ゆりおん!4(ゆいあず)
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【唯】

 

「うぇぇ〜、りっちゃんそこそこ〜」

「唯、ちょっとおやじくさいぞ」

 

「うそ!?」

 

 トントントントン

 

 ドラムのスティックでリズムよく肩をりっちゃんに叩いてもらっていると

夢心地で眠くなってしまいそうなところで綿で包めたような優しい声が

私の眠気に拍車をかけてきた。

 

「唯ちゃんいるー?」

「おう、ムギ〜。いらっしぇい!」

 

「くーっ…」

「おいムギが呼んでるそばから寝るなよ」

 

「ふぇっ!?」

「ふふっ、唯ちゃん気持ちよさそう」

 

 背後からりっちゃんが私の頬をつまんでは捻った痛みで飛び上がるような

気持ちで起きて振り返ると嬉しそうなムギちゃんの笑顔が視界に入ってきた。

 

 今なんだか無性にムギちゃんに飛び込んで一緒に昼寝としゃれこみたい気分で

いっぱいになった。だけどムギちゃんの用事はまた別なところにあった。

 

「今からデートしない?」

「デート?」

 

 入り口近くにいるムギちゃんの傍に行ってからその言葉を聞いて首を傾げて

私の後ろのソファーでくつろいでいるりっちゃんに視線を移すと手をひらひら

させて追っ払うような形をしていた。

 

「りっちゃん・・・もはや私のことは用済みなんだね・・・」

「変なこと言ってないで行ってこいよ。私だってやることくらいあるんだし」

 

「そうだね、気分転換に行ってくるよ!」

 

 じゃあ準備するねといってみんながいる前で着替えを始める。

りっちゃんは何か言いたげだったが、もう慣れたもので苦笑しながら

私が準備している姿を眺めていた。

 

「行ってきます〜」

 

 着重ねていっても冷たい風が身に染みる。私が寒そうに体を震わせると隣で

ムギちゃんが私の手を握って暖めてくれる。ムギちゃんの手はいつも暖かくて

柔らかくて気持ちがいい。

 

「ありがとう」

「ううん、こちらこそ買い物につきあわせちゃって悪いなって。

こんな寒い中…」

 

「いやぁ、寒いけどね。空気が澄んでいるようで気持ちいいよね」

「そうかも」

 

 デートとはいっても今回は買い物に付き合うだけの話だった。

ムギちゃんは女の子には誰に対してもこういう態度を取るから、最初のうちは

戸惑うけれどしばらくすると慣れてきて抵抗がなくなるのだった。

 

 デパートでお目当てのお店を見て買い物をしてから外に出ると

視界の端に見覚えのある影が見えた。向こうは気づいてるのかわからないけど

私は思わずその子に声をかけていた。

 

「あずにゃーん!」

 

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【梓】

 

 わかばガールズの部長として頼り無いながらも憂たちと一緒にがんばっていても

楽しんでいたとしても、ふと唯先輩のことが恋しくてたまらないことがある。

そんな気持ちで気分転換に外へ出ていたら急に唯先輩の声で名前を呼ばれた気がして

ビクッとなった。

 

 最初空耳かと思っていたがあまりにも聞こえてくるから声がする方へと視線を

移すとすごく近くで私の名前を呼びながら手を握る先輩の姿があった。

 

「あ、唯先輩!?」

「うん、そうだよ」

 

 先輩の傍にはムギ先輩の姿もあった。私の姿を見て微笑ましく幸せそうな顔をしている。

 

「今日はお二人でいるんですね」

「うん、デートなの〜」

 

 私の言葉に今度はムギ先輩が返事をしてくる。3人は深くマフラーを被っていて

その隙間から白い吐息が天へと昇っていく。そんな短い時間に私は気まずい思いをして

ついこう口走ってしまった。

 

「あの、お邪魔なようなので続きをどうぞ・・・」

 

 胸がチクチクしながらその場を離れようとしたら慌てるように唯先輩が私の腕を

掴んで引き寄せてきた。

 

「違うよ!今日は買い物に付き合ってるとかそういう意味でのデートだから。

あずにゃんはお邪魔じゃないよ。むしろ私は会いたかった」

「あらあら、どうやら私の方がお邪魔みたいかも。唯ちゃん、先に寮へ帰ってるわね」

 

「うん、ムギちゃん。ごめんね〜」

「ううん。梓ちゃんとごゆっくり〜」

 

