真・恋姫†無双 例えばこんな外史 〜オリキャラ†無双〜
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星が流れた。

一瞬の軌跡を、紀霊は見逃さなかった。

噂で聞いた事がある。

流星と共に、天下を静める人物が現れると。

思い出すだけでも馬鹿馬鹿しい。

ぽっと出の人物にそんな簡単に天下を治められてたまるかという思いがある。

 

「殺す気で来い。儂を殺せたら、将軍の座は好きにせよ」

 

三尖刀と名付けた武器を振るう。

自分の得物にしてから、数々の戦場を共にしてきた武器である。

二郎刀とも呼ばれているが、紀霊が使うのは外側二つが外に向かって湾曲し、真中の突起を太く大きくしている。

これで敵を鎌のように引っ掛ける事も出来るし、槍の様に突くことが出来る。

 

突き、薙ぎ払い、引っ掛け、振り上げ、振り下ろし。

一連の動作を休むことなく続ける。

重さは五十斤(約11キロ)ほどで、慣れ親しんだ重さである。

 

「紀霊将軍」

 

副官の女が立ち向かっている。

たしか、荀正という名前だったはずだ。

最近自分の下に付いたばかりなので、名前と顔がまだ一致していない。

 

「よろしくお願いします」

 

荀正は、律儀に頭を下げた。

その隙に、石突きで腹を打った。

 

「次」

 

眼もくれずに、次の相手に移る。

後ろ。

振り向く動作で、相手の槍を弾き飛ばす。

振り下ろす。

相手の眼前を叩き斬った。

しばらく硬直してから、相手は倒れた。

 

「次」

 

払い倒す。

武器ごと薙ぎ払う。

拳。

 

「次」

 

「今ので終わりです」

 

仲介の武官が声をあげた。

立ち会った相手達は、皆地に伏せている。

拍手が鳴った。

周囲の見守っていた者達も歓声をあげ、すぐに熱気に包まれた。

紀霊は最初に鳴らした相手に礼を取った。

 

「流石じゃ、紀霊。みぃんな一人残らず倒しおった」

 

「感謝の極みです、お嬢様」

 

高台から身を乗り出して袁術が笑った。

傍にいる張勲が慌ててその身を抱きとめた。

張勲の事を、紀霊は好きになれないでいた。

張勲は袁術親衛隊隊長という肩書があるが、武官というより文官として有能だった。

常に袁術の傍に侍り、おべっかを使い蜜を与え、袁術のほとんどの世話を焼いている。

それがまるで洛陽で腐っている十常時を始めとした宦官連中のようで、紀霊は好きになれないのだ。

 

「さあ袁術様、前座は終わりました。将軍候補はどこです?」

 

「何を言っておる。今、お主が倒したではないか」

 

「ご冗談を。これだけの者が、候補になりうるとは到底思えません」

 

「候補にさえか」

 

袁術が大いに笑い始めた。

本当だという事に、紀霊はようやく気付いた。

 

「あんまりではありませんか」

 

一人、立ち上がった。

荀正という名前を紀霊は思い出した。

 

「礼を取っている相手に不意打ち。公衆の場での罵倒。将軍の名が、聞いて呆れます。武人の恥を、あなたは知らないと見える」

 

荀正は顔を赤くして目が潤んでいる。

若いというより、あどけないとさえ思ってしまう。

紀霊は袁術を見上げた。

気を悪くした顔をしている。

 

「お嬢様、遊戯は終わりました。城へ戻られるのがよろしいかと。献上品に、特上の蜜が届きましてね。今年のは良い出来だそうです」

 

「うむ、そうしよう。その者は」

 

「私が始末をつけておきます」

 

後で、と袁術は手を振って城へ戻って行った。

振り返る。

荀正は得物を持ってこちらを睨みつけているだけだ。

 

「さあ、見世物は終わりだ。各々、撤収作業に移れ」

 

「紀霊、将軍」

 

荀正の槍を握る手が震えている。

 

「貴様が候補だと? 笑わせるな、その程度の腕で」

 

「不意打ちだった。卑怯だ」

 

「最初に言ったはずだ、殺す気で来いと。お前は、これを調練か何かと思い違えてないか? 何のために、真剣でやったと思っている」

 

