私たちはそれぞれ場所を移動し、好きなように釣りを始めた。

みんな割と距離は離れていないが、唯一恋の姿だけは見当たらなかった

月「釣れましたー！」

開始早々、意外にも最初の当たりは月だった

悠里「なに！月ちゃんやるなぁ！っと！私もきたー！」

月に続くように、今度は悠里が引き当てた。流石に速いな

咲夜「詠、月って本当に釣り得意なんだな」

詠「そうねー。実は月って意外と万能なのよ。

何やらしても、呑み込みが早くて何でも出来ちゃうのよね」

華雄「唯一武芸だけは、体が付いて来れず苦手としていたがな」

咲夜「へぇ」

確かに、『晋』の仕事も、あっという間に吸収して、今では厨房に立つこともある。

さらに言えば、今じゃ月は銃の扱いは一流で見習い魔術師でもある。

そう考えると、月って実はかなり凄いやつなんじゃないか？

月「えぇーい！！」シュパパパァン

悠里「とぉーう！！」シュパパパァン

咲夜「て言うかお前ら釣り過ぎだろ！こっちに魚来ねぇじゃねぇか！」

悠里「姉さんの腕の問題なんじゃないですかぁ？」

月「これでもまだ本気じゃありませんよ？」

咲夜「な、なんだと？」

悠里・月「あははは！」シュパパパァン

二人は笑いながらも、容赦無く釣り続けた。こりゃ、負けるな

詠「クスッ。月、本当に楽しそうだなぁ」

華雄「まったくだ」

咲夜「ん？どうしたんだ詠」

詠と華雄は慈愛の目で月を見つめ、ボソッと呟いていた

詠「月が天水に居た頃はさ、微笑むことはあっても、

ああやって心の底から笑うような事は少なかったわ。

先代の董君雅様が亡くなって、幼くして天水という責任を背負う事になったんだもの。

きっと凄い重圧を感じていたわ」

華雄「我らもそれについては気にかけていたんだが、月様はいささか、

一人で抱え込んでしまうところがあってな。我らの前では気丈に振るっていたよ。

月様が我らの為に涙を流す事はあっても、月様自身の事で涙を流したところは見たことがない。

そんな月様だからこそ、我らは彼女に仕え、彼女を守りたかった」

咲夜「そっか」

それはきっと、劉協こと桜もそうなのだろう。

幼い身でありながら、民の生活を、命を預かるような仕事。

私にはその重圧はわからないが、きっととても重く、とても辛い事なのだろう。

私が彼女らと同じ年の頃、こんなにもしっかりしていただろうか

詠「だから、今の生活は月にとって本当に良いものだと思う。

責任から解放されて、毎日を楽しく過ごせるようになった。笑ってくれるようになった。

僕や華雄だけじゃない、月に付いて行った皆が目指した理想の生活を送ることができた。

改めて、礼を言わせてもらうわ。

月を助けてくれて、一緒に住まわせてもらって、本当にありがとう。

咲夜達に会えてよかったわ」

華雄「我らが主、月様を救っていただき、本当に感謝する！」

咲夜「あぁ…」

時々、思うことがあった。

本当は、月と詠と恋は、天水に帰りたいと思っていないだろうかと。

助けた事に対して恩を感じ、縛っているんじゃないかと。

もしそうだとしたら、私達は悪いことしているんじゃないかと思っていた。

だがそれも、詠と華雄の話を聞き、それが私の勝手な妄想だとわかった。

私は今後も、月達の面倒を見ることが出来る。

そう思うと、私の中で暖かな何かを感じた

月「詠ちゃーん！咲夜さーん！見てください！こんなにも釣れましたよー！」

この子の笑顔は私が守り続ける。私はそう強く思った

零士「皆いっぱい釣ってきたね。お昼には十分な量だ」

私達はそれぞれ釣ってきた魚を並べていく。

