「真・恋姫無双 君の隣に」 第6話 |
俺は何故、戻って来れたんだろう。
以前は定軍山や赤壁に介入して、華琳を大陸の王とする為の御遣いになった。
その代償の為に華琳達と別れる事になったが、後悔はしていない。
でも、元の世界に戻ってから未練が尽きる事は無かった。
いつか皆の処に帰る、それだけを希望に自分を鍛えていた。
でも戻った世界は時間が遡り、俺は美羽の傍にいる。
どうすればいいのか分からず、目の前の事だけに没頭して結論を先に延ばし続けた。
・・それも、昨日までだ。
心を決めた。
俺は、今度は自らの意思で天の御遣いになる。
「大陸の王となる者を見定める。相応しき者がいないなら、俺が王になる」
これは俺の、彼女達への宣戦布告だ。
「真・恋姫無双 君の隣に」 第6話
「袁術様、お久しぶりに御座います。我らが主君、袁紹に代わりご挨拶申し上げます」
顔良が一同を代表して美羽に挨拶する。
他の者もそれに倣うが、明らかに目当ては俺、天の御遣いだ。
型どおりの挨拶が終わると、逢紀、郭図のおっさん供が俺に探りを入れてくる。
この二人、確かに如才ない感じだが基本失礼な奴等だなと思う。
言葉は丁寧だが美羽を軽視してるのが分かるし、俺の政策に関して旧来の法を蔑ろにしているとしたり顔で言う、物を知らぬ輩に常識を教えてやるといったところだな。
そういえばこいつら、正史でも演戯でも袁家滅亡の第一級の戦犯だったよな。
顔良は止めようとしてるけど、文醜は我関せず。
実際俺も心は荀ケ、桂花の事が殆どだ。
桂花はずっと他所を向いてるが、ちゃんと俺の見定めもしてるんだろうな。
何しろ王佐の才、一を聞いて十を知るの体現だったから。
まあ、俺が男の分、人格に関しては必要以上に辛い点だろうけど。
全く、本当に男って愚かね、滅べばいいのよ。
あんな下等な奴等が上司なんて、本当にありえないわよ。
私は曹操様にお仕えしたかったのに、生家である荀家のしがらみで袁紹に仕える羽目になってしまった。
馬鹿な袁紹のもとで無為な日々を過ごしていたら此度の命令よ。
天の御遣い、ふん、政に関してなら少しは褒めてあげてもいい。
今まで聞いた事もない方法や考えはともかく、思いつきで済まさずに細部までよく考えられてる。
逢紀、郭図に対しても、特に迂闊な反応はしていない、外交にしても及第点ね。
でも男よ、女を汚す事しか考えられない獣よ。
きっと毎夜、あんな幼い袁術や胸のでかい張勲を弄んでるに違いないわね。
それに孫家の次女を人質にとっていると聞くし、逆らえないのをいいことに一日中鎖をつけてひどい事をしてるのよ、卑劣極まりないわ。
予想じゃないわ、確信よ。
それに、何故か分からないけど、あの変態に関しては普段よりも腹が立つのよ、全身精液男め。
「今日は袁紹の家臣が来訪してるらしいですね」
私は供に政務を励んでいる風に話しかける。
「ぐう」
「寝るな、勤務中ですよ」
「おお、そのようです、お兄さんの見定めでしょうねー」
しっかり聞いてるじゃないですか、全く。
「稟ちゃんはお兄さんをどう見ましたー?」
「そうですね。切れ者という訳ではありませんが、よく考えて政を行ってますね。人も好い方ですので国中から好かれてますし、驚いた事に人質の孫権殿たちからもそのようですしね」
「ありゃあ惚れてるだろ、相当の女誑しだぜ」
宝ャでの返事に、風から不機嫌なかんじを受けます。
風にしては珍しい反応ですね、まさか北郷殿の事を?
