真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 21 |
〜休息:再戦?〜
「くぁ〜」
俺は特大のあくびをしながら城を歩いていた。公孫賛の城は広いと言えば広いのだが、散歩する分にはちょうど良い広さだ。で、なんであくびなんかしているかと言えば、夜遅くまで雪華に昔話やら童話を聞かせていたせいだ。
「それなのに、どうしてあいつはあんなに元気なんだ……?」
相変わらずの朝っぱらボディプレスで起こされるし。
「いつつ、思い出したらまた痛みが……」
いい加減、どうにか何ねぇかな、なんてぼやいていると、関羽を見かけた。偃月刀を持っているところからすると、鍛練でもするのだろうか?
「お〜い、関羽」
「ん? ああ、玄輝殿」
俺を見つけたのを確認してから、彼女に近づいて話しかける。
「鍛練か?」
「ええ。玄輝殿は何を?」
「いんや、特になんにも。あえて言うなら昼寝の場所探しか」
「……玄輝殿は少し寝過ぎなのでは?」
ジト目で見られるが、今日はちゃんとした理由がある。俺は少しだけ胸を張って、その理由を告げる。
「昨日、雪華にいろんな話を聞かせてたからな。今日はそのせいだ」
「その割には、雪華は元気そうでしたが?」
「……いや、それは、なんつーか、特権じゃないか? あの年頃の子供の」
あと、今の歳ぐらいになると、一日でも徹夜したら次の日が辛くなってしまうのはご愛嬌ってやつだと思う。
「……それもそうですね。鈴々もなんだかんだで同じですし」
「へぇ、張飛に読み聞かせでもしていたのか?」
と、聞いてみたら、盛大なため息を吐かれた。
「いえ、寝付かせるのが大変なんです。で、次の日には元気なのですから、たまったものじゃありませんよ」
「あ〜、よくわかる」
てか、今の俺がそうだしな。
「妹を持つってのも大変だな。手のかかる姉もいるし」
「全くです」
とは言うものの、その顔は微笑んでいた。何だかんだで言っているのも、大切だからだろう。
「そうだ、話は変わりますが、玄輝殿、手合せ願えないだろうか?」
「手合せ? 別に構わんが、張飛はいないのか?」
「あやつは街へ。門を出るところを見ましたから、警邏だと思います。でも、今頃どうせラーメンでも食べているでしょうが」
あ〜、分かる気がする。そういや、この前、飯を奢った時は凄まじかったな。
(アイツの腹、どんな構造になっているのやら)
自身の顔が四つか五つくらいは入りそうな丼で食ってたからな。俺どころか、店の人間全員が驚いていた。まぁ、そのおかげで、財布が空になりかけたワケだが。
「で、一人で鍛錬しようとしていたところで、俺が声を掛けたって訳か」
「ええ、そういうことです」
そんでもって、俺達は中庭へと向かう。あそこなら問題なく戦えるはずだ。
「そう言えば、玄輝殿は前にご主人様に流派、とやらについて聞いていませんでしたか?」
「ああ、そういやそんなこともあったな。てか、その口調だと流派は無いのか?」
「ええ。学問ではそれに似たものはあるとは聞いたことがありますが、武では私は聞いたことがありません」
それもそうか。師匠も流派ってのは、戦場で培われた物じゃないとかなんとかって言ってたな。
(まぁ、俺が学んだのは違うもの、らしいが)
竜と戦うことを視野に入れている辺りとか特に。
「玄輝殿が学んだ剣は、その流派とやらの名前があるのですか?」
「あったらしい、が、正直言えば教えてもらえなかった」
「教えてもらえなかった? 剣は教えたのに?」
「一度だけ、気になって師匠の部屋を探して、それらしい本を見つけたんだが、ちょうど帰ってきた師匠にその場で没収されてな。断片的にしか覚えてない」
確か……
「え〜と、外なんちゃら、滅うんたら」
「……それは覚えてないのと等しいのでは?」
「だから断片的って言ったじゃねえかよ……」
なんて話をしていると、中庭についた。
「で、どうする? 寸止めでやるか?」
「そうですね。お互いに真剣でしょうし」
