真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第十九話
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「よし、これで中にいる者達以外の武装解除は完了だな」

 

 俺はそう呟くと空にそびえるかの如くに建っている宮殿を見つめる。

 

 盧植様を救出して張譲を捕縛した後、俺達は宮中に残る者達に投降を呼びかけたの

 

 であったが、残る他の十常侍以下宦官達はそれを拒否して宮殿に立て籠もってしま

 

 ったのであった。そこでとりあえず俺達は外に残る兵達に投降を呼びかけるとこち

 

 らはほとんど抵抗する事も無く応じたのであった。

 

「しかしまさか張譲がこっちの手にあるというのに他の者達が抵抗を示すとは意外で

 

 したね」

 

「おそらく十常侍の他の面々も張譲が一人権力を握っている状況を苦々しく思ってい

 

 たんだろう。此処で張譲がいなくなった事によってむしろ自分達が権力を握れると

 

 いう考えなのだろうけど」

 

 輝里の疑問に俺がそう答えると輝里は納得したようなしないような顔で頷く。

 

「でもおそらく今頃宮中では大混乱でしょうね…今まで張譲が一人で握っていたあの

 

 事が分かってしまうのですから」

 

 ・・・・・・・

 

 その頃、宮中では残る十常侍の面々は輝里の言う通り混乱の極みにあった。

 

 何故なら、自分達が祭り上げるはずの皇帝も皇族も宮中にいなかったからだ。

 

 実は張譲は空達がいなくなっている事を他の面々には言っていなかったのである。

 

 他の面々は張譲の『陛下は病気で奥に臥せっており姫君達はその看病にあたってい

 

 て奥から出て来れない』という言葉を本気で信じていたのであった。そして、張譲

 

 にその辺りを任せておきながら張譲一人だけが皇帝に取り次げる事に不満を感じて

 

 いたのであった。だからこそ張譲が敵に捕まったこの状況を利用して自分達の手中

 

 に皇帝を入れ、その権威で敵を追い払おうとしたのであったが、その皇帝がいない

 

 という現実を受け入れられなかったのであった。

 

 

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「どうすれば良いのだ…これでは我らはただの反逆者ではないか」

 

 そう嘆いていたのは十常侍の趙忠である。彼は十常侍の中では一応張譲に次ぐ地位

 

 にあるのだが、長い間皇帝や張譲に依存してばかりいたので、全くといって良い程

 

 自分で判断を下す事が出来ずにいたのであった。

 

「趙忠様!」

 

「何じゃ!儂は忙しいのじゃぞ!」

 

「何時の間にか陛下達がいない事が知れ渡り、兵達の騒ぎが収まりませぬ!」

 

「なっ…誰じゃ!あれ程口止めしておいたではないか!!」

 

「分かりません、しかしこのままでは兵達が此処に乱入してくるのは必定にて…」

 

 自分の身に危険が迫っている事を知った趙忠は親指の爪を噛んだままうろうろと部

 

 屋を歩き回り考えるが、状況を一変させる方法が思い浮かぶわけでもなく途方にく

 

 れるばかりであった。そこに…。

 

「申し上げます!」

 

「今度は何じゃ!?」

 

「城の外から新たな軍勢が…その旗印は劉弁様の物です!!」

 

「な、何じゃと!?…まさか、そんな…」

 

 その報告に趙忠はその場にへたり込んでしまったのであった。

 

 

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 一方その頃、一刀の所に命が合流していた。

 

「黄巾の連中との戦は無事に終わったようだな」

 

「ああ、恋のおかげじゃ」

 

 命は一刀と言葉をかわすと、陣の隅に縛り上げられている張譲の所に歩みよる。

 

「ふん、良い光景じゃの。己の罪の重大さが少しは分かったか?」

 

 命にそう言われても張譲はただ傲然とした態度のままそっぽを向いただけであった。

 

「まあ、こいつの処刑は後として…中にいる者達に妾の名で投降の勧告をせよ!」

 

 ・・・・・・・

 

『劉弁』の名はさすがに効果覿面だったようで、それから半刻もしない内に中にいた

 

 者達は投降したのであった。

 

 そして劉弁の前には張譲以下十常侍を始めとした宦官の面々が縛り上げられた状態

 

 で引き立てられていたのである。

 

「皆の者、面を上げよ」

 

 俺がその言葉で裁きは始まる。

 