 相変わらず雰囲気を和ませるような柔らかい空気を作って上機嫌に足取り軽く

私たちの前からムギ先輩は去っていった。

 

 二人きりになった私は唯先輩が担いでるものを見て目を見開く。

 

「ギー太持ってきてるんですか…」

「うん、何か離れてると落ち着かなくて〜」

 

「あっ」

 

 それを聞いてピンッと閃いた私は両手で先輩の手を握りしめると上目遣いで

唯先輩を見つめながら思ったことを言ってみた。

 

「あのうちの近くで演奏できる場所があるんですけど行ってみませんか?」

 

 もちろん屋内で、と付け足すと先輩は嬉しそうに笑いながら「うんっ」て

頷いてくれた。私は内心子供のように興奮しながらも表面で抑えながら

案内をすることにした。

 

 私の方はムッたんを家に置いてきてしまっていたから途中で取りに行って

小さいけれど常連の人が愛する借りスタジオへとやってきた。

 

 小さい頃から顔を覗かせていたから店員さんとは家族ぐるみの付き合いだったりする。

 

「お、梓ちゃん。久しぶり〜」

「あの〜、今日は空いてますか?」

 

 入り口近くの店員さんに声をかけると、たばこを咥えながら笑みを浮かべながら

私たちを見やるおじさんは気さくな感じでこう返してきた。

 

「おう、一部屋だけ空いてるよ。珍しく人連れで来てるね。隣のお嬢ちゃんは梓ちゃんの

コレかい?」

 

 おじさんは小指を立てて言うもんだから私は顔を真っ赤にして否定してから

中へと入っていった。お金を払ってからだから、勝手知ったるなんとやら。

唯先輩の手を掴んで引っ張っていく。

 

 中は古いながらも清潔にしてある部屋で防音など練習するには快適な環境だが

あまり広くないために複数人の使用には向かない面もある。

 

 今回は先輩と私だけだったので何の不自由もないがみんなで揃うと使えないかも

しれない。ちなみに不足している楽器や修繕するための素材は全て揃っている。

もちろんレンタルやら別途に料金はかかるが何かあった時に頼りになる場所なのだ。

 

「ギー太とムッたんで久々に演奏できるね〜」

「ですね」

 

 普段はギターに愛情かけすぎるくらいだけど、今は先輩がいるから意識はむしろ

先輩の方に向いていて、今はそれほどムッたんに執着していない。

 

 チューニングを始めると相変わらず感覚だけで先輩が音の感じを教えてくれる。

これがまた的確で余計な作業がいらないから助かる。

 

 ゆっくりと調整をしてから二人で曲名を確認してからギターを弾き始める。

私が最初に聞いて一番心に残っている「ふわふわ時間」だ。

 

 最初のうちは若干ぎこちなさが残っていたが弾いているうちに二人の中で

一体感が生まれてきて、時間が忘れるほど弾き続けていた。

 

 もう何曲弾いたかわからないくらい熱中して、昔を懐かしみながら

先輩のかっこいい姿を目に焼き付けていた。

そんな時だった。熱中して汗をかきながら弾いている最中に先輩の顔が

私の顔の近くに迫っているのを確認して驚いて指の動きが止まりそうになった時。

 

 ちゅっ

 

 不意にキスをされて更に驚かされた。動いて興奮している状態でのキス。

心臓は更にバクバクと煩いほどに私の耳に音が届いてくる。

 

「せ、先輩!?」

「えへへ、ついやっちゃった」

 

「ついって!?」

 

 さっきまで賑やかだった空間が一気に静寂に満ちていて私は先輩から目を

離せなくなっていた。大きな胸の鼓動は止まることはなかった。

 

 ドクンドクン

 

「がんばるあずにゃんが可愛すぎてしたくなっちゃってよ」

 

 髪から一滴汗がしたたり、笑顔を私に向ける先輩の姿にドキッてする。

こんなにかっこよかったっけ…?唯先輩って…。

 

「も、もう…!こんなことふざけてするもんじゃないですよ!」

「ふざけてなんかないよ…。学校にいたときからあずにゃんのこと見てたんだから」

 

「な、ななな。何を今更…!」

 

 ギターを持ちながらのかっこうで空いた手を使って私を引き寄せてくる。

唯先輩の汗の匂いがして頭の中が余計にごちゃごちゃしてくる。

 

「せ、先輩…。わ、私…」

「あずにゃんは私のことそういう風には見てくれないよね?」

 

