鏡の中の11番 一球目「ときめき青春高校野球部、発足!?」
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 一球目「ときめき青春高校野球部、発足!?」

 

 

 

 パワプロと矢部が出会った次の日の放課後、二人は土手の寂れた野球場でキャッチボールをしていた。パワプロはマネージャーなのだが二人しかいない為、矢部の練習に付き合っているのである。

 

「へえ、じゃあパワプロ君って一年間ずっとひきこもりだったでやんすか」

 

 矢部が投げた送球は、約20m先にいるパワプロの左の外野用グローブ(矢部の予備)にぱすっと収まる。

 

「うん、色々あってね……人前に出られるようになったのもつい最近なんだ」

 

 そう言ってパワプロは矢部にボールを投げ返す。ボールはへにゃ〜んと右に大きく逸れ、矢部はそれを拾いに行く。

 

「ふーん、まあ深く追求するのはやめとくでやんす。野球経験はどれぐらいあるでやんす?」

 

 そのまま矢部はボールを投げ返し、ボールはパワプロのグローブに収まる。

 

「……経験は無いかな、でも見るのは好きだよ」

 

 パワプロは、嘘を付きつつそのままボールを矢部に投げ返す。ボールはへりょ〜んと矢部の遥か頭上を通り過ぎる。

 

「す、好きな球団とかあるでやんすか? 因みにオイラソルジャーズファンでやんす」

 

 矢部は少し息切れしながらボールを拾いに行き、定位置に戻ってパワプロにボールを投げ返す。

 

「うーん、小さい頃好きな球団があったんだけど合併で無くなっちゃって……今はシーサイズかなあ」

 

 パワプロが投げ返したボールは、ふにゃ〜んと矢部の右斜め横をゴロで通過していく。矢部はそれを必死に走って拾いに行った。

 

「はぁ! はぁ! ポジションはどこがいいでやんすか!? 因みにオイラはセンターでやんす!」

 

 矢部が息を切らして投げたボールは、パワプロのグローブの中に納まる。

 

「うーん……できる事ならレフト希望」

 

 パワプロが投げ返したボールは、再び矢部の遥か頭上をふわふわ〜んと通過して行った。

 

「いいかげんにしろおおおおおおおおおお!!! でやんす!!」

「ひい!? すいません!!」

 

 パワプロの度重なる暴投に、矢部はついにキャラを忘れかけるぐらいブチ切れた。

 

「ヘッタクソにも程があるでやんす! ちゃんとこっちに投げてほしいでやんす!」

「ごごごごめん! まだ慣れてなくて!」

 

 必死に頭を何度も下げて謝るパワプロに、矢部は取り敢えず怒りを納めてはあ〜っと溜息をつく。

 

(はあ〜、新入部員一人目がこれじゃ、甲子園への道も遠のくでやんす……まあ贅沢は言えないでやんすが……)

 

 そしてパワプロは自分の投げたボールを拾いに行く。その時……土手の方にこちらをじーっと見ている人影に気付いた。

 

「矢部君、あそこに僕達を見ている人がいるよ」

「ホントでやんす。うちの学校の制服着ているでやんす」

 

 土手の上には、ときめき青春高校の男子の制服を着た、金髪ポニーテールの可愛らしい顔をした少年(?)がパワプロたちを見ていた。

 

「わー、随分と可愛らしい子だね。女の子かな?」

「パワプロ君は馬鹿でやんすか? 女子が男子の制服着ている訳ないでやんす。あれは女の子っぽく見える男でやんす」

「それもそうだよねえ、女子が男子の制服着ている訳ないもんねえ」

 

 ツッコミ不在のボケボケな会話が交わされる中、パワプロはある事を閃いた。

 

「あ! もしかしてあの人野球部に入りたいのかも!」

「なるほど! なら早速勧誘でやんす! そこの人―!」

 

 そう言って矢部は土手の上の金髪の生徒に全力疾走で向かっていった。

 

「……!!」

 

 すると金髪の生徒は逃げ出す様にその場から去って行ってしまった。

 

「くう! 逃げられてしまったでやんす! 坂道に足を取られて追いつけなかったでやんす!」

「駄目だったかー、まあいっか、練習を続けよう」

 

 その後、パワプロと矢部は日が暮れるまで二人で練習した。

 

 

 

・技術ポイントがちょっぴりあがった

・疲れがたまった

・やる気があがった

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 次の日の放課後、パワプロと矢部はいつものように河原の野球場で練習を始めようとしていた。

 

「そーいえば矢部君ってなんであの河原の球場で練習してたの? 学校のグラウンドは?」

「使用許可が下りなかったでやんす、人数揃えて正式な部にならないと使わせてもらえないでやんす」

「そっかー、ん?」

 

 その時、パワプロは土手の上から野球道具を持った10数人の小学生の集団がこちらに向かってきている事に気付く。

 

「何だろあの子達? 近所の子かな?」

 

 一方少年達はパワプロたちの方を見てヒソヒソと何かを話し合っていた。

 

「ねえねえ、あの人達高校生でやんすかね?」

「折角いい場所見つけたのに……」

 

 どうやら小学生達はここで野球をやるつもりだったらしい、しかしパワプロ達がいる事に気付きどうすればいいか迷っているようだ。

 

「……」

 

それに気付いたパワプロはトコトコと小学生達に近付いて行った。

 

「ねえ君達、よかったら僕等と野球やらない?」

「え?」

「ほう、ナイスアイディアでやんす。小学生とはいえ人数多い方が練習の効率いいでやんす」

 

 パワプロと矢部の誘いに戸惑う小学生達。するとパワプロは尚も推してくる。

 

「僕等二人しかいないし……野球は皆でやった方が楽しいよ」

「うーん……どうするのキャプテン?」

「いいんじゃない? 折角だしこの人達に色々教えて貰おうよ。じゃあ早速チーム分けしよ! 兄さん達別々のチームねー」

 