「姉ちゃん先走ってんじゃねえよ、これだから会ってもいないのに勝負下着を三着も用意してる処女はよ」
「風、何故それを!」
「風は知りませんよう」
まったく、何故正確な枚数まで知ってるんですか、掴みどころのない親友です。
少し、復讐しておきますか。
「風、ああいう無自覚に女性を惹きつけるお人と付き合うのは諦めが肝心ですよ」
仕返しで言ったつもりでしたが、自分でも実感が篭っていた気がしました。
謁見が終わり、俺はうんざりしながら執務室に戻る。
あのおっさん共の食事に眠り薬でもいれようかと、真剣に考えそうになる。
蓮華達に軍事訓練で城の外に出てもらっていて良かったよ、あの場にいたら絶対あいつら厭味全開だったぞ。
溜息をついていたら顔良が来室した。
おっさん共の非礼を謝りにきたのだ、ああ善い娘だな。
「顔良殿、私は何も気にしておりません。どうぞ顔をお挙げください」
「いえ、本当に申し訳ありませんでした。重ねてお詫びします」
謝るばかりで一向に顔を上げてくれない。
う〜ん、これじゃ埒があかないな。
「顔良殿、よろしければお茶に付き合っていただけませんか?一服しようかと思ってたところなんです」
私は御遣いさんとお茶を飲んでます。
逢紀さん、郭図さんの失礼な態度を謝りに来たのですが、御遣いさんは優しい笑顔で許してくれて、安堵しつつちょっと素敵だなと思ったりしました。
当たり障りのない会話をしていたら、袁術さんと張勲さんが来られて街の子供達が遊ぶ遊具が欲しいと御遣いさんに話していました。
「わかったよ、今晩一緒に考えてみよう」
「うむ、約束じゃ」
凄く嬉しそうな笑顔で、袁術さんの様子は以前と比べてまるで別人です。
麗羽様に負けず劣らずの我が道を行く方だったのに、街の子供達の為とか、それに命令じゃなくてお願いをされるなんて。
私が驚いていると、御遣いさんと張勲さんの会話が聞こえてきました。
「七乃、仕事は?」
「さあ美羽様、子供達にこの事を伝えに行きましょう。きっと喜んでくれますよう」
「仕事は?」
「頑張ってください、応援してますね」
こちらも凄く嬉しそうな笑顔です。
「七乃、早く行くのじゃ〜」
「は〜い、行きましょう」
お二人はそのまま出て行かれました、後に残るのは震えている御遣いさん一人。
この感情は何て言うんでしょう、既視感?親近感?とにかくこの人を放って置けなくて私は両手をとります。
「あの、元気出してください」
御遣いさんは涙目で、
「ありがとう、大丈夫だから。その、色々大変だけどああして元気なところを見てられるなら頑張れるんだ」
「分かります。その、色々ありますけどやっぱり楽しそうなところを見てたら頑張ろうって思うんです」
「俺の真名は一刀、そう呼んでくれるかい」
「私の真名は斗詩です、そう呼んでください」
思わぬところで斗詩と気持ちを共感して仲良くなれた。
手を握り合ってたところで乱入した文醜には逆に警戒感を持たれたけど、斗詩に甘えてた態度から見て多分仲良くなれると思う。
よし、気持ちを切り替えて今夜のために仕事頑張ろう。
夕食を頂いて割り当てられた部屋で休んでいたら、あの変態から呼び出されたわ。
なんで私があいつに会いに行かなきゃならないのよ。
まさか、夜伽を命じるつもり?冗談じゃないわ、でも立場上行かないわけにはいかない。
ああ、曹操様、お許しください、貴女に全てを捧げるはずでしたのに。
こうなったらせめて綺麗な身体でいる為にあいつを殺して私も、いえ、落ち着くのよ、桂花、あいつを殺してその罪をあの馬鹿な上司どもに押し付ければいいのよ。
その為の策略を私は瞬時に組み立てる。
よし、完璧よ。
私は会心の策に満足しつつ、案内の侍女についていく。
風と稟ちゃんはお兄さんに呼ばれて中庭に来ています。
既にお兄さんが居て月を眺めています、今日は満月ですからとても綺麗だと思いますが、風にはお兄さんは泣いてるように見えます。
出会った時から、ずっと気になってはいるんです。
いつも笑顔で人に接していますのに、風と稟ちゃんには無理に笑顔を作っています。
避けられてる、という感じじゃなくて感情を押し殺してるんだと思います。
何故でしょう、風達は是までにお兄さん出会った事などないのですよ?