「張譲以下、宦官の者どもは本来の職務である後宮の世話係の権限を逸脱し、国政を

 

 壟断せしめた事については明白である。何か申し述べる事はあるか?」

 

 命がそう問いかけると、張譲は傲然とした態度で言い放つ。

 

「壟断?…ふん、そちらが勝手にいなくなったからではないか!我らは皇族不在の状

 

 況でも政に支障をきたさぬようにしてきたに過ぎん!」

 

「ほう、ならば何進大将軍を討った事については?」

 

「あやつこそ国政を壟断しようと勝手な檄を飛ばしたからじゃ!なあ、盧植殿」

 

 急に話をふられた盧植様は嫌な顔をするが、何進が檄を飛ばしていた事については

 

 事実なので、明確には反論出来なかった。

 

 

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 その状況に自分達が有利と見たのか、他の面々も一気にまくし立ててくる。

 

「張譲殿の申す通りです!我らはただ漢の為だけに尽くして参りました!」

 

「我らのこの扱いこそ不当!」

 

 それらを聞いていた命の額に青筋が立っているように見えたのは決して気のせいで

 

 は無いような気がした。

 

「張譲…お主、今『政に支障をきたさぬようにしてきた』と申したが、ならば洛陽の

 

 この状況は何じゃ?前よりずっと荒廃していたではないか!少し裏に入ればそこに

 

 は餓死寸前の民がごろごろ…それなのに、お前らの屋敷には腐るほど食い物が山積

 

 みにされておったではないか!!」

 

「何を血迷った事を…国を運営するにはまず上に立つ人間の充足が重要なのです。民

 

 などという者は、表向きは『自分達はこれだけ困窮してます』などと被害者ぶって

 

 はおりますが、必ず何処かに財産を隠し持っているもの。だから上に立つ者が一々

 

 下々の事に気を使う必要など欠片も無いのです。お眼をお覚ましください、劉弁様。

 

 次の皇帝たるあなたがそのような事でどうするのです?皇帝には皇帝らしいお振る

 

 舞いがございますではないですか」

 

 …よくもまあ、このような自己弁護を次から次へと言えるもんだ。むしろこうして

 

 伏魔伝とも言うべき宮中で力を持ったのかもしれないが。

 

 命の方を見ると、何やら考え込んでいた。まさか張譲の言葉に一理あるなどと言う

 

 わけじゃないよな?

 

「恐れながら劉弁様…私から一言よろしいでしょうか?」

 

 そこに声をかけてきたのは盧植様であった。

 

 

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「良い、言ってみよ」

 

「はい、張譲殿は『上に立つ人間の充足が重要』などと戯言としか言いようの無い事

 

 を申しておりましたが、それは劉弁様を…劉家を侮辱した言い草であります」

 

 盧植様のその言葉に張譲が吼える。

 

「何を言うか、罪人風情が!むしろ裁かれるのはお前の方じゃ!!」

 

「黙れ、張譲!盧植の罪とやらは根も葉も無い事なのは判明しておる。その張本人た

 

 る左豊は既に妾の命で死罪に処したでな…盧植、続けよ」

 

「はっ、何故ならば漢を造り上げた高祖、そして王莽によって簒奪された漢を復興さ

 

 せた世祖、お二方とも常に民の事を考えた政を行う事で国を発展させたのです。漢

 

 の今の現状はその偉業を忘れ、自分勝手に捻じ曲げたこの張譲達の如き佞臣どもの

 

 所業です!それを皇帝のあるべき姿だなどと言う張譲の言葉は殿下の祖先たる高祖

 

 と世祖を始めとする歴代の皇帝陛下を侮辱するものです!」

 

 盧植様のその言葉にはさすがの張譲も反論出来なかった。

 

「これ以上の反論は無いな…では、裁きを申し渡す。張譲は車裂き、他の十常侍は全

 

 員斬首。他の宦官は全て洛陽から追放とする。以上」

 

 命はそれだけ言うとその場を立ち去ろうとするが、

 

「お待ちあれ!何故儂だけが車裂きなのじゃ!」

 

 張譲がそう訴えてくる。おいおい、言葉使いがなってないぞ…やっぱり人間ってい

 

 うのは追いつめられると地が出るようだな。

 

「国を壟断せしめた事については他の者と同じじゃ。じゃがな…盧植に罪を被せて捕

 

