〜恋姫†無双〜 長江の江賊・後編
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「数日ぶりだな。孫堅。」

 

「ふふ、元気してた?」

 

孫堅軍本陣。

 

周りは孫堅の兵達で囲まれており、甘轟は例えるならば袋の鼠だと、兵たちは思う。

 

実際は袋の鼠だとと言う生易しいものでは無く、袋を今にも破りかねない、巨体で猛毒を持つ大蛇、といった感じであった。

 

その為、兵たちは甘轟の威圧感に耐えられず、冷や汗を垂らす。

 

しかし、剣を下ろさず構え続ける、その姿はまさに孫家の誇るべき兵の姿だった。

 

「もー、あの後、貴方が逃げちゃったから、あの夜は(冥琳に鞭で叩きまくられて)寝れなかったのよ?」

 

孫堅は年に似合わず、頬を膨らまし、ブーと唸る。

 

甘轟は懐から煙草と火打石をを取り出し、煙草を口に咥え、火を付ける。

 

兵たちは甘轟が懐に手を入れた時に、一瞬ビクッとなったが、甘轟と向き合って立つ孫堅の姿から学び、もとの構えの体制に戻る。

 

「知ったこっちゃないな。アンタが不眠症になろうと俺は毎日グッスリと眠らせてもらってる。BBAだから小皺とかの悩みのせいで早く眠れないだけだろ?」

 

今度は火打石を捨てず懐にしまい、孫堅をバカにするように、煙草を堪能しながら言う。

 

甘轟の曲刀は腰の鞘に仕舞われ、遠くでは剣と剣、武器と武器がぶつかり合う、戦場独特の音が響いていた。

 

「ふぅーん。そんな風に言うんだ。もう怒った。私の床に連れてって、調教してやる。」

 

孫堅は腰元の南海覇王を抜く。

 

「残念。俺は調教されるより、する側なんでね。特に興覇ちゃんとか、興覇たんとか、興覇にゃんとかを。」

 

甘轟は腰元の曲刀を抜く。

 

呂布と互角の孫堅。

 

江賊最強の甘寧。

 

彼らの激突は歴史上でも数少ない激戦となるであろう。

 

 

 

 

 

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一瞬。

 

その単位の速さの剣が孫権を襲う。

 

何処からともなく、剣が鋭く振るわれ、そのたびに致命傷とまではいかないが、確実に孫権の体に傷を負わせていく。

 

孫権も反撃の為に剣を振るうが、軽く躱され、追撃が迫る。

 

孫権も決して弱くは無い。

 

孫家の血は確実に流れており、天性の武の才があった。

 

だが、いかんせん経験が浅かった。

 

孫堅や孫策のように百戦錬磨とはいかず、今回が初陣。

 

今までは話を聞かされたり、訓練をしたり、せいぜいそれくらいの事しか出来ていない。

 

それに比べ、甘寧は経験など豊富に決まっていた。

 

子供の頃はともかく、江賊として今まで兄と共に、戦ってきたのだ。

 

目の前で仲間が死ぬこともあったし、人を殺したこともある。

 

今更たった一人の命を奪っても、それほど重荷にはならない。

 

が、甘寧は躊躇っていた。

 

目の前でボロボロになっていく、孫権。

 

彼女は……いや、彼女も甘寧と同じで、置いて行かれたくないと、同じ高みへと昇りたいと考える人がいた。

 

甘寧は戦闘の経験は豊富だ。

 

しかし、甘轟のあまりの過保護により、他人というのは江賊以外会ったことが無かった。

 

故に、目の前の孫権に対し、躊躇いを覚えた。

 

攻めきれず、かといって攻撃を止めるわけにもいかず。

 

同じ境遇の他人。

 

自軍の勝利への貢献。

 

それが今、天秤の上で揺れ始めていた。

 

 

 

 

 

 

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「ほらほら、どうしたどうしたぁ!!先ほどの勢いが嘘のようじゃぞ!!」

 

「むぅっ!?こんな状態でさっきみたいに戦ったら、すぐに死ぬっす!!」

 

錦帆賊副長張承は、孫家の家臣の中で最も武という文字を背負っている黄蓋に対し、防戦一方の戦いを繰り広げていた。

 

黄蓋から放たれる神速の矢は、的確に眉間、喉、心臓を狙い、時に目や手へ放たれ、少しでも油断すれば、この一騎打ちで不利になる傷を負わされるのは確実だった。

 