荀正が槍を構えた。

残念な気持ちに、紀霊はなった。

 

「覚悟を決めるのが遅い。お前は、戦が終わってから戦場に向かう気か」

 

突き出された槍を、紀霊は佩いた剣で斬り飛ばした。

唖然とした顔を、荀正はしていた。

 

「軍を出ていけ。お前のためだ。私の下では、お前の虚栄心は満たされぬ」

 

撤収作業を開始させた。

倒れていた将軍候補だった者たちが運ばれていく。

撤収作業が終了する頃には、荀正の姿はなくなっていた。

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痛みは感じなくなった。

かわりに、耐え難い熱が躰(からだ)に残っている。

 

「起きてるかい?」

 

唾が顔に飛んだ。

頬が異様にたるんだ男。

そのくせ、身体はひょろっこい。

木の棒で躰を打たれる。

躰は揺れるが、痛みは無い。

熱が、いつまでも残り続ける。

男が、服を脱ぎだした。

 

「俺は優しいんだ。他の奴らは泣き叫ぶのが良いって言ってんだが、俺はああいうのは駄目だ。静かな方が良くって、こういう事はちゃんと気を失わせてからやるんだよ。声が、漏れ出る所が、たまらねえんだ」

 

自分の躰は吊り下げられていて、裂けた肌から血が滴り続けていく。

躰が何度も揺れた。

痛みは感じず、ただ身体に残る熱だけが鬱陶しい。

 

気が付くと、石畳の上だった。

躰が動かない。

眼だけを動かして、いつもの部屋だと安心する。

薄暗い場所だった。

壁と天井は岩だが、床だけは土があった。

隅には僅かだが草が生えていて、そこにうずくまって眠るのだ。

それだけが唯一の安息だった。

草の場所まで這っていく。

辿り着くまでに何回か気を失った様な気がした。

熱はまだ躰に残っている。

草は柔らかい。

眠れる、と思った。

暗いと落ち着く。

日の光は長年見ていない。

蝋の火でさえ、長く見続けることは出来ない。

光は、自分にとって恐怖と言ってもいい。

音が鳴った。

随分遠くの方でだ。

今までに起きたことが無い異変だった。

 

足音。

知らない歩幅。

声。

やや高い。

女の声か。

近づいて来る。

どうでもいい事だ。

火。

蝋の火。

近づいて来る。

目を瞑る。

足音。

すぐ傍。

何かを言っている。

煩すぎて何を言っているのかはわからない。

 

「おい、生きてるか」

 

煩い声。

耳鳴りがした。

 

「おい」

 

もう一度、声をかけられる。

やはり、煩い。

揺さぶられる。

 

「待て、姉者。声が大きすぎる」

 

「それの何が悪い」

 

「静かに、と言っているのだ」

 

胸に手を置かれる。

肩を掴んでいる手とは別の人のだ。

 

「生きている」

 

「よし、ならば連れ出そう」

 

宙に浮いた気がした。

それから、躰が揺れている。

 

「出来る限り、揺らさないように運ぶのだ、姉者。あまり揺らすと、傷が開いて死ぬぞ」

 

「わかっているとも」

 

揺れる。

目は瞑ったままだった。

傍に火の灯りがある。

それを見るのが、怖い。

だから目は瞑ったままだ。

息遣いが聞こえる。

一人ではなく、何十人もだ。

異常に煩い。

耳を塞いでしまいたかった。

光が見える。

目を瞑っていてもそれはわかった。

 

嫌だ。

そっちに行かないでくれ。

逃げようとした。

躰が動かない。

光が近づいて来る。

迫ってくる。

光が、強くなった。

一面が光になった。

眩しい。

その眩しさで、何かが突き放された気がした。

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「あの少年は?」

 

「寝かせてあるわ。今は、落ち着いているみたい」

 

大規模な山賊討伐のから帰還した時に、曹操が子供たちを連れ帰ってきた。

討伐された賊は、子供を連れ去るなどの悪評をよく聞いていて、曹洪は留守を預かっていたが、その時の惨状は聞いた。

返ってきた皆の表情をみてもわかる。

連れ去られた子供たち。

奴隷や家畜の扱いをされていたのだろう。

生き残っていた人数は、連れ去られた人数に比べて驚くほど僅かだった。

そこから連れて帰れた人数はもっと少ない。

 

