IS‐インフィニット・ストラトス‐黒獅子と駆ける者‐ |
episode238 新たなる旅立ち
バインド事件から十二年もの歳月が過ぎて行った―――――
「・・・・」
火災が起きて熱せられた通路を黒い機体が通り過ぎる。
『こちらアール1!要救助者を救出!これより脱出する!』
『こちらコードユニコーン!先ほど第七ブロックに取り残された人がいるって連絡があったよ!』
「・・・・!」
『アール2!こっちは火災消火中で身動きが取れねぇ!』
『こちらアール3っす!こちらも火災消化中につき動きが取れないっす!』
『こちらアール4。救助者をヘリに乗せて居る為向かうことができません』
「アール0からアール各機へ!救助は俺が向かう!事が済み次第、すぐに脱出しろ!コードユニコーンとコードバンシィは周囲警戒を密にしろ」
『了解!』
と、隊員の報告を聞いた黒い機体・・・・・・バンシィ・ノルンを纏う神風隼人はスラスター出力を上げてスピードを上げ、一気に通路を駆け抜ける。
(生体反応を確認した。この先のフロアだ!)
「分かった!」
ノルンの報告を聞いて隼人は右腕のビームトンファーを展開し、ビーム刃を出して扉を切り裂いて中に突入する。
中に入った途端熱気がバンシィを襲い、殆ど火の海と化している。
「・・・・!」
すぐに生体センサーで周囲を調べると、火から逃れようと室内の隅に両脚を持ってうずくまっている女の子が居た。
「こちらアール0。救助者を発見!これより保護に――――」
するとその瞬間女の子の上の天井が突然崩れ落ちた。
「っ!」
女の子は音に気付いて上を見上げるが逃げるにはもう間に合わず、隼人はとっさに左腕に装備しているアームドアーマーDE付きシールドを突き出し、後部スラスターを展開して噴射させて飛ばす。
シールドはそのまま女の子の上の壁に突き刺さり、天井の欠片から女の子を守る。
「間に合ったか。心臓に悪いぞ、全く」
(この職場ではいつもの事だろ?)
「全くだ」
ノルンが頭の中で話し掛けて来て答えると、すぐに女の子に近付く。
「大丈夫か?」
隼人が聞くと、女の子は少し怯えた様子で縦に頷く。
(目立った外傷はないが、多少の火傷はしている。まぁこの状況でこれで済んでいれば運がいい)
(そうか)
隼人は女の子を抱き上げると壁に突き刺さっているシールドを引き抜いて背中のアームドアーマーXCにマウントする。
「っ!」
すると突然爆発が起きて辺りが揺れる。
『こちらアール1!先ほど大規模な爆発が発生!このままでは建物が崩壊する恐れが!』
「分かった!」
隼人はすぐに元来た道に向かおうとするが、先ほどの爆発で通路が崩れている。
「くそ。こうなったら!」
と、すぐに真上を見上げる。
(ノルン。計算と測定をしてくれ!)
(もうやった。上には何も無い。多少の破壊ではこの建物が崩壊する事は無い)
(よし!)
