星の居場所 |
『オリオン座はね、一番見つけやすい星座なんだよ!』
茜はよくそう言っていたのを覚えている。あの特徴的な配置、他の星とは少し違って、明るく、綺麗な星座。決まって僕は、『確かにそうだね』と返していた。
僕が茜と最後に見たのはいつだっただろう。あれから何年を経ったのか。夜空の下で、昔を懐かしんだ。
「おとーさん。さむいよー」
「それだけ着込んでも寒いかー。よし、じゃーマフラーつけるぞー」
自分が巻いていたマフラーを取って、由紀の首元にくるくると巻いてやる。
子供の相手を自分一人でするようになってから、と考えると本当に何年も経っているのだなあと否応にも実感させられてしまった。
「どうだ由紀? あったかいかー?」
「うん、あったかい!」
「よしよし、もうちょっとだからなー」
由紀の手を取りながら、頭をなでてやる。嬉しそうに目を細めて微笑むのは、茜と同じ仕草だった。
小さい山の上には古びた展望台が建てられている。他に人がいることはほとんどない。昔は茜との逢瀬の場所だった。
展望台の柵は由紀にはまだ高い。よく星を見られるようにと、肩車をしてやった。
「オリオン座!」
由紀は僕に教えたいようで、あそこあそこっと言いながら、ずっと指をさしている。確かに、そこにはオリオン座があった。
黒い空のカーテンの中、散りばめられた宝石達。その中で輝くオリオン座はいつ見ても、変わらない形でそこにあり続けている。それを見てきた僕だけが変わっていく。
茜は変わらない。いや、あの星々のように届かないものに変わってしまった。僕がそっちに行くのはまだまだ先だろうけれど、待っていてくれるだろうか。
弱音を吐いても変わるわけじゃない。思案をしても、茜が戻ってくるわけでもない。それでも、彼女が僕の傍にいた証を、彼女がこの場所に立っていた証を決して忘れない。
「……おとーさん?」
「どうした? 由紀?」
ついつい物思いに耽ってしまっていた。肩からそっと由紀を降ろしてやる。由紀はじっと僕の顔を見たまま何も言わなかった。
「……由紀?」
「……だいじょうぶだよ、泣かないで」
小さな手に涙を拭われていた。その仕草が、やっぱり茜と重なる。それが、嬉しくもあって、寂しさを思い出す。由紀はいい子だ。きっと茜以上に素晴らしい人になっていくことだろう。
それを見守っていくのが、僕の役目だ。
「……ありがとうな、由紀。それじゃ、帰ろうか」
「……うん。また、来る」
由紀の手を掴み、展望台を降りていく。その最中、おもむろに振り返ってもう一度オリオン座を眺めた。この光景を目に焼き付けていくために。
展望台の片隅に見えないけれど、茜はいるのだ。透明な彼女の居場所は、僕の思い出の至る所にいる。
それを明日も思い続けよう。彼女のもとに行くその日まで。
説明 | ||
三題噺。オリオン座、透明、居心地 | ||
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