特撮番組「刑事戦隊パトレンジャー」の撮影が一段落したため、パトピンク・桃ノ沢バニラ役の雪ノ沢恭子は楽屋へと入っていった。

「あれ？陽子さん。先に帰ってたんですね。…何しているんですか？」

楽屋には既にパトイエロー・市川マナミ役の西山陽子がいた。

「あ、恭子ちゃん？…サイン書いてるの。」

なるほど確かに陽子の前には大量のサイン色紙が積まれている。

「何かえらくたくさんありますけど…。どうしたんですこれ？」

その質問に、陽子はやや困ったような笑顔を浮かべる。

「それね…父親に頼まれちゃって…。」

「お父さんに？」

「うん、何か私のサインをお土産に持ってくと商談で「つかみはOK！」なのだそうよ。」

「…ああ！陽子さんの実家って凄く大きな牧場ですもんね！」

恭子の言うとおり、陽子の実家が経営する牧場「西山牧場」はファンガルド星でも知られた大牧場で、酪農・畜肉・リゾートとあらゆる事業を手がけている。

「それに、牧場の牧夫さんには子持ちの人も多いから、そういう人向けのボーナスも兼ねているんだって。」

「なるほど…。でもこれだけあると大変ですよね。」

とここで陽子はニヤリと笑う。

「それよ。あんまり父親がサインをねだるもんだから、私も我慢できなくなって、「撮影仲間やスタッフさん用にアイスを用意しないとサインしない！」って言ってやったのよ。」

「？！」

アイスという言葉に、恭子は耳ざとく反応する。

「アイスって…まさか「西山牧場の特濃ミルクアイス」？」

「ピンポーン！」

「それ…わたし「お取り寄せ」しようと思ってもいつも売り切れているんです！いいなあいいなあ！」

「西山牧場の特濃ミルクアイス」は味の良さと生産量の少なさで知られる西山牧場の一番人気商品で、出荷のたびに速攻で売切れてしまうのでなかなか入手できない人も多い。

「そう言ってくれると思ってね…と・く・べ・つ・に！恭子ちゃんにはファミリーサイズを届けてもらうように頼んでありまーす！」

「わーい！」

後日雪ノ沢家に届けられたファミリーサイズのアイスは恭子によってわずか二日で費消されたとの噂。