やってきました! 年に1度のあの日が!! <後編> |
【やってきました! 年に1度のあの日が!!】
〜後編〜
「あれ?...朱里ちゃん?」
なにやら辺りをキョロキョロしている朱里を見つけたのは雛里だった。
「あ、雛里ちゃん。」
「どうしたの?何か探し物?」
「うん。今日都からご本が届いたの。他の荷物もあったから一緒にしたと思ったんだけど
落としちゃったみたいなの。」
「大変。私も探すの手伝うよ。ところでご本の題名はなんていうの?」
「黒い表紙で題名は.....」
皆で昔話に花を咲かせた翌日の朝礼の時だった。
「さて、これで朝礼を終わる。各自職務に励むように。」
凛と声高に関羽は告げた。
それを合図とばかりに皆が解散しようとした時、
「ま、待って下さーーーーーい。」
と顔良が駆け込んできた。
額に汗を浮かべ、表情を強張らせたその姿に一同に緊張が走った。
「何事か? どこぞの国から襲撃でもあったのか?」
まずは情報をと趙雲が問いかけたが、その声に耳を傾けず
真っ直ぐある一点に向かい、歩いてきた。
そう、一刀の元へ。
「ご主人様、どういうことですか?」
「?」
いきなり何を言い出すんだろう、この人は?
顔良の言葉を理解し切れていない一刀は顔良を見つめるしかなかった。
だが次の一言が一刀に対し、そしてその場にいる諸将に対し、とんでもない事実を突きつけた。
「文ちゃん、妊娠しているじゃないですか!?」
凍りつくというのはまさに今のようなことを言うのだろう。
そして脳が理解できる事象の容量を超えた時に人の取れる行動は一つであり、
一刀も例外ではなかった。
「はははっ。斗詩、真面目な顔して冗談ばっかり。」
そう、笑うしかなかった。
だがここから笑顔は一瞬で消える。
「冗談?ご主人様は冗談だと言うのですか?」
普段温和な顔良からは到底想像もつかない厳しい表情で一刀を見つめた。
「じゃ、じゃあ本当の話なのか。でもめでたい話じゃないか。
猪々子にも春が着たんだなぁ。何かお祝いしないとな。」
そう一刀は顔良に告げて立ち去ろうと背を向けた瞬間、
ブーーーーーッッン!!!
一刀の頭上を何かが音を立てて走った。
冷や汗と共に振り向くと顔良が金光鉄槌を握っていた。
「あっぶねぇーーー。なにするんだ...よ?」
そこには二撃目を放とうとしている顔良がいた。
「責任取らないんですか?」
「責任って?」
「文ちゃんです。」
「何で?」>一刀
「何で?」>顔良
一刀と顔良は同じ言葉でお互いに質問した。
「なぁいまいちよく分からないんだが話を纏めていいか?
@猪々子が妊娠した。
Aで、それを顔良が俺に伝えに来た。
B俺はそれを喜ばしく思っている。
ここまではよろしいですか?」
なぜか一刀はですます調になっている。
「はい。問題ありません。」
未だに金光鉄槌を構えたままの顔良が言葉を返す。
そして一刀は言葉を続けた。
「続けますよ?
Cで、斗詩が怒っている。
Dどうして?」
やはり順序立ててみたものの一頭には理解できない。
顔良は呆れながら答えを出した。
「文ちゃんのお腹を大きくしたのはご主人様じゃないですか!!」
「おっ、俺ぇぇぇえええ?」
驚きを隠せない一刀は悲鳴に近い声を上げた。
「ご主人様、どういうことなのかなぁ?」桃香さん、笑顔が非常に怖いです。
「説明していただけますね?」生きながらにして閻魔様に会えるなんて思いもしませんでした、愛紗さん。
「主よ。」何を言いたいか分かります、星さん。
その他皆それぞれに驚きと怒気を含ませながら一刀に詰め寄った。
「え、えーーーーと...」
その言葉の続きが出てこなかった。
何故なら一刀には見に覚えがあるからだ。
そういう意味では顔良だってお腹が大きくなってもいいようなものではあるが。
「これで理解できましたね?」
「いや、理解って...」
二撃目の金光鉄槌を恐れる一刀は言葉を選びつつ返答しようとしているが
それを許す顔良ではなかった。
「証拠、あるんですよ?」
「証拠?おいおい、皆の前で何を...」
いぶかしげに一刀は顔良を見た。
すると顔良は手を二度三度打った。
それに応えるかのごとく、部屋に入ってきたものがいた。
「麗羽さん?」
劉備の声に全員が袁紹の方を見た。
それを確認した後、袁紹は口を開いた。
「私...見ました。」
何を言い出すんだ?
