ユリスマス1〜命編〜
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ユリスマス1-命編-

 

 マナカたちが訪れる前の12月24日。命は仕事が合わずに辞めていた頃であった。

一生懸命萌黄のためにがんばってはいたがついていくことができなかった。

帰りに寒さに耐えながら周りの雰囲気が違うことに気づいた。

 

 色々あったから前からやっていたことに気づいていなかったようで

見たこともない空気に命は驚いていた。そう、周囲はクリスマスムード一色だった。

カップルだけではなく子供たちも賑わっている。

 

「こんなイベントが…」

 

 暗くなり始めた頃からイルミネーションが光を放ち、辺りが宝石のように輝きだして

命には驚きの連続だった。子供の頃から人里から離れた場所でひっそり暮らしていたから

無理もないだろう。

 

「綺麗…」

 

 マフラーから漏れた白い息が暗くなっていく空へと昇っていって消える。

その時、ふと目の前にはクリスマスケーキと書かれている店を見つけて目を細めた。

 

「ケーキか…」

 

 何となく命の中で必要かもしれないという気持ちにさせて店へと歩を進ませていた。

 

【命】

 

「ただいま〜」

 

 私が先に家へ入って居間を暖かくして食事の準備をしていてしばらくしてから

萌黄が帰ってくる声が聞こえたので大きめの声で返事をしてから玄関へと迎えにいった。

 

「おかえりなさい」

「今日は大変だったね〜」

 

「私の努力不足でしたから仕方ないですよ」

 

 萌黄の言葉に苦笑しながら答えるが、萌黄はまだ少し残念そうな顔を残していた。

だけどそんな空気で今日という日を過ごしたくはない。

できるだけ笑って生きたいと思うから。私は微笑みながら萌黄に接した。

 

「今日初めて知ったんですけど、クリスマスっていうイベントがあるみたいで」

「あぁ…。って命ちゃんクリスマス知らないの!?」

 

「はい、私人に混じって暮らしたことがほとんどないので…萌黄が教えてくれると

嬉しいですね」

「あはは、そっか。そうだよね…とりあえず日本のクリスマスには和食っぽいのは

出ないかな」

 

「え!?」

 

 何を作ればいいのかわからずに、私は大根の煮付けや和風の食べ物ばかり

作ってしまった。驚いている私の顔を見てさっきまでしょげていた萌黄がお腹痛いと

言いながら笑い転げていた。

 

 そんなに恥ずかしいことしたのかと思うと私の顔も熱くなってしまう。

 

「も、もう!萌黄ったらー!」

 

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「美味しいよ。命ちゃん、すごく美味しい」

「・・・」

 

 からかわれ続けた私はふてくされ、頬を膨らませて萌黄と視線を合わせないように

すると困りきった萌黄が私の料理食べながら私の様子を伺うのが可愛くてついつい

長く同じ状況を続けていたが、さすがに10分以上は耐えられずに吹いてしまった。

 

「ぷふっ、怒ってないですよ」

 

 一度言葉を出すとダムが決壊するかのように笑いが一気に出てしまった。

 

「よかったぁ」

「そんなんで怒るわけないじゃないですか…。恥ずかしいですけど」

 

 ひとしきり笑った後に私が笑顔を萌黄に見せると口いっぱいに食べ物を詰め込んでいた

萌黄が必死に飲み込んだ後に安心したような顔を見せてくれた。

私のために色々想ってくれるのが本当に嬉しい。

 

「でもケーキはあるので。それはちゃんとしてるでしょう?」

「え、本当に!?一緒に食べようか」

 

「はい」

 

 二人で見つめあいながら微笑みを浮かべる。そんな幸せの時間がゆっくりと流れる。

でも、よく考えたら私たちのこの雰囲気は今日に限ったことではなかった。

 

 苦労して結ばれてから、少しは喧嘩もするけれど。いつも傍に萌黄がいてくれる。

それが私にとって唯一の癒しであり、拠り所なのだから。

 

「あーん」

 

 ぱくっ

 

 ホールのケーキを切り分けて萌黄が私にフォークで取ったケーキの一部を

食べさせてくれる。私も同じようにして萌黄に食べさせる。

こういう風なやりとりをしているとさっきまで辛い気持ちでいたのを和らげてくれた。

 

「そうだ、後で外出てみない?」

「え?」

 

 ご飯もケーキも食べ終わって片付けをしている最中に萌黄が私の傍に来て

そう言ってきた。

 

「イルミネーションみたくてさ」

「イルミネーションってあの輝いている装飾ですか?」

「そうそう」

 

 街中で眩しいくらいの光が幻想的で寒さによる白い息も演出を増してくれてるの

かもしれない。でも…。

 

「私帰る時見ましたよ」

「私も見たよ」

 

「え、じゃあ…」

「一緒に見るとまた違うもんだよ。それと久しぶりにお買い物したいしね」

 

「萌黄…」

「良い?」

 

「もちろん!」

 

 厚着をして外に出ると肌に刺すような寒さが堪える。ちょっと見上げると

空が澄んでいるのか星が綺麗に見えた。その中で萌黄と話しをしながら歩いている

うちに一番綺麗に飾ってあると言われてるイルミネーションの場所にたどり着く。

 

 萌黄の案内で来て見つけた瞬間に私は絶句する。目の前の大木に一面に飾られてる

灯りがあまりにも幻想的な綺麗さに驚いてしまった。

 

「お?」

 

 萌黄の声と共に私も上から降ってくる柔らかいものに気づく。

 

「雪だ…」

「ホワイトクリスマスになるのかな?」

 

「ふふっ、まるで絵本のようですね」

 

 その時、私たちの横をゲームをもらって上機嫌な子供が通っていってそれを

見ていたら何だか不思議な気持ちになった。

 

「どうしたの? 命ちゃん」

「いえ、何でもないんですけど…。何か見つけたような」

 

「何を?」

「わからないです…。ほんとに薄っすらだけど…でもいつかわかるといいかな」

 

 それは日常から離れた感覚が感じさせたのか、それともこれから起こる直感のことか。

私は後々それに関わる仕事をすることになる。多分そのときの子供の笑顔が

忘れられなかったのだろう。

 

 もしかしたら子供が欲しかったのかもしれない。

 

 そんな形にならない気持ちをイルミネーションを見ている内に消えていった。

しばらく堪能してから家に戻ると冷え切った体を温めるのに二人でお風呂に入る。

暖かい湯気を挟んでお互いの体を触れ合った。

 

 抱きしめてると萌黄の柔らかさが心地よくて、なんだか眠くなってきそうだ。

お風呂をあがって部屋に戻ると萌黄が枕を持って私の部屋に訪れてきた。

 

「一緒に寝よう」

 

 今日は本当に温もりが欲しかったから、萌黄のしてくれることは全部私にとっての

癒しや栄養になってくれている。先に眠りに就いた萌黄の寝息を聞きながら私も

目を瞑って疲れを取ることにした。

 

 ずっと萌黄とこうしていたい、こうしていられるように

これからもがんばろうと思えるのだった。

 

説明
仕事に疲れて命から見るあの輝きを彼女はどう感じるのだろうか。
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タグ
命一家 摩宮萌黄  百合 クリスマス 

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