第二十四話

　　　「勝利とは」

（俺は……負けた……のか？）

　姜維の一撃を受け、一刀は自分が意識を失おうとしている事を自覚していた。

（やっぱり……強いな……あいつは……俺では……勝てない、のか……）

　だんだんと意識が遠くなる。

　敗北を認め、そのまま意識を手放そうとしていた時、彼に走馬灯を見るような現象が起こる。

　数年前の頃だ。彼の父である解刀の訓練を受けている。

　彼は父から一本獲るために必死に剣を振るう。

「はは、今回も張り切っているな一刀！」

「当然！　今回は何としても一本獲る！　そして近い内に勝たせてもらう！」

「勝つ……か……」

　解刀は急に剣の構え解く。それを見た一刀も何事かと思いながらも剣を下ろした。

「なぁ、一刀……さっきお前は俺に勝つと言ったが、お前にとって……勝つとは何だ？」

「え？」

　一刀は素っ頓狂な声を上げた後、答える。

「敵を倒すことじゃないのか？」

　その答えに解刀は考える素振りをした後、ある質問をする。

「それが……瑠理や元姫が殺されていた後だったしてもか？」

「なっ！？」

　一刀は首を大きく横に振る。

「いやいや！　そんなの駄目だ！　俺は二人を守りたくて強くなろうと……あ……」

　一刀は解刀の言いたかった事を理解する。

「そうだ。自分の目的や本懐を果たせずに敵を倒したところで、それは勝利と呼べないだろう？」

　一刀は静かに頷く。

「そうか。なら、もう一度問うぞ、一刀」

　お前にとって勝利とは何だ？

（俺にとっての……勝利……それは……）

　そして、一刀の意識は……一気に覚醒した。

（愛する者達の未来を、守ることだぁ）

　一刀は心で叫び、倒れそうになる身体を足を踏ん張らせ、無理やり立たせようとした。

「うおぉぉぉぉ！」

「何！？」

　その事に姜維は驚愕の表情を浮かべる。彼は完全に意識を断たせたと思い込んでいたからだ。

（く！？　どうやら完全に直撃した訳では無かったか！？）

　そう、先ほどの一刀の悪あがきは、攻撃は受けても直撃を避けていた。故に完全に意識を失わずに済んだのだ。

　そして一刀は何とか身体を立たせる事に成功する。

（っ！？）

　だが、彼の左足に鈍い反応があった。

　姜維の一撃による衝撃と、さらに無理な体勢から身体を立たせる事の衝撃も受けてしまい、彼の左足はぼろぼろになったのだ。後一

歩でも踏み込みに動けば、その足は今後使い物ならなくなる可能性がある。

（だが、一歩動ければ十分だ！）

　一刀は顔を姜維に向き直らせ、剣を構える。

（姜維！　悪いが何としても勝たせてもらうぞ！　俺なりの……勝利の仕方でな！）