fighting heart 第2話 |
プロローグU 空の色は果てしなく紅かった
ありふれた町並みが綺麗に染まる。
果てしなく紅い色に染まっていく。
そんな中、一人戸惑っていた。
決して、触れることの出来ない人だかり。
足が重く感じる。
何も知らない自分が許せない。
町にある音は喧騒ではなく鈍い火薬の音。
動かない人。
泣く人。
呆然とする人。
自分だけが別世界の住人に感じられた。
ふと、目を閉じる。
深い暗闇が自分を勇気付ける。
しかし、ここには色が無い。
ここは現実とは違う。
自分は目を開ける。
空の色は深くて紅い。
自分は周りを見る。
先ほどと変わらぬ人だかり。
だけではなかった。
近くに人がいた。
自分が顔を向けると「どうしたの?」と声を掛けられた。
その人を見る。
自分と同じ別世界の住人。
顔はよく見えなかったけどその人の髪には金色の光沢があった。
2話 小さな皹が付く前に
「おはようっ」
いつもどおりの朝が来た。
「・・・・おはよう」
僕はいつもどおりそっけなく答える。
しかし、奈津は・・・・・。
「義樹、何でそっけないの?啓人とかと居るときは楽しそうなのに〜。」
「・・・・・・別に必要がないから、啓人とは親友のつもりだし」
表面上は普通だが僕は驚いている。
何で首を突っ込むの?
「ふ〜ん、そう〜。」
そんな僕を見て奈津は話を終わらした。
奈津は僕のことを少なからずわかろうとしているのだろう。
仮面をはがしてみようと。
でも、僕は仮面をはがしたくない。
偽の感情という仮面を。
そう考えているうちに奈津は下に降りたようだ。
僕もさっさと降りていく。
「ん〜♪今日もおいしい。」
下に降りてみたのはいつもどおりの奈津だった。
今日の朝食は和風で味噌汁やご飯が並んでいた。
僕も朝食をとるために食卓に並ぶ。
「あら、義樹さん。おはようございます。」
奥のキッチンから秋さんが出てきた。
秋さんはいつもどおりのエプロン姿で僕を迎える。
僕は「・・・おはよう。」と言いつつ気持ちは食卓に向かっている。
どんな人間でも食事は楽しみなものだ。
「?」
気づいた。
なにに気づいたかと言うと巨漢にだ。
僕の目の前にずんぐりとした巨漢が朝食を頬張ってる。
いかにも漁師って感じのその頭にはねじり鉢巻が巻かれていた。
上半身はシャツ一枚で鍛えられた体が今にでも破裂しそうな勢いだ。
「・・・・・・為蔵さんおはよう。」
珍しく僕から声を掛ける。
この家で最も信頼できるであろう人、庭師の”為蔵”である。
昨日は朝から盆栽をやっていたらしく顔を見なかったが今日は朝食を文字通り頬張っている。
「ああ、義樹おはよう。」
口をもごもごと動かしながらさわやかな挨拶を出す為蔵さんは34とは思えなかった。
「どうですか?義樹さん。」
秋さんは朝食が口に合うか聞いてくる。
「・・・・・うまい。」
と答えると満足そうに秋さんはキッチンの奥へ向かった。
今日は昨日より時間に余裕があるみたいなのでゆっくりと食う。
「そういえば義樹、昨日の朝何やってたの?」
「・・・・?」
昨日の朝とはいつのことだろう。
「義樹ったら、私が伝えたあと非常にゆっくりなスピードで階段を下りてるんだもん。」
「・・・・は?」
見覚えが無かった。
確かにゆっくり降りたけど奈津が降りていたなんて気が付かなかった。
「ふう、義樹は時々変だからなぁ」
為蔵さんが口を挟む。いつの間にか朝食はなくなってる。
「為蔵さん、口に米粒が・・・・」
「おっと、すまねぇ奈津嬢。よっと」
男前の為蔵が席を立つ。
「あら、為蔵さん。もういいの?」
キッチンから秋さんが覗く。
「ごちそうさま。」
と為蔵はどこかに行ってしまった。
僕はご飯にほとんど口をつけていなかったので昨日と同じように一気に食べる。
「・・・・行ってきます。」
と呟くと食堂を後にした。
タッタッと秋さんが僕を追いかけてきた。
「義樹さん。もう少し、居ても大丈夫ですよ。」
「・・・?今、出ないと遅れます。」
秋さんは一瞬困った顔をしたがすぐに笑顔になって。
「いってらっしゃい。」
と言った。
通学路にはまだ桜が咲いていた。
僕は昨日見た景色を思い出しながら歩く。
途中、小学生の一団とすれ違った。
無邪気な表情に頬が緩む。