「いや、真剣ではあるが切れ味はもうないぞ?」
「まさか、ご冗談を」
関羽がそんなまさか、みたいな口調で言うが、
「事実なんだがなぁ……」
まぁ、こればっかりは実際に見てもらった方がいいか。俺は刀を抜いて、刃の真ん中あたりを握る。
「玄輝殿!?」
そして、その目の前で軽く引いた。普通の刀ならば、切り傷の一つでも出来ているところだが、
「な? 全く切れてないだろ?」
「…………」
呆然と傷一つない俺の手の平を見ている関羽の顔が、少しずつ怒りへ染まっていく。
「玄輝殿!」
「はいっ!?」
「もう少しやり方はあったのではないですか!? いくらなんでも無茶が過ぎます!」
で、お説教開始。
「そもそも貴方は!」
「いつも一人で突っ込んでは!」
……いつぞや、北郷が関羽に説教喰らった、って言ってやつれていたのを見たことがあるが、
(これは、キツイ……)
割かし的確なところを突いてくるから、反論しようがないし、しようとしたら先手を打たれるし。
「関雲長、恐るべし……」
「聞いているのですか!?」
「はいっ!」
で、その後、三十、いや、一時間ぐらいして、ようやく本題に戻ってきた。
「それで、その剣に切れ味は本当にないのですか?」
「あ、ああ。何だかんだで結構な数を斬ってきたからな、手入れはしているものの、そこら辺の鈍よりも切れ味は悪いと思う」
「……では、どうやって斬っているのです? そんな剣で斬れるなんて……」
「あ〜、こればっかりは感覚的な話になっちまうんだが……」
正直、詳しく説明しろなんて言われてもできっこない話だ。
「……線があるんだよ。斬れやすい線とでも言えばいいのか」
「線、ですか?」
「ああ。ここを斬れば斬れる、みたいな? 勘、と言った方が近いか? まぁ、とにかく、その線以外を斬ろうとすれば、骨を砕く事しかできない。どうせなら振ってみるか?」
俺は持っていた刀の柄を関羽に向けた。彼女は少しだけ戸惑うようなそぶりをしたが、おずおずといった動きで、その柄を掴む。
「……思った以上に軽いのですね」
「そりゃな。この国の剣とは違う原理で斬る物だからな」
「違う原理ですか?」
「ああ。この世界の剣は、主に剣の重さで斬っている。何となくわかるだろ?」
「ええ」
「で、そいつは日本刀、って言うんだが、そいつは切れ味で斬っているとでも言えばいいか? まぁ、要は重さをそこまで必要としていないとでも言えばいいのか……」
まぁ、俺自身、良く分かってない節があるから間違っているかもしれないが。
「なるほど」
関羽は二度、三度刀を振ると、少し顔をしかめた。
「やはり、感覚が違いますね。どうにもしっくりとしません」
「そりゃそうだろうさ。いきなり性質の違う武器を使えば誰だってそうなる」
それを聞いた関羽は近くにあった低木の枝に狙いを定め、刀を振り下ろす。
「……本当に斬れませんね」
枝は木から落ちたものの、繋がっていた部分は、ささくれ立っている。とても斬れたなんて言えるものじゃない。
「なんだよ、アレ見てもまだ疑っていたのか?」
「この刀で何度も斬っている姿を見ていれば、誰も信じようと思わないと思いますが?」
俺は関羽から刀を受け取ると、それを鞘に納める。
「で、結局寸止めでいいのか?」
「そうですね。そうしましょうか」
ルールも決まったことで、俺達は一度離れる。そして、ある程度離れたところでお互いに向かい合う。
「では」
「おう。試合の開始はこいつが地面に落ちてからでいいな?」
そう言って懐から取り出したのは、日本の銅銭だ。
「ええ」
関羽が頷くのを確認してから、俺はそれを親指で弾いて、天高く舞い上がらせる。それが、地面に落ちるまでの間に互いに構えを取る。
銅銭が地面に落ちて、小さな金属音を出しながら再び地面に落ちる、その前に俺達の間合いはゼロになっていた。
「シッ!」
先に手を出したのは俺だ。抜刀の勢いそのままに関羽の右肩辺りを狙う。
「フッ!」
だが、関羽はその前に刀の刃に得物を当て、弾き飛ばしてしまう。
(あっぶね!)
