Dの続き/嵐の熱唱 |
「大丈夫、だよね・・・・?」
髪や化粧、そして服装も学友や姉に手伝って貰った。楯無は頼られた事に歓喜するあまり暫くの間自分の世界にトリップしていた為に放置する必要があったが。
(護身用の催涙スプレーとか改造スタンガンなんて要らないし。お姉ちゃんに持って行けって強請られたけど・・・・)
今の彼女はスカイブルーのコサージュをあしらった白と水色のマキシワンピースに身を包んでおり、ホームでそわそわしている。一夏が来るのを今か今かと待ちながら。もうすぐ十一時だ。そんな時、靴音と一緒に金具が鳴る金属音が聞こえた。音がした方に目を向けると、一夏がいた。しかも、朝見た時と服装が変わっている。カジュアルなライダーファッションだったのがカジュアルフォーマルになっていた。インナーのシャツは無地の白、上は鈍色の唐草模様が入ったナイトブルーのカッターシャツ、下は黒いチノパンにスニーカーを履いている。
「おーい、簪?お待たせ!ちょっと用事があっ、て・・・・・・・」
手を振って走って来た一夏は簪の姿を見て足を止め、言葉を失った。シミ一つ無いきめ細かい柔肌と相俟ってより一層簪の可憐さを引き立てていた。
「そんなに、見ないで。恥ずかしい・・・・・・・(一夏、凄くカッコいい。)」
「でも、凄い綺麗だから。その、思わず・・・見とれちゃって、さ。やっぱり、簪って肌が白いから明るい色が似合うな。(何と言うか、一輪の 菖蒲の花って感じかな。菖蒲の花言葉は『神秘な人』。ぴったり過ぎる。)」
「ありがと・・・・・」
俯いて互いの事をチラチラと見る辺りが初々しい。
(何をしてるんだしっかりしろ、俺!!デートに誘った男がアタフタしてどうする。アレと同じだ。ポーカーの駆け引き。まずは序盤フロップ。誘いをかける。)
「昼ご飯食べた?」
「ん、まだだけど。」
「じゃあ、良い場所知ってるからそこ行こう。少し遠出になるけど、良いかな?」
「うん。」
(そしてここで手を繋ぐ。ナチュラルに、っと。)
簪の手は一夏の物よりも少し小さかった。そしてひんやりとした感触が心地良く感じた。彼女もまた初めて味わう彼の手の感触を味わう事にした。
(一夏の手、大きい。でも、嫌いじゃない。あったかくて優しい。心もポカポカする。)
それが無性に嬉しくて簪も一夏の手を握り返した。モノレールに乗っても手は離さず、目的の駅に着くまで終始指を絡めて手を繋いだままでいた。そして以前屋上で昼食を食べた時の様に、簪は一夏の肩に頭を乗せる。一夏もまた簪に軽く寄りかかった。シャンプーなのかは定かではないが、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
((幸せ、だな。))
図らずも二人の思いは同じだった。
(もうぅぅ????、あんなにデレデレデレデレしちゃって!!確かに紳士的だけどさ。絶っっっっっ対に化けの皮を剥がしてやるわ!待ってなさい!)
