Pの苦しみ/悲しき現実
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「織斑君どこ行ったんだろうね?今夜のパーティーの主役なのに・・・・」

 

「ねえー。セシリアも(無理矢理)連れて来たし。」

 

「悪い悪い、お待たせー!!!」

 

遠方から一夏が声を張り上げる。

 

「「「「遅ーーーーい!!!」」」」

 

「いやいやいや、ごめんごめん。俺が主役ってんなら、どうせなら俺が主催したいんだよね。単なる我がままって奴。すんまへん。よいしょっと。」

 

一夏は押して来た台車を止めた。

 

「織斑君、これ何?凄い良い匂いがするんだけど・・・」

 

「俺が一から作った物だ。無理言って厨房貸して貰って作ったのさ。一年間世話になるクラスだから、親交を深める意味も兼ねて。後はまあ、庶民的な味も時には高級食材に勝ると言う事をセシリアにも知ってもらいたいと思ってね。」

 

試合の後、セシリアは己の過ちを認め、改めてクラスの皆に謝罪した。幸い、誰もそれ以上この事を追求しようとはせず、セシリアも爪弾きにされる事は無かった。

 

「従業員と言うプロに味見してもらったけど、普通に学食のデザートとして出せるらしいから味の保証は出来る。それでは、御開張!俺特製の抹茶、プレーン、ビターチョコのカステラ三種盛り合わせだ!」

 

「「「「「「うわあ??????美味しそう?????♪♪」」」」」」

 

皆に皿が行き渡り、食べ始める。オプションとして緑茶と紅茶もついていた。

 

「美味しい・・・・!」

 

「ホントだ、織斑君凄い!これお店出せるよ、お店!」

 

「そりゃ良かった。」

 

「本当にとっても美味しいですわ。癖も無く、口当たりも良く、甘さも程好いです。」

 

セシリアは少しずつカステラをフォークで切り分けながら食べる。

 

「それは良かった。まあ、これで一件落着、と言う事で水に流そう。俺は、転校生の織斑一夏だ。改めてよろしく。」

 

「私はイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットですわ。こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

それからも、和気あいあいとした空気の中、一年一組の女子達は楽しく談笑を続ける。

 

「人気者だな、一夏。」

 

不機嫌そうにカステラを食べる箒が一夏をジト目で見る。

 

「前にも聞いたよ、その台詞は。男だから近付き難いなんて勝手に壁作られたら面白くないし、何よりこれからの為にもコミュニケーションは大事だ。」

 

全員が食べ終わり、一夏も後片付けを済ませた。食器を全て食堂の従業員の元へ返却すると、自室でもある寮長室に戻り始めた。

 

「一夏。」

 

「ん?おお。簪・・・・どうした?」

 

「その・・・・・ホントに?」

 

「何が?」

 

「だから、その・・・・・私が、好き・・・・・って、本当?」

 

見上げて来る簪の透き通った目を一夏は真っ直ぐ瞬きもせずに見つめ返した。

 

「ああ。本当だ。あの時、簪に好きだって言われた時に俺は思わず耳を疑ったよ。たった一日だけしか会わなかったのに。俺が攫う形で家に泊めちまったし。碌にお互いの事は知らなかったけど、俺は間違い無く簪の事を好きになっていた。ここで会えるとは思わなかったけど。家族とは仲良くやってるか?」

 

「なんとかね。でも、私もニュース見た時はびっくりした。一夏の写真が出てた。」

 

「ああ、あれか。マスコミがうるさいのなんの。ほい。」

 

タッパーに入れられたカステラを見せる。

 

「これ、カステラ?」

 

「一組の全員に振る舞った俺特製だ。ちなみに、味は折り紙付きだから。余った奴は捨てるのは勿体無さ過ぎるから。お裾分け。」

 

「凄い・・・・・」

 

そんな時、ワイバーフォンがメール受信を高らかに告げる。翔太郎からだ。

 

『風都に新たなドーパントが現れた。メモリの使用者の名は北原誠。医療化学研究所の幹部全員を殺害した。俺とフィリップだけじゃ対処し切れるかどうか分からない。照井も既に被害に遭ってる。事務所の方まで戻って来て欲しい。』

 

「一夏、どうかしたの?」

 

表情が険しくなったのを見て、簪が心配そうに一夏の顔を覗き込む。

 