 縛し、あまつさえ自分の慰み者にせんとした事の罪が加わっているからじゃ!!」

 

 命は怒りとともにそう言葉をぶつけると部屋を出て行った。

 

「ではこの罪人どもの刑の執行を今より殿下のお裁きの通りに執り行う」

 

 俺がそう言うと、今更ながら無駄な抵抗をする宦官どもを兵達が引っ立てていった。

 

 そして一刻後、張譲以下十常侍の処刑と他の宦官の追放は粛々と行われたのである。

 

 張譲はさすがに観念したのか、最期まで傲然にして毅然とした態度のままであった

 

 が、他の面々は最期の最期まで見苦しく泣き喚いて抵抗していたのであった。

 

 

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 そして数日後。

 

「ほう、どうやらすっかり綺麗になったようだね」

 

 命からの知らせを聞き雍州から駆けつけた空様は満足した様子でそう言っていた。

 

「ですが今すぐにこれからの事を考えなくてはいけません。内においては新たな政の

 

 骨子造り、外においては尚暴れまわる黄巾どもの討伐、まだまだ心休まる時はあり

 

 ません」

 

 そう言ったのは同じく知らせを聞いて駆けつけた夢である。

 

「確かにな…では皆を集めよ」

 

 ・・・・・・・

 

 空様の招集により玉座の間に集まったのは、王允・董卓・馬騰・盧植・朱儁・皇甫

 

 嵩の面々であった。ちなみに俺も半ば強引に同席させられている。

 

 朱儁将軍達は盧植様の無事な姿を見るなり安堵の涙を流していた。

 

「良かった…瑠菜が捕まったって聞いた時にはどうなる事かと。張譲の魂胆は私も分

 

 かっていたし…」

 

「本当の事を言えば、俺達も場合によっては洛陽に乗り込んでお前を助け出すつもり

 

 ではいたのだ」

 

「二人ともありがとう…私がこうして無事なのは一刀のおかげよ」

 

「そうだったのね…ありがとう一刀」

 

「さすがは俺達が見込んだだけの男ではあるな」

 

 二人からそう感謝の言葉をかけられた俺はどうにもくすぐったいような感覚のまま

 

 答える。

 

「いえ、私のした事など…劉弁様のご威光の賜物です」

 

「おい、一刀。私の威光は無いのか?」

 

 その言葉に振り向くと、そこには空様が立っていた。

 

「いえ、決して空様にご威光が無いとかいう話では無く…」

 

「はっはっは、冗談だ。今回は命と一刀の功績だ」

 

 俺がしどろもどろに答えると空様はそう言って笑っていた。

 

 

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「さて…皆に集まってもらったのは他でもない。こうして洛陽の大掃除も完了したか

 

 らには、新たな国造りの体制を造らねばならん。まずは…私は今日を限りに皇帝を

 

 やめる」

 

 空様のその言葉に皆が驚く…俺は前から聞いてたからさほどではないが。

 

「陛下、何故です!?むしろこれからではないですか!」

 

「葵の言ってる事も分かる。分かるが、私はもうすっかり暗君としての印象が染み付

 

 いてしまっている。そんな私が何をしても、もはや民は信じてはくれまい?だから

 

 こそ新たな皇帝を立て、その下で新たな治世を行うのだ。それと私は皇帝は辞する

 

 が引退するつもりは毛頭無いからそれは付け加えておく」

 

 空様のその言葉に一同納得のいった顔で頷く。

 

「では簡単にだが、此処で皇位継承の儀を行う。劉弁、前へ」

 

 空様に言われ命が前に跪く。

 

「一刀、この間預けたあれを」

 

「はっ」

 

 俺は懐から空様より預かった巾着を渡す。

 

 空様はその中の物を取り出すと、それと命に渡す。

 

「劉弁、それは皇帝に代々伝わる玉璽である。それを持つという責任を重く受け止め

 

 新たな国造りに励むよう」

 

「はっ!この劉弁、粉骨砕身務めを果たす所存にございます」

 

「新たなる皇帝、劉弁陛下万歳!!」

 

 王允さんがそう言うと、皆が万歳を叫ぶ。

 

 俺も同じく万歳を叫んでいた…やっぱりあの巾着の中身は玉璽だったのか。受け取

 

 った時にまさかと思わないでもなかったが、あまり意識してしまうと逆にダメな様

 