張承の鎖は右往左往し、黄蓋から放たれる矢を弾く。

 

時に、分銅や棘のついた鉄球の両端の威力の高い攻撃を狙うが、軽々と躱され、次の矢が放たれる。

 

この戦いは、明らかに孫権と甘寧の戦いを上回っており、武で誇れる者同士の対決。

 

一歩間違えれば死。

 

そんなギリギリの戦い。

 

当然、黄蓋の方も人の頭ほどある分銅や棘付き鉄球が、体のどこかに当たれば無事では済まない。

 

頭に当たれば間違いなく死ぬ。

 

どちらとも油断できず、どちらとも死んでもおかしくない戦いだった。

 

「はぁっ!!っす!!」

 

鎖は波を打ち、矢を弾き、気を纏い、黄蓋へ襲いかかる。

 

矢は鎖を弾き、神速の速さで、気を纏い、張承へ襲いかかる。

 

防戦一方に見えても、ほぼ互角の勝負。

 

どちらが勝利を掴むのか。

 

それはまだ見えない答えだった。

 

 

 

 

 

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甘寧の両親は山賊に殺された。

 

突然、村に降りてきた山賊により、蹂躙、強姦、虐殺、体の原型が残らない程に殺し、村の全ての家を焼き払った。

 

甘寧が生き残ったのはまさに奇跡。

 

山賊は村の周辺の山で一番の山賊で、軍さえも討伐をしきることが出来ず、その結果が最悪の物として村に降りかかった。

 

甘轟は生まれて初めて涙を流した。

 

近所のガキ大将との喧嘩で殴られても泣かず、税のせいで裕福で無く、生きていくのが辛いほどの家で、空腹でも自分を押し殺し、少しでも家族に自分の分を分けた。

 

甘寧が生まれてからは、江賊に入り、金や食料をこっそりと村に持っていったりした。

 

両親は当然注意はするのだが、どうしても欲に負け、その食料を口にする。

 

村を仕切る将も、税に夢中でまるで気づかず、山賊が現れるまでは平和そのものだった。

 

しかし、平和という物はすぐに壊れる割物。

 

甘轟も、長江より大急ぎで村に帰ると、村は既に火の海。

 

山賊が跋扈し、村の生き残りを殺し、高笑いし、酒を口に含む。

 

真っ先に山賊と戦い、死にかけの両親の元へと走る。

 

甘轟は激怒し、山賊を殺した。

 

怒りに任せ、戦った結果、そこには家の燃え跡と村人か山賊か分からない死体のみ。

 

呆然と立ち尽くしていた。

 

そんな時、どこからか人の泣く声が聞こえた。

 

甘寧だった。

 

一目で分かる。

 

当時から、家族や村の者と親しく接してきた甘轟が、自分の妹を分からないわけがない。

 

身体全体で包み込むように、体中汚れた幼い甘寧を抱きかかえ、涙を流した。

 

「ごめんな。」

 

謝罪しか出ず、絶望した。

 

甘寧に対して、他に何と言って良いのかわからなかった。

 

今は死体となった村の者に何と言って良いのかわからなかった。

 

甘轟はそれ以来、甘寧に対し過保護になり、甘寧にはごく少数の戦にしか出させなかった。

 

甘寧自信は、自分は様々な戦をしたと思っているのだが、それは錦帆賊の戦の半分にもなっておらず、甘寧にばれずに戦をし、勝利し、自分を誤魔化していた。

 

「ごめんな。」

 

甘寧が甘轟との修行で寝付いた後に、必ず呟く言葉。

 

甘轟は甘寧に対し、謝罪しかできない。

 

村の事。

 

差の事。

 

孤独の事。

 

そして、兄が江賊だという事。

 

あの村で、両親や村の者と共に過ごし、時に恋をし、時に泣き、時に笑う。

 

そんな生活を送って欲しかった。

 

謝罪にならない謝罪。

 

ただただ呟く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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甘轟から放たれる恐ろしい速さの曲刀。

 

それは、蛇のようにうねり、孫堅の命を奪おうとする大蛇。

 

「なるほどね。それが長江の大蛇の由来かぁ。すっごい速さで振るわれる曲刀が蛇みたいに見える、いやー、上手く言うわね。」

 

孫堅も以前の夜は、この曲刀を持っていない甘轟と戦い、勝利していた。

 

