「真・恋姫無双  君の隣に」 第8話
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「おはよう、蓮華、思春」

「おはよう、一刀」

私達が寿春に来て間もない頃に早朝に鍛練を励んでる一刀をみかけた、以来、自然と一緒に鍛練をしている。

「遅いぞ」

「ああ、目を覚ましたら美羽が抱きついてたんで、起こさないように抜け出すのが苦労してっ・・」

あら、何故かしら?今日の鍛練は普段より身が入りそうね。

「いや、何もしてないよ。美羽には何もしてないから」

あらあら、何を言い訳してるのかしら、私、何も言ってないのに。

「フン、袁術にはな。では張勲はどうなんだ」

あらあらあら、思春たら、凄い殺気ね、どうしたのかしら?

一刀が袁術たちと一緒に休んでるのは前から知ってるじゃない。

折角の気持ちのいい朝なんだから自然に笑顔になるでしょ、ねえ、一刀、どうしてそんなに青い顔して震えてるのかしら?

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第8話

 

 

死ぬかと思った、と言うよりよく死ななかったな、俺。

思春の武って春蘭よりは劣るかと思ってたけど、今日のは遜色なかったと思うぞ。

蓮華も何か太刀筋がすごく落ち着いてて、確実に急所を狙ってたもんな。

鍛練が終わった後、思春が凄く賞賛してたし。

やはり日々の鍛練は裏切らないもんなんだな、俺も頑張らないと。

さてと気持ちを切り替えて、報告に眼を通す。

黄巾党の動きが明確になってきた。

事前の準備と、蓮華達や凪達のおかげで被害も最小限で抑えられてる。

華琳には申し訳ないけど、凪たちが仲間になってくれた事は本当に嬉しいし頼りになった。

本音を言えば稟達も一緒に居て欲しかったけど、華琳に仕えると決めているのを知ってる以上は無理を言えなかった。

それに稟と風が今の時期から仕えていたら、華琳や秋蘭に桂花の負担も随分楽になるはずだし。

華琳とは戦う時が必ず来る。

実力を比べれば分は悪すぎるほど悪いけど、俺なりに堂々と戦いたい。

これも華琳の影響かな、器は月とすっぽんなんだけど。

それでも全力を尽くす、俺は天の御遣いなんだから。

 

 

黄巾討伐の遠征、既に幾度と無く出陣している。

「思春、貴女は右翼の軍を率いて、私は亞莎と供に左翼を率いる」

「ハッ」

蓮華様の指示を受け、私は副官に隊列を整えるように命じる。

「蓮華様、一刀様が敵先鋒と接触しました」

「分かったわ、亞莎、皆に指示を」

「ハッ、私達は二手に別れ左右から敵の横腹を食い破ります、迅速に移動を完了させ合図を待って下さい」

「「サー、イエッサー!!」」

兵が亞莎の指示に従い行動を起こす。

私も右翼軍を率い移動を始める。

それにしても、蓮華様も亞莎も堂に入ってきたものだ。

北郷が二人を戦に連れ出した初陣では、蓮華様は力が入りすぎるほど入っていて、戦には慣れているはずの亞莎も軍師としての初任命に緊張で縮こまっていた。

斥候が敵影を発見したと報告を受けた時は、傍目にも分かるほど固まって指示を出そうとしても言葉が出ない程に。

初陣の重圧は分かるので、元より私が戦いを引き受けるつもりだったのだが。

「蓮華、亞莎、眼を瞑って」

北郷が二人に声をかける。

「か、一刀」

「か、か、か、一刀様、で、で、でも敵が」

「いいから。眼を瞑って、ゆっくり深呼吸して」

二人が北郷の言う通りに行なう。

「ゆっくりと眼を開けて。そして空を、大地を、敵を、周りの皆の顔を見るんだ」

蓮華様達は順に視線を向ける。

此方にを顔を向けられる時、私は笑顔で見つめ返す。

「蓮華、亞莎、努力は人を裏切らない。結果ではなく自分を裏切らない。そして君達に足りないもの俺達が埋める。逆もそうだ、俺達に足らないものは君達が埋めてくれ。俺達は全員で戦うんだ。」