壊れかけた仮面は直すことは出来なかった。
「よぉ、何笑ってんだよ。」
いつもの啓人の冗談。
その言葉は今の僕の心を深くえぐる。
笑ってる?この僕が?何故?笑ってはいけないのに
僕は笑ったりしちゃいけないのに。
無くした時間は帰らない。
その思いの所為で僕のはらわたは煮えくり返る。
そして、彼に強く当たる。
「っ!!笑ってなんかない。」
いつもより鋭い眼光に心からはなった言葉。
「え、あ〜ごめんごめん。ってかなんか暑くねぇ?」
啓人は苦笑いを浮かべながら謝る。
僕も少し反省する。
もし、啓人が謝ることをしなかったら僕の仮面ははがれていたかもしれない。
どうも、昨日から仮面がはがれやすい。
今は心で啓人にありがとうと思い浮かべる。
この気持ちはいつか仮面なんか要らなくなったときのためにとっておく。
啓人はやはり良い親友だ。
つまらない世間話を右から左へと流す。
啓人と過ごすのは意外とつまらなくない。
話を流してはいるけど暇つぶしになる。
やっぱり一人よりも二人の方が・・・・良い。
・・・・・やっぱり僕は・・・・・・なんでもない、僕は何も必要ない。
「お〜い、よっちゃん。」
外野が騒がしい。
朝のHR前の時間の僕は睡眠で忙しいのに。
「ダメだ、親友としてその行為は禁止する。」
啓人の声が聞こえる。
「え〜と、ダメなんですか?」
「ダメ!!やったら絶対キレる。」
「ゾクゾク・・・・一度でもいいからキレたところ見てみたいかも。」
「ダメだ絶対に。」
「え〜、あのことばらしてもいいの?」
「な、なんだ?あのことって?」
「え〜と、ごにょごにょ。」
「っ!!で、でもダメだ。」
何か口論しているようだ。
五月蝿いったらありゃしない。
僕は目を覚ます。
目の前には啓人と智春がいる。
智春の手には何故かペンが握られている。
『あっ』
見事に二人の声が重なった。
「五月蝿い。」
僕は軽く怒りを混ぜた感じで言う。
場が静まる。
教室中がツンドラ地帯のように零下に襲われたみたいだ。
そんな中の救世主は担任だった。
「おお〜い、き北下の義樹の方。ちょちょっと来い。」
担任はクラスが静かなようすに頭をかしげたが僕が行くことによって切り替える。
廊下はほとんど誰もいないようすだ。
「ちょっと手伝ってくれないか?」
担任はちょっと照れくさそうに聞いてくる。
「・・・・はい。」
と僕は答える。
「そ、そうかよかった。じゃじゃあ、つ付いてきてくれ。」
若干、担任が挙動不審なのが気になったがすぐに忘れる。
そして、僕は迷わず付いていく。
なんであのとき静かになったのだろうか?
僕は何かしたのか?
手伝いとはただの資料運びだった。
10分も経たないうちに開放されて教室に向かう。
途中、見覚えのある光沢を見た気がするが気の所為だ。
教室の雰囲気はすでに元に戻っていた。
「義樹、何やったんだ?」
啓人が真顔で聞いてくるので答える。
「・・・・・・・荷物運び。」
「よっちゃんっ!!すごいよっ!!ビックニュースだよっ!!」
そこで五月蝿い飛鳥がやってきた。
「???」
「転校生だよっ!!しかもハーフっ!!さっき職員室で見てきたんだけどね・・・・・・。」
ものすごい勢いで話しかけてくる飛鳥を押さえながら啓人が言う。
「さっきからこればかりだよ。」
と状況を聞いた。
つまり、職員室に行ったら担任と転校生が話をしていたと。
僕が資料を運んでいる間そんなことしていたのか。
ん。転校生?ハーフ?先ほど見た見覚えのある光沢。
何かが繋がった。そして、嫌な予感。
「お〜い。始めるぞ〜。」
教室に担任が入ってきた。
みんなが座りだすので僕も座る。
「今日は〜いい天気ですね〜。」
能天気な担任はいきなり天気の話など初めやがった。
『先生っ!!ネタはもう上がってんですよっ!!早く話し進めてください。』
教室のどこからか野次が飛ぶ。
「そうか〜なら話は早い。入ってもいいぞ〜。」
早くも予感は確信に変わった。
教室に入ってきたのは見覚えのあるどころか昨日見た少女だった。
綺麗な金髪に青い瞳。
明らかに外人っぽい。
「須藤 理代です。ドイツから来ました。」
昨日の少女は日本語が流暢だった。
「え〜、須藤さんは〜ドイツと日本のハーフで〜ドイツでの生活が長かったらしいので仲良くしてください〜。」