普通なら油断するが、油断しないのは戦慣れしているとしか言いようがない。

 

油断は死を招き、勝利は油断を招く。

 

戦慣れした者ならば、それを断ち切る。

 

油断などはしない。

 

故に、強者と呼ばれる。

 

「随分、余裕がなくなったんじゃあないのかい?」

 

「冗談。楽しくて、疼いてきただけよ。こんな戦いが出来るのなんて、大陸を探してもそうそういないわ。」

 

「良い評価してくれるじゃないか。だったら希望に答えないとなぁ!!」

 

「上等!!」

 

甘轟は片手で振るっていた、曲刀を両手で持ち、上段に構える。

 

孫堅は、甘轟の次の攻撃への隙を攻撃しようとするが、甘轟は見事な足捌きでそれを躱し、曲刀へと気を流し込む。

 

「冥途の土産に受け取れぇ!!!」

 

気を限界まで込めた曲刀を大きく、孫堅に向かって振るう。

 

南海覇王で受けきろうとした孫堅の直感が、危機を知らせる。

 

『ニゲロ、カワセ』

 

直感に従い、ギリギリのところで後ろに下がる。

 

地面へと振るわれた曲刀は、そのまま地面に触れると、気が一気に曲刀から円状に360度弾け飛ぶ。

 

大地は割れ、砂埃を巻き上げる。

 

後ろに下がった孫堅にも当然ダメージが行き、大きく吹っ飛ぶ。

 

周辺にいた兵もその気の衝撃に吹き飛ぶ。

 

大蛇と呼ばれる由縁。

 

先ほど、孫堅が言ったこともそうだが、実際はこの技により、命名された。

 

蛇が獲物に齧りつく。

 

鋭い牙で、固い皮膚を突き破り、肉まで到達する。

 

当たればどんな人間でも致命傷は確実な一撃必殺。

 

蛇の牙と気を込めた曲刀。

 

固い皮膚と固い敵の守り。

 

大蛇と甘轟。

 

獲物と敵。

 

戦場に響き渡る轟音は、勝利を告げる銅鑼といったところだった。

 

孫堅は命からがら躱したが、全身に切り傷が出来、周辺の兵士の殆どが死亡。

 

まるで爆弾が投下されたような、風景の真ん中に立つ甘轟。

 

更に曲刀を構え、孫堅を見る。

 

「ビビったか?孫堅。」

 

甘轟は孫堅を挑発するように口の片端を上げる。

 

全身の至る所から血を流し、尻もちをついていた孫堅はゆっくりと起きる。

 

その表情は、最高に楽しそうで、口の両端は上がりきっていた。

 

「最っ高!!すっごい面白いわ!!甘轟、真名を教えなさい!!」

 

甘轟をビシッと指差し、大声で言う。

 

「真名ぁ?でもなぁ。」

 

「私の真名は清蓮よ!!」

 

「まだ交換するって言ってないだろうが!!」

 

「もう決定してるのよ!!さっさと教えなさい!!」

 

甘轟は困った顔でターバンの上から頭を掻く。

 

「むぅ、これは興覇ちゃんにあげるつもりだったんだが……。まぁいいか、俺の真名は『思春』だ!!」

 

「へぇ、良い真名じゃない。」

 

「清蓮に言われなくても分かってるさ。」

 

「ふふ、ねぇ。私たち結婚しない?」

 

「死ね!!」

 

「なんでよ!!」

 

「寝取りなんて興味ないし、熟女も興味ないんでね。俺は興覇ちゃん一択。興覇ちゃんルート確定だからだ!!」

 

「るーと?なんか良く分からないこと言って誤魔化そうとしてるわね!!とにかく、生け捕りにして、搾り取って、服従させてやる!!」

 

「ほざけ!!」

 

 

 

 

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遠くで響く轟音。

 

それは甘轟と孫堅の戦う場所。

 

孫家の本陣から響いていた。

 

「母様!?」「兄上!?」

 

同時に驚く孫権と甘寧。

 

そのタイミングは全くの同時で、まるでベテランのお笑いのコントのように息があっていた。

 

「「あ」」

 

我に返るタイミングも同時。

 

二人はあまりの恥ずかしさに頬を染め、伏せる。

 

もしも、ここに甘轟が居たのならば、間違いなく甘寧に抱き着き、ここに孫堅が居たのならば、間違いなく孫権はからかわれていただろう。

 