隼人は左手にサイコフィールドを張って女の子を包むと左腕で抱え、右手にビームマグナムを展開して真上に向ける。
引き金を引いて高出力ビームが放たれ、天井を撃ち抜き、スラスターを噴射してビームマグナムで開けた穴から外に飛び出す。
「こちらアール0。取り残された女の子を救助。これよりそちらに向かう」
『アール1。了解』
そうして隼人は下へと下りていって仲間達の元へと戻る。
――――――――――――――――――――
しばらくして―――――
「いやぁ、有名っすねー私達」
と、椅子に胡坐を組んで背もたれに両腕を掛けるウェンディはテレビのニュースを見ていた。
内容は隼人達の活躍を大々的に報道している。
「今回の火災現場となったビルはドイツでも有名なIS関連企業が所有するビルだったみたい。隼人君が助けたのはその時会社に遊びに来ていたその会社の社長の娘だったみたい」
投影型モニターにそのデータが表示され、ユニコーンはそれを閲覧している。
「あぁ。どうりで多額な謝礼金が来たのか」
隼人は視線を右に向けると、机には結構分厚い謝礼金が入った封筒が五つ以上積まれて置かれている。
あれから隼人はたくましくなり、髪の長さは腰の位置と変わりは無いが、若干色が抜けている感じがしている。表情には貫禄が見て取れる。
着ている服は軍服風の茶色のスーツを着ており、それがこの部隊の制服である。
「しかし、これで我々の評判もうなぎ上りだな」
壁にもたれかかってニュースを見ているリアスが口を開く。
「もう有名だと思うよ」
「まぁ、ISを運用したレスキュー部隊なんて、史上初だし」
バンシィとノーヴェが書類を纏めながら呟く。
隼人はIS学園卒業後、姉の綾瀬の推薦で自衛隊に入隊し、若干待遇がいい気もしたが、そこから異例の大出世を果たして一等空尉になり、今では自分の部隊を持つようになった。
その後ISを用いた史上初のレスキュー部隊・・・・・・『|IR《インフィニット・レスキュー》』を結成した。
その名の通り、ISによるレスキュー活動を行う部隊で、活動範囲はほぼ世界とかなり広い。しかしレスキュー部隊とあるが、警備部隊と言う一面も持つ。
「それで、リアス、ウェンディ、ノーヴェ、ノイン。『ISN』の状態はどうだった」
「問題ないっす」
「通常通りだ」
「問題はねぇ」
「いつもどおり」
四人はそれぞれ簡潔に返事する。
隼人が言うISNとは―――――
篠ノ之博士と神風隼人が共同で開発した次世代型IS。正式名称『インフィニット・ストラトス・ネクスト』。通称『ISN』。
12年前に束がドイツ軍のシュヴァレツェ・ハーゼに提供した『ジンクスW』はこのISNの基礎を築く為の試作機体で、そこから得たデータを元に隼人と束が新機軸技術と隼人が考案した新技術、ISでの不備点などを修正した技術を導入している。
性能は従来のISの数倍とかなり跳ね上がっており、防御面では全身装甲に近いほど装甲を持ち、強度もISよりも硬いので、仮にシールドエネルギーが尽きても補助動力を用いる事で稼動し、パイロットへの負担も軽減されている。更に操縦方法も従来よりもダイレクトに操縦できるようになっている。
更にISNの特徴は、ISでは女性にしか反応しなかったが、ISNではその欠陥を取り除いた事で男性にも使えるようになった。ISNのデモンストレーションでは、ISNの試作機には教本で操縦を覚えさせた男性操縦者を乗せ、従来のISには同様に教本で操縦を覚えさせた女性操縦者で対決した所、ほぼ素人同然の男性操縦者ISNが圧倒的な勝利を収めた。
現在は性能テストの為にテスト機を一部の部隊に提供してデータを集めている。IRもその中の一つである。
しかし高性能故にコストがISよりも高い上に、構造が複雑とあってまだ課題を多く残しているのが現状で、量産されるのはまだ先のことである。
IR部隊に試験的に配備されたISN『ガンダムF91』もプロトタイプの『ガンダムF90』の換装装備を元に様々な状態でのテストを行っている。それだけでもかなり貴重なデータが得られて、束に常時送られている。
「隼人君。今後のスケジュールについて話し合いたいんだけど、いいかな?」
「あぁ。分かった」
