真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第十四話
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〜聖side〜

 

 

 

華雄と音流が袁紹、袁術軍に飛び込むと、戦場には大勢の悲鳴が木霊する。

 

準備が出来ていなかった両軍は、華雄と音流によってまさに鎧袖一触の如く吹き飛ばされ、後にはまるで竜巻でも通ったかのような凄惨な状況が広がっていた。

 

そんな人為的に作られた道を、一刀の部隊が確実な道として作り上げ、敵の軍は徐々に二分されつつある。

 

後は時間を稼ぐことに徹すれば、この作戦は問題なく進むだろう。

 

ともすれば、俺は俺の仕事に従事するとしようではないか。

 

 

「………こうして、戦場で敵として顔を合わすのは初めてだったかな??」

 

「………はい。初めてだと思います。」

 

「………俺の実力は知っているよな??」

 

「………知ってるのだ。でも、今回は負けないのだ!!」

 

「………どうやら、退いてくれって言っても聞いてもらえそうに無いな。」

 

「………桃香様のご命令に背く訳にはいきませんからな…。聖殿、いざ尋常に勝負!!!!」

 

 

戦場の中であるというのに、お互いの声は驚くほどしっかりと聞こえる。

 

今俺の目の前には劉備軍が誇る三大戦力、美髪公関羽と燕人張飛、常山の昇り龍こと趙雲の三名が各々の武器を構えて対峙している。

 

なるべくなら、この三人を相手にするというのは避けておきたい事態であったが、こればかりは仕方ないか…。

 

ゆっくりと愛刀を構えれば、それだけで戦場の空気がより一段と重いものに変わった気がした。

 

 

「………ならば………来い!!!!!  己が正義をその武にして俺に示して見せろ!!!!!」

 

「………行きます!!!!!  はぁぁぁあああああ!!!!!!!!」

 

 

気合と共に踏み込んで、横薙ぎを振るう愛紗。

 

 

「ふっ!!」

 

「逃がさないのだ!!!! うりゃうりゃうりゃぁあ!!!!!」

 

 

愛紗の一撃をバックステップでかわすと、今度は右側から鈴々が矛を蛇のようにうねらせての三段突き。

 

 

「よっ!! ほっ!! はっ!!」

 

「聖殿、お覚悟!!!! はい!!はい!!はい〜!!!!!」

 

 

三段突きを体捌きでかわすと、直ぐに後ろから今度は星が高速の三段突きを放ってくる。

 

 

キン!!!!! キン!!!!! キン!!!!!

 

 

その全てを刀の腹で捌いて再度彼女たちと距離をとる。

 

流石に歴史に名を残す程の名将たちである。彼女たち一人一人が万夫不当の猛者であり、少しでも気を抜けばやられるのは自明の理。

 

さてさて、彼女たち相手にどれだけ時間を稼げるのやら………。

 

 

「………気でも振れたか、聖殿?? このような状況で笑うなど……。」

 

「おやっ……。武人ならこの状況を楽しまずしてどうする……。」

 

「ほう……。我ら三人を相手にして楽しいとは……どれほど余裕なのですかな…??」

 

「余裕なんて無いさ…。手一杯すぎて気を抜いたらやられそうだよ……。でも、こんな状況だからこそ、自分の限界が知れる気がして楽しいんだよ…。」

 

 

彼女たち相手にしばらく戦うには……あれしかないか…。

 

 

「さぁ、次からは俺も本気で行くぜ?? せいぜいやられないようにしてくれよ??」

 

 

そう言って腰を落とし、息を一つ深く吐き出すと、腰の刀に手をかざすようにして待ち構える。

 

所謂、居合いの格好である。

 

 

 

 

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〜愛紗side〜

 

 

聖殿が構えを変えた。

 

そう、あの構えは前に戦ったときに見た、高速で斬撃を繰り出す型だ。

 

射程に入れば斬撃が飛んでくるような、その様な錯覚に陥るほど剣速は早く、見切るのは不可能に思える。

 

 

「むっ……。聖殿が纏う空気が変わった??」

 

「気をつけろよ、星。隙あらば斬撃が飛んでくるぞ。」

 

「ほう……。それはまた可笑しなことを言う…。斬撃が飛ぶとは……。」

 