「賊共め。あの、愚物共が」

 

夏候惇が唸るように呟いた。

この台詞も、もう何度も聞いている。

 

「またそれ?」

 

「何度でも言ってやる。この怒りを、私は忘れることが出来ぬのだろうな」

 

「そう。終わった事なんだから、あまり思いつめても仕方ないよ?」

 

「私は、すぐに割り切れん。気の済むようにさせてくれ」

 

溜息を呑み込んだ。

夏候惇の一途とも言っていい所は、美徳でもあるが、危うい所でもある。

 

「気が晴れなかったら、お姉さんに言いなさい」

 

「同い年だろう」

 

まだ、少しは余裕があるようだ。

思い詰め過ぎないようにするのは、自分の役目の一つだろう。

夏候惇はそういう事をさせられる人間ではない、と曹洪は思った。

その夏候惇がここまで思い詰めているのも、今回の事件の惨状はよっぽどだったのだろう。

侍女からの報告が来た。

あの少年が目覚めたと言う。

 

「春蘭」

 

「うん、会おう。華琳様も、部屋に向かっておられるだろう」

 

夏候惇が特に気をかけている少年は、扱いがより酷かったようだ。

部屋の前に曹操と夏侯淵がいた。

部屋に入っていく。

少年の部屋は、窓を幕で塞いで光を和らげるようにしてある。

聞いた洞窟で暮らしていたのなら、光に目が慣れていないはずだ。

 

「起きてる?」

 

曹操が口を開いた。

少年は起き上がらない。

それでも、確かに反応は見えた。

 

「体を動かすのは辛いでしょうから、そのままでいいわ」

 

少年は、目を瞑ったままで顔だけこちらを向いた。

洞窟で暮らしていたからか、肌が不気味なほど白い。

 

「気分は?」

 

「ここは、何処でしょうか」

 

「陳留という街よ。私は刺史の曹操」

 

「街、ですか。人がいっぱいいると聞いた事があります」

 

「街に来たことはない?」

 

「はい」

 

「名前を教えてくれないかしら」

 

「名前、ですか。お前と呼ばれます」

 

「それは」

 

夏侯淵が呟いた。

曹操は僅かに顔を伏せた。

 

「目は見えないのかしら? それとも、瞑っているだけ?」

 

「目は、見えます。ですが、眩しすぎるのです」

 

「眩しいか。なら、窓に板でもはめた方が良いかもね。琳護(りんご)、どう思う?」

 

真名を呼ばれた。

聞いた事がいい事は、他に多くあるはずだった。

しかし、焦らないようにしている。

少年も、心の準備が出来ているとは思えない。

 

「その方がよいと思います。それから徐々に光に慣れさせていけば、目も治るでしょう」

 

「よかったな、少年。もう大丈夫だ。お前は、助けられたんだ。もうあのような扱いをされる事はない。そうだ、何かやりたい事とか、欲しい物はないか。この陳留の街は、大抵の物を揃えられる」

 

「姉者、あまり一気に言っても戸惑うだけだぞ」

 

夏候惇がもどかしそうに言い、それを夏侯淵が諌めた。

言いたいことを堪えきれなかったようだ。

それも夏候惇の好ましい所だ。

しかし、言われた少年の反応は薄い。

 

「あの、助けられたとは?」

 

「あの場所に、戻らなくていいという事だ。もう、あんな連中に会わなくていいという事だ」

 

「戻らなくていい?」

 

少年が俯いた。

それから、小さく呟いた。

 

「帰ります」

 

「自分のいた場所がわかるの?」

 

曹操が、顔を綻ばせた。

帰れる場所があるなら、帰してやりたい。

しかしそれは、傷が治ってからだ。

 

「洞窟。岩の天井に壁、床は土。隅だけに草が生えています。そこが部屋です」

 

「待て、そこは」

 

少年が発見された場所だった。

そこに、戻ると言うのか。

それが、少年にとって帰るなのか。

夏候惇が叫んだ。

 

「帰るだと、あそこに? あれが、部屋だと? あそこがどういう場所だったか、わかって言っているのか。暗い場所だ。光は少しも届かない。しかも、仕切られていたのは柵だ。あれを部屋と言うなら、まるで家畜じゃないか。それに、お前が寝ていたあの場所は、あの草はな」