ですが、風はお兄さんの近くにいるのは嫌じゃありません。
風はこんな性格ですから人との付き合いは長続きしないのですが、お兄さんの前だと自然でいられるんですよ。
まあ、四方八方に女の人と仲良くしてるのを見るのは面白くありませんが。
お兄さんは月から風達に視線を換えました。
「ごめん、こんな時間に呼び出して。後でもう一人来るんで、もう少し待っててくれるかな」
「もう一人?どなたが来られるのですか?」
「来たら紹介するから、って来た来た」
向こうから来る侍女さんと一緒の人ですね、やっぱり女の人ですか。
「おいおい兄ちゃん。また新しい女かよ、お盛んなこった」
「宝ャ、あの娘にその手の冗談は絶対駄目だからね」
本気で言ってますね、控えた方が良さそうなのです。
お兄さんがお互いを紹介してくれました。
あの荀家の人ですか、その才に関しては風たちも聞いた事があります。
それにしても、何故こんな時間と場所で紹介されたんでしょうか、荀ケさんも怪訝に思ってますよ。
「君達を呼んだ理由だけどね。それを話す前に君たちに聞きたい事がある。すまないが答えて欲しい」
「・・何よ」
「答えられることでしたら」
「なんですかー」
お兄さんの質問は簡潔でした。
「陳留太守、曹孟徳をどうみる」
風達は咄嗟に答えられませんでした。
お兄さんは、きっと分かった上で質問をしています。
荀ケさんの様子を見ましたところ、どうやら風達と同じ思いのようです。
曹操様に仕える事を胸に秘めているのでしょう。
「お兄さんは全て分かってるのですね、風達の気持ちを」
不思議です、斬り捨てられても仕方ないのに怖くありません。
だってお兄さんは、とても嬉しそうな顔をしてますから。
「あ、あんた、一体何者なのよ!」
「北郷殿、貴方は一体」
荀ケさんも稟ちゃんも動揺を隠せません。
「もう、兆候が出てる。おそらくは大陸中を揺さぶる乱が始まる。漢にそれを治める力は無い。戦乱の世になる」
「お兄さん、お兄さんは」
「俺は天の御遣いだ」
お兄さんが宣言します。
「大陸の王となる者を見定める。相応しき者がいないなら、俺が王になる」
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あとがき
新年あけましておめでとうございます。
この作品、華琳がヒロインなんですがいまだに一度も登場してません。
まあ恋姫ですから出てくる女の子はみんなヒロインですけど。
基本、華琳は敵の位置にあります、だから出番は多くは無いので他のヒロインがメインとっちゃうかもしれないです。
それでは本年もどうぞよろしくお願いします。
説明 | ||
魏の誇る3軍師が集まる 一刀は決意を彼女達に |
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コメント | ||
苦労人ポジの共感は無理ない展開でいいですw(PON) つつぎがたのしみだぜー このまま3軍師をGETできるのか?(qisheng) 誰でも良い桂花に「お前は一方的に男を侮蔑して貶める器と視野の狭い女である」といってやって、そして合理的思考を持たせてやって(禁玉⇒金球) 桂花は男への異常なまでの偏見が無ければなぁ・・せめて無くなれば・・ どう変わっていくかが楽しみですなあとメインもw(mame) 一刀のことで、一を知り、十をしれてねーぞこの猫耳。男に偏見を当てはめている時点でむしろマイナスに・・・(D8) 華琳は王にふさわしい人なのは分かってるのにあえて敵対するのか〜記憶がないみんなと前と同じようにすごすのは辛いのか・・(nao) |
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