遊戯王GX HERO OF JUSTICE |
『十代』
それは、俺がまだ……いや、正確に言えば今もなんだけど、今よりずっと子供だったときの記憶の中、オレはとある病院の屋上。その中で俺は一人のプロデュエリストとデュエルをしていた。
その人の名前は響紅葉さん。俺がデュエルを始めたきっかけをくれた人でもある。
これは俺と紅葉さんの……最初にして最後の本気のデュエルをした後の記憶だ。
『お前に……このデッキを託すよ……』
その言葉を聞いたとき、オレは自分の耳を疑ったものだよ
『え……?な……なんで……?駄目だよこんな……』
オレはこの時、わけがわからなくて混乱していた。それはオレと紅葉さんから少し離れて見ていた幼馴染みも同じ心境だったんだろうな。
『いいんだ。俺は……今日で、デュエリストを引退する……』
ほんの一瞬、奈落の落とし穴に落とされたような気分になった。いつか追い付きたい、そして追い抜きたい。そう思っていた相手が、デュエルを止める。こんな話を聞いて正常でいられるはずがなかった。
『十代……どんな相手と戦っても、デュエルを楽しむ……そんな』
━━デュエリストになれ━━
そう言った日から数日後、紅葉さんは……永い眠りについた。
◇
「………代。………十…………代……十代!」
「うわっ!?」
海馬ランドの海馬ドームにデュエルアカデミアの実技入試試験を受けに来ていた俺、遊城十代は幼馴染みのユーリ・エーベルヴァインによって叩き起こされていた。
ちなみに手順はこうだ。
ユーリ、ベンチの上で寝ている俺を揺する。
↓
しかし俺は起きない。
↓
次にポカポカ殴る。
↓
無論、起きる気配無し
↓
最終手段として観客席用のベンチ上で寝転がっている俺を転がして床に叩き起こす。
↓
俺、目覚める←今、ここ
「ったく、少しはまともな方法で起こしてくれよな……」
床って思ってるよりもかなり硬いんだぞ?ベンチから落ちたときなんかはもう別格だね。実際に体験してる俺が言ってるんだ、間違い無い
「ふんっ、です。いつもグーグー寝てる十代が悪いんですよ!」
ぷいっとこちらに背を向ける少女、今日もお気に入りの金色の髪をウェーブにした髪型にしている。
すると俺とユーリから少し離れたところですぅっ、と半透明の男と女を混ぜたような悪魔の姿をしたモンスターが現れる。
『まったく、ちっとも進歩しやしないねこの二人は……』
『クリ〜……』
遠巻きから二人の言い合いを眺めながらハァっ、と溜め息をつくのは十代の精霊、ユベルだ。元々は十代を自分の物にしようとしていたが、中学時代に彼やユーリとのデュエルで自ら手を引いて変わりに二人の仲が発展を応援することに徹するようになった。
その隣で苦笑しているのはデュエルキング武藤遊戯が持つクリボーに羽を生やしたモンスターのハネクリボーだ。このカードは少年時代に十代が紅葉より貰ったデッキの内の一枚でもあった。
ピンポンパンポポポホーン
『受験番号110番、遊城十代君。デュエルフィールドに来て下さい』
そうこうしているうちにアナウンスが十代の事を呼んだ。
「んじゃ、行ってくるよ」
「はい、頑張って下さい!」
鞄の中からデッキを取り出してそれをデュエルディスクにはめてからデュエルフィールドに向かう。
実技試験は見学自由だからか、けっこうな人数が来ていた。その中には当然ユーリも含まれているから妙にプレッシャーがかかるんだよな。
デュエルフィールドの向かい側には対戦相手であろう……ミイラ?がいた。
「誰がミイラナノーネ!!」
クロノス・デ・メディチ。
デュエルアカデミア実技試験担当最高責任者らしく、その実力は教師一だとか……面白い!
「「デュエル!!」」
十代LP4000
クロノスLP4000
試験デュエルのルール上、先攻は十代となる。
「俺のターン、ドロー!」
引いたカードを一瞥してから十代は手札のカードと見比べて行動に移る。
「E・HEROフォレストマンを守備表示で召喚!」
E・HEROフォレストマン DEF2000
「そしてそのフォレストマンをリリースすることでE・HEROアイアンマンは特殊召喚できる!」
E・HEROアイアンマン DEF2300
E・HEROアイアンマン
戦士族 地属性 星5 攻撃力500 守備力2300
自分フィールド上に存在するE・HEROと名の付くモンスターを一体リリースすることでこのモンスターは特殊召喚する事が出来る。1ターンに一度、自分フィールド上のE・HEROと名の付くモンスター一体の破壊を無効にする。このモンスターをリリースする事で墓地のE・HERO二体を特殊召喚できる。
「カードを二枚伏せてターンエンド」
十代
手札二枚
モンスター E・HEROアイアンマン
魔法:罠 伏せ二枚
「ワタクシのターン、ドローニョ!」
ニョって……いや、ここはあまり深く関わらない方が身のためか
「ワタクシは古代の機械石像を召喚!」
古代の機械石像 ATK500
「さらーに、ワタクシは手札から魔法カード《機械複製術》を発動!デッキより二体の古代の機械石像を特殊召喚!」
古代の機械石像×2 ATK500
攻撃力たったの500のモンスターを並べて、一体何をする気なんだ?