「……口で説明するより、実際に味わった方が良くわかる…。」

 

 

偃月刀を握る手に力が入る。

 

私の纏う空気が変わったのを感じてか、鈴々も星もより一層の集中を見せているように感じる。

 

場は膠着状態になり、誰一人として動こうとしない。

 

いや、動けないと言うのが正しいか…。

 

一瞬でも隙があれば、その瞬間に決着がつく。

 

お互いにそれが分かってるからこそ、どちらも動くことが出来ない。

 

拮抗したこの睨み合いは危ういバランスの上で成り立っているのだった。

 

 

 

しかし、これは聖にとっては都合が良く、彼女たち三人にとっては都合が悪い。

 

聖としては、この三人に勝つことが目的ではなく、あくまで時間稼ぎが出来れば良いだけである。

 

それならば、今のこの膠着状態は望むところ。

 

しかし、彼女達の目的はあくまで袁紹軍、袁術軍の救援である。

 

目的がその先にあるのだから早く進軍しなくてはいけないのだが、その前に立ちはだかる聖に足止めされている状況が都合が良いわけがない。

 

両者の心持の面で、圧倒的に聖の方が有利なのであった。

 

 

「どうした? 来ないのか? 俺としてはこのまま睨み合ってても良いんだぜ。」

 

「くっ……。このままでは埒が明かない……。鈴々、星、私が初めに飛び込むから、二人は追撃をしてくれ!!!」

 

「「分かったのだ。(承知した。)」」

 

「よしっ!!! はぁぁぁあああああ!!!!!!!」

 

 

全力の踏み込みで一気に聖殿との距離を詰め、あと少しで偃月刀の間合いに入るというまさにその瞬間、

 

 

「っ!!!???」

 

 

ぞわりとした奇妙で気持ちの悪い感覚が右の脇腹を襲い、咄嗟にその場所に偃月刀をかざす。

 

 

ガキンッ!!!!!!!!!!

 

 

その瞬間、全力での踏み込みの突進力を相殺するほどの衝撃が偃月刀に走り、危うく愛刀を落としそうになるところだった。

 

しかしそれが聖の攻撃だと分かると、今なら攻撃後の隙を狙えると愛紗は考えた。

 

 

「今だ!! 鈴々!! 星!!」

 

「うりゃぁあああ!!!!!!!!」

 

「はぁぁぁああああ!!!!!!!!」

 

 

私の後ろ側から飛び出した二人が、聖殿の左右から攻撃を仕掛ける。

 

一度に二方向からの攻撃なら、流石に避けざる負えまい。

 

 

「…………甘いな…。」

 

「なにっ……ぐっ!!!???」

 

「うにゃっ!!!???」

 

 

二人の武器が各々の間合いに入ったその瞬間、先ほどの私の時と同様に、二人が武器を立てたかと思えば、鈍く金属がぶつかり合う音が木霊し、その衝撃で二人は後方に弾き飛ばされた。

 

二人同時でも駄目か……ならば今度は三人同時に攻撃するまで!!!

 

 

「鈴々、星。三人同時に仕掛けるぞ!!!!!!」

 

「「「はぁぁぁああああああ!!!!!!!」」」

 

 

今度は三方向別々の角度からの攻撃。

 

これなら、死角となっている方向が必ず存在し、防ぐことは不可能なはず!!!!

 

 

「………………すぅ〜…ふぅ〜………はぁぁああ!!!!!」

 

 

キンッ!!!!!!!!!!!!!

 

 

「なっ!!?」

 

「にゃっ!!?」

 

「一体何が!!?」

 

 

聖殿が気合をあげたその瞬間、私たちの持っていた武器は次の瞬間には後方へとはじけ飛んでおり、私たちはただただ驚くしか出来なかった。

 

 

何故なら、今何が起こって何が原因で私たちの武器が吹き飛んだのか……これについて誰も分からなかったのだから……。

 

 

気がつけば、三人とも脱力して地面に座っていたのだった。

 

 

 

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〜聖side〜

 

 

ふぅ……。これで、劉備軍の進軍は止まる。

 

時間稼ぎは十分出来ているはずだが、まだ撤退の合図はないな……もう少し、時間を稼ぐか……??