結局釣り対決には負けた。と言うか、

悠里と月が川の魚を釣り切ってしまうんじゃないかという程釣ってきた。

勝てるわけがない

咲夜「ん？恋はどこだ？」

いつも飯の時間には律儀な恋の姿がなかった。

そう言えば、釣りを始める頃に既に姿を消していたな

恋「…お待たせ」

どしーん　どしーん

咲夜「…」

振り向くと、恋は巨大なクマに乗って帰ってきた。両手には大きな魚が握られている

悠里「恋ちゃんすげぇ…」

詠「あわわわ…」

月「はわわわ…」

恋「ん、ありがと。帰っていいよ」

クマ「がぅ」

どしーん　どしーん

零士「ははは、凄いね恋ちゃん。クマさんとお友達になったんだね」

恋「…ん」

少し前

恋「……大きいお魚、どこかな」

クマ「(・ω・＾)がぅ」

シュパーン！

クマ「(｀・ω・´)がぅっ！」←鮭ゲット

恋「！！……恋も」

シュパーン！

恋「♪」←鮭ゲット

クマ「がぅがぅ！」

恋「…がぅ？」

クマ「がぅ♪」

現在

咲夜「ごめん恋。よくわかんない」

恐らくはクマと意思疎通に成功したんだろうが。流石は飛将軍というところなのか

零士「おぉ！ずいぶん脂の乗った鮭だ。これは美味いぞ」

恋「楽しみ」

悠里「恋ちゃーん！こっちもいっぱい魚あるからねー！」

月「あ、東さん、私も手伝います！」

詠「僕も手伝うわ。皆でやった方が早いでしょ」

咲夜「それもそうだな」

お食事処『晋』、出張青空食堂だな

悠里「おぉー！美味しそー！」

華雄「ふむ、良い香りだ」

卑弥呼「貂蝉！これを食ったら勝負の続きじゃ！必ず大物を釣ってくれる！！」

貂蝉「あらぁ望むとこよ卑弥呼ぉ！！私が勝っちゃうんだから！！」

華佗「すまんな。招待したのは俺だったのに」

零士「はは、いいっていいって。さぁ、みんな揃ったね。じゃあ、頂きます」

「いただきまーす！！」

その後、私たちは思う存分魚料理を楽しんだ

食後も、皆が好きなように川で遊び始めた。

悠里は「今日こそイケるかも！」なんて言って水上を沈まずに走ろうとしていたり、

月と詠と恋は疲れたのか昼寝を始め、

零士は何やら思い出したかのように魔術で何かを作り始めた。

私はやる事もなく、ただぼんやりと空を見上げていた

咲夜「こんなにも穏やかな時間が流れるのも、久しぶりだな」

休みがないわけじゃない。

ただ、街にいると遊びに出ることが多いため、

このように何もせず、ダラダラと過ごすことはなかった

咲夜「私も、少し寝るかな…」

そう思うや否や、直後に強烈な睡魔が襲ってきた。

ポカポカの陽気に気持ちいい風が吹いているなぁ

零士「おや、寝るのかい？」

零士が私を見て問いかける。だが私は、もうほとんど意識を手放そうとしていた

咲夜「あぁ…おやすみ…零士…」

零士「ふふ、おやすみ」

零士が頭を撫でた気がしたが、私はそれを確認することもなく、意識を手放した

目が覚めると、辺りは暗くなろうとしていた。

ずいぶん寝てしまったようだな。そろそろ起きなきゃまずいか

咲夜「く、ふぁ〜…」

零士「大きなあくびだね。おはよう咲ちゃん。よく寝ていたね」

咲夜「…あぁ、零士、おはよう。お前、ずっと待っていたのか？」

零士「まぁ、君だけじゃないけどね」

そう言って零士は私の後ろに視線を向ける。そこには悠里、月、詠、恋が寝ていた

咲夜「なんだ、みんな寝たのか」

零士「気持ちいい気候だったからね」

咲夜「そうだな。だがまぁ、そろそろ起こさないと、冷えてきたな」

零士「そうだね。さっき華佗も、夕食の用意が出来たからいつでも来いって言っていたしね」