「見て驚くーノ!三体の古代の機械石像を生け贄に、手札から召喚条件を無視して古代の機械巨人を特殊召喚ナノーネ!」
古代の機械巨人×3 ATK3000
げえっ!?初手で攻撃力3000のモンスター三体とか受験生相手に対してとる戦法かよ!?
「バトルナノーネ!古代の機械巨人でアイアンマンを攻撃!アルティメット・パウンド!」
十代LP4000→3300
「くぅっ!だがアイアンマンは1ターンに一度だけE・HEROの破壊を無効に出来る!」
「ナラーバ、二体目の機械巨人でアイアンマンを攻撃!アルティメット・パウンド!」
十代LP3300→2600
「っ!アイアンマン……!だが、アイアンマンの破壊が新たなヒーローを呼び出す!トラップ発動!《ヒーロー・シグナル》。デッキからE・HEROオーシャンを召喚!」
E・HEROオーシャン ATK1500
「ナラ〜バ、三体目の機械巨人でオーシャンを粉砕ナノーネ。アンティメット・パウンド!」
十代LP2600→1100
「ターン、エンドナノーネ」
「ならトラップ発動!《奇跡の残照》このターン戦闘で破壊されたアイアンマンを復活させる!」
E・HEROアイアンマン DEF2300
クロノス
手札一枚
モンスター 古代の機械巨人×3
魔法:罠 無し
『ありゃ完全に終わったな』
『あんなの無理だよ、勝てる訳無いよ』
『恥を掻く前にサレンダーした方が良いんじゃないか?』
周りは既に十代の敗北で終わりだと決め付けた声で溢れ出していたが、当の本人は楽しそうな笑みを浮かべるだけだった。
(へへっ、やっぱデュエルはこうでなくちゃな!)
「俺のターン、ドロー!」
引いたカードを見て、十代の顔に勝利を確信した時のみ現れる笑みが浮かぶ。
「アイアンマンの効果!このモンスターをリリースする事で墓地のE・HERO二体を特殊召喚する。来い、フォレストマン、オーシャン!」
E・HEROオーシャン ATK1500
E・HEROフォレストマン DEF2000
「手札から《天使の施し》を発動。カードを三枚ドローして、二枚墓地に送る」
これで準備は整った。十代は手札のカードを一枚取り出し、ディスクにセットする。
「いくぜ……魔法カード《融合》!フィールド上のフォレストマンとオーシャンを融合!」
海の戦士と森の戦士が渦となり、今ここに交わる。
「融合召喚!来い、E・HEROジ・アース!」
E・HEROジ・アース ATK2500
「ほほぅ、それがシニョールのエースモンスターデスーカ。シカーシ!その程度ではワタクシの機械巨人は倒せないーノ」
「なら攻撃力を上げるまでさ。装備魔法《アサルト・アーマー》をジ・アースに装備!これにより攻撃力は300ポイントアップ!そしてこれを墓地に送ることでこのターン、ジ・アースは二度の攻撃を行える」
「んん?折角上げた攻撃力下げるトーハ、とんだプレイングミスナノーネ」
「それはどうかな?」
「にゅや?」
「墓地のネクロ・ダークマンの効果発動!こいつが墓地にいる時、一度だけE・HEROの生け贄を無しにする事が出来るのさ、来い!E・HEROエッジマン」
E・HEROエッジマン ATK2600
「こいつで仕上げだ。ジ・アースの効果!自分フィールド上のE・HEROを任意の数リリースする事で、このターンのみジ・アースの攻撃力はリリースしたE・HEROの総攻撃力分アップする!ジ・アースマグマ!」
ジ・アースがエッジマンを取り込むと、ジ・アースの身体はみるみるうちに煮えたぎるマグマの如く赤く染め上げられていく。
E・HEROジ・アース ATK2500→5100
「こ、攻撃力5100…………」
「バトル!E・HEROジ・アースで、古代の機械巨人二体を攻撃!アース・マグマ・スラッシュ!!」
二本のビームサーベルのようなものを抜き放ったジ・アースの剣閃が、機械巨人の強固な装甲をいとも簡単に溶かし斬ってしまう。
「ペペロンチ〜ノ〜〜!!」
クロノスLP4000→1900→0
ライフポイントが0になったクロノスはバランスを崩した二体の機械巨人の下敷きとなってしまう。
「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!!」
残された三体目の機械巨人とあの状況からの逆転劇を見せ付けられた観客たちが唖然としてる中、十代はいつもの決めポーズを決めるとさっさとデュエルフィールドから立ち去って行った。
その姿を、観客席からしっかりと見据えていた人影が六つあった。
「よもやプラネットシリーズの一枚をここで見れるとはな……実に興味深い」
青い髪に青少年がクイッと落ち掛けていた眼鏡を直しながらそう呟く。
「ふふっ♪今年の新入生たちはどれも期待が込められそうね」
『期待大』と書かれた扇子を広げながら水色の髪を持つ少女が艶美な笑みを浮かべた。
「おいシスコン、あまり面倒な事は起こすんじゃねぇぞ」
金髪に片方の頬に十字架型の傷を持つ少年が怪訝な顔をする。
「兄様。喧嘩を招くような発言はお止め下さい」
そんな少年を緋色の髪をした少年が制す。
「……E・HERO……」
誰にも聞こえない声で扇子の少女と似通った容姿を持った少女が自身のデッキホルダーに目を向ける。
「遊城十代……あいつの引き運には警戒しておくべきだな」
黒髪の少年がデュエルの流れから結論を出すと、待機していたロボットを連れて海馬ドームから去っていく。
ナンバーズハンターと精霊使いが出会う日は近い。
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