暁光のタイドライン〜1〜 第一章 邂逅 |
暁光のタイドライン〜1〜
第一章 邂逅〜江田島海軍兵学校〜
海の底からやってくる未知の驚異、深海棲艦。
対抗できるのはかつての軍艦の記憶を有したうら若き少女、艦娘達だけであった。
若き海軍将校、船越楫八(ふなこしかずや)は艦隊司令の任を受け、江田島の海軍兵学校を訪れていた。
我々の知る史実に於いて軍艦及び艦隊の運用とは艦毎に乗組員がおり、またそれを指揮する艦長がおり、さらに艦隊組織を取り纏める司令官、中でも艦隊司令を務める将官を指して提督と呼んだ。
だが、この世界に於いて海軍の主戦力とは艦娘を指し、彼女らに乗組員は不要であった。
彼女らが戦闘艦そのものであり、彼女ら自身が独自の判断で機動と兵装運用を行う乗組員であり、艦長でもあるのだ。
従って、司令官や提督という立場と役割もまた異なってくるのである。
主立った泊地の場合、多数の艦隊が駐留し、各個に作戦行動を行っている。
結果として殊人事的な意味合いに限れば我々の世界に於ける艦長クラスが艦隊の指揮を任せられるようになっており、佐官が司令官を務める艦隊も珍しくなく、階級を問わず艦隊最高責任者のことを提督と呼ぶようになっていた。
かくいう船越もまたその一人であり、少佐から中佐へ昇進し、この度新設艦隊の司令官に任命されたのである。
「貴男が提督なのですね。私は榛名。新艦隊の麾下に入るよう命じられ、馳せ参じました。よろしくお願いいたします。」
士官服に身を包んだ少女は榛名と名乗った。
士官服の着用を許されているということは即ち彼女が重巡洋艦、戦艦、正規空母いずれかの艦娘であることを示していた。
艦娘とは戦闘艦の核となり、操艦及び戦闘指揮を単独で行うことを可能とする存在である。
かつては人為的に外科手術による機械的な強化改造が施された艦娘も存在したそうだが、技術の進歩により現在は外付け型の複合兵装ユニット「艤装体」と同調し、これを操作するための同調装置が埋め込まれるだけに止まっている。
この「艤装体」を着装した状態を「艤装態」と呼び、「艤装態」の艦娘は「艦体」を召喚し、自らの身体の一部として操ることが可能となる。
一説には敵である深海棲艦とは大規模な改造手術が行われていた頃の艦娘が変わり果てた姿であるとも噂されているが、未だに推論の域を出ないのもまた事実であった。
如何にも優等生という印象の榛名がそのイメージにふさわしいはきはきした口調で語る。
「早速で恐縮ですが、提督には直ちに泊地に入っていただくことになります。移動は通常船舶にて行いますが、港に先行待機している艦娘がもう一名おり、私含め二名が護衛も兼ねて道中お供させていただきます。およそ半日の船旅です。どうぞお手柔らかにお願いいたします。」
そう言い終わるとぺこりと頭を垂れた。
「あの榛名か。帝国海軍屈指の武勲艦である貴艦が我が艦隊の麾下に入ってくれるとはこの上なく頼もしいことだ。」
「高速戦艦金剛型の三番艦になります。そういえば、巡洋戦艦として生まれた榛名の最初の艦長もフナコシと仰いました。こうして船越提督麾下に配備されたのも何かのご縁かも知れませんね。とはいえ、私自身は榛名を継いでまだ間もない若輩者ですのでその名に相応しい戦果を上げられるかどうかはまだ自信を持てずにいるのですが…。それでも必ずや提督のご期待に添えますよう、不退転の決意は揺るぎません。本当です!」
艦娘には皆そのモデルとなった艦艇「起源艦(オリジン)」がある。艦娘には皆その起源艦と歴任の艦娘たちが有する「戦闘艦の記憶(メモリア)」が艤装体を通じて受け継がれる。
金剛型三番艦、榛名。激戦著しい大東亜戦争を古参ながらその俊足と火力を武器に最終局面まで連合軍相手に奮戦した帝国海軍でも指折りの武勲艦である。その最後は燃料枯渇のため、その俊足を活かすこともなく、ここ江田島の地で浮き砲台としてその生涯を終えた。その記憶を眼前の少女は有しているというわけだ。
