真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 22 |
黄巾の乱が終わってから、世界は一気に暗雲に包まれ始めた。黄巾が倒れた時、朝廷の力の衰えを周りに曝してしまったからだ。それを、野心を持った者たちが見逃すはずもない。不穏な動きがちらほらと見え始めているさなか、未だ弱小勢力(へたしたら弱小以下かも知れないが)の俺達はそれを関係ない話だろうなぁ、と思う余裕もなかった。
なぜなら、黄巾党の時の恩賞で平原というところの相、いわば知事のようなものに任命され、街を治めるという慣れぬ仕事に追われていたからだ。
「きょおっもたっのしい見回りだぁ〜」
「はぁ、ずいぶんとご機嫌だねぇ」
上機嫌で歩く劉備を見て思わず呟いてしまった。今日は俺と劉備で街の見回りをしていた。まぁ、俺自身としては気乗りしなかったのだが。
「だって、やっと乱も終わって皆が平和そうに暮らしているのを見たら、私たち、本当に頑張ったなぁ〜って嬉しくなるんだもん」
「さいですか」
嬉々として語る劉備だが、俺はどうにもそうは思えない。嬉しいことは嬉しいし、仕事も大変だが苦ではない。気乗りしないのは単純にいつぞやの棘が取り払われていないからだ。いや、むしろ少しずつだが悪化していると言ってもいい。
(……どうしたもんかね)
なんてことを考えていると、
「玄輝さん〜、桃香さまぁ〜」
孔明がこちらに駆け寄ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと見つかりましたぁ〜」
「どうしたんだ? 何か急用でも?」
一息ついたところで、俺が問いかけると、孔明は顔を上げてから話しはじめた。
「えっと、お二人ともすぐにお城へ戻ってもらえませんか?」
「何かあったの?」
「いえ、そういう訳ではないんですけど、お城に桃香さまとご主人様、玄輝さんを訪ねてきた方がいらっしゃるのですが……」
「客、ってことか?」
コクリと頷く孔明だが、俺にも劉備にも思い当たる節がない。いや、無い方が自然、かもしれないが。
「で、誰が訪ねてきたんだ?」
「え〜と、たしか趙雲さんと……」
「趙雲が?」
なんであいつが?
「てか、アイツ、公孫賛の所にいるはずじゃ?」
「白蓮ちゃんからの使者、かな?」
「う〜む、だとしたら、俺に会う必要はないよなぁ……」
少なくとも、孔明が上げた名前に俺も入っている。となれば俺にも用があるって訳で。
「まぁ、なんにせよ、城に戻ればわかる事か」
「それもそうだね」
で、俺達は見回りを止め、三人で城に戻ることになった。
〜城〜
「星ちゃん!」
城に戻って、雪華と合流してから、向かった謁見の間で開口一番に出てきた言葉は劉備の物だ。
「おお、桃香殿! 久方ぶりですな。お元気そうで何よりだ」
「ほんと、久しぶりだね!」
「そっちも元気そうだな」
「かく言う玄輝殿も元気そうで何より。雪華殿もな」
笑顔でそう答えながら雪華の頭をなでる趙雲。そこへ俺達と同じように戻ってきた関羽と張飛、そして北郷も加わる。ちなみに、天の御遣いとして有名になった雪華は頭巾をしないで生活している。そのせいか、前と比べるとだいぶ活発になっていた。
「久しぶりだな、星!」
「我らの旗揚げ以来、か。となると、もう半年も前か?」
「久しぶりなのだ! 星、元気だったかー?」
「ふふっ、ああ。おかげさまで息災だったよ。そちらもなかなかの活躍、こちらへ向かう前から聞き及んでいたぞ? 各地の街でかなりの評判だ」
「ホントに?! えへへ、そうだとしたら、頑張った甲斐があったなぁ……」
満面の笑顔を見せた劉備を北郷は微笑みながら同意すると、趙雲に向かい合って話しかけた。
「そういえば、各地の街で、って言ってたけど、もしかして星……」
