真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第十三話 |
〜袁紹side〜
水関攻略が始まって4日目の夜を迎えようとしていた。
日は既に落ちかけ、山裾から少しだけ明かりを灯していて、空は綺麗なグラデーションになりながら漆黒へとその色を変化させていく。
今日の水関攻略は時間的に厳しくなってきたところで、袁紹の顔にはより一層の焦りの顔が浮かぶ。
それは、思い通りに攻略が進んでいないと言うのもあるが、それ以上に時間をかけることによる不利益の方が大きいと思えるからである。
時間をかけたことによる兵士達の疲労や焦り、敵の兵器に対する恐怖心の倍増、それに伴う脱走者や士気の低下への懸念、考え上げればきりが無いほどの不利益があれば、人間は自然に焦るものである。
「えぇ〜い………。一体どうして、こんな関の一つも攻略できないんですの!!!???」
「まぁまぁ、麗羽様落ち着いて……。」
「これが落ち着いていられる状況ですか!!! 早くしないと、帝が董卓よりどんな命令を強要されるか分かったものではないのですわよ!!!!」
「とは言え姫〜……。もうこんな時間だし、今日はこれ以上戦闘するのは危険だぜ??」
「くっ………。仕方ないですわね……。全軍一時後退!! 敵の矢の届かないところまで華麗に後退なさい!!!」
袁紹の指示で次々と後退を始める袁紹軍。
それに併せて、他の諸侯も軍全体の後退を始めている。
これにより、水関攻略の一日目が終わると誰もが思っていた。
そう、連合軍の一部を除いた全員が………。
後退を行う道中、伝令兵が袁紹のもとへと飛び込んできた。
「袁紹様!!!!」
「なんですの? 騒々しい…。」
「はっ!! 袁術様が来られましたが……。」
「美羽さん?? 何で美羽さんがこんな所に居るんですの??」
「はっ!!! 何でも、袁紹様に呼ばれたからだと……。」
「私に呼ばれた??? 何を馬鹿なことを言っているんですの??」
「とにかく、袁術様をお通ししてもよろしいでしょうか?」
「………。まぁ、本人に直接聞いてみれば良いですわね…。お通しなさい。」
「はっ!! それではお連れいたします。」
そう言って下がった伝令兵は、次に美羽さんと七乃さんを連れてやってきた。
「袁紹様。お二人をお連れしました。」
「ご苦労ですわ。さて、美羽さん??」
「うむ。麗羽姉さまも大変だったの。」
いきなりそうやって話を始めた袁術に対して袁紹は、これは自分に厭味を言いに来たのだと思い、話半分で会話することに決める。
「お〜っほほ〜。そんなことありませんわよ。」
「強がらんでも良いのじゃ。そんな事言っても、あのような兵器を持ち出されたのじゃから、苦戦するのは目に見えて明らかなのじゃからな。」
「………。」
その小さな胸をこれでもかと目一杯張りながら、言い切る袁術を見て、やはりこの場を借りて厭味を言いに来たのだと、袁紹はこの時確信する。
「しかし、優秀な兵士というのはあの程度の事を恐れるとは思えんが、どうしてか麗羽姉さまの軍の兵士が怯えておるように見えるのじゃが、何故かの?」
「あら美羽さん。あなたの目は節穴でして?? 我が軍の兵士にそんな人一人もいるわけありませんわ。」
「そうかの?? 現に今こうして帰ってきておるではないか。」
「おほほほっ。美羽さん、別にそれは恐れて帰って来てのことではなく、日が暮れてきたから退いているだけですのよ? そんなことも分からないようでは、同じ袁家の者として恥ずかしいですわ。(ニヤリ)」
「むっ!! なんじゃと!!? 麗羽姉さまが助けて欲しいと涙ながらに頼み込んできたからこうして態々駆けつけてやったというのに、なんじゃその態度は!!!!」
「………はぁ?? わたくしが何時、涙ながらに美羽さんに助けて欲しいなどと懇願したとおっしゃるのかしら??」
「ふん!! 今さらしらばっくれても無駄じゃ。伝令が来て、麗羽姉さまから救援要請が来ていることを伝えてったのじゃ。」
ここにきてようやく話がかみ合わないことに気付く。
そもそも、伝令など出した記憶が無い。
「斗詩さん。あなた、私に代わって伝令をお出しになって??」
「いえいえ!!!! 麗羽様に代わって伝令なんて出すわけ無いじゃないですか!!!」
「それもそうですわよね…。となると、誰が一体伝令なんて……。」
「七乃!! 確かに伝令は来たよのぉ!!??」
「はい、美羽様。確かに伝令さんが袁紹さんからの言伝だと告げてましたね。でも、私少し疑問だったんですけど、あんな人うちの伝令で居たかな〜とは思いました。」
「なんじゃと!!!? 何故それを早く言わんのじゃ!!!」