「大丈夫だ。ちょっと用事が出来ただけ。ごめんな、あんまり話せなくて。明日の休み時間と昼休み、迎えに行くから。」

 

「え?あ、うん・・・・」

 

簪の頭を優しく撫でてやり、去り際に手を優しく握ってやった。

 

「んじゃ、また明日な。お休み。」

 

屋上に駆け上がると、ドライバーを装着した。

 

『Eternal!』

 

「変身。」

 

メモリをスロットに押し込み、ロストドライバーのスロットを開いた。青白い電流が一夏を包んで行く。変身が完了すると同時に背中に漆黒のマント、エターナルローブが現れた。

 

「あ、そう言えばこれ飛べたっけ?」

 

そう、場所が場所なだけに一夏は碌に変身する事が出来ず、ライダーとしての能力を未だに検証出来ずじまいなのだ。加えて課題やトレーニング、その他大勢の女子達の受け流しもあるので、自由に使える時間が殆ど無い。

 

「あ?、もう知るか。やってやんぜ。」

 

当然ながらエターナルは飛べない。だが、ふと何かを思い付き、ウェザーメモリをマキシマムスロットに差し込んだ。

 

『Weather! Maximum Drive!』

 

「ネイチャーコントロール!」

 

ウェザーは言葉の通り気象を操る能力を与えるメモリである。そこでエターナルは右手を突き出し、強風を発生させた。エターナルローブの両端をしっかりと握り込むと、その強風が生み出す気流に乗って巨大なムササビの様に夜空をマッハのスピードで駆け抜ける。誰もいないのを確認してから変身を解除し、事務所のドアをノックすると、翔太郎がヘルメットを小脇に抱えて出て来た。

 

「どもっす。」

 

「夜遅くにすまないな。」

 

「良いですよ。行きましょうか。」

 

翔太郎と一夏はハードボイルダーに乗って徳島博子の研究所に急行した。

 

「で、今回のドーパントは何をしようとしてるんですか?」

 

「何らかの薬で、この研究所を潰そうとしてるらしい。詳しい方法はまだ分からない。フィリップが検索中だ。」

 

会社の前に着くと、二人はそれぞれメモリーガジェットにギジメモリを差し込んで辺りを探索させた。

 

『Spider』

 

『Bat』

 

『Frog』

 

『Dragonfly』

 

『Scorpion』

 

「見つけるまで待機ですか?」

 

「ああ。一夏、一つ聞きたい事がある。」

 

「はい?」

 

「お前はISが出来て良かったと思うか?」

 

「と言うと・・・・?」

 

「ISが出来てから世界は本当に変わっちまった。EXEは壊滅したが、今度はコレだ。ISが無ければ、風都や世界でも泣く人が増えずに済んだのかなと、そう思っちまう。」

 

フィリップならば夜空を遠い目で見つめる翔太郎にこう言うだろう。

 

『何を黄昏れているんだい、翔太郎?ハーフボイルドの君には似合わないよ?』

 

一夏も思わず同じ様な事を言いいそうになったが、ここは真面目に答えた。

 

「・・・・・使う人次第じゃないですかね?翔太郎さんのお師匠さんの言葉をちょっと捻る事になりますけど、Nothing is perfectって言いますし。陳腐な言い回しですけど、ホント世の中に完璧なんてあり得ないんですよね。女尊男卑が広がったのは自分に都合の良い理屈をこねて吹聴した人達の所為ですから。別にIS自体に非がある訳じゃない。確かにISは立派な兵器ですけど、物は使い様だと思うんです。宇宙にも行ける強度を持っているんだったら、人命救助や工事現場でも役に立つんじゃないか、とか。それに、俺がISを使えるなら、先の未来では俺以外でISを起動出来る男だって現れる筈だと思います。」

 

だが、一夏は自分が言った事を思い返すと、ピシャリと自分の頭をはたいた。

 

「綺麗事ばっかりですいません。」

 

「いや、良い。時にはそう言う甘さも必要だ。理想を持つのは別に悪い事じゃない。」

 

バットショットが翔太郎の頭に、フライレコーダーは一夏の頭に着陸した。

 

「見つかったか。行くぞ。」

 

「はい!」

 

二人はガジェット達が先導するままに進んで行き、満身創痍の男が水道管に何かの薬品を流し込んでいるのを見つけた。翔太郎はその男の腕を掴んで水道管から引き離した。

 

「は、離せ!離せ!!」

 