隼人はユニコーンとバンシィと共に今後の事を話し合う。
ちなみにユニコーンとバンシィは公では偽名を名乗っているが、レスキュー時はそれぞれ『コードユニコーン』と『コードバンシィ』と名乗り、IRの参謀として部隊に加入している。
隼人曰く『これほど優秀な参謀は他にいない』との事。
――――――――――――――――――――
それから二日後。
隼人が率いるIRはとある部隊と演習の為にドイツの軍事基地に赴いている。
空中では二つの黒が激しく戦闘を交えている。
隼人はハイパーバズーカの引き金を連続で引いて弾頭を三発放つも、相手は弾頭が炸裂する前に右の非固定ユニットのレールカノンと両膝のGNキャノンUを向けて弾丸とビームを放ち、弾頭を撃ち抜いて破壊する。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
黒い機体・・・・・・『シュヴァレツェア・レーゲンG』を纏うラウラはビームサーベルを両手に出すと同時に飛び出すと勢いよく振るうが、隼人は後ろに急速後退して斬撃をかわす。
それを見計らっていたかのようにラウラはレールカノンを隼人に向けて放つが、左腕のアームドアーマーVNを突き出して振動破砕で弾丸を打ち砕くと同時に爆発する。
「無茶をやりますね!」
「お互い様だ!」
隼人は左腕のビームトンファーを展開してビーム刃を出し、スラスターを噴射して飛び出すと同時にビームトンファーを振るうも、ラウラもビームサーベルを振るって刃を交える。
両者はすぐに離れ、空中でメビウスの輪を描くように連続で交差し、ラウラは両膝と両非固定ユニット上部のGNキャノンを隼人に向けて放つが、両脚や背中のスラスターを噴射してビームをかわすと至近距離でハイパーバズーカを放つ。
「っ!」
とっさに右手を突き出してAICを作動させ、弾頭を止める。
しかし隼人は頭部バルカンを放ち、止められた弾頭に直撃させて爆発させる。
「くぅ!」
爆風で吹き飛ばされるもスラスターを噴射して体勢を保つが、その直後に隼人は瞬間加速を掛けてラウラに突撃する。
「しまっ!?」
ラウラが気づいた時には時既に遅し、隼人はラウラに体当たりをしてそのまま地面へと叩き付ける。
「あぐっ!?」
地面が凹むぐらいの勢いで背中を強く叩き付けられて息が詰まるが、すぐに前を見る。
「っ!?」
しかし眼前には、バンシィのアームドアーマーBSが突きつけられていた。
「・・・・参りました。さすがですね」
ラウラは両手を上げて降参する。
「ラウラもな。気が抜けていれば、危なかった」
バンシィのマスクを収納し、顔を晒した隼人は不敵な笑みを浮かべる。
――――――――――――――――――――
「今回はわざわざ遠くまでお越し頂いて、私や部下達の演習のお相手になって頂き、感謝します。神風一等空尉」
「我々も貴重な体験となりました、ボーデヴィッヒ大佐」
隼人とラウラは互いに敬礼をする。
あれからラウラも大きく成長し、外見は12年前と大きく変化している。
背丈はあの時とは比べ物にならず、胸辺りしかなかったのが、隼人とほぼ同じぐらいまで背が伸びており、髪もさすがに切っているだろうが、それでも太股の辺りまで伸びている。容姿もどの男性を魅了にする妖艶な美貌を持っているが、ドイツの冷水の異名は衰えておらず、話ではこの基地の男性達からは別の意味で人気が高い・・・・らしい。
ちなみに言うと、板だったあの頃とは違い、今ではあの部分に山が二つ出来ている。
「・・・・ぷっ」
と、ラウラが突然吹き出す。
「おいおい。ここで笑ったらいけないだろ」
と言う隼人も少し笑いそうだった。
「す、すいません。ですが、どうも師匠の敬語は慣れません」
「おいおい。それでも司令官かよ」
隼人は苦笑いを浮かべる。
「改めてですが、お久しぶりです。師匠」
さっきまでの仏頂面から、親しい仲の知人のみに見せる優しい笑みを浮かべる。
「あぁ。しかし、まだその呼び方をするのか?」
「もちろんです。師匠が一人前と言って弟子が巣立っても、師弟の絆は一生消えないものです!」
自信あり気に豪語する。当時からこういう面は全く変わらないな。
「・・・・まさかと思うが、それは副官の入れ知恵か?」