「だって〜美羽様が行く気満々でしたからお留めしなくても良いかなと…。」
美羽さんと七乃さんの会話が目の前で繰り広げられている。
それを見ていて、ふと思い出したかのように質問を投げかける。
「そう言えば………美羽さん、あなたは後方で輜重隊の護衛のはず。その任はどうしたというんですの?」
「そのことなら、後任の者を寄こすと伝令から聞いているぞよ??」
「美羽様。今はその伝令が偽者って話ですので、きっとその後任はいないかと……。」
「なんじゃと!!? では、輜重隊は!!!??」
「報告します!!!!!!!!!」
袁紹軍の鎧を着た兵士が急いで私の前までかけてくると、拱手の姿勢をとりながら報告する。
「我が軍の輜重隊が何者かの強襲により壊滅!!!!! 繰り返します。我が軍の輜重隊壊滅!!!!」
「「何ですって〜〜!!!!!!!(なんじゃと〜〜〜!!!!!!!!!!)」
同時にその絶叫が木霊する中、輜重隊が居たと思しき場所からは黒色の煙が上がっている。
その光景に愕然とする中、もう一人伝令が飛び込んできた。
「ご報告します。謎の部隊がこちらに向けて接近。数はおよそ二千程。輜重隊を襲撃した部隊のようです!!!」
伝令が伝えた情報に驚いた私であったが、直ぐにそのぐらいの数であれば此方の方が兵士が大勢居るのだから負けることは無いことに気付く。
「輜重隊を潰したぐらいでいい気になって本体を強襲しようなど、あまり甘い考えを持たないで欲しいですわね。そのぐらいの数なら、直ぐにでも返り討ちにして差し上げますわ!! お〜っほっほっほ!!!!!!!!!!」
高笑いを上げながら余裕の笑みを浮かべる袁紹。
袁術にしても、そのくらいの数なら自軍だけでも何とかできると、余裕の表情で待ち構えている。
そんな余裕の表情を浮かべる二人の背後。
薄暗くなり始めた夕焼けの中、今まで頑なに連合軍を跳ね返してきていた水関の扉がゆっくりゆっくりと開いていくのだった。
〜桃香side〜
水関の門がゆっくりゆっくりと開いていく。
そんな状況に気付いたのは、私たちが一度引いて体勢を立て直してしばらく、袁紹さんの軍の輜重隊が強襲されたという報告が入ってきた丁度その時だった。
開いていく水関の門の内側には、紅白の徳と十字、漆黒の華、紺碧の張の四種類の旗が確認出来、開ききると同時に一斉に飛び出してくる。
その狙いは連合軍総大将、袁紹さんの軍であるのだろう。一直線に袁紹さんの軍に向かっていく四種類の旗。
対する袁紹さんはと言えば、後ろから強襲されているにもかかわらずまるで迎え撃つ準備が出来ているようには思えない。皆一斉に別方向を向きながら戦闘体制をとっている。
このままでは袁紹さんの軍は崩壊必至。そうなればこの連合軍は成果も出せずに敗北するという事態に陥ってしまう。
ここは、何とか袁紹さんを守らなければ…。
「桃香様!!!! このままでは袁紹殿が!!!?」
「分かってるよ、愛紗ちゃん。私たちは、水関から出てきた軍の側面からぶつかって、その勢いと数を減らすようにして対処します。 朱里ちゃんそれで問題ないかな?」
「はい。部隊の再編も終わってますから大丈夫かと。」
「よ〜し。袁紹さんを助けて、序に敵将の一人でも討ち取って、私たちの名を上げていこう!!!!」
「おやおや、簡単に言ってくれる……。敵は猛将ばかりで一人討ち取るのがどれだけ大変だか分かっておいでか?」
「分かってるよ、星ちゃん。でも、それが可能だって私はみんなの実力を信じてるから………。だからこうして、言い切れるんだ。」
「………ふっ。そこまで言われるのであれば、この趙子龍のやり捌き、特とご覧に入れましょう!!!!」
「全軍出陣!!!!」
愛紗ちゃんの威勢のいい掛け声を合図に、星ちゃん、愛紗ちゃん、鈴々ちゃんを有する先行部隊が一気に敵の側面目掛けてかけていく。
私と朱里ちゃん、雛里ちゃんは本隊を指揮しながら、その後を付いていくのだった。
〜雪蓮side〜
水関の門が開く。
直ぐに突入できるように準備をしようとしたところで、中より出てきた軍を見て考えを変える。
「冥琳!!!」
「分かっている!!! 全軍、劉備軍と平行して敵の側面から当たれ!!! 無理に切り込むようなことはせず、相手の突撃力を落とせればそれで良い!!!!!」
「私が前線に行くわ。文句は言わせないわよ。」
「……………軍師としては、あなたを前線に置く事はしたくないんだけど…。そうも言ってられる状況じゃないし…祭殿!!!!!」
「おう!!! 策殿の補佐は任された!!!!」
「お願いします…。 興覇、幼平!!!!」
「「はっ!!!!!」」
「祭殿と一緒に前線の補佐を!!!!」
「「御意!!!!!」」