 そう言ってチーム分けを始める小学生達。それをにこやかな笑顔で見つめるパワプロに矢部が話し掛ける。

 

「パワプロ君、本当に引き籠りだったでやんすか? コミュ力半端じゃないでやんす」

「う、うん……年下なら平気なんだ。齢同じ人は未だに苦手なんだけど……」

「ふーんでやんす」

 

 そしてその日、パワプロたちは小学生達と共に野球で汗を流した……。

 

「お兄ちゃんどこ投げてんだよー!!」

「ひいいい! ごめん!!」

「小学生にまで怒られてるでやんす……」

 

 

・近所の少年野球チームと友達になりました

・筋力ポイントがちょっぴりあがった

・敏捷ポイントがちょっぴりあがった

・疲れがたまった

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 一週間後の放課後、パワプロと矢部はいつものように河原の野球場に向かっていた。

 

「今日もあの子達来てるかなー矢部君」

「ふっふっふ、昨日は不覚を取ったでやんすが、今日こそはオイラチームが勝つでやんすよ」

「どうでもいいけど僕がいるレフトばっかり狙うのはやめてもらいたいなー……」

 

 そして野球場に近付いた時、パワプロと矢部は球場の様子がいつもと違う事に気付いた。

 

「あれ……? なんか人が増えてる?」

「アレは極亜久高校の野球部でやんす!」

 

 

 

 グラウンドでは、黒と紫のユニホームを着た、いかにも不良といった感じの強面の極亜久高校の野球部員達が、先に来ていた小学生達のリーダー格の子を突き飛ばしていた。

 

「うわ! 何するんだよ!」

「黙れ餓鬼共、ここは今から俺達極亜久高校野球部の練習場になるんだよ。解ったらとっとと出てけ」

「なんだよソレ!? 先に僕達がここに来てたんだぞ!」

「そーだそーだ!」

 

 強面の部員達を前に一歩も引かない子供達、それを見たパワプロはすぐさま助けに行こうとする……が、矢部に腕を掴まれて止められる。

 

「危ないでやんす! 噂じゃ極亜久の奴等女子供にも容赦しない乱暴者でやんすよ! なんでも試合の前に相手航行に妨害工作を仕掛けているとか、ロクな噂を聞かないでやんす!」

「ででででもあの子達を助けないと!!」

 

 矢部の制止を振り切って勇ましく飛び出そうとするパワプロ、しかし両足がものすごい高速でガタガタ震えていて格好がついていない。その時……。

 

「ちょっと待ちなよ」

 

 突然、極亜久野球部と小学生達の間に、先日現れた金髪の生徒が割って入って来た。

 

「ああん? なんだテメエは?」

「この子達は初めからこの球場で野球をしていたんだ。それを横取りするなんて横暴すぎるよ」

 

 睨んでくるリーダー格っの、リーゼントにマスクといったいかにも不良といった風貌の極亜久の野球部員を前に、臆することなく一歩も引かない金髪の生徒、すると極亜久の部員の一人が、金髪の生徒を見てある事に気付いた。

 

「あ! よく見るとこいつトキセー(ときめき青春高校の略)の生徒じゃねえか!」

「ちょうどいい! このまえトキセーの奴にボッコボコにされたんだ! その仕返しと行こうじゃねえか!」

「……」

 

 そう言って手をパキパキ鳴らして金髪の生徒にじりじり近付く他の極亜久の野球部員達。そんな彼等を見ても金髪の生徒は怯んでいる様子は無かった。その時……。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださーい!!」

 

 そんな彼等の間にパワプロと矢部が割って入った。

 

「貴方は……」

「ああん!? なんだテメエは!?」

 

 極亜久の野球部員達の、相手を睨み殺さんが程の眼光にパワプロは恐怖しつつも、声を震わせながら彼等にある提案をする。

 

「あ、あの! 多人数で小学生を虐めたり小数をボコるのは不味いんじゃないんですか!? 不良の面子とか! すっげえ噂されると思いますよ!」

「む……確かに」

「え、納得するんだ」

 

 パワプロと極亜久の部員達のやり取りに思わず小声でツッコミを入れる小学生。そこにさらに矢部が意見を入れてくる。

 

「どうでやんすか!? ここは野球作品っぽく野球の試合でこの球場の使用権を決めるというのは!? オイラたちが勝ったら大人しく出ていくでやんす!」

「ほう……面白そうじゃねえか、じゃあ今すぐ試合を……」

「あ、ごめんなさい、うち部員二人しかいなくて……一週間で集めてくるからそれまで待っててくれません?」

「マジかよ? しゃあねえなあ、じゃあ1週間後にな」

 

 パワプロの提案をすんなり受け入れた極亜久の野球部員達は、そのまま球場を去って行った。

 

(ものすごく話がスムーズに進んだ……)

 

 心の中でそんな事を想う小学生達、一方パワプロと矢部はいまさらになってアタフタし始めた。

 

「ど、どうすんの矢部君!? 勢いであんな約束して!」

「ど、どうもこうもやるしかないでやんす! このままじゃオイラ達が練習する場所も無くなっちゃうでやんす!」

 

 ふと、パワプロはじっと立っている金髪の生徒に話し掛ける。

 

「あ、あの……すごいですねアナタ、あんなおっかない人達に正面から立ち向かうなんて……」

 

 たが次の瞬間、金髪の生徒は突然地面に膝を付いた。その表情は先程の凛々しさは微塵も残ってなかった。

 

「こ、こ、こ、怖かった〜!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「かなり無理してたでやんすね」

 

 パワプロはそのまま金髪の生徒の腕を掴んで立たせてあげる。

 

