程なくして、張済さん率いる偵察部隊と合流した。

この数なら、強行軍でも明け方には安全圏に辿り着くだろう

張済「まさかこんな所に東殿がおられるとは」

零士「あぁ。僕もびっくりだよ」

僕らは警戒しつつ移動する。ここは既に、危険地帯だ。いつ攻撃されるかわからない

零士「………」

魔術と氣が問題なく使える事から、今は無理やりそれで体調を補っている。

だが、正直長くは持たないな。上手く集中できない。

力を身体能力に当てている分、この辺一帯の索敵もできない。参ったな

秋蘭「東、お前は天から来た身であり、なによりあれ程の力がありながら、

なぜ天下に名乗りあげなかったのだ？」

零士「はは、いろんな人に突っ込まれるよ。

前にも言ったが、僕は僕の家族さえ守れたら、それでいいんだ。

僕は幼い頃に家族を事故で亡くしてね。それ以来、家族に対して憧れがあったんだ。

さらに僕はね、あの世界で十分過ぎる程人を殺してきたんだ。

それこそ、世界から忌み嫌われるほど。

だからね、今の生活は僕にとって夢のような時間なんだ。

やっと手にした、普通の人生って気がしてね」

まぁ、この状況さえなければ、もっと良かったんだけどなぁ。

このトラブルに巻き込まれる体質、華佗に言えば治るかな…

秋蘭「そうか。悪い事を聞いたな…」

零士「そんなに気にしなくていい。もう過去の事だからね」

秋蘭「だが本当によかったのか？

今のこの状況、お前のいう普通の人生からは、逸脱している気がするが」

ほんと、その通りだけど

零士「さっきも言っただろ？秋蘭も流琉ちゃんも、僕や咲夜にとって大切な人なんだ。

だから、僕の手が届く範囲なら、僕は必ず君達を守る。

僕の目の前で、大切な人を殺させはしない」

秋蘭「そ、そうか…」

流琉「あぅ…」

ん？二人とも顔をそらしているけど、どうかしたのだろうか

張済「なるほど。確かに東殿は、悪い男のようだ」

零士「え？張済さんどういう意味ですか」

張済「はは、いやなに。天然でやる辺り……！！」

秋蘭・流琉「！！」

零士「！！来たか」

後方にかなりの数が来ているな。正確な距離はわからないが、恐らく1キロもないな

零士「張済さん、見えますか？」

張済さんは暗闇での戦闘が得意だったはずだ。

この状況でも、冷静に辺りを見回し確認している

張済「まだ目視できる範囲では無いですが、確実にこっちに来ていますね」

零士「了解。殿は僕が務める。後ろは任せて移動速度を上げるんだ」

張済「了解」

零士「おっと、僕が指揮しちゃいけないね。秋蘭、君の意見は？」

秋蘭「いや、何も問題はない。東の方針で行こう。

殿には私も務める。流琉は先導してくれるか」

流琉「わかりました」

さすが、精強な魏軍だけはあるな。不測の事態でも、一糸乱れぬ統一性は感嘆に値するな

零士「…チッ！」

思わず舌打ちをしてしまう。

謎の体調不良に加え、片目がほとんど見えない事が影響し、今だに蜀軍を目視できない。

後少し時間があれば、この片目の状況にも馴れるはずだが

ヒュンッ

零士「ッ！」

キィン

あ、危なかった。向こうはもう撃ってこれるのか？

弓って事は、恐らく黄忠か？流石に弓兵だけあって、目の良さはピカイチだな

秋蘭「大丈夫か？」

零士「あぁ。それより見えたか？」

秋蘭「あぁ。今しがた確認した。確かに、東の言う通り敵将は黄忠だ。とりあえず…フッ！」

ヒュンッ

秋蘭「威嚇射撃だ。当たれば儲け物だったが、そう上手くはいかないな」

定軍山で夏侯淵と黄忠か。相性は最悪だな。なんとしても、遠ざけなければ

零士「秋蘭、矢はこちらで補充する。だから思う存分射ってくれ」

僕は魔術で数本の矢を出して見せる。それに対し秋蘭が驚愕の表情をあらわにした

秋蘭「お前はいったい…」

零士「説明は許昌に着いて…！！」

キキキキキキン！

突如、矢の乱れ打ちが来た。僕はこれを寸でのところで弾く事に成功した。

よし、片目にもだいぶ馴れて…

零士「ゴホッゴホッ！みんな、大丈夫か？」

まただ。また体が重く…

秋蘭「私達は無事だが、お前こそ本当に大丈夫なのか？凄い汗だぞ」

零士「あぁ、問題ないよ」

こりゃ、本格的にマズイかもしれないな………

零士「だが、なんとしても安全圏まで送ってみせる」

その後、僕らは定軍山の入り口付近まで辿り着く事ができた。

途中、矢の乱れ討ちで穴だらけになりそうだったり、滝から落ちたりと、

なんども危ない目にあったが、全員生きている。上々の結果だ

流琉「はぁはぁ…ふ、振り切りましたかね？」