「孫呉の兵たちよ!!!! 敵は愚かにも関より突出し、我々と野戦をしようと挑んできた。その驕りを踏みにじり、奴らに孫呉の兵の強さを見せてやれ!!!!!!」
「「「「「うぉおおおぉぉぉ〜!!!!!!!!!!」」」」」
「全軍、突撃〜!!!!!!!!!!!」
劉備軍が動き出すとほぼ同じ頃、孫策軍も動き出す。
彼女らの目標はただ一つ。
敵の大将の一人、徳種聖の首である。
〜曹操side〜
「華琳様!!! 水関が!!!!!」
「見えているわ!!! 全軍、側面より接敵しその勢いを削ぐ!!!! 夏侯惇、夏侯淵の両軍は袁紹軍の救援を!!!」
「「はっ!!!!!」」
斥候より、水関とは逆方向から少数の部隊が袁紹軍に迫っていることは聞いている。
ならば今回の出陣は、その部隊を水関に帰す為に袁紹、袁術軍の中を食い破ろうとする方針のはず。
突撃力のある部隊を先行させて穴を空け、そこを通って帰ってくる。
なんとも単純な策だが、優秀な将の多い董卓軍と徳種軍であるが故に出来る策であろう。
しかしそう簡単に物事を運ばせる気は無い。
「さて………そう簡単に帰れるとは思わないことね、聖。」
〜聖side〜
俺たちが関より出てきたことで、今まで静観していた曹操軍や劉備軍、孫策軍が両側から一気に迫ってきた。
ここまでは予想通り、ならばそろそろ………。
「霞!!!! 曹操軍は任せた!!!!! 俺は劉備軍と孫策軍を止めておく!!!」
「任しとき!!!! 今まで関ん中でじっとしとった分、今暴れたんで〜!!!!!」
「華雄!!! 一刀!!!! 音流を頼んだ!!!!!」
「任せておけ!!!! 散々堪った鬱憤。それを突撃力に変えた我が軍を、抑えられる者等おらん!!!!!」
「了解!!!!! 本郷隊は華雄隊があけた道を死守せよ!!!! 守りが主体の我が軍の強さ、存分に見せてやれ!!!!!!」
「「「「「おおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」」」」」
直線に進んでいた四隊は、両端の二隊がそれぞれからやってくる袁紹軍への救援隊に向けて進軍し、残りの二隊は縦に連なるようにして袁紹、袁術軍に突撃していく。
それと同時に、水関の反対側からは紅白の太旗が袁紹、袁術軍に迫る。
ようやくこの時になって、袁紹、袁術の両軍は挟み撃ちにあってることに気付き、対応しようとするが時既に遅し…………。
「全軍突撃!!!!!!!!!! 袁紹、袁術軍の弱卒など鎧袖一触!!!!!! 我が軍の強さ、そして怖さを存分に味わわせてやれ!!!!!!!!!!!!」
「「「「「ううおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
「全軍!!!! 兄ちゃんにただいまっちゆうまで、死ぬこつはウチが許さなか!!!!! 見事に突破して、家族んとこに帰るぞ!!!!!!!」
「「「「「ううぉおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
両側からその突撃力を持って侵入して来た二部隊を、袁紹、袁術の両軍は中途半端な対応でしか迎えることは出来ず、両前線は崩壊するのだった。
弓史に一生 第九章 第十三話 奇襲 END
後書きです。
初めにも書きましたが、本当に投降が遅れてすいませんでした。
その関係もあり、今日投降することになったため二時間ほどで特別編を書き上げました。
お詫びと言うか何と言うか……皆さんを待たせていた分、少しでも楽しんでもらえればと思います。
次話の投降に関しましては、年明け1月5日を予定しております。
それでは、皆様良いお年を〜……!!
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 この度は本当にすいませんでした。 まさか、ここまで投降するのに遅れるとは思ってもいなくて……。皆様を随分と待たせてしまったかなと思います。 そのお詫びもかねて、今回は本編と特別編の二話投降してます。 こんなの書いてる暇あったら、早く上げろよって言うコメントは無しの方向で……どうかよろしくお願いします。 それでは、お楽しみください。 |
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コメント | ||
>nakuさん コメントありがとうございます。 今回は二袁の見通しの甘さを主体に物語を描いていますので、この戦いでは劉備、曹操、孫策のその辺りの弱点攻めはしないかと…。(kikkoman) | ||
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