チートでチートな三国志・そして恋姫†無双 |
第30話 一刀vs愛紗<後編> 〜儒家と法家〜
「儒教? 孔子の教えを庶民に広め、識字率も上げようと言うのでしょう? 素晴らしいことではありませんか。」(※1)
俺と福莱は思わず”にやり”とした。
普通に考えれば、儒教=孔子の教え だ。愛紗もそう考えた。誰だってそう思うはずだ。でも、違う。
相当の知識や思考力が無ければ、この狙いに気づくのは不可能だろう。福莱でさえ、俺から言われるまで気づくことはなかったようだし。
「ほらね。全く問題無い。」
「”馬鹿にされている”としか思えないのですが……。何がおかしいのです?
ただ……。”民衆を啓蒙することの副作用”として、統治が難しくなります。つまり、逆らう者が出ることもこれまで以上に考えられるようになってきます。そこはどう考えるのです?」
誰だってそう考えるよなあ……。馬鹿な民衆であれば食事を与えるだけで良いけれど、“知識”をつければだんだん“権利”を要求してくる。
「俺は、浅慮な統治者は特に”民衆に教養がないほうが統治しやすい” ”優秀な人材なんて放っておいても頭角をあらわしてきたのだから、それでいい”なんて考えるだろうと思う。もちろん、愛紗や福莱が“浅慮”だって言ってるわけでも思ってるわけでもないよ。
でもね、それじゃいつまでたっても低次元なままなんだよ。他国と”差”をつけることなんてできやしない。」
俺は”三国志”の知識を活用して人材を登用しているけど、俺の知識にある人物なんてごくわずか。綺羅星の如く輝いた人物か汚名を残した人物だけだ。政治の世界では”悪名は無名に勝る”なんて言われるそうだけど……。
後者は兎も角、前者を例えば曹操陣営の参謀で挙げるならば荀ケ、荀攸、郭嘉、程c、賈?・・・。(※2)
このレベルの人材は”別格”だろうけど、その”ちょっと下”くらいまでだろう。”放っておいても頭角を現す”のは。
「……。」
「福莱や朱里、藍里に椿、玉鬘の”下”に就いて実際に働く人材がどうか……こそ俺たちの成否を分けるんだよ。組織は人が動かすんだ。俺の世界で”経営の神様”といわれた人は”ここは人をつくるところです。あわせてものもつくっております。”という話をしたくらいだ。それだけ人は大事なんだよ。」(※3)
「ご主人様のお話はよくわかりました。で、儒教の何が問題だというのです?」
「話さないことにする?」
「……。話すべきでしょう。……。わかりました。私から話しましょう。
ご主人様にとって、儒教は”道具”でしかありません。」
「!?」
福莱が味方で本当に良かったなあ……。敵に回したら怖い。
「ご主人様、今、失礼なことを考えていらっしゃいませんでしたか?」
「い、いや……。」
「道具!? どういう意味です!? 儒教を”道具”とは!?」
怒っていた。愛紗は怒っていた。恐らく愛紗にとっても“儒教”は至高の教え。それを“道具”扱いされたのだから、怒るのも当然だよな……。
「そのままです。民衆に教化を施すのです。”目上の者には逆らってはいけない”という教育を、徹底的に。」
「そんな、そんなことをすれば……。」
「国家に反逆しようなどということを考える輩は誰も居なくなり、優秀な将や文官が育ってゆく。良いこと尽くめだよね。」
「まさか歴代の皇帝が儒学を官学化したのは……。」
「そのようです。ご主人様の話を聞いて初めて分かりました。そこに関しては水鏡先生も上手くはぐらかして教えてくれませんでした。恐らく、全て分かっていたのでしょう。」
「そうだったのか……。」
“水鏡先生”((司馬徽|しばき))は気づいていたのか。恐るべき頭脳の持ち主だな……。しかし、そうなると不思議な点が出てくる。……。今はいいか。
「なるほど……。それに関してはよくわかりました。確かに、儒教のことをご主人様がそのように考えていらっしゃるのでは、“殺されてもおかしくない”と言えますね。
それで、何となくは私も理解出来たのですが、“すべて国民は、個人として尊重される”ということの意味を教えて下さい。どう考えても、儒教による“教化”とは逆行していると思います。」