 

 

そんなことを考えていると、愛紗たちの軍の後方から砂塵を上げてくる劉備軍本隊が見える。

 

あの動きも止めなければならないが…………ここは一つ、桃香自身の心を揺さぶりにいってみるか…。

 

 

「愛紗ちゃん!!!! 鈴々ちゃん!!!! 星ちゃん!!!! 大丈夫!!!!???」

 

「桃香様!!?? ここは危険です!!!! お下がりください!!!!!」

 

「そうなのだ、お姉ちゃん。ここは鈴々たちに任せるのだ!!!!」

 

 

総大将だというのに、桃香は愛紗や鈴々、星といった仲間の心配をしに前線までやって来ている。

 

まぁ、そこは桃香の良さでもあるのだが、それは時として危険なものであることを理解してもらうのと同時に、自分の守れる人の範囲を知ってもらおうか…。

 

 

「劉備よ!!! 前線まで出てきて結構なことだが、既に勝負は決している!!! このまま退け!!!! 退かねば、貴様を討つ!!!!!」

 

「嫌です!!!! 今目の前で散っていく命を見て、黙って見過ごすなんて出来ません!!」

 

「…………自分の軍以外であっても、それは出来ないというのだな??」

 

「はい!!! その通りです!!!!」

 

「…………甘いな。」

 

「甘いと言われようとも、見過ごすことなんて出来ません。」

 

「そうか……。であるならば、我自身の手で貴様を葬ってしんぜよう!!!!!」

 

 

 

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〜桃香side〜

 

 

一瞬、聖さんが二重に見えた気がしたが気のせいかもしれない。

 

 

私が駆けつけたときには、愛紗ちゃんたちの武器は地面に突き刺さり、三人とも膝を地面につけた形で座っていてその前に聖さんが立っていた。

 

聖さんが強いのは知っていましたが、まさか三人がかりでも勝てないとは思っていなかったので驚きが隠せません。

 

しかし、今ここで時間を稼がれては袁紹、袁術軍の被害は増すばかり……。

 

早く救援に行かなければ……。

 

 

「そうか……。であるならば、我自身の手で貴様を葬ってしんぜよう!!!!!」

 

 

ゆっくりと歩き出す聖さんに対して、私は腰に佩いていた剣を構えるが、膝はガクガク震えているし、心臓も動悸が治まらない。

 

端から聖さんに勝てるわけがないことは分かっているが、せめて意地だけでも見せてやるつもりだった。

 

だが、どうやら体は正直らしく、恐怖に震えていた。

 

 

「………ほう。武器を持たずしても、自分らの主人を守る盾になろうとするか……。」

 

 

すると、座っていた愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、星ちゃんの三人が私と聖さんの間に割って入る。

 

 

「我等は桃香様を守るために居るのだ。この身を捧げようとも我が主人を守る!!!!」

 

「殊勝な心掛けよ…。劉備よ。知るがいい。お前の甘さ故に、自分の仲間が死ぬことの恐怖を痛みをそして絶望を!!!!」

 

 

聖さんはそう言うと持っていた剣を頭上に翳す。

 

その瞬間、途轍もない恐怖と嫌な予感に支配される私の体。

 

先ほどの彼の言葉がそのままの意味だというなら………。

 

 

「まっ……待って!!!!!!」

 

「………もう遅い……。」

 

 

ズドッ!!!!!!!!!

 

 

目の前にいた愛紗ちゃんの体は、ひじりさんによって真っ二つに分断されたのだった。

 

吹き出る赤い液体が私の視界を真っ赤に染め上げていく。

 

果たしてこれは夢か幻か………そんな淡い期待も、締め付けられるような胸の痛みによって現実だと告げられる。

 

 

「いやぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!!  愛紗ちゃゃぁぁあん!!!!!!!」

 

 

ズドッ!!!!!!!!! ズドッ!!!!!!!!!

 

 

私が絶叫を上げる中、聖さんは無表情にもそのまま剣を振りぬき、残りの二人の体も真っ二つに切り裂く。

 

目の前には、ついさっきまで話していた私の仲間三人が無残な姿で転がっていた………。

 

 

「そんな…………三人とも………。」

 

「どうした劉備よ!!!!! 貴様は怒りを感じないのか!!!? 自分の仲間を殺されて何も感じぬのか!!!? 怒りを感じるならその怒りを我にぶつけてみよ!!!!」

 

 

ギリッ!!!!!