秋蘭「そう思いたいな…はぁはぁ…」

零士「さぁ、はぁはぁ…みんな、このまま許昌を目指すんだ」

秋蘭「東はどうする気だ？」

零士「ふふ…忘れたかい秋蘭…はぁはぁ…僕らは旅行に来ているんだよ。

だから、施設に戻るだけさ…」

秋蘭「そ、そうだったな。本当に大丈夫なのか？」

零士「あぁ…問題ない…流琉ちゃん、お土産、持って帰ってくるよ」

流琉「えぇ？いいですよ！こんな事に巻き込んでしまったんですから」

零士「いいんだよ。君だけ除け者になってしまったんだ。

君も従業員の一人なんだから、素直に受け取るんだよ」

流琉「は、はい。ありがとうございます」

零士「さぁ、行った行った。早くしないと、大軍が押し寄せてくるぞ」

秋蘭「あぁ。必ず、また許昌で会おう。ありがとう東」

そう言い、秋蘭達は許昌を目指し帰って行った。

僕はそれを確認すると、その場で倒れてしまった

零士「ゴホッ！こりゃ、こたえるなぁ」

だが、どういう訳か、体がだんだん楽になりつつあった。

恐らく、後少しこのまま休めば、調子も戻るだろう

零士「はぁ…まったく、一体なんだったんだ？教えてくれよ。いるんだろ貂蝉」

貂蝉「あらぁ？完全に気配を消していたはずなのに、なぁんでわかっちゃったのかしらぁ」

零士「僕はこれでも、プロだからね」

貂蝉「あら素敵！そんな貴方に痺れちゃうぅ！

私の熱いチッスをプレゼントしちゃうわぁ！」

零士「よ！悪いが遠慮するよ」

僕は迫り来る貂蝉の唇を華麗に避け、立ち上がった。どうやら完全に元に戻ったらしい

貂蝉「あらぁ？もう動けるようになったの？」

卑弥呼「ふむ、よもや矯正力に抗うとは…やはりうぬは何か特別なのだな」

貂蝉の近くには卑弥呼も立っていた

零士「お前達、この不調の原因を知っているんだな」

貂蝉「そうねぇい。とりあえず、場所を移しましょう。

ここだと人が来るかもしれないわぁ」

そう言って貂蝉と卑弥呼ふ大ジャンプした。

僕もそれを追いかけるように、大きく飛び後を追った

貂蝉「ここでいいかしら」

着いた先は、昼間遊んだ川の上流の、湖がある所にやってきた。

ちょうどいい、少し水を飲んでおこう。無傷だが、さすがに疲れた

零士「んくんく…はぁ…生き返るなぁ」

卑弥呼「かなり、体が重かったのではないか？」

零士「……あぁ。猛毒に侵されている気分だったよ。あれは何だったんだ？」

貂蝉「私と貴方が初めて出会った時、ご主人様の邪魔だけはしないでって言ったのは覚えているかしら」

零士「あぁ。やはりそれで、あんなにも影響が出たのか」

卑弥呼「本来は、それだけではないはずなんだがな」

零士「どういう事だ？」

卑弥呼「うぬは、辿るべき歴史を変えてしまったのだよ。

夏侯淵はここで死ぬ予定だった人物じゃからな」

貂蝉「そして、歴史を変えてしまうと、矯正力が働いて、変えてしまった人物を排除しにかかるのよぉ」

ん？だがその理論でいうと

零士「なら、呉の孫策の件はどうなる？確か孫策の最期は暗殺だったはずだ。

だがそれを阻止した時、なんの影響も受けなかったぞ」

そう。あの時は片目が見えず、毒に侵されただけで、

今回のような体が重くなるといった事にはならなかった。

もし歴史を変える事で影響を受けるなら、あの時も感じていなければいけない

貂蝉「そこなのよねぇ。私たちもぉ、

どうして貴方があの時矯正力を受けなかったのか疑問だったのよぉ。

残念だけど孫策ちゃんはぁ、この外史において、あの日に死ぬ予定だったからねぇい」

だからあの時、雪蓮ちゃんを助けた時、体調を尋ねたのか

零士「イレギュラー、か」

卑弥呼「まさにその通りなのだよ。歴史の矯正力は受けない。

だが、創造主である北郷一刀を妨げる行為においては影響を受ける」

貂蝉「だけどそれもぉ、本来ならば確実に意識を失うはずなんだけどぉ、

貴方は最後まで意識を繋ぎとめ、あろうことか夏侯淵ちゃんを守り抜いた。

そして事が終われば、即座に回復。あり得ない事ばかりなのよぉ」

零士「…」

本当に僕は、この世界において不確定要素なのか？

貂蝉ら管理者の話通りなら、僕は既に消えていなきゃいけない。

だが、今もこうして、なんの問題もなくこの世界にいる。

ということは、この世界に来たのは偶然でも事故でもなく、作為的なもの？

矯正力を無視してまで、やるべきことがあるから、この世界にいるのか？

零士「わからないな」

情報が足りないし、恐らくは知ることはできないだろう。

もし、僕を呼んだ人物が居たとして、その人物が僕に話しに来ない限り