 

「もう、いい」

 

夏侯淵が夏候惇を抱きしめた。

夏候惇は嗚咽を堪えている。

曹操は拳を握りしめていた。

 

「遅すぎた」

 

握った拳を、曹洪はゆっくりとほどかせた。

 

「大丈夫。ゆっくりと、時間をかけていきましょう?」

 

曹操が目を見つめている。

曹洪は確かめる様に見つめ返した。

 

「世話をかけるわ、琳護」

 

「いいえ、華琳」

 

少年は草の上で寝ていたが、その草の下には死体が埋まっていた。

それも小さいもので、おそらく子供のものだったのだろう。

だから、運び込んだ時には屍臭が酷かったらしい。

少年が気を失っている時に躰を拭いたが、それでも完全に消えたわけではなかった。

惨烈な状態だったのだ。

しかし、その草のおかげで少年は生き延びていたと言ってもいい。

 

傷は十分に消毒したし、腕の良い医師にも見てもらった。

躰だけなら、もう大丈夫だ。

しかし、心に負った傷はどうしようもない。

それは本人がどうにかするしかないのだ。

そのための時間なら、用意できる。

 

「まずは、彼を人間に戻そうと思うの」

 

「この子は人間だ」

 

「そう。それを、この子に認識させる。自分と言うものを、わからせなくちゃ」

 

「出来る?」

 

「時間がかかると思うわ。でも、ゆっくりやりましょう」

 

皆が頷いた。

少年は顔だけをこちらに向けている。

目が僅かに開かれ、すぐに閉じた。

 

「まずは、名前を教えなくちゃ。私は曹洪。字は子兼。真名は琳護」

 

真名を教えたのは、人というものを教えるためだ。

それを曹操たちはわかってくれるだろう。

 

「僕は」

 

「今はおやすみなさい。時間はたっぷりあるんだし、ゆっくりしましょう」

 

曹操たちと部屋から出て、窓を塞ぐ板を手配した。

曹操たちは他にも保護した子供たちを回るようだ。

少年の部屋に戻ると、微かに寝息が聞こえていた。

少年の白い肌を、曹洪はしばらく眺めていた。

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あとがきなるもの

 

こんな話は大丈夫だろうか。二郎刀です。タイトルをオリ主†無双にするか迷いました。

 

なんかもう一度謝っておきます。すまぬ。和気藹々とした恋姫の話が書けなかったのです。なんか原作ブレイクすぎた。あれー?

 

今回登場したオリキャラ達ですが、袁術軍の紀霊、洞窟の少年、魏の曹洪の三人となっています。

紀霊は字が不明なんで勝手に決めちゃおうかなーとか思いましたが今回は止めておきました。でもちゃんと真名は考えてあります。出さなかったけど。真名と言えば曹洪は出せましたね。琳護(りんご)と言います。一護ではありません。LIMBOでもありません。・・・うん、真名がネタバレなんだ。わかりやすいね。まあ洞窟の少年なんか名前出せなかったけど。だけどこの少年は名前は考えてあるんですが真名がまだ思いついてないのです。アイデア募集!

 

ちなみに紀霊は男で曹洪は女です。今書いてて気づきましたが紀霊と曹洪ってマイナーやね。

 

他にもオリキャラ達の登場予定はあったのですがとりあえず創作衝動は収まったのでここまでにしとこうと思います。続きは気が向いたら書く(終了フラグ)。驚いてくれるかなーわくわくっていう話とか思いついてるんですけどねー。

 

では今回はここまで。

 

今回の話はどうでしたでしょうか? 少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

説明
まず謝っておきます。すまぬ。
突発的な創作意欲が湧いてしまったのです。
それとそろそろ投稿したくなったので書きました。
突発的って怖いですね。
これシリーズいけるんじゃね?って思っちゃいますもん。
こういうのに限って面白そうなシーンが思いつくんですよねー。
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コメント
Tomycustomさん コメントありがとうございます。演技では三十合ほど打ち合っていましたね。その後張飛に十合足らずで討ち取られますがw(二郎刀)
紀霊は、マイナーかもしれませんが、正史では、関羽と一騎討ちをして、数十合の打ち合いをしたとの記述があります。(Tomycustom)
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