「ふっ、相変わらず鋭いですな。ええ、お察しのとおり、黄巾党の乱が収まり出した頃、伯珪殿に暇を貰い、各地を放浪しておりました」
その言葉に疑問を抱いたのは関羽だった。
「放浪? お主ほどの人物が何故そんなことを? その気になれば仕官先などいくらでもあるだろうに」
それはあの場にいなかった人間なら誰しもが思うことだ。だが、
「生憎だが、私は自分を安くするつもりはないのでな。我が剣を預けるに相応しい人物を我が眼で見て、我が耳で聞いて見つけたかったのだ」
そう、彼女はあの時“ はたまた徳高き主を探しに行くのか”“自分の道は自分で見つけたい”そう言っていた。それを聞いていた人間ならば、彼女の放浪の理由はすぐに分かる物だった。
「それで? お前が使えるべき主は見つかったのか?」
俺がそう尋ねると、趙雲は少しだけ気難しそうな表情をしてから答え始める。
「うむ、それが中々に難しくてな。主となるべき人物の器と徳、そしてその人物の周りにいる人物の質、その三つを兼ね備えた勢力を探したのだが……」
「その様子だと、芳しくなかったみたいだな」
「まったくその通りで。数が少なかった」
「少なかった、と言うことは、見つけはしたんだな?」
「ええ。しかし、どの陣営もどうにも肌に合わなかったのですよ。だからこうして放浪を」
両手と肩を軽くすくめてそう言う姿はそこまで気にしてないように見えた。いや、むしろ予想の範囲内だったのだろうか?
「ふむ……しかし、星ほどの人物が認めた勢力か、気になるな。どこの勢力なのだ?」
関羽からの問いに趙雲は顎に手を当てて、思い出すように話しはじめる。
「まずは曹操だな。兵力、財、人材、その全てを持っている勢力だ。さらに、当主自身も器量、才能、共に豊かな、まさに英雄と呼ぶべき人物だろう」
「確かに、あのチビッ子は凄かったのだぁ〜……」
張飛が当時のことを思い出すようにこぼした言葉。それは俺も同感だった。
「だが、入らなかった、と言うことはどこかに不満があったんだよな?」
「ああ。あそこに漂う雰囲気が好きになれなくてな」
「雰囲気?」
そこまで言われて、俺は何となく思い当たる節があった。
「まさか」
「ああ、そうか。お主たちは曹操と行動をしていたのだったな。うむ、玄輝殿の予想通り、あの百合百合しい雰囲気がどうにも馴染めなかったのですよ」
「ゆ、百合ぃ?」
北郷は気が付いていなかったようだが、俺なんとなく気が付いていた。何というか、夏候惇と夏侯淵の曹操を見る目が、その、妙に熱っぽい感じがしていたのだ。もしやと思って、曹操の兵の、ちょいと口の軽そうな奴に聞いてみたら、案の定そう言った噂が蔓延していた、というワケだ。
「百合百合しい、ってどうゆう事?」
劉備は頭に疑問符を2〜3個浮かべているがそれは知らなくて、
「まぁ、曹操を見る目が桃色だった、と言うことなのですよ」
いい話を貴様ぁ!
「そ、それは一体どうゆう事なのだ?」
か、関羽!?
「要は、女同士で“わぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!”」
「げ、玄輝殿!?」
阻止、成功!
「知らんでいい! 要はあの雰囲気が肌に合わなかったんだろう?!」
とりあえず、強引に話を、ブッタギル……!
「むぅ、まぁ、そういうことですな」
よし、これでこの話題は……!
「むぅ! 女同士でなんなのだぁ!」
こ、このチビッ子……! 天然で掘り返しおった!
(チィ! どうする?!)
と、とにかく、話を逸らさないと……!
「ゲンキ、もしかして曹操さんの大人の遊びの事?」
「ブフゥーーーーーーーーーー!!!」
あ、あのアマぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!! 雪華になんてことを吹き込みやがる!
「にゃ! 雪華は知っているのかぁ〜?」
「たぶん、あのね……」
断・固・阻・止!