一刀は袁紹に向かって一歩足を踏み出したが袁紹の一言に次の足は出なかった。
「あの夜、私ご主人様にお茶を入れようと思って部屋を出たんです。
すると、文醜さんのお部屋から何やら声がするじゃないですか。
悪いとは思いましたが扉も少し開いていたので覗いてみると、
ご主人様と文醜さんが睦みあってらっしゃったんです。
ねー、は●みちゃん。」
そういって袁紹は足元にいたセキトの頭を撫でた。
「はる●じゃない。セキト...」
呂布がモゴモゴと呟いている。
その時、後ろで何かが倒れた音がした。
董卓と賈駆が床に腰を着けている。
どうやら刺激が強すぎたらしい。
「何言ってるんだよ!それを言うなら麗羽や斗詩だって同じじゃ.な..いか...」
言ってから一刀は気が付いた。
今、自分が地雷を踏んだことを...そしてこれから起きる惨劇を...
「「「「「「「「「「ご主人様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」」」」」」」」
その場にいた者達の怒声が響く。
紫苑と桔梗に至っては一刀に背を向けて肩を震わせている。
「あんなにも嬉しそうな文醜さんを見たことはありませんでした。
これから仲良くお暮しになってくださいね。」
袁紹はまだセキトの頭を撫でている。
やばい!とにかくやばい!!
急いでこの場繕うか逃げるかしないと命の保障はない。
そう一刀は頭の中で反芻した。
が、それも徒労に終わることになった。
「アニキーーーーー。これ後ろ締めてくれない?」
来た。一番来てはいけない人物が。
声の主を確かめるとお腹の大きい文醜がいた。
「これゆったりして良いんだけど後ろが締めづらいなぁ。」
「ほら文ちゃん後ろ向いて。締めてあげる。お腹辛いなら出歩かないほうがいいよ?」
「そうなんだけどねー。部屋にいても退屈だし。
ところでアニキ、この腹って着ているだけで何かいやらしいよな。」
「いやらしいよなって同意を求められても困るんだが...」
「だってさ、"股に手ぇ"だぜ?"股に手ぇ"」
「ぶっ、違うわ!マタニティだ!マタニティ!!」
「ん?そうだったか?まぁどっちでもいいけどねーー。
あ、そうそう今日街医者に見て貰ったらもうすぐ生まれるってさ。」
「・・・・・・・」
一刀は何も言えなかった。確かに文醜と何も無いとは言えない。
皆平等をモットーにしているからこそではあるが、文醜に対しても遊びなんて微塵もなかった。
「そっか。お母さんになるんだね。」
劉備は優しく微笑みながら言った。
「少し報われた気がするな。皆がご飯食べれてお仕事できて楽しく暮らせるようにって
頑張ってきたんだもん。だからねすごくうれしいよ。」
「桃香様」
関羽も趙雲も頷きながら文醜に何か言おうとした時だった。
「いたた、痛い!痛い!!痛いですわよ!!!」
撫でられ続けて嫌気が差したのかセキトが袁紹の手を噛んでいた。
「お放しなさい!この馬鹿犬!!」
そう言いながら手を振り回すと中空にとんだセキトが次のターゲットに向けて牙を向けた。
文醜のお腹に向けて...
「はわわ。文醜さんのお腹が齧られちゃいました。」
「あわわ。文醜さん、大丈夫ですか?」
二人とも慌てふためきながら文醜に駆け寄った。
それよりも早く呂布が動き、セキトを引き剥がした。
とりあえずこれ以上の被害は出ないが皆文醜を心配している。
しかし当の文醜はケロッとしていた。
まるで齧られていないかのように...
「皆大げさだなぁ。別にあたいが噛まれたわけじゃないし。」
「「「はい?」」」
皆の目が点になった。
袁紹と顔良を除いて...
「ちょ、ちょっと文ちゃん...」
「このお馬鹿猪々子!それを言っては...」
何故か袁紹も顔良も文醜のお腹より口を押さえた。
その瞬間何か落ちた。
文醜のお腹から何かが落ちた。
白くて赤ん坊くらいの大きさの.......枕が........