「北原誠さん、やめろ!こんな事しても何にもならないぞ!」

 

「うるさい!お前なんかに・・・・俺の苦しみが分かってたまるか!虐げられる苦しみを味わった事すら無い若造が、知った様な口をきくな!」

 

北原は激しく咳き込み、アスファルトを吐き出した血で濡らした。だが、どこから力を振り絞っているのか、翔太郎の手を振り解くと、水道管に残りの薬品を全て瓶ごと蹴り込んだ。肩で荒く息をし、胸を押さえながらもポケットからガイアメモリを取り出す。

 

「やめろ・・・・そのメモリを渡すんだ。使い続けたら、死ぬぞ。」

 

「構わんさ・・・・ははは、私はもう何も無い。家族も、仕事も、財産も、あの腹黒い女共に奪われた!!命の一つや二つ、今更惜しくなどない!」

 

『Poison!』

 

「よせ!」

 

メモリを体のコネクタに突き刺し、ポイズン・ドーパントに変身した北原は右手の針から緑色の液体を噴き出した。一夏と翔太郎は咄嗟に身をかわし、液体は後ろのゴミ箱に当たった。ゴミ箱は融解し、物の十数秒で完全な液体になる。

 

「なんつー威力だ。」

 

「翔太郎さん、あれ、触ったら死にますよ。水道管に流された薬品が何をするか分からない。ここは俺が抑えます。翔太郎さんは建物にいる人を。」

 

「分かった。頼むぜ、仮面ライダー。」

 

二人はドライバーをそれぞれ腹に押し付けると、ベルト部分が伸長して自動的に巻き付いて固定された。

 

「フィリップ!」

 

『Joker!』

 

『Eternal!』

 

翔太郎と一夏はメモリを構えてスイッチを押した。

 

「了解した、翔太郎。」

 

そしてダブルドライバーによって精神が翔太郎とリンクしたフィリップも事務所でガイアウィスパーを鳴らした。

 

『Cyclone!』

 

「「「変身!」」」

 

『Cyclone! Joker!』

 

『Eternal!』

 

ポイズンドーパントの前に、二人の仮面ライダーが現れた。

 

「『さあ、お前の罪を数えろ!』」

 

「さあ贖罪のプレリュードを奏でろ!」

 

エターナルは飛んで来る液体を避けて様子をうかがっていた。W CJが研究所に向かって行くのを確認してメビュームマグナムの引き金を引くと、青いエネルギーの弾がポイズン・ドーパントを吹き飛ばした。

 

「おお、すげえ。さて、試射と行くか。」

 

『Bullet!』

 

そしてメビュームマグナムを中央のヒンジで折ると、シリンダーの中央にあるスロットにバレットメモリを押し込んで閉じた。

 

『Bullet!』

 

引き金を引くと、先程よりも高い威力の弾が銃口から吐き出され、追い討ちをかけるかの様にポイズンドーパントに着弾した瞬間、再び彼を吹き飛ばした。仮面の下で一夏は思わずおおお、と漏らしてしまう。メビュームマグナムのシリンダーを回転させた。

 

『Magnum!』

 

銃口から高威力の弾が放たれ、ポイズン・ドーパントに命中した。

 

『この・・・・調子に乗るなああああアアーーーー!!」

 

左手からガスが吹き出し、一夏はそれを吸ってしまった。だが、不思議と痛みも何も感じない。普通の空気を吸っているのと何ら変わらないのだ。それもその筈、一夏の体内はナノマシンが駆け巡って毒が体内に吸収され始めた時から抗体を作って無効化しているのだ。更にはエターナルローブは他のメモリのあらゆる能力を打ち消す。無事ではない筈が無いのだ。

 

「もういっちょ。」

 

再びシリンダーを回転させる。

 

『Shell!』

 

散弾の様に細やかな弾が散けて発射され、エターナルローブの一振りでガスは全て霧散した。

 

『何だと!?何故毒が効かない!?あの濃度の毒ガスで生きている筈が無いのに!痛みにのたうち回っている筈なのに、何故?!何をした?!』

 

「俺の体は特殊なんだよ。免疫力は人間を超えてる。ドーパントの毒ガスだろうと、俺には効かない。」

 

三度目のシリンダー回転を行い、構えた。

 

『Full-Auto!』

 

マシンガン以上の速射・連射でポイズン・ドーパントは立っているのがやっとだ。

 