「せ・つ・かぁ〜〜〜〜〜〜〜!」
「ひっ!」
「その話は、後で、俺がじっくり聞いてやるから、話しちゃダメ、だぞ?」
言葉の中に潜む圧力に気が付いたのか、雪華はそこで口を閉ざして首を激しく上下に振った。
「にゃ〜! 隠し事はやめてほしいのだぁ〜!」
と、憤慨する張飛だが、
「り、鈴々。その話は、今はいいじゃないか」
「そ、そうだねぇ〜。鈴々ちゃんには、まだ早いかなぁ〜」
雪華の爆弾発言で察したと思われる姉二人が何とかなだめようとするが、それでも知りたいのか、
「むぅ、それじゃあ、お兄ちゃんに聞くのだ!」
北郷に話を振りやがった。
(北郷ぅ〜!)
俺の視線に気が付いたのか、北郷は汗を掻きながらも、その答えを、紡ぎ出した。
「鈴々も、いつか知ることになる、と思う。だから、今は知らなくていいよ?」
最後、疑問形になったのは、俺に尋ねているのだろう。俺は視線で“可”の意思を示すと、北郷は安心したようにため息を吐いた。
だが、姉にとっては“不可”だったようで。
「ご、ご主人様! 鈴々に変な事を教えないでください!」
「う、ご、ごめんんさい……」
まぁ、こればかりは仕方ない。あとで肉まんでも奢ってやるとしよう。
だが、そのやり取りで鈴々は何かを感づいたようで、気まずそうに頬を掻いていた。
「まぁ、そういう道も耽美ではあるのだが」
「耽美なのかよ!?」
くっ! ツッコミやら阻止やらで疲れはじめたぞ、オイ!
「うむ。しかし、あそこの将はどうにも排他的でな。そこがつまらん」
「つ、つまらんって……」
北郷が呆れたように呟いたが、それに関しては全くの同感だし、同じことを考えていたという自信もある。
(楽しければ、それでいいんかい……)
その内心を知ってか知らずか、趙雲は次の勢力の話へと移る。
「次は孫策殿の勢力ですな」
「孫策……確か、江東の麒麟児だったか?」
「ああ。その名に違わぬ勇猛、知略に富み、従える将はどれも一騎当千。しかし……」
そこで切られた言葉。その先の言葉は、予想の斜め上をぶっ飛んで行った。
「完璧すぎてつまらんのですよ。あれでは私の活躍する場所がない。強引に作ることは出来るでしょうが、それも性に合わない」
まぁ、分からない理由ではないが……。
「で、それ以外の勢力はどうだったんだ?」
「ふむ、後は有象無象ですな。大して変わりませぬ」
……その一言でバッサリですか。流石と言うべきか、何というべきか……。
「だが、河北の袁紹、荊州の袁術、西涼の馬騰、董卓などは大勢力ではないか。それも有象無象なのか?」
「いくら勢力が大きくとも、志が天下に向かい、またそれを実現する力があるとなると、この二つ以外は」
「なるほど、ね。だから放浪を続けていたのか」
「ええ」
「だとしたら、どうしてこの陣営へ? 羽休めか何かか?」
まぁ、ありえない話だろうとは思う。その程度の目的でここへ来るとは到底思えない。
「いえ、私自身の戦いを始めようと思いましてな」
その言葉を聞いて、嬉しそうに目を光らせたのは北郷だった。
「そ、それじゃあ?」
「ええ。私も共に戦わせていただきたい。貴殿らの理想実現のため、私の理想を形にするために。……貴殿らさえ良ければ、だが」
力強い光を帯びながら俺達を見つめるその眼からはその志の高さが伝わってくる。
「……っ! うん! 一緒に戦おう、星ちゃん! みんなが笑顔を浮かべて、平和に暮らせるその日の為に!」
差し出された趙雲の手を劉備は満面の笑みを浮かべながら両手でしっかりと掴んだ。
「星が来たら、百人力なのだー!」
「そうだな。星、お主の力、当てにさせてもらうぞ?」
「ふっ、任せてもらおう」
自身の溢れる笑顔で頷いた趙雲が北郷を見てから話しはじめる。
「では、主。私の初任務を命じてもらえないだろうか?」
その発言に驚いたのは北郷当人だった。
「あ、主ぃ!?」
驚く北郷に趙雲は極めて冷静に答える。
「当然でしょう。愛紗や鈴々たちにご主人様と呼ばれているのでしたら、私にとっても貴方は我が主だ。何なりとご命令くだされ」
「そ、そっか、命令、かぁ……」
何を命じるか、悩んでいるようだが、それを察した趙雲は自ら提案を並べる。
「兵の調練から街の治安維持、開墾の指揮から灌漑指導。むろん」
そこで一度切ってから、妖艶な笑みを浮かべて続きを繋げる。
「夜の伽まで、何でも命じて頂いて結構ですぞ?」
「ぶっ!?」
驚きのあまり思わず吹き出してしまった俺に対し、北郷は生唾を飲み込んでしまったようで、黒髪の戦神に睨まれていた。
で、その戦神様は大きな咳払いひとつしてから、釘を刺す。
「着任早々、ご主人様を誘惑するのは止めてもらおうか」
「ふむ、なるほど。……なれば、玄輝殿なら問題はない、と」
「ブフッ!?」
「な!?」
に、二回連続で吹いてしまった。じゃなくて!