そうなんだよなあ……。返す言葉もない。
「教える……というほどのものはないけど、“個人の尊厳の尊重” 繰り返しになるけど、意味は、自分の人生は、自分で決めることができる”ということだよ。ひとりひとりの人間を大切にする……ということ。そこに国家が介入することは許されない。それが、俺の住んでいる国における最も重要な決まり事なんだ。」
俺がそう言うと、愛紗は涙を流していた。
「……。 すみません。」
「落ち着いた?」
「はい。」
ただ、悲しい現実もある。それもきちんと話さなければいけないな。
「……。今、これをこの国にそのまま持ち込むことは残念ながら不可能だと思う。たとえ、俺たちの領土だけの決まり事にしたとしても。
でも、最終目的としてはこれを掲げたいし、これから漢王朝が“死”んで“群雄割拠”の時代になったときには、“俺たちの国の自由を広げる”ということを表に出して戦っていく。相手の心に訴えかけるんだ。人間対人間の勝負なんだから。」
俺がそう言うと、女?がため息をついて呟いた。「人間対人間……か。」と。俺はそれに不穏な気持ちを覚えながらも、話を先へ進めることにした。
「そう、そうですね。ある意味、儒教以上に危険です。
それにしても……。
ご主人様が最初に『((相反|あいはん))するように見える、”((儒家|じゅか))”と”((法家|ほうか))”の思想を取り入れて、この国を統一するんだ』と言ったのはこのことだったのですね。」
愛紗は笑っていた。俺には何故か、子供のような笑顔に見えた。
「ああ。儒家は教育、“徳”――その中でも特に((孝悌|こうてい))――で縛り、法家は法律、“法”で縛る。そういう意味だよ。
さて、最後にいこうか。“所得の再分配” 覚えてる?」(※4)
「勿論です!! 富裕層から税として多額の金を徴収し、貧しい人に分け与えるという画期的な制度ではありませんか! ただ……。どうやっても富裕層からの反発は避けられそうにありません。」
「それなんだけどね……。朱里たちがうまくやってくれていれば、もうほぼ終わりなんだ。」
「え?」
「“戸籍”で、“資産”が分かってしまえばあとはどうにでもなるんだよ。戦争前だから金が要る。富裕層は沢山出せ、でも良し。兵役免除の代わりに重税、でも良し。なんでも良いのさ。」
「これで……。」
「まだ終わりではありません。もう一つ、“宗教”が残っています。」
「あ。」
解説
※1:孔子・・・愛紗が“孔子”と言うのは厳密にはおかしいのかもわかりませんが、“子”は“尊称”でもあるので許容して下さい。これ以上は筆者には分かりません。
※2:例示を曹操陣営にしたのは読者の皆さんがわかりやすいだろうという思いからです。黎明期の名参謀を5人列挙しました。他にも○○が居る!! はキリがない(特に曹操陣営は)のでお控え下さると幸いです。
※3:規約違反になっても困るのと、“会社”などと言っても愛紗たちには通じないだろうと思ったので一部変えました。ある人物の名言です。
4:((孝悌|こうてい))・・・父母に孝行を尽くし、兄に仕えて従順であること。
参)孝悌の心・・・親や年長者に対する敬愛・親愛の心。
後書き
深き謝罪を読者の皆様へ。
3話において、“義”と“法”と書いておりましたが、“徳”と“法”の誤りでした。大変申し訳ありません。ネタバレになるので後書きにて謝罪させて頂きました。
戦国恋姫発売にあわせてup・・・のつもりでしたが、内容的にちょっとそぐわない気も。今日中にもう1話up・・・できたらいいと思います。
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第3章 北郷たちの旅 新たなる仲間を求めて 話と話の分け方を間違えたので短いです。(29.30話は一緒で良かった...。)アンチに見られかねない話その1です。ごめんね雪蓮。 |
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