 な気がしたのであえて考えないようにはしてたんだけど…今考えると恐ろしい物を

 

 持っていたんだよな、俺。

 

 

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 それから数日経ち、命が新たな皇帝になった事を大陸全土に伝えるのと同時に洛陽

 

 の建て直しが始まったのであった。

 

 最初は領民達も懐疑的ではあったのだが、説得の甲斐が少しずつではあるが出てき

 

 て散り散りになっていた民達も戻り始めていたのである。しかし…。

 

「袁紹が?」

 

「ああ、自分がいない間に洛陽で勝手に事が進んでいるっちゅうて怒って軍を引き連

 

 れてこっちに向かって来るちゅう話や!」

 

 及川が放っていた間諜からもたらされた報告を聞いた皆に衝撃が走る。

 

「一刀さん、どうするんです?」

 

「まずは陛下に報告に行く」

 

 ・・・・・・・

 

「これはまた…あやつらしいと言えばそうだがな」

 

 報告を聞いた命の第一声がそれであった。

 

「その噂は聞いてたけど…袁紹は本気なの?向こうにだって黄巾の連中は出てるはず

 

 なのに?」

 

 賈駆さんは『バカじゃないの、そいつ?』といった風の顔でそう言っていたが…俺

 

 が見たあの袁紹なら普通にあり得る話ではある。

 

「とりあえず袁紹を洛陽に入れると面倒くさい話になる。司州との境で止めるべきだ

 

 ろう」

 

「しかし報告では向こうの軍は三万…今の状況ではそっちにそんなには割ける程こっ

 

 ちには余裕はありません」

 

 さすがに董卓さんも渋い顔でそう言っていた。

 

「でも、とりあえずは軍を展開して足止めする必要はあるだろう…何ならその役目は

 

 俺が引き受ける。幸いな事に俺の隊はそんなに疲弊してないしな」

 

 

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「しかし北郷さんに預けてる兵は約一千…それだけでは『ならば私も参ります』…瑠

 

 菜様?」

 

 そこに入ってきたのは盧植様であった。

 

「ただ今戻りました。こちらに現れた賊は討伐完了しました。袁紹の事も耳に挟んで

 

 おります。一刀がそっちに行くというのなら私の軍が護衛をします」

 

 確かに盧植様の軍が合わされば数はおよそ八千、足止めに問題は無い…でも今帰っ

 

 てきたばかりじゃ疲れているんじゃ…?

 

「この程度で音を上げる程ヤワな兵は一人もいないわよ?」

 

 盧植様はそう言ってウインクをする。こういう所は正直可愛いと思ってしまう。

 

 俺がそんな事を考えていたのが顔に出ていたのか、命の口がみるみる不機嫌そうに

 

 への字になっていく。

 

「一刀…今どのような状況か分かっておろうな?」

 

「へっ?…い、いや、十分に分かっていますとも、はい!」

 

「…ならば良い。それでは袁紹の対するのは一刀と瑠菜に任せる」

 

 その言葉を聞いた俺と盧植様はすぐに出立しようとするが、

 

「瑠菜、お主はちょっと待て。一刀は先に行って準備をしておけ」

 

 命にそう言われ、盧植様はその場に残る。他の面々はさらなる事態に対応する為の

 

 準備にそれぞれ散っていったのであった。

 

 

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「どうされました?私に何か?」

 

「う、うむ、瑠菜に確認しておくのじゃが…お主は一刀の事が好きなのか?」

 

 命にそう聞かれた盧植の頬が一瞬にして赤くなる。

 

「やはりそうなのか…」

 

「は、はぁ…正直、この年になって自分の子供といって良い程の年下の子にこのよう

 

 な想いを抱こうとは夢にも思っておりませんでしたけど…」

 

「まあ、それは別に気にする事ではないのじゃが…一つだけ一応言っておく事があっ

 

 てな」

 

「何でしょう?」

 

 命は一つ深呼吸をしてから、

 

「一刀に先にツバをつけたのは妾じゃからな!」

 

 そう言うと、急に恥ずかしくなったのか眼をそらしてしまう。

 

 それを聞いた盧植は一瞬キョトンとした顔になるが、少ししてから吹き出したよう

 

 に笑い出す。

 

「む、何がおかしい?」

 

「…いえ、その、急に何かと思えばそういうお話だったかと思いまして。でも…」

 

「でも?」

 

「そうすると私達は恋敵…という事になるのでしょうか?」

 