 少し寂しそうに言う先輩がずるく思えて私も喉からなかなかでなかった言葉を

吐き出すように言い切った。

 

「私も先輩のことそういう風に見てますよ!卒業する前から!もっと前から!」

 

 でも、伝えて関係が悪くなると考えると怖くて仕方なかった。

そしてそれを思い出して涙も出そうになった時。唯先輩は私の涙を舐めとってくる。

それは汗も混じっていてどれだかはっきりしない液体だったけど。

 

「あずにゃんの美味しい」

「先輩…」

 

「同じで良いってことだよね、思い切り愛してもいいんだよね?」

「はい…」

 

「ふふっ、あずにゃんの匂い大好き」

 

 確認をしてから私の体を力強く抱きしめて私の中でこんがらがっている頭の中を

落ち着かせてくれる。濡れていて熱くて、だけど柔らかくて優しくて。

そんな色々先輩を感じられるこの状況がずっと続いて欲しいと願いながら

先輩の後ろに手を回した手にそっと力を込めた。

 

「これからも軽音部がんばってね、あずにゃん部長」

 

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「うーっ、寒い〜〜」

「ですね〜」

 

 部屋を使っていた頃は暑くて薄着でやっていたけれど、汗かいた後に厚着をしても

外に出るとけっこう寒く感じた。まだやや湿っぽいのも要因だろう。

このまま帰ると風邪を引いてしまいそうだ。特に先輩が…。

 

「あのですね、うちに来てシャワーしていきませんか?」

「おー、あずにゃん大胆〜」

 

「ち、違いますし!風邪引いたらいけないって思っただけですし!?」

「わかってるよぉ。じゃあお邪魔しちゃおうかな」

 

「ぐぬぬ…。わかりました…」

 

 3年になっても部長になっても結局唯先輩には敵いそうもなくて

私は遊ばれながらも唯先輩を誘えることに成功して上機嫌で家まで案内した。

 

「今先輩の服乾かしますよ」

「ありがとう〜」

 

 帰宅をしてから先輩をお風呂場まで案内してから私は先輩の服を乾かそうと

乾燥機に入れようとして、ちょっと躊躇いの後に匂いを嗅ぐ。また直に嗅いだときと

違う感じがして癖になりそうだった。

 

「あずにゃん?」

「ひゃい!?」

 

 先輩に見られたかと思って驚いて慌てて入れてスイッチを入れると先輩は変わらず

お風呂場の中で私を呼んでいて違うことがわかり安堵すると。一緒に入ろうという

お誘いがあった。

 

「わかりましたよ…」

「さっきのあずにゃんの返事へんてこでかわいかったよ〜」

 

「もぉ!それは言わないでください!」

 

 ようやく収まってきた顔の火照りがまた戻ってきたみたいに熱くなりながらも

素直に先輩の元へと向かう。それは本当に幸せな時間ですぐにその一時は

終わってしまったけれど、また遊ぶ約束を交わしてから私たちは駅前で別れた。

 

 先輩の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから私は静かに自宅へ向かって歩いていった。

 

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「さぁ、今日もがんばって練習するよー!」

 

 部活が始まってから私は気合を入れて後輩たちと楽しみながら練習することにした。

すると、ちょっと不思議そうに菫が私に問いかけてきた。

 

「いつもより気合入ってますね、梓先輩」

「え、そうかな?」

 

「はい。なんかエネルギーを充電したようなそんな感じに見えます」

 

 後輩に言われて気づいた。唯先輩への気持ちが伝わったのと、愛情をたっぷり

くれたから気持ち的にも色々やる気になって軽くなっていた。

 

「そうかもしれない」

「よかったね、梓ちゃん」

 

 私たちの会話に憂も入ってきてみんなでお祝いムードになりかけてきた頃、

純のところで打ち切って活動を開始させた。何だか後ろでぶーぶー文句を垂れる

純を無視しながら私はみんなと音を合わせるも、心の中では親友後輩たちにも

感謝が絶えなかった。

 

 この気持ちを歌にいっぱいに込めて歌った。

 

「…イマイチ」

「ですよねー」

 

 歌の上達するまでまだ程遠い、良いオチがついたのだった。

 

お終い

説明
前のようにいつも一緒にはいられないけれど、たまにだからこそ気持ちが燃えることもあるかもねっていう話。特に共通するもので熱中したときの盛り上がり感はすごいと思う。
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けいおん! 平沢唯 中野梓 百合 ゆいあず 

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