「おま“それも駄目〈だ!〉〈ぇ!〉”」
俺の声は特大ボリュームの関羽と雪華の声にかき消されてしまった。
「ふふっ、では怖いお姉さまと妹君に目で殺されぬよう、注意するだけはするとしよう」
こ、こいつ、やっぱりいい性格してんな……!
「ま、まぁ、ご主人様や玄輝さんが好かれるのはいいことだよ♪」
「お兄ちゃん達は皆のモノなのだ」
お気楽に言ってくれた張飛だが、ちょっとまて。
(達……俺も含まれるのか!?)
てか、モノ扱いだとぉ!?
「……主よ。良い環境をおつくりになりましたな」
「そ、そうかな? ははっ……」
(良い環境って?! どういう意味なんだ!?)
俺が苦悩しているのを差し置いて、北郷は今やるべきことを孔明に聞いていた。
「そうですね、色々とありますが……まずは募集に応じてやってきた兵隊さん達の訓練が急務かと……」
「ふむ、ならばその仕事、早速任せてもらうこととしよう。御嬢さん、詳細を」
「ん? ああ、そうか」
そういや、趙雲は孔明や鳳統はあったことが無いのか。
(北郷)
小さな声で目配せすると、北郷も気が付いたようで、趙雲に二人を紹介した。
「星は二人に会うのは初めてだよね?」
「ええ。なかなか利発そうな御嬢さんですな」
その視線が北郷から孔明に移ると、見られた本人は少しだけ体をびくつかせると、緊張した面持ちで自己紹介をする。
「あ、あの、その、わ、私、諸葛亮って言います! 字は孔明で真名は朱里です! え、えっと、朱里って呼んでください!」
「わ、わらひは鳳統でし! 真名は雛里です!」
孔明は何とか言い切れたが、鳳統は最初で噛んでしまった。
「え〜と、二人には軍師として俺と桃香の補佐をしてもらっているんだ」
「ふむ、朱里と雛里、どちらも美しくも可愛らしい名だ。では、我が名は趙雲、字は子龍そして真名は星。この真名をお主達に預けよう。軍師殿、これからよろしく頼む」
「こ、こちらこそ、よ、よろしくでしゅ!」
「でし!」
……結局、噛んだか。やはり、まだ二人とも初対面の相手とのコミュニケーションが苦手らしい。
「……………」
何と表現すればいいのだろうか、おそらく、驚いてるという部類に入りそうな微妙な表情をしている趙雲へ北郷が小さな声で話しかける。
「二人とも、緊張すると舌を噛んじゃうんだ。……可愛いだろ?」
最後の方はさらに小さくして話しかけていた。
「……少女のカミカミ口調、良いものですな」
がっちりと握手をしている北郷と趙雲。
……なんだろう、あそこで変な血盟が出来たような気がする。しかも、その毒牙から守ってやらないといけないようなタイプの。
「ハァ……」
そこで溜め息をついたのは我が軍の良心、関雲長。
「何をバカなこと言っているのですか。星もくだらない事を言うな、悪影響が出る」
「おお怖い怖い」
それを適当に流すと、趙雲は鳳統に向き合う。肝心の鳳統は慌てて俺の背に隠れようとする。
「はははっ、朱里の時にも思ったが、二人とも真名に相応しい可愛らしさを持ち合わせているな。特に雛里は本当に雛のようなかわいらしさだ」
まるで軟派な男が口説くかのような表情で雛里に迫る趙雲。その様子を見ていた張飛が一言。
「……桃色が肌に合わないってさっき言ってなかったかー?」
うむ、見事なツッコミだ。それに追い打ちをかけるかのように、
「まったく、よもや貴様がこのような不埒な性格だったとは。思いもよらなんだ」
姉が付け足した。
「はははっ、良いではないか。上手い飯に極上の酒、美しい少女に素晴らしき仲間。戦いの日々だけでは身が持たんよ」
「う〜む、あながち間違いじゃないのが何とも言えん」
「玄輝殿?」
「うぐっ!」
し、しまった! 思わず口にしてしまった!