 盧植がそう言うと命も一瞬キョトンとなる。

 

「…そういう事になるのかの?」

 

「ふふ、ならばどちらが先に一刀の子を授かるか勝負ですわね」

 

「ほぅ…譲るという選択肢は無いのじゃな?」

 

「勿論です。私はこれから先の人生、身も心も全て一刀に捧げて生きていこうと助け

 

 てもらった時にそう思ったのですから」

 

 そう言った盧植の顔に迷いの色は全く見えなかった。

 

 

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「そうか…なら仕方ないの。どちらが先になろうが恨みっこ無しじゃぞ?」

 

「はい、勿論です」

 

 二人はそう言うと何故かガッチリと握手をしていた。

 

 ・・・・・・・

 

「むう、姉様だけでなく瑠菜まで…これは本当にうかうかとはいてられませんね」

 

 そう呟いていたのは夢であった。実は命が盧植だけを呼び止めたので何事かと密か

 

 に裏に回りこんで話を聞いていたのだが…。

 

「私だって…負けません」

 

 そう言って夢も拳を胸の前で握っていた。

 

 ・・・・・・・

 

 所変わって此処は冀州と司州の境の辺りである。

 

 洛陽から命が新たな皇帝となった事の通達を受けた袁紹は急ぎ洛陽へと軍を進めて

 

 いたのだが、此処で一刀と盧植が率いる軍に阻まれそれ以上進む事が出来なかった。

 

 そしてそれぞれの陣の中間地点において会談を持ったのだが…。

 

「どういう事ですの!?一体どのような権限を以てあなたは私の行く先を阻むのです

 

 の!?私は大将軍ですわよ!!」

 

 先程からずっと袁紹はそればかりを繰り返すだけでまったく話し合いになっていな

 

 かったのであった。

 

「先程からあなたはずっと大将軍、大将軍と繰り返してばかりいますが、何時あなた

 

 が大将軍に?陛下からはまったくそのようなお話は聞いておりませぬが?」

 

「何を仰られますの!?私は陛下より…」

 

「陛下とは誰の事です?」

 

「陛下は陛下ですわ!劉宏陛下の事に決まってますでしょう!」

 

 

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「しかし…先帝様からもそのようなお話はまったく伺っておりませんが?」

 

「だ・か・ら!それは単にあなたが聞いていないだけでしょう!?」

 

「いえ、さすがに大将軍閣下が来られるなどという話なら、こちらから聞かずとも話

 

 が無いとおかしいではないですか?そもそもそちらこそ、そんなに言うのなら証拠

 

 はあるのですか?大将軍の叙位ともなれば証明する物があるはずですが?」

 

 俺がそう問うと袁紹の眼が泳ぐ。

 

「そ、それは…そうですわ!南皮にありますわ!だから…」

 

「なら今からでも南皮に取りに帰られて、それを持ってまたおいでください」

 

 俺がそう言い返すと袁紹は言葉を詰まらせながら、

 

「わ、私は十常侍筆頭の、ち、張譲様から直々に大将軍への叙位を仰せつかったので

 

 すわよ!そ、そうですわ!張譲様にお聞きになれば…」

 

 そう言ってくる。俺はその言葉にため息をつきながら、

 

「張譲?…ああ、これですか」

 

 袁紹の前に布の包みを出してそれを広げる。袁紹はその中の物を見た途端、顔色が

 

 一気に青くなる。それもそのはず、その中にあったのは他でも無い張譲の首だった

 

 からだ。

 

「なっ…これは一体?」

 

「おや、陛下からの使者にお聞きになっておりませんか?張譲始め十常侍は国の政を

 

 勝手に壟断した罪で死罪、他の宦官達は全て洛陽より追放となったのですが?」

 

「なっ…そんな事が…」

 

「…袁紹様、まさかとは思いますがあなたもそれに関わっておられるわけではないで

 

 すよね?」

 

 

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 俺がそう問いかけると、

 

「と、当然ですわ!わ、私は三公を輩した名門たる袁家の当主、ま、まさかこのよう

 

 な罪人と手を組んで陛下を蔑ろにするなど、あ、あり得ない事ですわ!」

 

 袁紹はかなりしどろもどろにこう答える。

 

 まあ、実際の話、盧植様達から事の顛末は聞いているので、袁紹が張譲と手を組ん

 