「ま、枕.....?」
一刀はそれを拾い上げながら文醜のお腹と拾い上げたそれを交互に見比べた。
「麗羽さん?、どういうことなのかなぁ?」
ついさっき一刀に向けた質問を今度は袁紹に向ける劉備。
「あ、あら。ばれてしまいましたわね。
この間一刀さんがおっしゃっていたじゃありませんか。
天の国には嘘を付いてもいい日があると。
ですから私達、ある方にお願いしてこの嘘を考えたのですわ。」
「そうなんだぁ。で誰が一緒に考えたのかなぁ?」
怖い、怖すぎるよ劉備さん。
大徳なんて言われているけど今はどう見ても悪鬼羅刹にしか...
「そ、それは....ひっ!!!」
誰の目にも明らかなくらい袁紹が怯えている。
脂汗が滝のように流れている。
文醜と顔良も同様だ。
武に生きている文醜と顔良ならいざしらず袁紹ですら感じることの殺気を
放っている人物がいた。
「....げ...す...よ」>袁紹
「「えっ」」>文醜・顔良
「逃げますわよッ!!!」
袁紹は既に走りながら言を放ち、その言葉を聞き終わる前に文醜も顔良も走り出していた。
「逃がさない」
セキトを乱暴に扱われた呂布が三人を追いかけた。
それに続く娘も何人かいた。
「ふぅ、まぁなんにせよ一件落着かな?」
一刀は皆に向けてそう告げた。
「なにが一件落着だよ、このエロエロ魔人が。」
「そうなのだ。お兄ちゃんの節操なさすぎなのがいけないのだ。」
蜀の誇る突撃コンビこと張飛と馬超が一刀を冷やかした。
「全く、主の英雄振りには我らも振り回され通しですな。」
趙雲も獲物を見つけた猛禽類のような目で一刀を見つめる。
「今回はご主人様は悪くないけどぉ」
劉備が一刀を見ながら続けた。
「やっぱりあんな嘘を吐かれるのもご主人様のせいだと思うの。
だから今日は皆執務はやめてご主人様をビッシビシ鍛えようと思うの。」
「おぉ、それは良い考えです。桃香様」
「桃香さん?愛紗さん?一体何を言い出すのかな?」
「だって鍛錬でへとへとになれば悪さもしないでしょ?
朱里ちゃんも雛里ちゃんもいいよね?」
その言葉にパァっと顔を輝かせる軍師達。
「勿論です。最近より複雑にした石兵八陣も試していいですか?」
「八陣の中に十面埋伏も組み込んでみたいんだけど、朱里ちゃんいい?」
何やら物騒なこと言ってますよ?
だが行動力が抜群の将達の中でただ一つだけ確実なことは一刀には拒否権は無いということだった。
その様子を城壁の上で杯を交わしながら二人の将が目を細めながら見ていた。
脇に颶鵬と豪天砲を置きながら。
先程の騒動をさも愉快そうに語りながら徳利を傾けながら。
その日のことはこれ以上語るのはやめておこう。
ただ魏・呉の偵察隊が己の主に報告したことは共通してた。
「我が軍は決して弱くはありません。が、蜀に勝利することはありえません。」
ちょうどその頃、ある部屋の中では掃除が行われていた。
「もう、お母さんも桔梗さんも机の上ぐちゃぐちゃにして〜。」
少々むくれながら整理していると見たことのない本が目に留まった。
「これお母さんの本かな。えーと、"侍女は見た! 二人の織成す愛の結晶"...?
やったぁ全部読めた!」
満足そうに頭の上に本を掲げた。黒い革張りの表紙の本を。
その時本から一枚の落ちたのだが気付かないまま掃除の続きに向かっていった。
落ちた紙には、
袁紹ちゃん⇒侍女役。但し暴走の気がある為、引っ掻き回し役。
顔良ちゃん⇒進行役。三人の中では一番思慮深いため適役。
文醜ちゃん⇒主役。一番予想され辛い役処を選択。
と書かれていた。
<了>
【やってきました! 年に1度のあの日が!!】の後編になります。
4/1に投稿しようと思いましたが仕事にて少々難しかった為、フライングですが本日投稿します。
何故か「家政婦は見た」が頭に浮かんだ為、少し色を出してみました。
ネタ考案中に「妊娠」「正妻」「結婚」等などコメント欄に出てきたため少々焦りました(笑)
でも一刀だとどれもこれもありそうでまんざらではないですが...w
長々とありがとうございました。
説明 | ||
真・恋姫無双をモチーフにした小説です。 前回の続きになります。 前回 http://www.tinami.com/view/65092 |
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