だが、別の車両から二人を覗く楯無の姿もそこにあった。相変わらずである。
「何が食べたい?(余程の高級品でなければ大丈夫だよな。前に通帳見たけど一介の高校生が持って良い様な金額じゃなくなっちまってたし。)」
「ん???・・・・・じゃあ、一夏のお進めで。」
「よし。(デートでラーメン食いに行くってのは流石にマズいからな。風麺は美味しいけどさ。楯無さんマダオが尾行してるから、ここは小洒落た店に・・・・)」
路線バスに揺られる事三十分弱、二人は巨大な風車が中心に据えられた都市に辿り着いた。風都だ。
「ここにあるの?」
「ああ。風都って街だ。そう言えば簪は来た事無いんだっけ?ここは俺が家出してふらふら彷徨ってた時に辿り着いた場所なんだ。風が気持ち良い所でさあ、簪も気に入るかなと思って。で、感想は?」
「うん。何か、穏やか。」
「お、ここだ。おすすめの店。意味はフランス語で『銀しろがね』。」
一昔前のカフェのドアを開けると、来客を告げるドアベルがカランカランと鳴った。
「いらっしゃいませ。あ、一夏く?ん!!久し振り?!!」
「おひさです、リリィさん。相変わらずお綺麗な事で。」
「や?だ、もう。誉めてもまけてあげないからね?」
二人を出迎えたのは、シルクハットとマジシャンの服装を身に纏ったリリィ銀だった。合わせた掌から鳩が一羽現れ、開いた窓へと飛び立つ。
「凄い・・・・」
「でしょ?ところで隣にいるそのコ、誰?もしかして彼女?どうなの?」
「そうです。(照れくさいのを隠しながら力強く認める、と。)俺の彼女です。」
「あぅ・・・・・」
簪の頬がほんのりと赤く染まり、一夏と手を繋ぎながらも彼の後ろに隠れようとする。
「やだ?、照れちゃって。可愛い???♪あ、座って座って。コーヒー飲む?」
「アイスで頂きます。簪は紅茶?」
「うん。ミルクティー・・・」
「オッケー、ちょっと待っててね。」
厨房の奥へと姿を消して行くリリィ。一夏は恥ずかしがる簪の手を引いてカウンター席に腰を下ろした。
「一夏、あの人と知り合い・・・?」
「俺が家出した時、真っ先に俺を笑顔にしてくれた人だ。リリィってのは芸名で本名は銀理恵さんて言うんだけど、親が交通事故で亡くなったんだ。祖父のフランクさんに技を仕込まれて今に至るんだ。今じゃ立派なマジシャンだよ。俺もたまに手品とかやるだろ?教えてくれたのはあの二人。」
「そうなんだ・・・・・凄いね。」
「マジシャンてのは人の笑顔と驚く顔を作るのが仕事だから。こんな風に。ほいっと。」
財布から取り出した五百円玉を弾き上げると、それを思い切り両手で挟んだ。手を開くと、それは煙の様に消え去っている。
「え?!」
そして一夏は口の中からその五百円玉を覗かせる。
「ええっ!?何で?!」
「そうそう。その顔。」
「はい。アイスコーヒーとミルクティー。一夏君はやっぱり飲み込みが早いからうかうかしたら私も追い抜かれちゃうかもね。お昼食べてく?」
リリィはメニューを二枚取り出して二人に渡した。
「えーと・・・・じゃあ俺はパスタセットで。」
「ボロネーゼ?」
「勿論。アルデンテで。簪はどうする?」
「ん??と、和風ミニハンバーグ。」
「じゃあ、お祖父ちゃんと作って来るからちょっと待っててね。」
「リリィさん、料理がそこまで上手くなったならいい加減彼氏見つけて下さい。フランクさんも心配してるんじゃないですか?曾孫の顔を見る前にくたばってたまるか、みたいな。」
「その時は一夏君に貰って欲しいなとは思ってたんだけど、彼女が出来たらもう駄目だなぁ?、あははは。」
笑いながら茶化して来るリリィ。
「まだ独り者だったら喜んで、と言ったかもしれないですけど。俺なんかよりずっと良い男いるんじゃないですか?それともリリィさんてアッチ系の人になっちゃいました?」
一夏は冗談と知りながら受け流して冗談を返す。
「生憎とそんな事は無いですぅ?。でもいないのよ、最近の男ってどこか卑屈な所があるもん。しっかりしてる男って最近あんまり見ないのよね?。何も世界中の女が取って食おうとしてる訳じゃないのに。」
厨房に再び戻って行き、店内のピアノBGMだけが流れた。
「一夏・・・・あの人に告白されたの・・・?」
どこか不機嫌そうな(しかしとても可愛らしい)表情で一夏を見る簪。どこぞの建物の上から双眼鏡片手に追跡ストーキングしているマダオが二人の会話を読唇で紐解きながら簪の反応を見てむしゃくしゃしているが、彼女は放って置こう。
「うんにゃ、あの人は冗談を言うのが好きなだけ。(ここで意中の人は相手だけと再認識させる。そろそろ中盤ベンドだな)俺が本当に好きなのは簪だから。」