 でいたのは皆知っているのだけど…。

 

「そうですよね!『南皮の太守であらせられる』袁紹様はこのような者とは無関係で

 

 すよね!」

 

「そ、そうですわ!私は、な、南皮の太守、袁本初ですわ!!あっ、そ、そういえば

 

 此処に来る前に、む、向こうにも、ぞ、賊が出たとかいう報告を受けてましたわ!」

 

「おおっ、それはいけない!後は私に任せて袁紹様はお早くお帰りを。きっと南皮の

 

 民達も首を長くして待っているはずですし」

 

 俺のその言葉に袁紹はギクシャクした感じで頷くと早々に南皮へと引き返していっ

 

 たのであった。

 

 ・・・・・・・

 

「一刀、お疲れ様。なかなかの手際ね」

 

 袁紹が引き揚げていってしばらくしてから盧植様がそう話しかけてくる。

 

「いえいえ、俺一人でやってたら押し切られていたかもしれませんよ。盧植様が後ろ

 

 に座って無言で圧力をかけてくれていればこそです」

 

 盧植様は俺が袁紹と話している間、一言も発さずにずっと袁紹を睨み付けていてく

 

 れていたのである。実際、会談の最中も袁紹は時々盧植様の方を気にしてるような

 

 素振りを見せていたので、そのおかげと言っても決して過言では無かったのである。

 

 

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「あら、ありがとう。そのお世辞はありがたく受け取っておくわね。ところで…」

 

「まだ何か?」

 

「何時になったら私の事を真名で呼んでくれるのか・し・ら♪」

 

 盧植様はそう言うと俺の腕に自分の腕を絡めて胸をグイグイ押し付けてくる。

 

「ろ、盧植様、このような所で一体n『る・な♪』…はい?」

 

「だ・か・ら、私の真名。もうとっくに預けたわよね?もう私はあなたの主人じゃな

 

 いんだから」

 

 盧植様はそう言うとさらに胸を押し付けてくる。

 

「あ、あの、当たってまs『当ててるのよ♪』…い、いや、あのですね」

 

「ほら、だから真名でね♪」

 

「は、はい…ええっと、瑠菜様」

 

「『様』も無しで」

 

「あ、その、瑠菜…さん」

 

「…ふう、仕方ない、今日の所はそれで勘弁してあげましょう」

 

 瑠菜さんはそう言うと腕を緩める。

 

「さあ一刀、帰るわよ。陛下に報告しないとね」

 

 瑠菜さんはそう言うと何だかご機嫌な様子で帰っていったのであった。う〜む、良

 

 く分からん。

 

(ふふっ、これで私も陛下達と同じ所まで来たんだし…これからはもっと本気出して

 

 一刀に…まさかこの年でこんなに情熱的になれるなんてね)

 

 そして瑠菜さんが心の中でそのように思っていたなどとは露知らぬ事であった。

 

 

                                           続く。

 

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 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 よし!2013年の内に間に合った!!

 

 という事で洛陽も大掃除を敢行しました。

 

 そして盧植さんのデレもお送りしました。

 

 そちら方面の細かい所は今後の拠点でお送り

 

 する事になると思いますので。

 

 とりあえず次回は新たな皇帝の下で一気に

 

 黄巾党を討伐していくという流れでお送り

 

 する予定です。

 

 

 それでは次回、第二十話でお会いいたしましょう。

 

 

 追伸 今まで登場しなかった方々もそろそろ出る

 

     予定です。

 

 

 

説明

 お待たせしました!

 盧植の救出に成功し、張譲を捕縛した一刀達。

 そして黄巾党との戦いに勝利した命達。

 遂に洛陽の大掃除が始まります!

 果たして結末や如何に?