遊んで、食って、寝て、また食って、なかなか贅沢な過ごし方だな

咲夜「おい。悠里、月、詠、恋。そろそろ起きろ。風邪ひくぞ」

悠里「うへへー…姉さんのおっぱい…凄くやわら…」

パシーン！

悠里「痛ぁ！な、なんですか！？」

月「うみゅ〜、どうかしましたかぁ…？」

詠「んー！なんかよく寝たわ」

悠里をはたき起こすと、月と詠がその音で目を覚ました。恋だけは今だ寝ていた

零士「恋ちゃーん、もうすぐご飯だよー」

恋「…お腹、減った」

食欲に忠実な恋らしい、素敵な理由で目を覚ました

悠里「あれ、もう陽が沈みかかってる。あちゃー、寝過ぎちゃいましたね」

詠「本当ね。まぁ、たまにはいいんじゃないかしら」

月「そうですね。素敵な時間だったと思います」

零士「ふふ、なら夕食後にもっと素敵な物を見せてあげるよ」

咲夜「あぁ？」

素敵な物？一体なんだろう

夕食後、私たちは再び外に出ていた。

なんでも、零士が見せたいものがあるとの事だ

悠里「なんですかねー見せたいものって」

咲夜「さぁな。私も知らされていない」

詠「あれ？咲夜は知ってると思ったのに」

月「ふふ、なんだか楽しみですね」

それにしても、ここは星空が綺麗に見えるな。なんというか、凄く近く感じる

ドンッ ひゅーーー ドーンッ！

咲夜「！！」

私がぼんやり空を眺めていると、直後に凄い音が響き、空に色鮮やかな光を灯した

悠里「おぉー！きれーい！！」

月「凄いです！」

詠「まさか、これ零士が？」

零士「その通りです！」

すると、森の茂みから零士が現れた。一体どこに居たんだこいつ

零士「あれは花火っていってね。皆が寝ている間に川辺に仕込んでおいたんだ」

そう言えば、魔術で何かを作っていたな。あいつ、最初からこのつもりだったのか

悠里「花火！凄いですよ東おじさん！」

月「はい！とても綺麗です！」

詠「まぁ、なかなかいいんじゃないかしら」

恋「…きれい」

零士「ふふ、まだまだいくから、最後まで楽しんでね」

ドーンッ！ ドーンッ！ ドーンッ！

悠里「すげー！！」

月「わぁぁ！！」

詠「言葉が出ないって、まさにこの事ね」

色鮮やか火の花が夜空に咲いていく。

この世のものとは思えない幻想的な風景に、皆が目を奪われていた

零士「どうだい咲ちゃん。気に入ったかい？」

咲夜「あぁ、悪くないな」

その景色は、忘れる事が不可能なほど、とてもとても、綺麗だった

とある陣営

「おぉー！見よ紫苑よ！なんと鮮やかな火の光だ！」

「えぇ、とっても綺麗ね。でも、一体誰の仕業なのかしら？朱里ちゃんわかる？」

「はわわー…あ、はい！あの、私もあの光は流石に…

ご主人様ならわかるかもしれませんが…」

「わぁ！凄い凄い！！見て見て猪々子ちゃん！」

猪々子「見てるって！落ち着け桃香！

……朱里、あの光に心当たりがあるんだが、ちょっと偵察に行ってきていいか？」

「猪々子さんがですか？」

猪々子「あぁ、もしかしたら、あたいの家族が来てんのかもしんねぇんだ」

もう一方の陣営

流琉「わぁ、綺麗です！なんでしょうあの光？」

秋蘭「わからんな。だが、心当たりが無い事もない。

あいつらが来ているのなら、恐らくはあいつらの仕業なのだろう」

流琉「『晋』の皆さんですね。でも、なんでこんな山奥にいるんでしょう？」

秋蘭「それがわからん。流琉、共に来い。確認しに行くぞ。

張済はここで部隊を休ませておいてくれ。だが念の為、いつでも動けるようにしておけよ」

流琉・張済「御意！」

秋蘭「さて、何がでるか…」