あの言葉が蓮華様達を縛っていたものから解き放った。

いや、北郷の言葉だったからこそ、心に届いたのかもしれんな。

あの後の戦は、完勝だった。

配置に就いた私は戦場の様子を窺う、北郷と凪の率いる先陣が後退しつつ敵を引き込んでいる。

あの二人は非常に粘り強い戦いをする、特に守に長けていて心の強さが現れているようだ。

北郷に関しては剣でもそうだ、攻めは一般兵よりはましな程度だが、守りは私が本気を出してもなかなか打ち込めない。

臆病ではなく、自分の為すべき事がよく分かっているのだろう。

ジャ〜ン、ジャ〜ン。

合図の銅鑼の音が響き渡る。

「右翼軍、突撃!」

「「サー、イエッサー!!」」

良い兵達だ、海兵式訓練といったか、あれは実にいい、私にとても合っている。

亞莎もこの訓練の成果か、大きな声で指示が出せるようになった。

訓練官ではなく兵士側で訓練を受けての結果だが、訓練官をさせようとしたら北郷が懇願してきた。

「お願いだ、亞莎を汚さないでくれ!」

知るか、馬鹿者。

 

思春が敵将を討ち取り、俺達の勝利で戦を終える。

撤退の指示を出し、蓮華達と今日の戦いについて意見を交わしていたら、細作から至急の報告が入った。

漢の大将軍、何進率いる官軍が黄巾党に大敗したと。

「蓮華、亞莎、思春。寿春に戻り次第、帰国の準備をしてくれ」

「一刀!どうして」

「一刀様!」

「何故だ」

俺は驚く蓮華達にこれから起こるであろう事を話す。

漢はこの敗北を隠すだろうが黄巾は放って置けない、間違いなく諸侯に黄巾討伐の勅を出す。

勿論、長沙の雪蓮のところにもだ。

まだ長沙は治安が行き届いているとは言い難い。

黄巾の活動範囲は中原が主だ、長沙からではかなりの遠征になる。

どう動くかは雪蓮たち次第だけど、間違いなく人手が足りないだろうと。

「だ、だが私達は一刀の補佐として呼ばれたんだ。私達が抜けたら一刀はどうする」

「蓮華、気持ちは嬉しいけど、いま優先すべき事は君が一番よく分かってるはずだ」

そう、蓮華は分かっている、思春も、亞莎も。

それに俺は、元々このタイミングで蓮華達を戻すのを、雪蓮に話す時点から決めていた。

蓮華は孫家の希望だ。

袁家と孫家の争いを避けたい計算も正直に言えばあった。

だけど自分で雪蓮に蓮華の王の器を説いておきながら、俺も一緒に居る事で蓮華に惹かれた。

蓮華の場合、華琳と違って発展途上なのが自分と重なったのもあったと思う。

思春や亞莎にも惹かれてる。

このまま一緒に居たいとも思う。

理由を付けようと思えば付けられるだろうけど、彼女達の意思を邪魔したくはない。

そしてタイムリミットが来たのなら、彼女たちを縛るものから解き放とう。

 

 

私は帰国の準備を進める。

人質の役目を解かれ姉様達の処に戻れるのに、この虚脱感はなんだろう。

撤退の間、私達は一言も話さなかった。

特に亞莎は酷く落ち込んでいた。

亞莎が一刀の事を慕っているのは誰にでも分かるほどだ、まだ落ち込んでいるだろう。

私は亞莎のところに向かい部屋の前まで来ると、少し扉が開いていて覗いてみると一刀と亞莎が抱きしめ合い、口付けをしていた。

 

俺は亞莎が落ち込んでるのを放って置けなくて部屋を訪れた。

亞莎は俺がいなかったら元の自信を持てない自分に戻ってしまうと、泣いてすがりついてきた。

俺は亞莎を愛しく思いながら優しく抱きしめて。

そんな事は無い。

亞莎は以前の亞莎じゃない。

それに離れていても一緒に頑張ろうと約束した事は続いてる。

その約束は稟と風の事で落ち込んでいた俺にとって、本当に有り難くて感謝してると伝える。

「亞莎が好きだ。本当に出会えて良かったと思ってる」

泣き止まない亞莎にキスをする。

暫くそのままでいて、落ち着いたのか亞莎が強く言葉を放つ。

「ありがとうございます、一刀様。私はもう大丈夫です。どうか蓮華様のところに行って差し上げてください」

亞莎は笑顔だった。

「ありがとう、亞莎」

俺はもう一度、亞莎にキスをする。

今度は真っ赤になって部屋の隅まで逃げられる。

可愛いけど、ちょっと傷ついた。

亞莎の部屋から出て蓮華の部屋に行く途中、鈴の音が聞こえた。

俺が気付いた時には、首筋に鈴音が添えられていた。

「蓮華は?」

「貴様に話すと思うか!この種馬がっ!」

「思春までそれ言う?」

「会ってどうする気だ」

「俺が会いたいから会うだけだよ、俺の意思でね」

「・・中庭だ」

鈴音が首元から離れ、思春が背を向けて去ろうとする。

俺はその背に向けて声を掛ける。

「思春、また必ず会おう」

「フン、その時は貴様の首が飛ぶ時だ。覚えておけ、一刀」

最後で、初めて思春に一刀と呼ばれた。

どんな表情をしているのかは分からなかったけど。

 