担任特徴の間延びした口調は僕の心を焦らす。
一番遭いたくない部類だ。
「あ。」
・・・・目が合った。
彼女は僕と目が合うとにっこり微笑んだ。
はぁ。心の中でため息を付く。
クラス中の視線が自分に集まる。
僕はそれに気づいていないフリをして目を逸らす。
担任はそれにまったく気づかない。
そして、担任のどうでもいい話が耳に飛び込んでくる。
「須藤さんは〜本当は昨日に来るはずだったですけど〜。」
ん?昨日来るはずだった?何か嫌な予感が・・・・。
「義樹。彼女知ってるの?」
前の席に座っている奈津がめずらしくひそひそと声を掛けてくる。
「・・・いや、知らない。」
「ふ〜ん。」
知っているが知らないと答えた。
奈津は何か勘繰るような表情を見せるとすぐに前を向いた。
目を瞑ると暗い世界が飛び込んできた。
今日は全然、眠っていないのでどんどん吸い寄せられていく。
「え〜と、どうすれば・・・・・・。」
「りっちゃんふぁいと!!」
あれからいろいろな声が聞こえた。
図太い男の声から凛とした女の声まで実にさまざまだ。
「え〜と、起きてくださ〜い。」
聞き覚えのない声が耳を通過する。
が僕はまだ覚醒できない。
眠たい頭のままでは授業もまともに受けることも出来ないだろう。
「む、無理みたいです。」
「じゃあ、りっちゃん。こうこうこうすれば・・・・。」
よくわからないが奈津たちのグループだろう。
「えーっ!!それは・・・・ではいけないの?」
「無理よ。絶対に起きないもん。」
前から思ったが彼女らは何をしているのだろう。
「では、頑張ります。」
待て!!何を頑張るんだ?
僕の頭の中で小さな焦りが生まれる。
今までに奈津たちはろくなことをしたためしがない
顔に汗が浮かぶ。
これは仮面がどうとかの話じゃねぇ。
頬に何か冷たいものが当たる感覚。
さすがにヤバイと思った僕は無理やり目をこじ開けた。
最初に目に付いたのは室内でも異様な存在感を放つ金髪の少女とその後ろで不敵に笑う飛鳥と智春。
「本当に起きました。」
金髪の少女、確か名前は須藤理代だったかな。
「なんだ?」
僕は土佐犬よろしく鋭くにらみつける。
しかし、須藤理代はおっとりとした様子で僕に話しかける。
「いえ、ただ隣の席なので挨拶をしようと・・・・」
「あ、そう。」
あくまで冷たく言い放つ。
「はい、よろしくお願いします。」
と須藤理代はいそいそとどこかの輪へ向かった。
別に逃げたわけでもなく本当にただ挨拶をしただけ。
「ふ〜ん、あのよっちゃんを一発で攻略するとは。」
いつの間にか飛鳥が隣に立っていた。
「攻略って・・・・・」
と言いかけたところ飛鳥の目がきらんと光る。
なにか良からぬことを考えていそうで背筋に嫌気がさす。
本日も何事もなく学校が終わろうとしている。
朝のHRから寝ていたので授業もすっきり受けられたがときどき後ろを振り向く飛鳥の目にはやはり嫌気がさす。
「そういえばさ・・・義樹」
HRが終わりいざ帰ろうと思ったとき奈津が僕を呼び止めた。
「・・・何だ?」
奈津はいつもよりテンションが低い。
「朝のHR寝てたよね。」
「・・・・・・・・ああ。」
少し考え答える。
「じゃあ、先生の話とか覚えてないの?」
「ああ。」
「ホ・・・じゃあね。」
奈津は一瞬ホッとするとどこかに言ってしまった。
「よぉ、色男。」
突然視界が真っ暗になる。
犯人は声でわかるのであえて抵抗しない。
「何が・・・色男だ。」
僕は軽く言い放つ。サッと視界が回復する。
「ああ、そういえば。お前は知らなかったな。」
啓人は僕の前に立ち言った。
「何が?」
奈津もそのようなことを言ってたので気になる。
「んや、そんなたいしたことじゃない。特にお前にとってはな。」
僕の知らないところで仮面に見えない皹が入る。
「そうなのか?」
「そうだよ、それよりか今から商店街いかねぇ?うまい店があるぜ。」
「ああ。」
いつもどおりの会話が続く。
そう、いつもどおりはまだ壊れない。
壊れてはいけない。
僕は仮面に目に見えない皹が入ってることに気が付かなかった。
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