するとロングライフルを逆手で構えドラッツェを狙う。
「遠距離射撃なら得意なんすよ!」
片手でドラッツェに狙いをつけると2発ライフルを撃つ。放たれた弾丸は真っ直ぐドラッツェに向かった。
「馬鹿ね!」
ドラッツェはコーン状のドラグーンを2つ射出すると先端にビームの杭、ビームスパイクを発生、
レジェンドの一部のドラグーンはこれによりビーム砲以外に直接打撃を与える事が可能だ。
弾丸の真正面から突っ込むドラグーン、ビームのトゲはあっさり実弾の弾を貫通し砕いた。
「うそんっ!」
「部員が部長に勝てるわけないでしょ!」
そう言うとコナミは残りのドラグーンを一斉に射出。狙いはコウヤのレジェンド。
「自分の武器でやられちゃいな!!」
ドラグーンはレジェンドの左右横に配置、すぐさまビームを放つ。
「うおわ!!」
コウヤは両手の甲からビーム状のシールドを発生させ防ぐ、
「防いだ!?生意気!」
すぐさま前にもドラグーンを配置させレジェンドを撃とうとするコナミのドラッツェ・オクトパス、
板状のドラグーンには2門ずつ、コーン状のドラグーンには9門ずつビーム砲が搭載されている。
これが全部で10枚だ。一斉に放てばレジェンドもひとたまりもない。
「させるか!」
ドラグーンが発射される瞬間、コウヤはアメイジングレジェンドのブースターを一斉にふかし前方のドラッツェに向った。
さっきいた場所がビームの集中砲火にさらされる。アメイジングレジェンドの加速は凄まじい推進力だった。
「何よその勢い!!」
「うりゃぁああああ!!」
アメイジングレジェンドはブーストでのけぞった体勢を直し、右手にヒートナタを持ちドラッツェに斬りかかった。
コナミのドラッツェ・オクトパスは左掌からビームサーベルを発生、ヒートナタを受け止めた。
ドラッツェもまた両足のブースターをふかしアメイジングレジェンドの勢いを相殺させる。
「受け止めた!?」
「1日で随分とマシなもん作ったじゃない!でもコナミに勝とうなんざ甘い考えよ!」
レジェンドの背後にドラグーンが配置、更にドラッツェも右手のガトリングガンでレジェンドを狙う。
「部長命令!やられなさい!!」
「!!」
前後の攻撃が放たれる瞬間、コウヤのレジェンドは真上にブースターを吹かし両方の攻撃をかわす、なお空振りしたドラグーンの砲撃は当然ドラッツェに向かう。
「へ?んわーーーーーーー!!!!!」
コナミは悲鳴を上げながらドラグーンの砲撃をシールド防御やらエビ反り回避やらで回避しきった。(多少は掠めたが)
「キーッ!部員の癖にぃぃ!!!」
レジェンドは一旦ドラッツェから距離をおき、また接近戦を挑もうと離れていた。
離れるも背を向けるレジェンドをコナミはドラグーンで追いつめようとする。
「バーカ!自分から背を見せるなんて!」
ブースターを吹かすレジェンドに向ってドラグーンで集中砲火するドラッツェ・オクトパス、
だがドラグーンで狙い撃ってもレジェンドには当たらない。何故なら……
「ちょっと早すぎ!何なの!?」
コナミが驚愕する。レジェンドのアメイジングブースターの加速力は凄まじい。ドラグーンで狙い撃っても撃った先にレジェンドが飛んでいた。
直線的な加速はそれほどのパワーだった。その上腰のバーニアを使いジグザグに動くからなおのこと当てづらい。
「ぅおおおお!!!!すすすすげぇぇ!!この加速力ぅぅ!!!!」
コウヤはアメイジングレジェンドの推進力を身をもって理解していた。しかし機体も限界ギリギリな速度だ。
機体は派手に揺れ、Gポッドにダイレクトに振動が、そして疑似的なGが伝わる。その所為かコウヤの声も揺れ裏返っていた。
かなり声が出しづらい状況だった。
アイとナナも観戦しながらアメイジングレジェンドの加速力を理解した。
「ひゃー、アタシらが作ったとはいえ速い速い」
「うん、改造うまくいったみたい。コウヤ君も使いこなしてるみたいだし」
「にしても結構器用に動くわねー、前アイとバトルした時は考えなしに動くのかと思ったけど」
「考えなしって酷いよ。まぁカワサキ君もバトル経験は結構多いみたいだからね。一応考えては動いてるんでしょ」
アイが微妙に酷いフォローを入れる。
「でもさ、防戦一方じゃない?これじゃそのうち追いつめられるよ」
「それなら心配ないよ」
心配するナナにカワサキは言った。
「え?」
アイ達が感心する中コナミは不快だった。すぐドラグーンで圧倒出来ると思っていたのに。
「部長命令!全弾命中しなさいよ!」
「無茶言わないで下せぇ!」
コナミはドラグーンをなおも撃ち続ける。その時だった。
「!?何よ?!動きが!」