真顔で言われて真っ赤になる簪。更には脳内でリフレインが続く。料理が来るまで簪は自分だけの世界でトリップしまくっていた。
食事を済ませると、一夏は簪をとあるスタジオに連れて行った。入場パスを持っていた為すんなり通る事が出来た。もうすぐフーティックアイドルが放映される時間なのだ。審査員は重鎮の大貫一朗太、昨年のスピックで殿堂入りを果たしたジミー中田、そして風都で学生達の情報収集を担当するCDデビューを果たした情報屋、クイーンとエリザベスの四人だ。
「これ、何?」
並べられた椅子に他の視聴者達と座りながら簪は小声で訪ねた。
「フーティックアイドル。視聴者参加型の歌謡番組だよ。三週間連続で勝ち抜けば、無条件でCDデビューが出来る。楽しいよ?見るのも歌うのも。」
「え・・・・一夏、歌えるの?」
「ん、まあな。一度冗談半分で言ったんだろうけど、ここにいる友達がやってみろって言って、やってみたら思いのほか大ヒットしたらしくてな。(まあ、あの時は仮面シンガー二世って名乗ったけど)どうせ後々に一歩外に出たら取材だのデビューだのが待っている気がするから、今の内にパパラッチに晒されるのも馴れておいた方が良いんじゃないかと。まあ、そっちはついでで本当の理由は簪に楽しんで欲しいなと思って。今回のデートはそれしか目的が無いから。」
「ありがと・・・・」
「どういたしまして。お、始まるぞ。」
番組は幕を開け、オープニングはクイーンとエリザベスのデビューヒット曲『Love ? Wars』から始まった。あっと言う間に会場は拍手に包まれ、簪も自然とステージの歌い手達の声に魅了されている。挑戦者も二周勝ち残って来た競合であり、歌唱力のレベルは高い。
『さーて、今日はスペシャルイベント、飛び入り挑戦者バトル!選ぶのはお馴染みの重鎮、大貫一朗太!この私DJ Hurryも、ワクワクしてきました。勿論、会場にいる視聴者達は歌う気満々の人ばかりだ!』
次に大貫一朗太が壇上に上がって視聴者の中で一夏と目が合った。
「お!君!そのナイトブルーのシャツを着ているそこの君!ステージに嵐をお願いしたいZ!!」
彼が指差したのは、一夏だった。
「Wow、これは予想外。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ。」
「頑張って・・・・」
簪の頭を優しく撫でてやると、ステージに上がった。
『さてさて、チャレンジャーが歌うのは今でも人気はHotな曲、Steppin’ and Shakin’だ。DJ Hurryもお気に入りの一曲です。急かしちゃいます。Hurry, hurry, hurry!!」
「Okay, get serious! Yee-ha! 」
ハイハットとバスドラム、更には金管楽器までもが混ざったアップテンポな音楽が流れ始める。一夏もそれに合わせて小さく体を揺すり、遂には踊り始めた。熱唱を終えた後でも拍手の嵐は止まらない。
『お?っと、これは凄い。飛び入り挑戦者、織斑一夏。凄まじいパフォーマンスだ。では審査員の反応を見てみよう!』
「素晴らしい。正に心がステップを踏んで踊り出してしまいそうだ。歌と歌い手が一つとなる。それを体現しているZ!」
「熱意と迫力が半端無い。パフォーマンスも飛び入り挑戦者とは思えません。文句無しです。」
「織斑君、サイコー!」
「サイコー!」
『なんとなんと、並み居る強豪の敵陣を単騎で突破?!正に嵐を呼ぶ男、織斑一夏!まずは一週目Clear!後二週で待望のCDデビューが待っているぜー!』
「いや?、歌った歌った。」
一夏はスッキリした様子で簪とスタジオを後にした。
「一夏、その・・・・か、かっこ良かった、よ?」
「ありがと。そう言ってもらえて嬉しい。その内簪とデュエットでも歌ってみたいと思うんだけど、どうかな?」
「む、無理だよぉ?、私歌下手だし・・・・」
「まあ、無理にとは言わないけど。さて、次は・・・・・あ、そうだ。簪って風都を知らないんだったら、ウィンドスケールは知らないよな?」
「馬鹿にしないでよ、服のメーカーだって事は知ってるもん。」
「ごめんごめん。(何この顔、ものっそイジめたくなるんですけど)」
むすっとする簪の頬をつついてやる。
「簪に似合う服が無いか探したいな?と思って。(シストーカーさんの目の保養の為にも。いい加減視線が目障りになって来た。デートに集中出来ない。さっさと終盤リバーまで持って行きたいのに。)
その時、突如爆発が起こった。
(冗談きついぜ・・・・・)
説明 | ||
デートの続きです。そして今回は原作キャラが多数登場します。 | ||
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