「無茶し過ぎですよ……あの人達が本気になったらどうなってたか」

「ご、ごめんなさい、でも……」

 

 金髪の生徒は小学生達の方を見る。その目はどこか悲しみと寂しさを含んでいた。

 

「野球が好きなのに、それが奪われるなんて……そんなの絶対間違っている。そう思ったら体が勝手に動いて……」

(……本当に野球が好きなんだなあこの人)

 

 そんな彼を見てパワプロは思わず笑みを零してしまう。すると矢部がパワプロに話し掛けてきた。

 

「しかしとんでもない約束をしてしまったでやんす、一週間で後8人部員を集めないといけないでやんす」

「そうだね……」

 

 そしてパワプロは再び金髪の生徒の方を向き、彼にある提案を持ちかけた。

 

「あの……もしよかったら俺達の部に入ってくれませんか?」

「え?」

 

 パワプロの提案に戸惑う金髪の生徒。

 

「い、一週間後の試合まででいいんです! 僕らのこの場所を守るにはどうしても人数を揃えなくちゃならなくて……」

「その……僕でいいの?」

 

 金髪の生徒の問いに、パワプロは長い前髪をブワンブワン揺らしながら何度も頷いた。

 

「大丈夫! 全然大丈夫です! その……野球が好きな人に悪い人はいないし!」

 

 微妙にズレているパワプロの答えに、金髪の生徒はほっと胸を撫で下ろした。

 

「よかった〜! 実はずっと君達の部に入りたかったんだ! 喜んで入らせてもらうよ!」

「本当ですか!? や、やったよ矢部君! 三人目ゲットだ!」

「おほー! 幸先がいいでやんす! ああそうそう、名前聞いてなかったでやんすね」

「僕は小山 雅(おやま みやび)、よろしくね」

 

 こうして金髪の生徒……小山雅を加えたときめき青春高校野球部は、一週間後の試合に向けて部員集めを本格的に開始した。

 

 

 

・小山雅が仲間になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……人違い、なのかなぁ」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 次の日、ときめき青春高校の教室、そこでパワプロ、矢部、雅は今後の部員集めのプランを立てる為集まっていた。

 

「さて、残り7人をどうやって集めるかな」

「できる事なら野球経験者がいいでやんすね。そう言えば小山さんは野球経験あるでやんすか?」

「うん、中学校もずっとシニアでプレイしてたよ。ポジションはショート」

 

 そんな他愛のない会話を交わす三人、そんな三人の間に一人の女子生徒が割って入って来た。

 

「ねえねえ、何の話〜? 野球がどうのこうの言っていたけど〜」

「あ、大空さん」

 

 長い栗色の髪を靡かせる。どこかぽややんとした雰囲気を持つ少女の名は大空美代子、パワプロと同じクラスの生徒である。(ちなみに矢部と雅は別のクラス)

 

「実はかくかくじかじかでやんす」

「成程〜、それで困ってたんだね。ていうかうちのおじいちゃんには話通したの?」

「「「おじいちゃん?(でやんす?)」」」

 

 美代子の言葉に首を傾げるパワプロ達。美代子は尚も話を続ける。

 

「うん、うちのおじいちゃんこの学校の野球部の顧問なんだよ〜」

「え!? そうなの!?」

「去年までいた3年生の幽霊部員が卒業しちゃって一人もいなくなって、一回廃部になったんだけどね〜。今月中に新しい部員が揃えば廃部取り消しになるんだって」

 

 パワプロと雅は一斉に矢部の方を見る、矢部は少しばつが悪そうに肩を竦める。

 

「あー……グラウンド借りれないか聞いた時にそんな話聞いたの今思い出したでやんす」

「矢部君頼むよ〜! 結構重要な事じゃん!」

 

 全身の力が抜けるのを感じながら矢部にツッコミを入れるパワプロ。それを尻目に雅と美代子は話を続ける

 

「それじゃミヨちゃんがおじいちゃんに話通して部室使えるようにしてあげようか〜?」

「うん、よろしく頼むよ」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 その日の放課後、パワプロ達は校舎の片隅にあるボロボロな野球部の部室にやって来た。そしてそこには美代子とよぼよぼな老人……美代子の祖父でときめき青春高校野球部の顧問である大空飛翔がいた。

 

「じゃ〜ん! この人が私のおじいちゃんだよ〜」

「ねえねえ、ワシの入れ歯知らない?」

 

 美代子の紹介をよそに、飛翔監督は自分の入れ歯を探して地面をキョロキョロと眺めていた。

 

「入れ歯? うーん解らないですね……」

「ワシの入れ、入れ……入れブァアアアアアア!!!」

 

 その時、突然飛翔の口から何かが飛び出し、矢部の顔面にブシッと直撃する。

 

「うっぎゃあああああああでやんすっ!」

「や、矢部くーん!!?」

 

 そのまま地面に伏す矢部、飛翔監督はそんな彼の顔面に付いている物体を手に取った。

 

「ふぁひのひれふぁ、ふひふぉふぁふぁふぃふぁっふぁふぉふぇ(訳:ワシの入れ歯、口の中にあったのね)」

「もーおじいちゃん、また入れ歯を口に入れたの忘れてたの?」

「(カポッ)いやー面目ない」

 

そう言ってあははうふふと笑いあう飛翔監督と美代子、二人を中心になんだかゆるい空気が漂っている。

 

「大丈夫かなこの人で……」

「い、いないよりはマシじゃない?」

 

 顔面涎まみれになって動かなくなった矢部を抱きかかえながら、不安そうにつぶやくパワプロ、そしてそんな矢部に近づくのを躊躇っている様子の雅。そしてそんなこんなあった後パワプロ達は部室の中に入って行った。

 

「うわ、汚っ」

 

