Over there 4
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「どうした?何か嫌なことでもあったのか?」

「ううん、なんでもない。」

何でもなさそうには見えない、様な気がした。

「なあ。ホントに何か「そういえば晴はちゃんと起きた?」

 

・・・・・・・何だコイツ。

ちょっとお父さんイラッときましたよ。しかも、逆にどうしたの?的な表情でこっちを見てきやがる。耳に何か詰まってるんじゃないのか?

「おい、聞いて「寝ぼけた晴に何にもされてない?」

・・・・・・・聞けよ。

「もういいや。」

「何のこと?それより・・・・・」

俺はすっかり俺の話を無視しやがる空の話を、適当にあしらってやったさ。せめてもの反抗だ。

 

 

 

その後も結局聞けずじまいで、放課後になってしまった。何か平凡だな。フツーの高校生ってのは、もう少し刺激に満ちているものだと思う。じゃあフツーの高校生ってどんなことするんだろうか。意味なくアホなことやったり、グレたり・・・・・。やっぱり良く分からん。教えてくれる人は古倉詩ちゃんの携帯まで。

 

今日もいつもと変わらず三人並んで初夏の太陽の光を受けながら帰った。

 

 

 

 

go to Kaito

 

 

 

 

その日は休日にもかかわらず、朝から黒い雲が空を埋め尽くし、そこからは沢山の雨粒が落ちてきていた。僕はこういう天気は嫌いだった。なぜかというと、この空から降り注ぐ雨の雫からこの世界の悲しみが伝わってくるかのようだからだ。優菜と二人で登校する時、僕は彼女に雨にどんな印象を持つかを聞いたことがある。その日も雨が降っていて、僕の気持ちは少し暗かった。優菜は先に僕がどう感じているかを聞かせて欲しい。と言ったので、あまりいい印象を持てないと言った。すると優菜は僕にこういった。

 

「雨は悲しく感じるかもしれないけど、雨はこの世界のみんなの涙かもしれないけれど、涙を流す事が出来なかったら、そのうちそういう悲しいっていう感情も見つからなくなっちゃう。だからたまには泣くことも大切なことだと思う。この現実が辛くて泣いちゃうこともあるかもしれないけれど、それでもいいんだよ。きっと。」

 

その言葉は僕の胸にしみこんだ。

 

ふと、そんなことを思い出しながら僕は昨日の夜に来たメールを確認する。

 

『明日暇でしょ?それなら一緒に行きたいトコがあるから付き合って。』

 

たった2文の素っ気無くて図々しいメール。昔から優菜はこうだった。

 

「待ち合わせは十時だったっけな。」

 

確認するように予定をつぶやき、時計を見ると、既に九時を回っていた。優菜を怒らせないためにも、僕は急いで支度を済ませて玄関をから駆け出した。

 

 

 

待ち合わせ場所には優菜が既に来ていた。もしも遅れていたら何か言われる為、念のため時刻を確認。9時45分だった。これで文句を言うほど優菜も鬼畜ではない。遠目に喫茶店の軒下に立っている優菜が見える。この間二人で買いに行った服を着てきたらしい。いつもとは少し違う雰囲気を感じた。

「おまたせ。」

優菜は僕の声に気づくと、こちらに駆け寄って来るなり突然抱きついてきた。僕は右手に持っていた傘を落としそうになった。何だなんだナンダ?あまりの展開というか優菜の変貌ぶりに文字通り僕は呆気に取られた。僕の胸に顔をうずくめていた優菜が、上目遣いにこっちを向く。それは少し反則だと思った。

「遅いよ、快斗!」

「ど、どうしたの?急にこんな!?」

「そんなことはどうだっていいのよ!さっさといきましょ!」

優菜はそう言うと、傘を持っていないほうの手を握って歩き出した。

 

今までに見たこの無い優菜がそこにいた。優菜は今まで僕のことを名前で呼んだことはないし、それに急に飛びついてくるなんて事もなかった。もちろん手をつないで歩く事も。ただの友達としてしか優菜を見ていなかった僕は、このとき初めて優菜を可愛いと思った。

 

「行きたい場所ってどこなの?」

僕がそう言うと優菜は満面の笑みを浮かべて、

「それは着いてからのお楽しみだよ〜!」

 

僕は優菜に手を引かれるがままに歩いた。いったいどこへ向かうのだろうか。僕らはいつも乗っている電車とは違う電車に乗った。いつもよりも高い値段の切符を買った。

 

しばらく電車に揺られ、ふと窓の外に視線を向けると向かい側の窓には空との境界線まで続く海が広がっていた。

「きれーい。一度だけでも二人で見に来たかったんだよね、ここの海。」

「そうなんだ。僕はあんまり海には写真を撮りには来ないから、こんなキレイな海があったことなんて知らなかったよ。」

「次の駅で降りて砂浜を歩いてみよう!」

「優菜がそんなに言うんだから別にいいよ。」

 

次第に夏が近づいているといっても、さすがにまだ海には入れない。無論用意もしてきていない。

駅から数分歩くと、まるで二人だけで貸しきったように、砂浜には僕達以外の誰もいなかった。

 

「すごーい!ねえねえ、水平線が見えるよ!やっぱり地球って丸いんだね!」

いつもの優菜からは想像もつかない言葉。想像もつかない表情。想像もつかないしぐさ。あらゆる意味でそれらは新鮮だった。

「そりゃあ海なんだから水平線が見えるのは当たり前だよ。」

「そうだけどさ。普段こういうものって見ないじゃん!」

 

不思議だった。これは本当に優菜なのだろうか。優菜の形をした別の何かなんじゃないかと思った。

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