「うんうん! 星ちゃんの言う通り! 仲間がいるって素晴らしいことだよね♪」
「……それは、少し違いませんか?」
だが、思わぬ助け舟(?)のおかげで、関羽の気が俺からそれた。ラッキーだったとしか言いようがない。
「愛紗、言っても無駄なのだ」
妹からの発言に、彼女は不満そうに口を噤んだ。彼女自身もそう思っていたのだろう。
「そ、それよりご主人様。お仕事の配分はどういたしましょう?」
奇妙な流れになりつつあったのを孔明が修正してくれた。軍師からの問いに北郷は“そうだなぁ”と呟きながら、少し考えると、指示を出す。
「そうだね、愛紗と星には新兵の訓練、鈴々と桃香、玄輝には街の警邏を。朱里は市の管理で、雛里は兵站の管理って感じでどう?」
それを聞いた鳳統は少しだけ考えると、小さく頷いた。
「え、えっと、適材適所かと」
「北郷、お前はどうするんだ?」
俺がそう問いかけると、北郷は腕を組んで考え込んでしまう。
「……どうしよう?」
「俺に聞くなや」
で、何となく劉備に視線を向けると、その意図に気が付いたのか、人差し指を唇に当てて思考し始める。
「ご主人様にピッタリな仕事……何かあったけなぁ〜?」
で、すぐに関羽へ視線が移る。バトンを受け取った関羽はすぐに答えを明示する。
「書類の整理ならば問題ないでしょう。できますよね?」
「そのくらいなら、たぶん。……何だろう、とてつもなく自分が無能に思えるんだけど」
「仕方ないだろう。お前さんの常識が通じない世界だし、武に精通しているわけでもないんだ」
「それは、そうなんだけどさ……」
そうは言うものの、北郷の顔は申し訳なさそうに歪んでいた。
「で、でしたら」
そこで前に出たのは鳳統だった。
「わ、私がお手伝いします」
「本当? そうしてくれると助かるよ。……ありがとう、雛里」
「私も、お手伝いする」
「雪華?」
俺は、この発言にかなり驚いていた。いくら慣れたとはいえ、自分から俺以外の人間を手伝うなんてのは初めて聞いた。
北郷も驚いているようで、こっち見てくるが、俺は小さく微笑んで俺の意思を伝えた。
「そっか、ありがとうな」
「ん」
「えへへ……」
雪華と鳳統の頭をなでる。それを二人はくすぐったそうな笑顔で受け入れている。
(……なんだか、複雑だな)
まぁ、嬉しさもあるから、半々といったとこか。
「さてと、それじゃあ仕事に戻ろうか。夜には星の歓迎会を開くから、みんなそのつもりで」
「おおー! 久しぶりの酒なのだぁ〜!」
そう言いながらはしゃぐ張飛はまるで子犬のようだ。
「おう。今日はたくさん飲んでいいからな」
「やたっ! 鈴々ね、今日はお仕事すっごく頑張るのだ」
だが、その一言が余計だった。
「今日は、ではなく、いつも、頑張ってほしいモノだな」
「う〜っ、痛いとこを突かれたのだ……」
「日ごろの行いが悪いせいだろ?」