 部室は長い間放置されていたのか、お菓子の残骸やら古い雑誌やらが散乱して非常に汚くなっていた。

 

「こりゃ一度掃除しないと使えないでやんす」

「しょうがない……やろうか」

「ミヨちゃんも手伝うよ〜」

 

 パワプロ達はそのまま部室の掃除を開始する。ちなみに飛翔監督は眠くなったと言って木陰で寝ていた。

 

「うわー、どうすりゃここまで汚く出来るんだ?」

「半ばここの生徒の社交場みたいになってたみたいだね〜」

「ちょっと新しいゴミ袋とゴム手袋がいるでやんす……おえっ!? カップめんの中になんか蠢いているでやんす!」

 

 パワプロ達がギャーギャー悲鳴を上げながら掃除をする一方、せっせと掃除する雅、その時……彼の足元に黒くて小さくて黒い触角が二本生えた物がカサカサッと駆け抜けていった。

 

「!! きゃあああああああ!? ゴキ! ゴキィ!?」

「小山さんどうしうわぁ!?」

 

 雅はそのままパワプロに半泣きの状態で抱き付き、目をグルグル回していた。

 

「誰か! 誰か追っ払ってよ!」

「こここ小山さん落ち着いて!」

「今ゴキジェット持ってくるでや「破っ!」

 

 次の瞬間、パァンと何かが破裂する音がした。皆がその方角を見ると、そこには地面に拳を突き刺している美代子が居た。拳の周りにはゴキだったものの残骸が粉々に散っていた。

 

「矢部く〜ん、濡れティッシュある〜?」

「え、あ、はい」

 

 何が起こったか解らず、思わずやんす口調を忘れたまま美代子の言う通りティッシュを差し出す矢部。一方雅はふーっと安心したかのように息を吐いた。

 

「よ、よかった……あとでホウ酸団子買ってこないと……」

「こ、小山さん、あの……」

 

 その時、雅はようやく自分が今パワプロを押し倒している体勢になっている事に気付き、慌てて飛び退いた。

 

「ご、ごめん! 重かった!?」

「だ、大丈夫(すごくいい匂いがした……)」

 

 雅の髪から香ったシャンプーのいい匂いにドキドキ心臓を鳴らすパワプロ。二人の間に微妙な空気が流れる。そんな空気に矢部が一石を投じる。

 

「パワプロ君……ラノベでよくあるフラグ立てている所悪いでやんすが、小山さん男でやんすよ」

「わ、解ってるよ!」

 

 顔を真っ赤にして何度も頷くパワプロ、一方雅は二人の見えないところで何故かほっと胸を撫で下ろしつつも、

 

(パワプロ君の体……意外とガッチリしていた、何かスポーツでもやっていたのかな?)

「……」

 

美代子はそんな雅を無言で見ていた。

 ふと、パワプロはさっきの騒ぎで近くの荷物の山が崩れた事に気付き、足元に落ちたDVDのケースを拾い上げた。

 

「何だろコレ? 先輩の者かな?」

「もしやムフフなビデオ!? こりゃ早急に中身を確認して弾道を上げる必要があるでやんす!」

「えー!? それは不味いんじゃ……?」

 

 矢部の提案に耳まで真っ赤になる雅、そんな雅を無視して矢部は近くにあったテレビと、埃を被ったPS2にDVDディスクをセットする。するとテレビの画面にとある野球の試合の様子が映し出された。

 

「これは……」

「二年ぐらい前の中学の野球大会の試合だね」

 

 映像にはマウンドに立つ青く逆立った髪の右投げのピッチャーが、キレのあるスライダーでバッターを次々と三振で討ち取っている様子が映し出されていた。

 

「おお! すごいピッチャーでやんす! 二年前という事はこのピッチャー同い年でやんすか?」

「あ〜、この人もしかして青葉君かな?」

「大空さん、知っているの?」

 

 雅の質問に美代子はテレビの映像を見ながら答える。

 

「青葉君うちのクラスの人だよ、あんまり教室来ないけど一度だけ会ったことがあるの」

「そんなすごい人が何でうちの学校にいるでやんすか!? あかつきとか帝王に行かなかったでやんすか?」

「う〜ん、ミヨちゃんに言われても……」

 

 そうこう言っているうちに試合が終わり、次の試合の様子が映し出される。

 

「あ、次はパワフル中学の試合みたいだね」

「……」

 

 すると、パワプロは突然TVの電源を消してしまう。

 

「矢部君、次に勧誘する相手が決まったね、この青葉君が居れば大きな戦力になるよ」

「そうでやんすね……ミヨちゃん、青葉君って普段どこにいるでやんすか?」

「ん〜、この時間帯だといつも駅のあたりにいるかな? 青葉君電車通学みたいだし」

 

 

 

・大空美代子に出会った。

・大空飛翔監督に出会った。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 数十分後、パワプロ達4人は美代子の情報を頼りに駅前にやって来た。

 

「本当にいるでやんすかね、青葉君」

「ていうか大空さん、付いて来ちゃったの?」

「だって面白そうだし〜」

 

 そんな談笑をしながら駅の裏通りに入って行く4人、その時……奥の方から何人かの怒声が響いて来た。

 

「ん!? 何だろ!?」

「行ってみるでやんす!」

 

 そして四人が怒声が聞こえてきた人気の無い駐車場の方に行ってみると、そこには一人のときめき青春高校の制服を着た男子生徒が、襲い来る複数の不良らしき男達を迎え撃っていた。

 

「あれは……」

「青葉君だね」

 

 パワプロ達四人は電柱の陰に隠れ、ときめき青春高校の制服を着た男……青葉の様子を伺う事にした。

 

「この野郎!!」

 

 長い金髪に肌が黒い、目つきの悪い男が青葉に殴り掛かる。青葉はその攻撃を右に移動して避け、目つきの悪い男の腹部に左ひざを叩きこんだ。

 

「ぐえっ!?」

 

 腹部を抑えて倒れ込もうとする目つきの悪い男、青葉はそんな男の背中目掛けて左ひじを叩きこんで追撃する。目つきの悪い男は小さくぐえっと呻きながら地面に伏した。

 

(ひゃあ! 痛そうでやんす!)