コナミはドラグーンの動作に違和感がある事に気が付いた。動きが鈍くなってる上にビームの出力が下がってるのだ。
「動きが鈍くなってる!?」
ナナが疑問を口にする。観戦してる全員もドラグーンの異常に気が付いたようだ。その原因をアイは説明し始めた。
「元々あのドラグーンを装備していたレジェンドガンダムは『ハイパーデュートリオン』っていうエネルギー切れの心配がない動力を積んでいたんだよ。
でもそれはアニメでの話、ガンプラバトルではその設定は意味がない。
更にドラグーンは全部で30門以上の数のビーム砲がついてる。それをあんなに撃てば……」
「あっ!エネルギー切れを起こすって事!?」
ナナが答えると同時にコナミも原因がエネルギー切れだと気が付いたようだ。とうとうドラグーンの動きが止まる。
「チャンス!!」
コウヤもドラグーンが停止したと理解すると一直線にドラッツェに迫る。
「クソッ!アンタがややこしく動き回るから!だったら!!」
ドラッツェはレジェンドに背を向けると最大推力でレジェンドから逃げる。リサイクル品設定とはいえドラッツェの直線推力はとても高い。
このまま距離を取って時間経過で武器エネルギーの回復を待つつもりだ。
ドラッツェも限界ギリギリのスピードでGポッドが激しく揺れる。
「どうよっ……!あんたのにわか仕込みの……!レジェンドなんかに……追いつけるもんですか……!!」
コナミは疑似Gを受けながらやっとの思いで声を出す。
「そうはいかんざき!!!」
「!?」
コナミのすぐ後ろにアメイジングレジェンドが迫ってきた。こちらも最大推力だ。
「そ!そんな!!ドラッツェの推力に勝つ・なんてぇぇ!」
すぐにドラッツェに並ぶアメイジングレジェンド、両手には足にマウントしてあったリボルバーを握っていた。
「この勝負!俺の勝ち……ですぜ!!」
並行するドラッツェにリボルバーを向けるアメイジングレジェンド
「クッ……!!」
コナミのドラッツェもガトリングガンを向けようとするが、直前にビシッという音と共にドラッツェの胸に穴が空いた。
「あっ!」
リボルバーを受けた。そうコナミが判断すると同時に肩に、腹に、脚部に、頭部に銃弾を撃ち込まれる。直後にドラッツェは火を噴き爆発。
アメイジングレジェンドはそれを見ながらも倒したドラッツェを追い越していった。
これによりバトルの結果はコウヤの勝利に終わった。
「うわーーーーーーーん!!!!!!」
コナミはぐずりながらGポッドから出てくる。そして大声で泣き出した。
「あぁもう!一回負けた位でこんな大泣きするなんて子供じゃあるまいし!!」
「悪い。今回ヤタテをスカウト出来なかったのもあるんだろうけどさ」
両耳を押さえるナナにコウヤはすまなそうにフォローを入れた。
「と!とにかく部長!!勝ったんだからこれでコウヤ君は私のチームに入れてくれますよね!」
「ぐすっ。……やだ!!」
「えぇぇ!!」
「認めないもんそんなの!!うわーーーーーん!!!」
なお一層鳴き声を大きくするコナミ、周囲にいた関係ないギャラリーもこっちを見ている。
―結局私が入るしかないのか―そうアイが思った時だった。
「……いい加減にして下さい部長!!!」
黙っていたカワサキの大声が響く、瞬間的にビクッとなるコナミ
「ナ・ナガレ……?」
「他のビルダーの悪口に始まり!コウヤに戦う様しむけたり!余りのガンプラを押しつけたり!あげくの果てには自分の口約束も守ろうとしない!
部長がやってる事は部の恥を広めてるだけなんですよ!!」
「ぶ……ぶのはじ……」
ずず……と鼻をすすりながらコナミは気圧される。カワサキの堪忍袋の緒は切れていた。
勝手すぎる部長の態度が、限られた条件で戦ったアイ達に対して情けないとしか思えなかったからだ。
カワサキ自身も自分の意地を貫きたいと思った故の行動だった。
「カ・カワサキ君、こんな所で怒らなくても……」
「うちの部の問題なんです!部外者は引っ込んでいて!!」
「ぃ!!」
アイが止めに入るもカワサキは物凄い剣幕でアイを引っ込ませた。コウヤ含め周りの模型部員もカワサキに気圧され動けない。
「ヤタテさん達は部長の無茶な要求も呑んで全力で戦いました!それをあなたは報いろうとせずなおも自分のワガママを押し通そうとする!恥ずかしくないんですか!」
「ぶ・部長なんだもん……!えらいんだもん!」
「自分が部長だっていうんならせめて負けても堂々としてればいいでしょうが!!こんな卑怯な手で勝とうが大会で優勝しようが誰も部長を認めるもんか!」
「ち!違うもん!結果だせば皆認めてくれるもん!」
「すぐにボロが出ますよ!!そしたらむしろ卑怯者って言われます!!その態度が実績以前の問題だって気付かないんですか!!