「玄兄ちゃんには言われたくないのだ!」
「残念、こう見えても俺はやるべきことはやってるんでね。警邏の途中で肉まんを山ほど食ったりしねぇしな」
「うぅ、藪蛇だったのだぁ……」
その様子に周りの皆が笑い出す。まぁ、一人だけ異様なプレッシャーを放っているが。
(……案外、悪くねぇな)
最初の頃は、あの時のこと思い出し、
(……チッ)
嫌な事を思い出しちまった。その思い出を俺は首を軽く振って外に放り投げる。今は、こんなことを考える時じゃないし、思い出す必要はない。
(……いや)
今だからこそ、思い出すべきなのではないだろうか? 正直、俺はこの空気に慣れ過ぎてしまっている。でも、それは……。
そう考えたまま、再び劉備と街の警邏に繰り出した。ちょっとした諍いはあったものの、街は概ね平和だった。
「…………」
まぁ、そのおかげで無駄に考える時間が出来てしまったんだが。
「……え〜と、玄輝さん!」
「ん? どうした?」
「そ、その、肉まん食べませんか!?」
何故敬語?
「……一応今は警邏中だぞ?」
それに、さっき張飛にああ言った手前、そう言った事を“今日”するわけにはいかない。
「い、いや、たまには息抜きは必要だよ!?」
「…………」
なんだろう。何故にそこまであたふたというか、動揺(?)しているんだこいつは?
「まぁ、そこまで言うなら別に構わないが……」
「ホントに!? じゃあ、すぐに行こう!」
「ちょ!?」
勢いよく手を引かれ、俺はつんのめりながらも数メートル先の店の前に連れて行かれた。
「おじさーん、肉まん2つ!」
「あいよ!」
蒸かしたての饅頭を彼女から受け取り、その代金を渡そうとするが、彼女は“いいよ、私が奢ってあげる!”とのことで受け取ってくれなかった。
とりあえず、店の前の長椅子に二人で腰かけて、それを頬張る。流石蒸かしたて、肉汁がアツアツで美味い。
「ん〜、おいふぃい!」
「口に含んだまま喋るな。関羽がいたら怒るぞ」
「今は愛紗ちゃんいないも〜ん。はむっ!」
そういった事はふとしたことで表に出るんだが、と言いかけてやめた。まぁ、そうなって損するのはこいつだし。
「で、なんだって急に肉まんを?」
「へ?」
「理由もなしに誘った、とは思えないんだが?」
「うっ、鋭い」
そう言った劉備は食べる手をいったん休め、心配そうな顔でこちらを見た。
「その、お城を出てから、ずっと難しそうな顔してたから……」
「むっ」
……また顔に出てたか。まったく、とことん未熟だな、俺は。
「別に、大したことじゃないさ」
「本当に?」
そう聞いてくる彼女の顔は、納得していなかった。
「……まぁ、気にするな。お前さんにゃ関係ない話だ」
「むぅ」
しまいにはふくれっ面になる始末。
「そんなことないもん! これでもお姉ちゃんだよ!」
あれ、いつの間に姉に?