(中々いいコンビネーションね……鍛えればいい格闘家になるわ)

「よくも座古川をー! もう許さねえー!」

 

 すると他の男達も一斉に青葉に襲い掛かる。それに対し青葉は主に左腕と足を中心とした喧嘩殺法で次々と倒して行った。

 

(うわわ……あの人達大丈夫かな)

(……)

 

 そして不良達を全員倒した青葉は、近くにあった自分のカバンを拾い上げ、その場を去ろうとした。

 

「……おい、そこで何をしてる?」

 

 そして電柱の陰に隠れているパワプロ達に声を掛けた。どうやら彼等がそこにいる事に気付いていたらしい。

 パワプロは無言で電柱から出て、矢部はそんな背後に隠れながら一緒に出てくる。

 

「……なんだお前ら? 野球部か?」

「よ、よく解ったね」

「そっちのメガネはユニホーム着ているからな」

「パワプロシリーズのお約束でやんす」

 

 青葉の放つ威圧感に臆しながらも、パワプロは青葉に話し掛ける。

 

「あ、あの……僕等野球部なんですけど、君を勧誘しに来たんです」

 

 パワプロはこれまでの経緯を説明し、青葉は黙って聞いていた。

 

「という訳なんです……僕達に力を貸してくれませんか!?」

「断る」

「即答!? 何故でやんすか!?」

 

 青葉の清々しさすら感じる断りっぷりに思わずツッコミを入れる矢部。

 

「俺はもう野球はやらないって決めたんだ、だから余所を当たれ」

「……それは嘘だよ」

 

 その青葉の一言に、パワプロの顔つきが変わる。それを聞いた青葉はギロッとパワプロを睨みつけた。

 

「何が嘘だっていうんだよ、適当なこと言うとぶちのめすぞ……!」

「だって、さっき君が喧嘩していた時……右手を使わなかったじゃないか!!!」

 

 そのパワプロの指摘を聞いて、青葉は顔色を変えて右手を隠した。

 

「いや、これはその……」

「君が今どうしてそうなったのかは知らない、でも……まだ野球が好きなんだってことはわかるよ。だから……」

 

 そう言って歩み寄ろうとするパワプロ。一方青葉は自分の右手を見つめ、そのままギュッと握り締めた。

 

「……駄目なんだよ」

「え?」

「俺はもう……ボールを握れないんだ。握ることが出来ないんだ……」

「それってどういう……」

 

 パワプロの質問に答えることなく、青葉はその場を去ろうとする。

 

「悪いな、力にはなれない、余所を当たるんだな」

「青葉……君」

 

 パワプロは青葉の言葉が気になり、彼の後を追うことが出来なかった。

 

「行っちゃったでやんす。ボールが握れないってどういうことでやんすかね?」

「解らない……取り敢えず青葉君の勧誘は保留しよっか」

 

 その日、パワプロ達はそれ以上の成果を得る事はなく、そのまま解散となった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、くっくっく……聞いたぜ、聞いたぜぇ……!」

 

 先程の話を、青葉が倒した目つきの悪い不良に聞かれていたとも知らずに。

 

 

 

・青葉君と出会った。

・部室が使えるようになった

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 次の日、昼休みに集まったパワプロ達4人は、矢部がネットから集めてきたある青葉に関する情報を聞いていた。

 

「青葉君の通っていた中学校、一年前に全国大会の決勝で失格になったらしいでやんす」

「失格? なんで〜?」

「どうやら改造ボールを使っていたのがバレたらしいでやんす。すんごい曲がってたけど、まさか改造ボール使っていたとは驚きでやんす」

 

 それを聞いたパワプロは腕を組んでうーんと悩み始め、それを見た雅が話し掛ける。

 

「どうかしたの? パワプロ君?」

「いや、うん……青葉君ってそういうことするような人には見えなかったけど……」

「何か理由があるってこと?」

「うん、とにかく本人にもっと話を聞いてみないと……とにかく今日も部員集めをしないと」

 

 すると矢部は張り切った様子で勢いよく立ち上がる。

 

「よーっしオイラ気合い入れていくでやんす! 明日には100人ぐらい連れてくるでやんす!」

「あてはあるの?」

「任せるでやんす! オイラの華麗なる交渉術に度肝を抜くでやんす!」

 

 そう言い残し、矢部はそのまま勢いよく教室を出て行った。

 

「うーん、僕等はどうする?」

「ごめ〜ん、ミヨちゃんと雅ちゃん、ちょっと先生に呼び出されていて今日は手伝う事が出来ないんだ」

「そういう訳なんだ、だから放課後にまた部室に集まろう」

 

 そう言って雅と美代子は去り、一人残ったパワプロは腕を組んでうーんと考えを巡らせた。

 

「僕一人か……まあいいや、昼ご飯食べよ……あ、その前に購買行かなくちゃ、シャープペンの針切れてたんだ」

 

 そう言ってパワプロは立ち上がり、学校の下駄箱前にある購買に向かって行った。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 購買に向かって廊下を歩くパワプロ、その時……曲がり角から巨大な男が現れ、ぶつかってしまう。

 

「うわっ!? す、すみません!」

 

 パワプロは尻餅をつきながらぶつかった相手に謝罪する。しかしぶつかった相手の風貌を見て思わず小さな声で「ひっ!?」と悲鳴を上げてしまう。

 パワプロのぶつかった相手はとても巨大な体躯で、彫りの深い鬼を思わせるような顔から光る眼光も合わせて、とても威圧感のある雰囲気を醸し出していた。

 