そんな簡単な事も解らないなんてコドモ部長じゃない!部長の資格すらない!!ガキだこのクソガキ!!そんなんだから漫研だって追い出されたんだ!!」
「う!!うわああああんんん!!!!」
更に大声で泣き出すコナミ、ハッとするナガレ
「ちょっと!!説教するのはいいけど逆効果じゃないの!!」
「!……分かってるけど……」
ついカッとなってやってしまったらしい、自分の行動に後悔するナガレ、その時だった。
「えっと部長、元気出してくださいよ……」
コウヤがコナミを慰める。
「グスッ……コウヤ……」
「ナガレだって部長の為思って言った事ですよきっと。ちゃんと謝ればわかってくれますって」
模型部員はコウヤ含めある程度泣いてる部長をなだめるのは慣れていた。コナミにティッシュを渡すコウヤ。
「びーーっっ!!そんな事言ったって……アイを戦力に出来ない上にアンタまで渡すなんて……」
鼻をかみながらコナミは迷う。
「大丈夫です。確かに俺はヤタテ達のチームに入りますが、模型部のメンバーが入ったチームが『ウルフ』を倒したという実績は
少なからず部員が増える要因になりますから!」
「……部員が増える?」
コナミの眼が光る。
「それは実績に繋がりますから!そしたら部長は皆に認められます!」
筋が通ってるようで通ってない説得だ。それはどうよ……とアイとナナは思った。が……
「なぁーんだ!!そういう事ね!」
あっさりとコナミは信じた。同時にさっきまで泣いていたのが嘘の様に立ち直った。
アイとナナがえぇぇ!と驚く一方、模型部員は皆やっぱりか、と思っていた。
「ヤタテ・アイ!」
「え?はい!」
「負けたのは癪に障るけど部の為なら仕方ないわね!コウヤをアンタのチームに貸すわ!」
「え?あ・ありがとうございます…」
「それと……悪かったわよ……色々と酷いこと言って」
渋々ながらもコナミは頭を下げた。一応彼女なりに応えたらしい。彼女自身間違いを認める所はきちんとあった。
「やるからにはしっかり働きなさいね!!あはははー!」
上機嫌で帰って行くコナミと模型部員、残ったのはアイとナナ、そしてコウヤとカワサキだけだった。
「ハァ……やってしまった……、強く言い過ぎたかな……」
コナミに怒鳴ってしまった事に気まずくなるカワサキ
「いや、あの時はあれでよかったでしょ?それよりやるじゃん。見直したわよ」
「ハハ……そう言ってくれると気が楽になる……かな」
「ま、とにかくこれで晴れてヤタテのチームに入れるわけだ。よろしく頼むぜ」
「こちらこそ、よろしくね」
握手として手を差し出すアイ
「あ……あぁ」
コウヤはまたも手を拭うと恥ずかしそうに手を差し出した。
「変なの。部長が女の割には免疫ないのね。アンタって」
「は!話するのと触るのは勝手が違うんだよ!」
顔を赤くするコウヤ
「フフ……」
なんやかんやでコナミは自分の言葉を聞いてくれた、自分も前部長だった以上ブレーキ役として意地を貫いてみせる。
そうカワサキはアイ達のやりとりを見ながら自分の心で誓うのだった。
――コウヤ君も頑張ってくれた。私も頑張らないとな――
そしてアイもまたアメイジングレジェンドの次、大会で使用するガンプラのイメージを強く膨らませていた。
遅れてすいません。これにて第10話終了です。
ミキシング改造するとどうしても余りのパーツが出てしまう、という体験がこの話のネタに繋がりました。
当初部長はただの嫌な男の予定でしたが小物が男ばかりではつまらないだろうなと思い今の女の子になったという経緯があります。
中途半端に同情してしまい結果的に小物とも言い難い中途半端なキャラになってしまいましたが、
※この作品世界ではビルドファイターズは創作という設定ですのでビルドファイターズ関係のキットは問題なく出す予定です。
そして今回の登場機体の投稿です
アメイジングレジェンド
http://www.tinami.com/view/645806
ドラッツェ・オクトパス
http://www.tinami.com/view/645808
よろしければどうぞ
※一部キャラクターの行動や言葉に矛盾が出てしまった為、修正しました。未完成で投稿したつもりもいい加減な気持ちで投稿したつもりもありませんが
見て頂いた多くの方に大変な失礼をしてしまいました。本当にすいませんでした。
説明 | ||
第10話 「わがまま部長」 二週間後に催されるガンプラサバイバル大会、だがそれへの参加には三人でのチームが原則だった。 それに参加すべくアイ達は三人目のビルダーを探す事となった。 |
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コメント | ||
mokiti1976-2010さん 有難うございます。そうですね。チームのレベルアップと決戦仕様の機体を…(コマネチ) これでめでたくチーム結成ですね。後は戦力の底上げ…ナナのレベルアップという所でしょうか?(mokiti1976-2010) |
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