戦艦榛名にとって最期の地であるこの江田島で新たな船出をすることになろうとは皮肉な運命もあったものである。
「そろそろ参りましょう、提督。あまり待たせすぎるのもよくありません。」
港に着くと水兵服の少女が我々を出迎えた。
船越はその少女の顔と名前を知っていた。
かつて長期修理のため呉に滞在していた彼女は練習艦に混じって教導を手伝っていてくれたのだ。
「久しぶりだね、電。」
「お久しぶりです、少佐…じゃない、中佐…なのです。…えへへ。」
照れくさそうに頬笑む、とても小柄なこの少女は特型駆逐艦吹雪型二十四番艦にして、特V型駆逐艦暁型四番艦の電(いなづま)である。
駆逐艦、軽巡洋艦、軽空母、潜水艦等の艦娘は士官服ではなく、水兵服を着用することになっている。
ただ一つの例外として練習用航空母艦として船越も世話になった鳳翔。
彼女だけはなぜかずっと和装で制服を着用しているところを見たことがなかった。
「それでは出発いたしましょう。」
榛名は出航準備が整ったことを告げ、乗組員がタラップを上げようとしたとき、
「待ってください!私も…」
大荷物を載せた車が輸送艦に横付けされた。
運転席から降りてきたのはこれまた歳若い少女である。
艦娘ということか?
体格からすると大型の駆逐艦…或いは軽空母といったところだが、あの荷物が艤装体だとすると不自然なまでに大きすぎる。
荷物を乗組員に預けた少女はタラップを駆け上がってきた。
少女は息を整え、敬礼する。
「船越提督でしょうか?自分は兵装実験軽巡、夕張と申します。只今より船越艦隊麾下に編入いたします。よろしくお願いいたします!」
「私に同行するのは彼女らだけだと聞いていたのだが…?」
「しっ…失礼いたしました!本来の予定であれば先行して基地の方で提督をお迎えすることになっていたのですが…新装備の搭載に手間取ったため出発が遅れてしまいました。」
「了解した。夕張、よろしく頼む。」
「はい、提督!」
会話が途切れたところで榛名が口を挟む。
「提督、出航いたします。中へどうぞ。」
「夕張さんのお部屋は電が案内するのです。こちらですよ。」
「ありがとう。」
船越艦隊が配備されるのは和歌山である。紀伊水道を防衛ラインとし、南方からの侵入に対処する役割を担う。
堺や神戸など海運上では重要な拠点となる近畿圏だが、人間相手の戦争であれば敵泊地からも遠い紀伊水道は鎮守府を設置するほどには早期警戒即時対応が要求される海域ではなかった。
だが、相手が深海棲艦となれば話は別である。
外洋であればどこからでも現れる未知の敵に対して紀伊水道は重要な防衛拠点となりうる…そう判断され、呉鎮守府下の独立迎撃部隊という形で艦隊発足が決定し、現在に至るのである。
「もっとも夕張のような実験艦の試験部隊の意味合いも強いのだろうな…。」
「提督、よろしいでしょうか。」
「榛名か。どうした?」
「お部屋の準備が済んでおります。到着まで半日はかかりますので、どうぞお休みください。」
「ありがとう。そうさせてもらうよ。」
それぞれの期待と不安、希望と重責を載せた船は夜の瀬戸内を征く。
説明 | ||
艦隊これくしょん〜艦これ〜キャラクターによる架空戦記です。 新任提督と秘書艦榛名がエピソード毎の主役艦娘と絡んでいく構成になっています。艦隊発足エピソードの前編となります。 |
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榛名 戦記 艦隊これくしょん | ||
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