「す、すみません! 怪我は……」

「……」

 

 巨大な男は何も言わず、ただコクンと一回頷いてその場を去って行った。

 

「ん?」

 

 その時、パワプロはその巨大な男の手が血で滲んでいる事に気付く。すると一部始終を見ていた男子生徒二人が陰でこそこそと話をしていた。

 

「おい、さっきの奴……鬼力 剛(きりき つよし)じゃね?」

「ええ!? あの不良100人を一人でぶちのめしたって噂の……!?」

「あの血のにじんだ手、ぜってー誰かぶちのめした後だぜ」

 

 そんな二人の会話を、パワプロは聞き耳を立てながら聞いていた。

 

(鬼力剛……)

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 数分後、校舎裏で巨大な男……鬼力は、近くに置いてあったボロボロで少しひん曲がった金属バットを手に取った。

 

「あ、あの……」

 

 その時、鬼力の後ろからある人物が現れる。先程購買でシャープペンシルの芯と一緒に買ったテーピングを持ったパワプロである。

 

「……」

 

 鬼力は何も言わずパワプロの方を見る。一方パワプロは先程とは打って変って臆する様子も無く、手に持っていたテーピングを鬼力に渡す。

 

「その……素振りの練習していたんですか? よかったら使ってください」

「……」

 

 鬼力は何も言わずテーピングを受け取る。しかし目はどこか泳いでおりオドオドしているように見えた。

 

「野球、好きなんですか?」

「!!!」

 

 パワプロの指摘に、鬼力はものすごい勢いでコクコク頷く。それを見たパワプロはもうひと押しすることにした。

 

「じゃあその……野球部に入りませんか? 僕ら今メンバーを集めているんです」

「!!!!!」

 

 すると鬼力はパワプロの両手を手に取り、ブンブンと振りながら顔も縦に高速で振った。

 

「お、OK!? やったぁ! よろしくお願いします!」

 

 トントン拍子で事が進んでパワプロはちょっと戸惑いながらも、新たな仲間の追加に喜んだ……。

 

 

 

・鬼力剛が仲間になりました。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 十数分後、鬼力と別れたパワプロは一人屋上に来ていた。いい天気なので外で昼飯を食べようと思ったからである

 

「うーん、メンバーは増えたけどこの調子で集まるのかなー」

 

 そんな独り言を呟きながら、パワプロはおにぎり二個とおかずの入った弁当箱を広げようとする。すると……屋上の隅から何か音楽が聞こえてくるのに気付いた。

 

「なんだろう……?」

 

 パワプロが音楽の聞こえてくる方向を見ると、そこには髪を桃色に染め、肌がうっすら焼けているいかにもチャラ男と言った風貌の男子生徒が、何故かうつ伏せになって倒れていた。

 

「うわああああ!? 大丈夫ですか!?」

 

 パワプロは慌ててその男子生徒に駆け寄り、彼を抱き起す。すると……彼のお腹から「ぐう〜」と腹の虫が鳴り響いた。

 

「え」

「ううう……な、何か食い物を……」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「いやー! チョー助かった! アンタが居なかったらこのまま飢え死にしてたって感じ!?」

 

 数分後、パワプロは倒れてい居た男子生徒に自分のおにぎりを食べさせる。すると男子生徒はみるみるうちに生き返ってパワプロに礼を言った。

 

「お腹空かせて倒れるなんて……ご飯ちゃんと食べないと」

「いやー面目ないっていうか! ここ最近もやししか食べてなくてー! 肉食うなんてチョー久しぶりなんですけど!」

「それシーチキン」

 

 そしておにぎりを食べきった男子生徒は改めてパワプロに礼を言う。

 

「おにぎりマンモスうまかった! 俺茶来 元気(ちゃらい げんき)っつうの! このお礼になんでもいう事聞いちゃう! オレッチの出来る限りの範囲で!」

「え? 何でも?」

 

 男子生徒……茶来の提案に、パワプロはしばらく考え込んだ後、ダメもとで聞いてみた。

 

「じゃあその……野球部に入ってくれる?」

「オッケー!」

「そうだよねOKだよね……っていいの!?」

 

 茶来の余りの即答に自分の耳を疑うパワプロ。

 

「いーよいーよ! オレッチ中学時代野球やってたし! つーかこの学校に野球部なんてあったっけ?」

「実は……」

 

 パワプロはこれまでの経緯を茶来に説明する。

 

「お!? そう言う事ならオレに任せてくれね!? 前合コンに誘った奴等が野球経験者だったわけ! そいつらに声掛けておくよん!」

「え!? いいの!?」

「いいのいいの! サービスサービス!」

 

 こうしてパワプロは茶来を仲間に引き入れる事に成功すると共に、仲間集めにおいて協力を取り付ける事に成功した……。

 

 

 

・茶来元気が仲間になりました。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 放課後、授業を終えたパワプロは雅と美代子と一緒に河原の野球場に向かっていた。

 

「へえ、じゃあ二人も勧誘に成功したんだ」

「うん、あとであの球場で待ち合わせしているんだ。ところで矢部君は?」

「う〜ん、ミヨちゃん達は見てないよ〜?」

 

 そんな雑談をしながら球場に向かう三人、ちなみに何故美代子がいるのかというと、祖父である大空監督の面倒を見る為、そして楽しそうという理由でパワプロ達の野球部のマネージャーを買って出たのだ。

 そして三人が球場に着いた時、球場の隅に数人の不良らしきときめき青春高校の生徒がいる事に気付く。

 

「ん? 何だろうあの人達」

「集会か何かじゃない〜? まあ関わらなければ大丈夫だよ〜」

「そ、そうかな……それじゃパワプロ君、キャッチボールの相手お願い」

 