 とりあえずはご覧ください。
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コメント
たっつー様、ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。一刀の精力の方は多分何とかなるから大丈夫として(オイ、出産、特にお姉様方の時の為に必要になるかもしれませんね…考えておきましょう。(mokiti1976-2010)
naku様、再びありがとうございます。熟女さん達はただでさえ圧しが強いので全員をメインにしたら命達の出番が皆無になりかねないのでこのままで。それと…さすがに私は八百一的な展開は書けませんので悪しからず。(mokiti1976-2010)
summon様、ありがとうございます。一つの戦いの終わりは新たな戦いの始まりを告げるゴングでもあったのだ…この戦いはそう簡単に終わらなさそうですが。(mokiti1976-2010)
黒鉄 刃様、ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。及川もちょこちょこ顔は出しますのでお楽しみに。それと、彼女はまだまだ若いんです…多分。(mokiti1976-2010)
陸奥守様、ありがとうございます。確かに無尽蔵に増やすのは考え物です。直接な関わりとしてはあと一人は必ずありますので後はセーブする予定です。あと及川は…ぐぅ。(mokiti1976-2010)
観珪様、ありがとうございます。璃々ちゃんですか…さすがに個別ルートを用意すると十年単位の長丁場な話になりますし…どうしよう?そして…瑠菜さんはこれから一緒に行動する機会は増えます。でも命や夢はともかく空は…ふっふっふ。(mokiti1976-2010)
大掃除終了ーその一方で、一刀さんを巡る戦いはさらに激しく…陛下、頑張れ!(summon)
あけおめです、及川も今回は顔出ししたか……ガンバレ、瑠菜様はお年を考え(ザシュ……。(黒鉄 刃)
一刀ハーレム爆誕は確実だとしても、あまり人数が多いと描写が薄味になるからなあ、気をつけて欲しいです。ようするに俺達凡人の星、及川にも愛の手を。(陸奥守)
そろそろ璃々ちゃんの個別√を所望する!← しかし、盧植さまは軍部に属しているだけあって、皇族の方たちよりも接点多そうですから、空さまも夢さまも強敵が現れましたねww(神余 雛)
牛乳魔人様、ありがとうございます。彼女のアプローチはこれからも続いていくのでお楽しみに。(mokiti1976-2010)
盧植さまは命・夢より自由に動ける分、一刀さんへのアプローチがハンパないですね!・・・自由人といえばもう1人いたような・・・(牛乳魔人)
いた様、ありがとうございます。おそらく来年も一刀は通常運転でしょうね…私にもどのような展開になるかはまったく分からない(マテ。(mokiti1976-2010)
お疲れ様です! 来年一刀は、どこまで誑すのかと楽しみながら…じゃなく、どのような展開になるか楽しみにしています!(いた)
神木ヒカリ様、ありがとうございます。確かに出産の経験があるというのは強いですよね…しかし空と姉妹の子供の父親が同じというのはどうなのだろうとか今更ながら思ってしまった。(mokiti1976-2010)
きまお様、ありがとうございます。貴方様が常にコメント欄で繰り広げてくれるネタは楽しみにしております。来年もよろしく!とりあえず私は下戸なので普通に過ごすのみですね。(mokiti1976-2010)
(続き)桃香さんと白蓮さんに関しては…敵に回る可能性はあるかもしれません(エ。(mokiti1976-2010)
D8様、ありがとうございます。一刀は修羅場の星の下に生まれたといっても過言では無いのかと。未登場の方々はどうなる事か…。(mokiti1976-2010)
まァ命と夢が最初に喰われるんだろうけど、何故か空様が最初に妊娠してそうだ。(神木ヒカリ)
一年間楽しませていただきました。うp主も皆さんも良いお年を!自分?自分は新年から自作した燻製でのんべぇになりますよ、ええなりますとも!自作したスモークドチーズとかベーコンは激うまデス。(きまお)
あとどれだけのヒロインが一刀君の魅力にかかるのだろうか・・・・。盧植先生いるから桃香や白蓮が入ったりするのかな・・・・・(D8)
盧植様可愛い!今日も一刀君の周りは修羅場ですw。前作の正ヒロインをはじめ、まだまだ未登場の方々がいる中修羅場はどうなる・・・?(D8)
じゅんwithジュン様、ありがとうございます。洛陽に関しては一件落着です。一刀を巡る戦いはきっと終焉を見るのは難しい可能性が…。(mokiti1976-2010)
殴って退場様、ありがとうございます。それはもはや逃れようの無い事実です。でも今はまだ璃々が一緒にいるから難しいでしょうけど。(mokiti1976-2010)