「さて、レクイエムのフィナーレだ。」

 

バレットメモリを抜き取ると、代わりにウェザーメモリを差し込んで回転させ、大きく突き出た撃鉄を起こした。

 

『Weather! マキシマムドライブ!』

 

銃口が眩く輝き始める。

 

「ヘブンズ・フォール!」

 

バチバチと銃口が放電するメビュームマグナムから、高圧電流を纏った巨大な弾が二つ放たれて、ポイズンドーパントを吹き飛ばした。メモリは北原の腕から排出され、地面に落ちると砕け散った。北原の首筋に指を当てると、脈がかなり弱まっている。

 

「救急車、呼ばないとな。」

 

一夏はワイバーフォンを開くと、フィリップに電話をかけた。電話をかける仮面ライダーを想像そうして頂きたい。かなりシュールである。

 

『もしもし?織斑一夏かい?』

 

「はい。」

 

『こちらは建物から全員を避難させた。水道管に流された薬品はどうやら水を強酸に変える物らしい。パイプから何から色んな物を溶かしまくっていたよ。君が落ち着いて電話が出来ると言う事は、ドーパントの方は上手く行った様だね?』

 

「はい、ドーパントは倒しました。でも・・・・本人が死にかけてます。脈も弱い。」

 

『ポイズンメモリは使用者に様々な毒物の配合、放出を可能とさせる能力を与える。だが変身の都度、代償として通常のガイアメモリとは比べ物にならない程高濃度の毒素が体内に入り込む。毒が回る速さも数倍近くだ。彼の体は、もうボロボロになっているだろう。ここまで来てしまえば、助かる可能性は殆ど無い。兎も角、いまそちらに照井竜を向かわせる。間に合えば良いが・・・・』

 

「そう、ですか・・・・・」

 

しばらくすると、救急車とパトカーが何台か一夏が立っている辺りに止まり、北原は警察病院に搬送された。

 

「ご苦労だったな、織斑。」

 

「照井さん、解毒出来たんですか。」

 

「ああ。お前が倒してくれたお陰で随分楽になった。礼を言う。」

 

「あの人、大丈夫ですかね?」

 

二人はサイレンを夜の街に響かせて去って行く救急車が角を曲がって姿が見えなくなるまで、ずっと見つめながら会話を続けた。

 

「分からん。フィリップが言っていた事が本当なら、奇跡でも起きない限り助からないだろう。この世界も、また嫌な風が吹き始めた。『IS』の所為でどれだけ女性犯罪者を挙げても大半は釈放、不起訴、もしくは証拠不十分で済まされる。」

 

照井の表情は何時にも増して鉄面皮だった。だが、声だけでも一夏に十分ひしひしと伝わって来る。たったそれだけで人を殺せそうな凄まじい怒気が、そして捕まえるべき相手が捕まらない苛立ち、捕まえられない悔しさ、不甲斐なさが。一夏は翔太郎と交わした自分の言葉を思い返し、目を伏せた。

 

「もし北原誠が生き残れば、奴が持っている情報を全て引っ張りだして徳島博子を逮捕する。だが奴が死ねば、真相は全て闇に葬られる。証拠も大多数は握り潰されるだろう。左達に篠ノ之束への伝言を頼んでおいた。この世界を捩じ曲げた貴様を俺はまだ許した訳ではない、とな。」

 

 

 

 

 

一夏は朝になると早速売店で新聞を買って読み漁り始めた。そしてその中の一つで記事を見つけた。

 

『汚職発覚!!徳島医療化学研究所閉鎖!!』

 

見出しで大きくそう書かれていた。徳島博子並びに研究員数名の汚職の証拠が北原の自宅から出て来て逮捕に繋がったらしい。そしてその汚職の秘密を今際の際に全て打ち明けた彼は警察病院で闘病の末、今朝方息を引き取ったそうだ。

 

「やっぱりか・・・・」

 

新聞を畳むと、それらを全てクシャクシャと一つに丸め込むと、ソフトボール大の大きさになるまで握り潰した。

 

「うぉりゃあああああああああああ!!!!」

 

気合いの入った声と共にそれを全力で海に向かって投げ飛ばした。その紙製のボールはやがて空の彼方へ消えて行き、数キロ先にある沖合にパシャンと着水の音を立てて落ちた。

 

「クソッタレが。」

 

説明
エターナル無双タイムです。そしてセシリアとも和解します。
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