 

 

剣を持つ手に力が入る。

 

 

「うわぁぁぁあああああ!!!!!!!」

 

 

感情のまま思いっきり剣を振るが、聖さんは身を少し捻るだけでその攻撃をかわしてみせる。

 

 

「どうした?? それで終わりか??」

 

「あああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 

それから何度も剣を振るうが、一向に当たる気配はない。

 

勿論それは分かっていたことだが、それでも殺された三人のためにも、仇は取りたかった。

 

 

「よくも………よくも愛紗ちゃんたちを!!!!!!!!!!」

 

「…………。」

 

 

ブン!!!!!!!!

 

 

大振りした剣は空を切り、バランスを崩した私はそのまま地面に倒れこむ。

 

駄目だ……私は、仲間の仇も取れないほど弱い人間だった……。

 

 

「…………良いか。 自分の力を過信するな…。自分の出来る範囲で自分の守れる最低限の人を守れるようになってこそ、多くの人を守れるようになるんだ……。」

 

 

パチン!!!!!!!!

 

 

音と共に世界が崩れ始め、先ほどまで見ていた景色とほぼ同じ景色が新たに見えてくる。

 

但し大きく違うのは、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、星ちゃんがその身に傷無く生きていることだった。

 

 

「愛紗ちゃん!!!! 鈴々ちゃん!!!! 星ちゃん!!!!!!」

 

 

嬉しくて彼女達に抱きつく私に対して、三人は何が起こったのか分からないという表情をしている。

 

 

「……今のは…一体……??」

 

「……鈴々たち…聖兄ちゃんに……。」

 

「身体を二分にされた……はずだった……。」

 

 

答えを求めるように三人とも目線を聖に向ける。

 

彼はそれに気付くと、目線を彼女達ではなく私に向ける。

 

 

「今回は忠告程度だ。だがもし、次回があればその時は容赦しない。その時までに自分の無力さ、自分の守れる限界を知り、どうすれば多くの人を救えるのか、もう一度良く考えるんだな……。」

 

 

今回の事で自分の無力さは余計に感じられた…。多くの人を守りたいけどそのために目の前の人を守れなくなるのはもっと駄目だと思った……。じゃあ、どうすれば多くの人を守れるのか…力を得るためには何が必要なのか……。

彼は今回私に問題提議してくれたのかもしれない…。

 

 

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弓史に一生  第九章 第十四話     己が限界   END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後書きです。

 

第九章第十四話です。

 

第九章に関しては中々に区切りが無くどうしても長い章になってしまいますが、ご了承ください。

 

 

今話で自分達の力の限界を知った桃香。

 

果たして彼女達は今後どうなっていくのか……。

 

 

それにしても、関羽、張飛、趙雲を一人で相手取る聖さん強い…。

 

しかも、互角というより圧倒してますからね……。

 

その強さはまさに呂布並です。

 

 

 

次話の投降ですが、予定はまた日曜日に……。

 

出来なければその次の日曜日に投降するつもりですので、お待ちください。

 

それでは、また次話で〜!!!!!!!!

 

 

説明
どうも、新年あけましておめでとうございます。作者のkikkomanです。

新年から一週間以上空いての今年一発目の投降になってしまってすいません。そして、更に申し訳ないことに、今年は投降ペースが更に遅くなるやも知れません…。

出来る限り事前に分かり次第何時ぐらいになるかは記載していくつもりですので、どうかよろしくお願いします。
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コメント
>nakuさん  コメントありがとうございます。怪我させて戦線後退も良いかなと思ったんですが、作者のお情けにより桃香たちにはこの戦場で成長していって欲しいためにまだ戦線に残ってます。(kikkoman)
>Kyogo2012さん  コメントありがとうございます。己の限界を知ることで人は強くなれますから、今後に期待ですね。月たちは……端から行き先は決まってますけどねww(kikkoman)
うむ。己の限界を自覚してない劉備たちはダメダメだな。そんな劉備たちに月たちを任せられるわけがない。と思う。(Kyogo2012)
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