Jack Tlam様、ありがとうございます。人たらし、そして女たらしが一刀の真骨頂ではないかと(エ。でもまずはやはりメインどころからですけどね。そして…夢は前に作中で語った通りにまず頭で考えてしまう所が出遅れの原因です。(mokiti1976-2010)
(続き)及川は有閑マダムのツバメか…このままじゃ及川にまったく恋バナ的な話が無いから何か考える必要ありかな?(mokiti1976-2010)
禁玉⇒金球様、ありがとうございます。ううむ…私にはあまり細かい事は分かりませんが、つまり紫苑さんは残念な方の人だという事で(グサッ!)…グフッ!(mokiti1976-2010)
取り敢えずは一見落着、かな? 一刀を巡る恋の争いは終息を見せないけどねww(じゅんwithジュン)
この調子だったら、いずれ誰かが実力行使で一刀の寝床を襲いそうな気配がww。(殴って退場)
一刀…どこまでも人たらしな男よ。でもちゃんと同年代二人のヒロインから攻略してやってほしいと思いますが…夢は奥手なのか単に間が悪いのか…(Jack Tlam)
…一刀君は有能役人のツバメで及川君は有閑マダムのツバメのイメージが(禁玉⇒金球)
皆さん知ってるかい?女性には「若い子」と「まだまだお若い方」の二種類しかいない事を…そして所謂熟女には自分が若くないのを自覚してネタにしているおば様と過剰反応する残念BBAの二種類がいる事を。(禁玉⇒金球)
qisheng様、ありがとうございます。はい『お姉様』にも幸せはやってくるかと…基本一刀はそういう事を気にする人ではないですから。(mokiti1976-2010)
おばさ、、 じゃなくて  お姉さまにも幸せが来ることも願います(qisheng)
naku様、ありがとうございます。確かに宦官を処刑するのはもはや死刑以外に無いという話ですね。そして前回出番無しだったので及川にも少し活躍してもらいました。それと…まあ、確かにせめて私室でしろって話ですね。(mokiti1976-2010)
Kyogo2012様、ありがとうございます。一応既に命に対してはライバル宣言してますし…一刀の精力的な方の心配だけですね。(mokiti1976-2010)
nao様、ありがとうございます。恨みは持つでしょうが…正直、もう何の力も持ってないので、後は行き先次第ですね。(mokiti1976-2010)
村主7様、ありがとうございます。一応言っておきますが十常侍は全員処刑してます。張譲以外は斬首という形で。他の宦官は正直モブ状態ですので…果たして?それと…また懐かしいネタを。でも本当になるかもしれません。(mokiti1976-2010)
yoshiyuki様、ありがとうございます。顛末を知る曹操の動きも今後重要になってきます。そして…あっ!今そっちに盧植様が槍を引っ提げて駆けていきました!早く逃げて!!(mokiti1976-2010)
一丸様、ありがとうございます。たまには彼女も可愛くなってもらいました。間違いなく公の場では止め役に回らなくてはならないでしょうしね。そして…袁紹の復讐という点ではきっと間違いないかと。(mokiti1976-2010)
慮植さんが、一刀を誘惑中ですか・・・・・・。空や命らに知られたら・・・・・・ガクブル。(Kyogo2012)
他の宦官も処刑したほうがよかったんじゃ?絶対恨みもってよからぬことするだろw(nao)
正直追放された十常侍も・・・ いえ弁が立つ、切れ者とかならまだしも飲んだくれて愚痴こぼすくらいしか出来なさそうレベルでしょうし なにか「火種」を隠し持っているとかならまだしも そして盧植さんw  このまま伝説のマンガ「いけない瑠菜先生」モードに突入なのか(マテ(村主7)
袁紹と張譲のつながりって、三将軍だけでなく曹操も知ってますよね。曹操が味方しないと袁紹は手詰まり、味方すると曹操の悪評が半端ないことに。 ところで盧植さま「コウレイシュッサン」てなんですか?(yoshiyuki)
盧植様、可愛い!!すっごい、可愛い!!さてはて、この流れは袁紹の復讐で反董宅連合が組まれてしまうのでしょうか?黄斤討伐後の張三姉妹の運命は?色々気になりますが、続きを楽しみに待ってます。(一丸)
アルヤ様、ありがとうございます。まあ、確かにそこはいつもの流れしょうね…さてどうなる?(mokiti1976-2010)
↓↓そりゃもういつもの流れで凶と出るんじゃないですかね?(アルヤ)
劉邦柾棟様、ありがとうございます。その宦官達が袁紹の所に行ったら或いは凶と出る可能性も…実際十常侍がいない状況では何の力も無いですけどね。(mokiti1976-2010)
他の宦官を追放したのが吉と出るか、凶と出るか・・・・・。(劉邦柾棟)
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