しかし、今は戦闘中。

 

孫権も甘寧も剣を再び構えなおす。

 

孫権の方は既に満身創痍で、剣を構えるのがやっとだった。

 

一体誰が見ても甘寧の方が有利。

 

だが、心情の中では孫権の方が優位に立った。

 

孫権は「母様も戦っている。ならば私も戦う。」という心情だった。

 

それに対する甘寧は「兄上が心配で仕方がない。」という心情。

 

心情のみで言えば、どちらが有利かは圧倒的。

 

更に、甘寧はすでに相手が疲労していると油断していた。

 

孫権は油断などする暇もなく、常に真剣に戦いに向かっていた。

 

心技体。

 

戦、武道等で用いられるこの言葉。

 

技と体の有利を取っている甘寧には、油断という爆弾。

 

心の有利を取る孫権には、母も戦っているという鼓舞。

 

今、互角となり、勝負は分からなくなる。

 

「はぁっ!!」

 

孫権は残った力を剣に乗せ、甘寧に振るう。

 

「っ!?」

 

ギリギリ対応する甘寧だが、予想以上の力で押し切られる。

 

孫権はこれで決めると言わんばかりに、必死に、そして母と姉の幻影を追い、勝利を得ようと貪欲になる。

 

必死というのは、考えて出せるものでは無い。

 

本当に気絶してしまう寸前。

 

死んでしまう寸前に出せる力。

 

火事場の馬鹿力などと同じで、脳のリミッターが外れる。

 

予想もできないほどの力を出すことが出来る。

 

当然だ。

 

死ぬか気絶するかの寸前なのだから。

 

そんなギリギリまで戦う勇気のある人間に対し、何の幸せも無しに敗北するなど、あってはならない。

 

どんなに力の差のある者でも、寸前まで戦えば、億の一勝てる未来があるかもしれない。

 

それを信じる者にこそやってくるのが勝利。

 

理解している者にこそ分かる言葉の重み。

 

そして、重みの分かる者にこそ与えられるべき勝利。

 

それを孫権は掴んだのだった。

 

甘寧の背中は地面と接し、剣は遥か後方。

 

首の寸前には孫権の剣。

 

甘寧は息切れをしておらず、孫権は肩で息をして、ボロボロの状態。

 

しかし、掴んだ勝利だった。

 

「……殺せ。」

 

「……。」

 

「私は兄上には到底及ばない人間だった。所詮、油断し死ぬ人間だ。だから……殺せ。」

 

「……。」

 

「無理だった。あの人に近づくなんてことは。私には荷が重すぎた。……殺してくれ。」

 

「逃げるの?」

 

「……なんだと?」

 

「あの時の貴女は、私と同じに見えた。誰かを追い、誰かに近づきたく、誰かに置いて行かれたくない。そんな風に思った。」

 

「……あぁ、私は兄上に追いつきたい。近付きたい。置いて行かれたくない。同じ血が通っているのだと証明したい。」

 

「だったら、なぜここで殺せなんて言えるの?」

 

「私は負けた。しかも、油断してだ。未熟にも程がある。このまま生きていても兄上には――」

 

「逃げてるじゃない。」

 

「逃げてなどいない。」

 

「いや、貴女は逃げているわ。」

 

「……。」

 

「血縁者との差を縮めたいのに、負けた時分にはもう無理だから殺してくれ。これを逃げると言わずに何というの?」

 

「……。」

 

「私も姉と母に追いつきたい。だから、私は貴女に負けていても、命乞いをするわ。絶対に追いつくと誓ったのだから。恥を掻いても必ず生きる。」

 

「……。」

 

「貴女、真名は?」

 

「……無い。」

 

「……そう。私の真名は蓮華よ。」

 

「しかし、私には真名もないし、受け取る理由さえ……。」

 

「そんなの関係ないわ。甘寧、私に武を教えてちょうだい。」

 

孫権はそう言うと、剣を甘寧の首から退かす。

 

「なっ!?」

 

「貴女は確実に私より強いわ。貴女が兄を目指さずここで死にたいというのならば、私にその力を頂戴。」

 

孫権は剣の代わりに、手を甘寧の方に向かって伸ばす。

 

「……。」

 

「貴女はここで死んでは駄目な気がするの。」

 

「……なぜ、そのような事が言える?」

 

