真・恋姫†無双〜帝√(偽)〜 |
私……いや、俺の名は((咎纏|きゅうじょう))
漢の国、都の洛陽にて暮らしている。
職業柄ときどき私という一人称を用いてしまうが、目上の人物以外には基本俺と言っている。
「お茶が入りました」
こいつの名前は司馬懿。俺の従者だ。
ここで仕事を始め、最初の補佐官になった奴だ。
だが湯呑が二つ?
「それと先ほど城より、使者がお目見えになっております」
なるほどそういうことか。
呼ばれ、部屋に入ってきたのは口元を隠した忍者?のような人物
「そなたが咎纏殿か」
「えぇ、そうですが……」
「殿下より勅命である。至急城へと参られよ」
あなたの名前は?と訊ねる前に用件を言われた。
「帝様ではなく、殿下……がでしょうか?」
「……」
必要なことは伝えた、という沈黙か。
どちらにせよ相手が誰であれ勅命ならば従わなければなるまい。
「かしこまりました。すぐに準備を整えて参ります」
「では、外で待っている」
やっかいなことにならなければいいが。
「面を上げよ」
「そなたが咎纏。こうして我がそなたを見るのは二度目になるな」
「人払いをせよ」
「これでここにおるのは我とそなただけじゃ」
「いえ、まだ私に遣いに来た者が残っているようですが」
「神流(かんな)に気付くとはさすがじゃな。じゃが神流は我が最も信頼している者じゃ。護衛の意味も込めてのう」
「それならば私が言えることは何もありません」
「そなたは天の御遣いという言葉を知っておるか?」
「たしか、管輅という占い師が言っていた……」
「そうじゃ。管輅は占い師だと言っておるが我はそう思っておらん。奴は予言者じゃ」
「預言者……ですか?」
「うむ。奴は我の呼び出しに応じここに来た。そしてこう言いおったのじゃ。
天の御遣いが帝ではないどこかの者達の元に降れば、必ずや漢は滅びるとな。
その場で我は鼻で笑ったが、奴はこうも言ったのじゃ。
天の御遣いは洛陽の近くに降りる。その時、場所は分からぬとな。
漢はもう滅ぶ道を辿っているのやもしれぬ。そして管輅の予言通りならば、その天の御遣いが決定的な打撃を与えることになるじゃろう。
この地に天は二つもいらぬ。ならばその天を我が懐へと取り入れ糧としよう」
「なぜその話を私に?」
「そなたが他の者と違ったからだ。我に初めて会った者達は皆、我に媚びるように動いてくる。それは金品であったり賛美であったり様々じゃ。
じゃがそなたは違った。色目を使わず媚も売らず、帝の子ではなく一個人として我に接しておった。
そして今の話もじゃ。通常ならば、管輅の話となった時点で奴らは鼻で笑うじゃろう。そして聞く耳も持たぬじゃろう。
じゃが、そなたは最後まで耳を傾けておる。奴らの中でそなただけは賄賂も受け取らない。
実力だけでそこまでの地位についたそなたを我は信用したい。
我はそなたの信頼に足る人物であるか……?」
洛陽の外周に私兵を配置しておいた。異常を発見したら即座に報告せよと厳命したうえでだ。
「本当に天の御遣いなどが現れるのでしょうか」
司馬懿の疑問は最もだ。それは俺も思っていたことだ。
「それだけの思いなのだろう。まさに藁にも縋るような……な」
言い終えると同時に昼間の空が白く輝いた。
それは本当に一瞬のことで、光はすぐに収まり、城内はそれを見た者が居たのか少々騒がしくなっていた。
そして……
「失礼します! 天より白く輝く流星を見たという者が……」
「すぐに出る! 司馬懿、お前もついて来い! その場所へ兵を配置しておけ!」
「は、はっ!」
まさか本当に現れるとはな。吉とでるか凶とでるか……。
辿り着いた先に俺の兵達に捕縛され、挙動不審にあたりを見回している俺よりも一つか二つ年下に見える少年。服は何か特殊なものなのか日の光を受けきらきらと光っている。すぐ傍には少年の持ち物を入れたものだと思われる小袋のようなものも落ちていたが、それも見たことはないものだった。
縄を持った兵から司馬懿がその縄を受け取り、兵達には下がってもらう。
しばらく少年は下がっていく兵達を見ていたが、それが俺達三人だけになると先ほどの挙動不審さは無くなり俺の目を真っ直ぐに見るだけになった。若干の怯えはあるようだが良い目をしているな。
「いきなり手荒な真似をしてすまなかった」
頭を下げる。
「あ、いや! そんな、頭を上げてよ! たしかにいきなり縄で縛られて驚いたけど、それ以外は何もされてないしさ」
どうやら言葉は通じるようだ。
「あの……一つ質問いいですか?」
少年は俺の腰に差してある剣を見ながら聞いてきた。
「構わない」
「ここは、どこです? なんか気が付いたらこんなところにいて、他の皆さんも俺とはちょっと……いや、かなり服装も違うみたいだし……」
「ここは洛陽の郊外に位置する荒野の真ん中だ。先ほど空が白く輝くほどの光を纏った流星が落下してきた。その場所に向かうと君が倒れていて、私の部下達がそれを捕縛した。ここまでは理解できるかな?」
「ええっと、少し混乱してるけどなんとか。……洛陽、ということはもしかしてここは漢という国だったり?」
「まさしくその通りだ。それと俺からも一ついいか?」
「あ、うん」
「君の名前はなんだ? いつまでも君と言うのもな」
「ああ、そうだね。俺の名前は北郷一刀」
「姓は北、名は郷、字は一刀といったところか?」
「いやいや、姓が北郷で名が一刀。字っていうのはないかな」
「ふむ、珍しい名前なんだな」
「そう珍しくもないんだけど……それよりも君達の名前も教えて欲しいかな」
「これは失礼した。俺の名は咎纏。縄を持っているのが司馬懿だ」
紹介され一度礼をする。だがその縄を持つ手は緩めない。
それよりも司馬懿の名を聞いてから北郷の様子が少しおかしい。
「司馬懿の名がどうかしたのか?」
「えっと、俺の知っている本に登場する人物の名前と同じで少し驚いていて」
「そうだな、その話は後で詳しく聞こう。いつまでも荒野で話していてもな」
「それは大丈夫だけど、縄は解いてくれるとありがたいかな」
「それは辛抱してくれ。さすがに見ず知らずの人物をそのままというわけにもいかなくてな」
「そっか、なら我慢するよ」
「……俺が言うのもなんだが、少し楽観すぎやしないか?」
「んー、君達が悪い人には見えないしさ。それに俺はまだここのことを何にも知らない。なら知っている人について行った方が良いと思うしね」
「なるほどな」
楽観的に見えて考えているということか。
処遇はどうなるか分からんが、こういう奴は嫌いじゃないな。
【あとがき】
こんにちは
九条でございます
再投稿その五
うーむ、新しいほうで帝を出すか否か悩みどころですね
そういうのを考えているときが一番楽しい気もしています
しばらくはまったりと偽√を書いていきますので何卒〜
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再投稿その五 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
2130 | 2010 | 11 |
コメント | ||
>観珪様 少なくとも天の御遣いが帝のところに降り立った→天は未だ朝廷にある と思わせることができると考えたのだと思います(九条) 劉宏さんも一刀くんを上手く旗下に加えることができれば、宦官外戚を排除できると踏んだのでしょうか……?(神余 雛) |
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