私は中庭で身体を投げ出して夜空を眺めていた。

初陣の時、一刀に空を見てと言われてから、何時の間にか空を見上げる癖がついていたわ。

亞莎の部屋を訪れるのを止めた後、一刀と訓練をしていた中庭に自然と足が向いた。

先の一刀と亞莎を見て、別に驚いた訳でも悲しく思った訳でもない。

一刀は気が多いけど軽はずみな行動を取る人じゃない、いつだって真剣だ。

私はただ自分の気持ちをはっきり自覚しただけ、彼を愛してる。

この寿春に来て、今まで感じた事の無かった充実感があった。

ずっと母様と姉様の影に追われ、自分を厳しく律して勉強を続けていたのに、此処では楽しんで政務も鍛練も行ってる自分が居た。

私が私で居られた。

それでいいんだと知った。

私が全て背負う必要なんかない、皆が傍にいてくれる、支えてくれる。

みんな一刀のおかげで気付けた。

一刀が言ってた、戦乱の世となると。

私もそう思う、だったら次に一刀と会えるのは敵としてかもしれない。

いや、その可能性のほうが高い、姉様も一刀も簡単に膝を屈する人じゃない。

嫌だ!それだけは嫌だ!

私はそんな未来に恐怖で震える身体を抱きしめる。

「蓮華」

「一 刀」

「隣、いいかい」

「え、ええ」

一刀が私の横に並んで寝転ぶ。

「綺麗な星空だね」

「そうね」

私の心臓は一刀に聞こえるのではないか、という程大きく鳴ってる。

今、今言わなかったら、もうこれで最後かもしれない。

私は身体を起こして勇気を振り絞る。

「一刀、私は貴方を愛してる」

一刀も身体を起こして、私の好きな笑顔を浮かべる。

「俺も、蓮華、君を愛してる」

涙が出そうな程に嬉しくて、私がそのまま唇を重ねようと顔を近づけたら、指で唇を止められた。

どうして?

「蓮華、此れが今生の別れになると思っていないか?」

本心を見透かされて、驚いた私は何も言えなくなる。

「蓮華、俺は君の事を知っているよ」

笑顔で一刀が言葉を続ける、でも言ってる事の意味が分からない。

「戦って色々な理由から起こるよ。怒りや憎しみ、大義、野心とかね。でも戦う相手の事はどれだけ分かってると思う?」

「戦いにおいて相手の事を調べるのは基本中の基本よ。分かってるに決まってるわ。」

「本当に?能力や性格はある程度分かっても、心は分からないんじゃないかな」

「それはそうかもしれないけど、心がどうしたと言うの?」

戦に心?益々分からない。

「俺が納得出来ない理由で蓮華は戦おうとはしないって事」

!!

「だったら俺がやる事は明白で、蓮華が戦う理由を取り除く事だ。そこには色んな人の考えが入り混じってるだろうけど、戦わないようにする事を諦める理由にはならない」

一刀。

「それに俺は蓮華と戦う気なんて全く無いし」

一刀、一刀。

「今生の別れなんてありえないよ、蓮華」

「私も、私も一刀を知ってる。私も諦めない、諦めてなんてあげない」

そうだ、私が一刀の傍にいられる未来はきっとある、あってみせる。

一刀が私に覆い被さってくる。

「蓮華、愛してるよ」

「一刀、愛してるわ」

唇を重ね、私は彼に身を委ねる。

この気持ちを、私の全てに刻みこむ為に。

説明
蓮華たちと鍛練、戦と励む日々
そんな一刀たちにある戦の報告が
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コメント
何進率いる漢軍が→官軍?:(XOP)
そういや真っ先に雪蓮攻略してましたなぁ・・・(M.N.F.)
さて、実際呉は敵になってしまうのだろうか〜どうなるか気になる!(nao)
この一刀、魅力カンストしてますな 素晴らしい(一火)
さすが手の早い種馬さんやでぇ。(飛鷲)
ここまで攻略したの:七乃・蓮華(M.N.F.)
前回、七乃さんがメインヒロインや!と思ったら今回トリプルドム撃墜しとった。(ひとりは未遂だけど・・・)(kazo)
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亞莎 思春 蓮華 真・恋姫無双 北郷一刀 

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