「俺からしたら、妹なんだが……」
「ぶぅ〜! そんなことないもん!」
「あーはいはい、ソウデゴザイマスネ」
なんだろ、拗ねた雪華を相手にしているような感じだ。
「で、聞いたところでどうするんだ?」
「へ?」
……何も考えてなかったんかい。
「い、いや、その、少しでも手助けできればなぁ、って」
「……………」
さて、どうあしらうべきか。こっちを心配してくれているのはありがたいとは思うが、今はそんな余裕が心にない。正直言えば一人で警邏したいくらいだ。
「……その気持ちだけもらっておく」
「あ」
俺はそう言って肉まんを胃袋に納めて立ち上がって、そのまま歩きはじめる。慌てて劉備も同じように納めて、小走りで追いついた。
「…………」
「…………」
無言のまま歩き続ける。それは城に入って、誰もいないところで途切れた。
「ねぇ、私って、そんなに頼りないかな?」
「…………」
そのまま聞かなかったことにしようと一瞬思ったが、それは愚策だと判断した俺は、この際だからハッキリ言ってしまおうと、彼女に向き合った。
「そうだな。はっきり言って頼りない」
「っ!」
「一応言っておくが、お前さんが嫌いというワケじゃない。ただ、その理想が俺にはどうにも脆く見えて仕方がない」
そう言われて、一瞬青ざめたが、彼女はすぐに真剣な表情になって問い返す。
「どこが、脆く見えるの?」
「そうだな、お前はこの先、どうなると思っている?」
「え、えっと……」
「……まぁ、そこですぐに出てこない辺りが心配な一面でもあるが、まぁ、いい。仮定の話をするとしよう」
「仮定の話?」
俺は前々から考えていた話を彼女に話す。
「そうだな、あるところに悪逆非道を尽くす王がいたとしよう。その王をお前はどうする?」
「やっつける! そんなの王様じゃないもん!」
「だろうな。となれば、その国と戦になるわけだ」
「……うん」
「さて、ここで一つ問題が出てくる。確かに王は悪人だ。だが、その国を守る兵はどうだろうな?」
そこで、彼女が息をのんだ。
「まぁ、理由はいろいろあるだろう。食いっぱぐれないため、だの、次男坊だから、とか、誰かを守りたい、とかな」
「…………」
「まぁ、中には真の下衆もいるだろうさ。だが、それだけでないのもまた事実だ。そんな人間を、悪人に仕えているからという理由でお前は斬るのか? さらに言えば、そいつにも家族がいるかもしれない。その命を背負っていけるのか? その家族に一生恨まれ続ける覚悟はあるのか?」
「そ、それは……」
ここで俺は自分の突っかかっていた棘を全部ぶちまける。
「結局、お前は理想の綺麗な面しか見えてないんだよ。それが悪いとは言わない。だが、そんな薄っぺらい理想だけではいつかお前だけでなく、お前を慕ってくれる人すらもいずれ傷つけることになる。下手すれば、殺してしまうこともある」
「…………」
俯いて完全に黙ってしまう劉備。だが、俺はそれでも話を続ける。
「だからこそ俺は、お前を頼ることは出来ない。人としては信じられる。だが、今のお前のままでは、俺は仲間として頼ることはない」
「わたし、は……」
「……少し言い過ぎたな。ただ、このことについては一度、じっくりと自分と向き合え。でなければ、俺はたとえ雪華に恨まれてでも出て行く。俺一人で出て行くことになってもだ」
それだけ言うと俺は劉備を置いて自室へと戻っていった。
「あ……」
まるで、親に見放された子供のような表情をした劉備を、置いて。
あとがき〜のようなもの〜
皆さんおひさしぶりのおはこんばんにゃにゃにゃちわ、風猫です。
え〜、約一か月ぶりの更新で申し訳ないですorz まぁ、ちまちま書いていたので、前までの更新速度はさすがに無理ですが、まぁ、これからはちまちま更新して、いきたいです。(汗
さて、今回のお話は董卓編の前日譚的なお話ですが、どうでしたでしょうか? まぁ、一応もうちょっと続きますが。
では、何かありましたらコメントの方にお願いいたします。
また次回〜
説明 | ||
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話 真・恋姫†無双の蜀√のお話です。 オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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コメント | ||
ツナまんさん:まぁ、同じ漢字が入っていますしお寿司。 関係ない? そうですか……(風猫) なんだろう。風猫さんのとこの玄輝はどことなくうちの和輝と同じ匂いを感じるw(ツナまん) M' さん:え〜と、ありがとうございます?(汗(風猫) 劉備の思想とか本編の突っ込みどころを補完するのもいいですよね(M') naoさん:さて、彼女はいったいどのような答えを出すのか、そして、その答えで玄輝はどうするのか、待て次回! ということで、ここは一つw(風猫) 桃香きつい言葉をもらったなぁ〜自分と向き合って自分なりの答えを示してほしい^^;(nao) |
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