「ふふっ、なんでかしら。姉様や母様と同じ『勘』なのかもしれないわ。」

 

「勘……か。」

 

「えぇ。それで、貴女は受けてくれるのかしら?」

 

「……目が覚めた。私はやっぱり兄を追いたい。だから武を教えると言っても時々だけだぞ。……これから宜しく頼む。蓮華。」

 

孫権の手を握る甘寧。

 

「ええ、こちらこそ。甘寧。」

 

 

 

 

 

 

 

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孫家側本陣

 

そこには地面に仰向けに倒れる一人の女性と、曲刀を支えに立っている男が一人。

 

孫家側総大将孫堅と錦帆賊頭領甘轟。

 

互いに全身から血を流し、辺りには孫家の兵の死体。

 

地面は抉れ、罅が入っている。

 

「あーあ、負けちゃった。」

 

大の字で空を見上げる孫堅はそう呟く。

 

「別にあんたは負けちゃいねぇよ。」

 

口からは血を流し、やっとのことで甘轟は喋る。

 

「負けちゃったから、貴方のあの時のお願い訊いてあげるわ。」

 

「ふふ、なかなか太っ腹じゃないか清蓮さんよぉ。」

 

「ぶー、太っ腹とか女の子に言う台詞じゃないぞー!!」

 

「女の子……?」

 

「殺す!!絶対殺す!!」

 

「動けないくせに、何を言ってやがる。」

 

「だって、思春がそんなこと言うから悪いんじゃない。」

 

「あぁ、はいはい。悪かった、悪かった。」

 

「適当ねぇー。」

 

「俺は何時でも適当さ。」

 

孫堅と甘轟が笑い合っていると、遠くから甘寧と孫権がやってくる。

 

「母様ー!!」「兄上ー!!」

 

互いに大きな声で呼ばれている事に笑う。

 

「ははっ、全くウチの娘は。」

 

「はっははぁ、興覇ちゃんを見れば元気百倍だぜ。んじゃ、最期に幕を下ろす役は任せてもらうぞ?」

 

「……ねぇ、本当にやるの?」

 

「当たり前だ。俺は今まで、興覇ちゃんの枷にしかなってなかった。俺が居たら興覇ちゃんは一生過去に囚われる。そんな人生、つまんねぇだろう?」

 

「……本当に、貴方っていい男ね。」

 

「惚れんなよ。俺は生きていても、死んでも興覇ちゃん一択なんでね。」

 

「……惚れるに決まってんじゃない。」

 

「はっははぁ、俺って本当に罪な男だ。」

 

「……まったくよ。死刑じゃ生ぬるいくらい。」

 

「今回はそれで勘弁してくれ。他の刑だと俺は俺じゃなくなっちまう。」

 

「……私って男運無いわね。」

 

「全くだな。」

 

急いで近づいてきた二人が互いに、互いの元へと近付く。

 

「兄上、大丈夫ですか。」

 

甘寧は甘轟の体を支える。

 

「なぁ、興覇ちゃん。」

 

「ん、なんですか?」

 

「一生に一度の願い。さっきのノーカンで、今からのが本物な。ちょっと離れとけ。」

 

「何を言って……?」

 

 

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その瞬間

 

甘轟は地面に突きさしていた曲刀を引き抜くと

 

甘寧の前で自分の胸のあたりに曲刀を勢いよく突き刺した。

 

 

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「え?」

 

甘轟の胸から血が噴き出し、地面を赤く染めていく。

 

そのままゆっくりと仰向けに倒れる。

 

「あ、兄上!?」

 

甘寧はすぐに傍に近づき、曲刀の傷を手当てしようとアレコレ考える。

 

孫堅の方では、孫権が衛生兵を呼ぼうとしていたが、孫堅がそれを止める。

 

「はっははぁ、やっぱ痛いなぁ。」

 

青空を見続ける甘轟はそう呟く。

 

甘寧の顔色は真っ青に染まり、目の端からは大量の涙があふれ出ている。

 

「女の子がんな顔するもんじゃねぇよ。」

 

ゆっくりと片手を動かし、甘寧の真っ青の顔に触れ、涙に触れる。

 

「兄上、喋らないでください。」

 

「興覇ちゃん。一生に一度のお願いだ。俺を死なせてくれ。」

 

「喋らない…で……。お願いだから。そんなこと言わないで……。」

 