 パワプロはちょっと不安そうな顔をしながら、雅たちと共にグラウンドで練習の準備を始める。

 一方、グラウンドの隅に集まっていた不良達の内、リーゼントに小さな丸眼鏡、そして襟の長い学ランといういかにもな感じの格好をした男が大声を張り上げていた。

 

「いいかてめえら! この神宮寺 光(じんぐうじ ひかる)の舎弟になったからには目指すは全国制覇で夜露死苦ぅ!!」

「「「夜露死苦ぅ!!」」」

 

 そんな彼等のやり取りを見ながら、パワプロは雅とのキャッチボールを始める。

 

「うわー、いかにもヤンキーって感じだね」

「なるべく目を合わせない様にしよう」

 

 そう言って雅に向かってボールを投げるパワプロ。ボールは雅の遥か頭上をふにゃ〜んと飛び越え、リーゼントの男……神宮寺の足元に転がった。

 

「パワプロく〜ん、フラグ回収だね〜」

「ご、ゴメン小山さん!」

(……やっぱり違うのかな)

 

 パワプロの投球を見て、雅は少し難しい顔をしつつ、神宮寺に声を掛ける。

 

「すみませーん、ボール取ってもらえますかー」

 

 すると神宮寺の舎弟たちは雅を睨みつける。

 

「ああん!? 何言ってんだコラ!?」

「神宮寺がそんな事するわけねえだろ!?」

「ちょ、ちょっと可愛いからって調子乗んな!」

 

 一人顔が赤い奴が居るのは気にしなくていいだろう。すると神宮寺は自分の足元に転がっているボールを拾い上げた。

 

「はあ〜い、いくよ〜」

 

 そして雅目掛けて投げる。ボールは雅が構えるグローブにすっぽり収まった。

 

「な、ナイスボール……」

「……はっ!?」

 

 その時、神宮寺はようやく自分がしたことに気付き、自分の舎弟たちを見る。舎弟たちは先程の神宮寺の威厳の無いゆる〜い笑顔を見て、やる気がグンと下がったようだった。

 

「神宮寺さん……俺ら帰りますね」

「い、いや違うんだ! これは、これはだな!」

 

 やる気が無くなって帰ろうとする舎弟を必死に引き留める神宮寺、一方神宮寺の送球を見たパワプロ達は一旦集まって何やらヒソヒソと話を始めた。

 

「パワプロ君、彼……経験者みたいだよ」

「うん、綺麗なフォームだった。ダメもとで勧誘してみる?」

 

 すると、神宮寺が何やら怒り心頭で顔を真っ赤にしながらパワプロ達に駆け寄って来た。

 

「どうしてくれるんだテメーら! お陰で舎弟に甞められちまったじゃねえか!」

「ひいっ!? すみません!!」

 

 神宮寺に怒鳴られ、半泣きになりながら縮こまるパワプロ。一方雅は臆することなく神宮寺に話し掛ける。

 

「君、さっきの送球凄かったね。もしかして経験者?」

「お、おう!? そうだけど!?」

「あの……僕達野球部のメンバーになってくれないかい?」

 

 雅とパワプロはこれまでの経緯を神宮寺に説明する。すると神宮司はふんと鼻を鳴らして誘いを断った。

 

「はん! 俺はもう野球なんてダサいスポーツは辞めるんだ! これからは激シブなヤンキーを目指すんだよ!」

 

 神宮寺はきっぱり断る。しかしなんだか『俺のバカ! どうして素直に入れてって言えないの!?』と言わんばかりに体をくねらせているので、本当は入りたいようだ。

 

(うーん、駄目っぽい?)

(いや、もうひと押しだよ)

 

 雅は粘り強く神宮寺の説得を続ける。

 

「でも……子供達の為に野球するヤンキーって……なんかカッコいいよね」

「!!」

「ホントだよね〜、ミヨちゃん惚れちゃうかもしれない〜」

 

 雅の一押しと美代子の援護に、神宮寺の心はあっさり揺らぎ始めた。すると二人の意図に気付いたパワプロも援護を開始する。

 

「そうだね! 野球するヤンキーって激シブだよね! 数年前にドラマになってたし!」

「そ、そうか?」

「「「そうだよ!!」」」

 

 三人の駄目押しに、神宮寺はついに折れた。

 

「しゃ、しゃあねえな! どうしてもって言うなら仲間になってもいいぜ!」

(((よし!!)))

 

 神宮寺の答えを聞いて、三人は心の中でガッツポーズを取る。その時……。

 

「おーいパワッチ〜!」

 

 待ち合わせをしていた茶来が、鬼力と他三名を連れてやって来た。

 

「あ! 茶来君! 来てくれたんだね!」

「おう! 約束通り野球部に入ってもいいって奴等連れてきたぜ!」

 

 そう言って茶来は後ろにいる三人を前に歩かせる。そして赤い帽子を被った見た目は太った30代の黒人の様な男が、何かリズミカルに体を動かしながら自己紹介を始めた。

 

「俺は稲田 吾作(いなだ ごさく)って言うんYA。なんか面白そうだから俺も入れてくれYO」

「いいの!? よかった〜! よろしくお願いします!(老けて見えるけど上級生かな? ていうか日本人なの?)」

 

 すると次に水色の髪に赤いマスクを付けた、まったく似た容姿の男二人が自己紹介を始めた。

 

「俺は三森 右京(みつもり ウキョウ)」

「俺は左京(さきょう)、茶来の頼みじゃ断れないからな……幽霊部員でいいなら力を貸すぜ」

「う、うん! よろしくお願いします!(な、なんか怖そうな人達だな)」

 

 パワプロはちょっと怯みながらも三森達とあいさつを交わす。すると茶来がパワプロに小さな声で耳打ちしてきた。

 

(パワっち、あの兄弟に双子って言うのはやめときなよ、アイツ等ブチ切れるから)

(え? なんで?)