「はい」
(相変わらず、どんな漫画の影響を受けているんだ)
隼人はため息を付いて額に右手を付ける。
「入れ知恵で思い出したが、クラリッサさんと輝春さんは元気か?」
「はい。輝春教官のご指導で腕の立つパイロットが育成されています」
「そうか。輝春さんは教えるのがうまいからな」
「ですが、指導の厳しさは織斑教官譲りですが」
「あぁなるほど」
さすがは兄妹。容赦は無い。
「それと、職場でも二人の夫婦愛は見て取れますよ」
「あー。そうなのか」
似たような境遇ゆえに、苦笑いする。
輝春はバインド事件から五年後にクラリッサの希望でドイツでISパイロットの教官をやってくれないかと頼まれ、しばらく悩んだ末に戦術教官の職を辞し、ドイツへ渡った。
その後二人は最近になって結婚したとの事。
「しかし、本当にあれから世界は大きく変わりましたね」
「あぁ」
二人は雲一つない晴天を見上げる。
「そういえば、この間欧州連合の総合演習がありまして、そこでセシリアとシャルロットと一戦を交えました」
「そうか。二人の様子はどうだった?」
「元気でした。それと、実力もかなり上がっていました」
「そりゃ、国の代表となれば、それなりの実力じゃないとな」
「そうですね」
ラウラやセシリア、シャルロット等、かつての代表候補生達は今や国の代表となっている。
「それと、師匠に会いたいとシャルロットが愚痴ってました」
「そうなのか(そういえば数年ほど会ってないな)」
テレビ電話で会話はするも、直に会って話すのはしばらくしていない。
「久しいな、ラウラ」
と、リアスが隼人とラウラの元にやってくる。
「姉さん」
ラウラはリアスを見る。
戦闘機人でも身体の成長はあるが、リアスは背丈はさほど変わっておらず、ラウラが姉の様に見える。
「別に無理してそう呼ばなくても良いのだぞ?名字は違うのだからな」
今の彼女と、他のIRの戦闘機人達は、『神風』の名字を持っている。
あの後罪を償い、釈放された戦闘機人達は一部は除き、隼人が妹として引き取っている。
アインスとツヴァイク、ジアスに関しては、篠ノ之束が連れて行っている。
「・・・・それでも、血は繋がっている姉妹だ」
「そうか。まぁ、好きに呼べばいい」
腕を組んで鼻を鳴らす。
――――――――――――――――――――
それからしばらく基地に留まり、輝春やクラリッサと会いに行って昔の事や最近の事話し、輸送機で日本に戻る。
「元気そうで何よりだったな」
「あぁ」
隼人はユニコーンと情報整理をしながら答える。
「今後機会があれば、かつての仲間達と会えるんじゃないかな」
「そうだな。久しぶりに会ってみたいものだ」
「そういえば、もう一年近く家に帰ってないんじゃない?」
と、ユニコーンが隼人に聞いてきた。
「・・・・?そういえば、もうそんなに経つんだな」
隼人は顔を上げて顎に手を当てる。
「仕事に熱心なのは良いけど、家族と過ごす時間も大切にしないとね」
「家族、か」
「あ、そうだ。今回久しぶりに日本に帰るから、この際帰ってあげたら?」
「いいっすね。家族は大切にしないといけないっすよ」
「そうだな。家族と過ごす時間ほど大切なものはない」
「そうですね」
「しかし・・・・」
「隼人君が留守の間は私達が代わりを勤めるから、大丈夫だよ」
「これと言って大きな事が無ければ、問題はないよ」
「みんな・・・・」
(この際甘えさせたらどうだ?)
と、ノルンが促す。
「・・・・そう、だな。その言葉に甘えさせてもらうよ」
「ゆっくり過ごしてね」
「あぁ」
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トラックに轢かれそうになった女の子を助けて俺はお陀仏になった・・・。・・・って!それが本来の死じゃなくて、神様のミスで!?呆れている俺に、その神様がお詫びとして他の世界に転生させてくれると言うことらしい・・・。そして俺は『インフィニットストラトス』の世界に転生し、黒獅子と呼ばれるISと共にその世界で戦うぜ! | ||
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