「興覇ちゃん、村の真実を教えてやる。なんで、村が山賊に襲われたのか。それは全部俺のせいなのさ。

 

昔、まだ村があった頃、俺は江賊の中でぐんぐん、出世していった。

 

仲間の中で最年少なのに、一番強くなって、仲間もたくさんできて……。」

 

「嫌、喋らないで。やめて……。」

 

「俺はな、当時の江賊の頭領の命令で、山賊を狩りに行ったのさ。

 

何人も何人も狩って、人として扱わずに、家畜を殺すように殺していた。

 

そこで何か仕返しをしようとした山賊が、村を襲った。

 

俺が興覇ちゃんを孤独にしちまったのさ。

 

気付いた時には既に村は火の海。

 

親父もおふくろも死んじまって、唯一生き残っていたのが興覇ちゃんだった。」

 

「いらない……。父親も母親もいらない。兄上が居てくれればいい。だから、死なないで。死なないでくれ!!」

 

「ごめんな。」

 

「っ!?」

 

「そんな興覇ちゃんに、二つのご褒美だ。本当はそこのに負けて死体から持って行って欲しかったんだけどな。」

 

「いらない。いらない。だから、謝らないで。死なないで。置いて行かないで。」

 

「勝手なことだとは分かってる。だけど、分かってくれ。」

 

「守ると約束した。絶対に死なせたりしない!!」

 

「それは江賊として死ぬ場合限定だ。今の俺はお前の愚鈍な兄として死のうとしている。」

 

「江賊は約束は絶対だろう!!」

 

「江賊はズルいのさ。しかも、嘘はついてないぜ?」

 

「ふざけないでくれ……。私は、友人を見つけた、紹介したい。一緒に孫家へ行こう。そこでまた一緒に暮らそう。」

 

「友人かぁ。良かったなぁ、興覇ちゃん。」

 

「生きて、紹介させてくれ。勝ち逃げなんて許さないぞ。私も兄上に近づくために、どんなことがあったとしても逃げないと決めたんだ。だから……。」

 

「ご褒美だ。俺の腹に刺さってる曲刀『鈴音(リンイン)』を持ってけ。気を込めないと鈴の音がするんだ。盗まれそうになったってわかる便利な物だ。」

 

「嫌だ。」

 

「あと、興覇ちゃんには両親から付けられた真名が無かったろ?だからな、俺の『思春』を使いな。俺にはちっと可愛過ぎて似合わないからなぁ。」

 

「嫌だ。嫌だ。」

 

「死ぬ直前っつーのは不思議なもんだ。まるで船に揺られてるみてえだ。」

 

「嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。」

 

「興覇ちゃん。」

 

「嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。」

 

「甘寧!!!!!」

 

「嫌だ!!聞きたくない!!」

 

「俺から逃げないって決めたんだろ?だったら、逃げようとしてるこの俺の最期を看取ってくれ。」

 

「ふざけたことを言わないでくれ!!何が最期だ!!」

 

「頼む。俺は錦帆賊の頭領として、あの世であいつらが迷わねえように指示してやらねぇといけないんだ。」

 

「嫌だ……。嫌だよ……。」

 

「張承だけだと不安だからな。俺が逝ってやんねぇとなぁ。」

 

「やめてくれ……。」

 

「もうそろそろ、ヤバいんだよ。分かってくれ。」

 

「……。」

 

「お前に悲しみしかあげられないお兄ちゃんで……ごめんな。」

 

「そんなことない。」

 

「ごめん…な……。」

 

「兄上は私に希望をくれた。幸せや幸福。孤独じゃないと教えてくれた。なにより、私よりも兄上の方が村の事は辛かったはずだ。なのに、私に気を使って……。」

 

「……。」

 

「ありがとう。兄上。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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数年後。

 

天より、天の御使いが現れ、大陸を統一するという物語が始まる。

 

甘轟という男の名は語られないし、甘寧や孫家の者は語らない。

 

満月の夜。

 

建業の城の外、すこし小高い丘の上。

 

甘轟と孫堅が酒を飲み、戦った場所。

 

そこに甘轟の墓があった。

 

墓の前には甘寧が立っている。

 

「兄上、もうすぐ魏との決戦が始まります。我々が依然住んでいた長江での決戦です。」

 

甘寧は話を続けていく。

 

暫くしてから墓の前にある杯に酒を注ぐ。

 

甘轟の好きだった酒をたっぷりと。

 