(いやー、俺にもわかんね! 取り敢えず気を付けた方がいいよ!)

 

 その時美代子が全体を見回した後、ある事に気付いてパワプロに声を掛ける。

 

「ねえねえパワ君〜、もしかしてこれで8人揃ったんじゃない〜?」

「そうだね、後は矢部君が頑張ってくれれば……」

 

「や、やんす〜……」

 

 その時、パワプロ達は土手の上から何者かがボロボロの状態で歩いて来る事に気付いた。

 

「矢部君!? どうしたの一体!?」

 

 パワプロは慌ててその人物……顔面には掌型の痣が赤くついていて、メガネにもひびが入っている上、服も何故かビリビリに破れている矢部に駆け寄った。

 

「か、勧誘に失敗したでやんす〜」

「どこをどうやったらそうなるわけ!?」

 

 矢部はそのまま地面に前のめりに倒れそうになり、パワプロが慌てて体を支える。

 

「すまんでやんすパワプロ君……部員を集めることが出来なくて……がくっ」

「や、矢部くーん!?」

 

 自分の腕の中で力尽きた矢部の名前を叫ぶパワプロ、そんな彼に神宮寺が話し掛けてきた。

 

「なあー? 練習始めないのかー?」

「う、うんそうだね! じゃあ大空さん、矢部君をよろしく」

「いいよ〜」

 

 パワプロは矢部の介抱を美代子に任せ、初めて人数が揃った状態での練習を始めた。

 

「さあ、来週の試合……人数揃えて絶対勝つぞー!」

 

 

 

・神宮寺光が仲間になった。

・稲田吾作が仲間になった。

・三森右京が仲間になった。

・三森左京が仲間になった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 そんなパワプロ達の様子を、青葉は一人土手の上で眺めていた。

 

「……野球、か」

 

 青葉はそのまま自分の右手を見る。そして……過去のある出来事が頭の中でフラッシュバックのように再生されていった。

 

 

 

―――青葉、てめえ……絶対に許さねえ!―――

 

―――よくも! よくもよくも!!―――

 

―――この卑怯者!!―――

 

 

 

「……!」

 

 青葉はまるで先程の回想を打ち消そうとするかのごとく、汗がびっしょりと滲んできた右手をギュッと握り締める。そして……グラウンドで相変わらずの暴投を繰り返し、三森や稲田に怒鳴られ身を竦めているパワプロを見てぽつりと呟く。

 

「パワプロ……まさかあいつじゃないよな」

 

 

 

 

 

 ときめき青春高校野球部、部員が揃い本格始動……しかし投手が不在なため、本格始動はまだ先だった……。

 

-2ページ-

 

☆〜今週のうろつき〜☆

 

 

 

「何? 今週のうろつきって?」

 

 パワプロは上に書かれているタイトルに付いて矢部に質問する。

 

「今週のうろつきとは本編のおまけでやんす。パワプロ君が色んな所をうろついて色んな人と出会うコーナーでやんす。その人達から色んな恩恵を得られるからお得でやんすよ」

「へえ、じゃあやってみるかな」

「パワプロシリーズのキャラやゲストキャラがどんどん出てくる予定なのでお楽しみにでやんす」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「今日は河原に行ってみよう」

 

 練習が休みの日、パワプロは気分転換に河原の球場にやって来た。そして何となく。向こう岸を繋ぐ鉄橋の下に行ってみた。

 

「くぅ〜ん」

「ん?」

 

 するとパワプロは物陰に落ちていた段ボールの中に、茶色くて小さな犬がいる事に気が付いた。犬はどうやら弱っているらしく、舌を出してへっへと息を吐きながら、段ボールの床にべったりと寝そべっていた。

 

「捨て犬かな……弱っているみたいだ。あ、そうだ」

 

 パワプロは徐に自分のカバンの中を漁り、中から先程食べ残したアンパン(こしあん)を取り出し、犬の前に置いた。

 

「これ食べる?」

「ワフッ」

 

 すると犬はバクバクとアンパンを食べ始め、あっという間に平らげた。

 

「ワンワン! ワン!」

「元気になったみたいだ、よかったよかった」

 

 尻尾をブンブン振りながら自分の周りを走り回る犬を見て、パワプロは満足そうに微笑んだ。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 数日後、パワプロはいつものように矢部と雅と一緒に野球の練習をしていた。

 

「ワンワン!」

 

 するとそこに、パワプロが数日前助けた犬がやって来た。

 

「あ、お前はあの時の!」

「パワプロ君、その犬と知り合いなの?」

 

 パワプロは先日の出来事を矢部達に説明する。

 

「懐かれているねパワプロ君」

「折角だし名前付けてやるでやんす。うーん……“ガンダー”はどうでやんす?」

「ワン!」

 

 すると犬は矢部のネーミングが気に入ったのか、嬉しそうに尻尾をブンブンと振った。

 

「気に入ったみたいだね」

「お前は今日からガンダーだ、よろしくね」

「わん!」

 

 ガンダーはパワプロに頭を優しく撫でられながら、嬉しそうな鳴き声で吠えた。そしてパワプロ達の練習を手伝ってくれるようになった。

 

 

 

・ガンダーに出会った。

・スタミナ練習とダッシュ練習のレベルが上がった。

 

-3ページ-

 

〜お! あとがきゥー!!〜

 

 今回はここまで、次回は青葉加入回をお送りいたします。

 茶来のチャラ男口調マジで難しい……なんか参考文献とかないだろうか。

 

説明
パワプロ小説の第一話になります。雅ちゃんも出るよ!
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実況パワフルプロ野球 ときめき青春高校 パワプロ 小山雅 

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