今のを受け方を間違っていたら、刀は完璧に折れていただろう。それほど重い一撃だった。だが、そこで終わらない。
「はぁあああああ!」
繰り出される連撃を、上体を逸らしたり、鞘で弾いたりして凌ぐが、このままでは捌ききれなくなる!
(ちっ!)
こうなりゃ!
「せいっ!」
「!?」
関羽が踏み込むために足を浮かせたほんの一瞬、俺はそこへ自身のつま先を突っ込み、それをハイッキクのように思いっきり上にあげた。となると当然関羽は、
「ひゃあ!?」
「…………」
バランスを、崩す、わけだが。
「…………」
「……あ、あ〜、スマン」
関羽が、スカートを履いていたことをすっかり忘れていたので、見えてしまったワケで。ちなみに、純白でした。
「ふ、ふふふ……」
「ひっ!?」
やべぇ! 逆鱗に触れた!?
「はぁああああああああああああああああああ!!!」
「前口上なしだとぉ!?」
鬼神と化した関羽の連撃は、まさしく竜の氷の雨が如し。とてもじゃないが、刀一本で防げるものじゃない。てか、そんなことしたら折れる。
「なんて、冷静に考えてる場合じゃねぇ!!!」
一応、持っていた釘十手と鞘でなんとか致命傷になりそうな斬撃は防ぐが、それ以外のは掠めている訳で。ちなみに、刀はうまい具合に弾き飛ばせて、後ろの地面に突き刺さっています。
「関羽! 俺が悪かった! とりあえず落ち着け! もはや実戦になってる!」
「問答無用!」
「問答してくださいません!?」
そんなやり取りを繰り返しながらも、手合せ、と言う名の一方的な刃の雨は彼女の体力が尽きた頃にようやく止んでくれた。
「ぜぇー、はぁー、ぜぇー、はぁー……」
俺は仰向けに大の字で地面に寝転がる。少しだけ顔を上げてみれば、関羽も同じように地面に寝転がっている。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
辺りに聞こえる音は荒い呼吸音だけ。
「はぁー、はぁー、はぁー、そういや、前から聞きたかったんだ」
「な、なにをです、か?」
「何で、そんな恰好で、戦っているんだ?」
「……動き、易いからです」
「…………」
(だったら、怒るなよぉ〜)
口に出せない、不条理を嘆いた言葉は、頭の中で何度も反響して、次第に消えて行った。
〜休息:終〜
あとがき〜のようなもの〜
はい、どうも! おひさしぶりのおはこんばんにゃにゃにゃにゃちわ、風猫です。
いやぁ〜、ある程度書けたのと、次を休息にしようと前から思っていたので更新したのですが、忘れ去られていないだろうか……? 若干不安ですw
てか、本編で毎回思うんですけど、恋姫たちって戦場で鎧とかどうしてんでしょうかね? 無印では鎧の話は若干出てたような気がしますが、真ではない気がしますし。
やっぱ、イラスト通りにあの服で戦ってるんですかね? 疑問ですわ……
え〜では、いつものように何かありましたらコメントの方に。
また次回〜
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白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話 真・恋姫†無双の蜀√のお話です。 オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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コメント | ||
naoさん:まぁ、大半の主人公のお約束ということで一つw でも、果たして本当に丸くなったのでしょうかね……?(ニヤリ(風猫) 理不尽な理由で怒られるのは一刀と一緒だな!なんかちと玄輝がまるくなってきたなw(nao) |
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