「昨日も話した通り、蓮華さまはガチガチに緊張しておられて、なんだか新鮮な感じです。そういえば、今更ですが、敬語を使うようにしているのです。似合いますでしょうか?」

 

甘寧は軽く笑う。

 

すると遠くから声が聞こえてきた。

 

「おーい、思春!!蓮華が呼んでるぞー!!」

 

「黙れ、北郷!!」

 

「えぇ!?」

 

「先に行っていろ!!」

 

甘寧は北郷と呼ばれた男に怒鳴る。

 

北郷はしぶしぶ戻って行くと、墓に向き直る。

 

「では、蓮華さまが呼んでいるので、そろそろ行ってまいります。」

 

甘寧は腰にある曲刀『鈴音』を抜く。

 

「各自は兵を一人でも多く殺せ!!命を奪え!!そして明日を生きろ!!我が錦帆賊!!ここに出陣するぞ!!!毎回出陣前には言っておられましたよね。すっかり覚えてしまったんです。兄上、私は今でも兄上を恨んでなどいません。しかし、兄上を忘れることは絶対にありません。」

 

曲刀を振るうとチリンチリンと鈴の音が鳴る。

 

「未だ気は少ししか使えません。しかし、この鈴の音が兄上の声のようにも聞こえます。だから、鈴の甘寧などと最近では呼ばれているんです。」

 

曲刀を鞘に戻し、笑う。

 

「名残惜しいですが、行ってきます。兄上。」

 

鞘に戻すときにもまた、鈴の音が鳴る。

 

「行ってこい。んで、また無事な顔を見せてくれよ。」

 

そう聞こえた気がした。

 

 

 

説明
ここに堂々と完結!!

しかし、なんだか締りが微妙?
ついつい感情移入すると泣いちゃいそうになっちゃう。だって作者だもん。
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コメント
ああ、ハイハイ。 分かりました。 「School Days」の彼ですか。 作品名も一緒でないとキャラの名前だけでは解らない物ですね。(劉邦柾棟)
劉邦柾棟さん School Daysで、検索検索ぅ!!(ぺぺぺ)
誠くんって、誰ですか?(劉邦柾棟)
劉邦柾棟さん 最近、一刀と誠くんが同列なのに気が付きました。一刀の方はライトな内容ですが、やってる事は誠くんより悪質な気も…。思春がそんなこと言ったら甘轟さんあの世でまた死んじゃうよ…。(ぺぺぺ)
というか、この世界の「ちちゅん(思春)」が一刀と一緒になる事は無いでしょう。 だって、「お兄ちゃん子」何ですから〜(笑) まあ、「私がお前を鍛えて立派な『婿』にしてやる」というならありえますけどね〜。(劉邦柾棟)
金球さん  あの世界では、男は所詮兵士どまりだから、男の中では一刀は天の御使いっていう看板もあるし、エリートなのか…な?まぁ、長江に沈不可避だけどね。(ぺぺぺ)
↓作者様ってば黒ーい……そこに痺れる薫陶させられる。一刀「浮気じゃないよ皆奥さんで皆好きだよ」、ち〇ぽこ輪切りにしませんか甘轟さん?。(禁玉⇒金球)
nakuさん 多分、孫堅さんの夫と一緒に胃を痛めてるんだろうなぁ。悲しむのならば悲しむようになる前に殺っちゃえばいいんですよぉ。(黒い笑み)(ぺぺぺ)
劉邦柾棟さん 甘轟「孫策には腹蹴り不可避」(ぺぺぺ)
bondさん う、浮気さえしなければ殺されないかも。まぁ、浮気しないわけがないだろうけど。(ぺぺぺ)
↓寧ろ、雪蓮が真っ先に殺されるでしょう。  だって、雪蓮が最初に「子を孕め」発言してるんですから(笑)(劉邦柾棟)
画面が霞みます(T_T)甘轟さんが生きていたら一刀はマジ殺されてるでしょうね(bond)
金球さん 今回の主人公は兄貴分をテーマに考えました。死神は狂人、ランスは少年。いつか、甘轟さん復活させたりしたいですね。(するとは言っていない。)(ぺぺぺ)
読んでいて珍しく鼻の奥がツンとしてしまった、甘轟さん貴方の妹さんは凛々しく成長しましたよそっちで見守っていて下さい、でも一刀はぬっ殺しても善いです。(禁玉⇒金球)
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